LOGIN「気づいたら異世界転生していた——が、詰んでいる」 スキルなし。魔法なし。ステータスはオール1。 雑魚魔物にすらボコられる最弱っぷりで、何なら村人のほうが強い。 おまけに理不尽イベントが次々と襲いかかってくる。 それでもユウは諦めない。 「死にたくない! 生き抜いてやる!」 這い上がるために知恵を絞り工夫を重ね、少しずつ強くなっていく。 レベルを上げ、仲間を増やし、店を経営し、鍛冶に手を出し……気づけば国と交渉して開拓村まで作っていた!? これは最弱からの成り上がりサバイバル。 理不尽だらけの世界でも、生き延びた者が勝つ! ※じっくり成長。序盤は理不尽ですが徐々に道が開けていきます。
View Moreドォンッ!
体を突き上げるような激しい衝動で、俺は目覚めた。
まわりは真っ暗。何がなんだか分からない。 手探りでドアらしきものを探り当て、必死の思いでこじ開ける。外は嵐だった。
激しく揺れる地面は木の床で、雨粒と波をかぶって水に沈みかけている。 大波が襲うごとに船は軋んで、今にも壊れてしまいそうだ。船だ。俺は船に乗っていたんだ。
どうして? 思い出せない。 まるで見知らぬ場所の影絵を見るように、目の前の光景が展開されている。ドンッ!
また衝撃が走る。
すでに沈みかけている船が、波をまともに受けて揺らいでいるのだ。 ギィィと木が軋む嫌な音がして、床の傾きの角度がぐんと上がる。 高波をかぶって俺は転んだ。為すすべはなかった。船の手すりを掴もうとしたが、全てが遠い。
俺は海に放り出された。 次々と襲ってくる波と雨のせいで、水中に落ちたと気づくのに時間がかかった。激しい波に濁る海中で、船が真っ二つになっているのが見えた。
真っ二つになって、渦を起こして沈んでいくのが。それが、俺の意識の最後になった。
パチ、パチと小さな音がする。 全身ひどく寒かったけれど、その音のする方向だけ少し暖かい。 そっと目を開けてみると、オレンジ色の炎が見えた。 焚き火だ。焚き火のそばに二人の人影がいる。
俺の目はまだかすんでいて、どんな人物なのかまではよく見えない。「うう……」
声を出そうとしたが、うめき声しか出なかった。
「おや。目が覚めたか」
若い男の声が答える。
「君は三日も眠っていた。ニアに感謝するんだな。わざわざ君を海から引き上げて、こうして世話までしたのだから」
少し視力が戻ってくる。
よく見れば、二つの人影は若い男と少女のようだ。「あなた、難破船から落ちて溺れたのよ。覚えてる?」
ニアという少女が言う。十三歳か十四歳くらいに見えた。
「覚えて……る」
かすれた声だったが、ちゃんと喋れた。
男が立ち上がって、俺にマグカップを差し出してくれた。 中身は温めたミルクで、ゆっくりと飲めば腹が温まってくる。「ありがとう、ええと」
「ルードだ」
男、ルードは素っ気なく言ってまた焚き火の前に腰を下ろした。
「運が良かったな。船はバラバラになって、浜に打ち上げられたのは瓦礫と死体ばかりだった。生きているのが不思議だよ」
「……はは」
俺は何と答えていいか分からず、ぎこちなく笑った。
視線を周囲に向けてみると、どうやらここは洞窟のようだ。むき出しの岩壁が焚き火に照らされて、薄いオレンジ色に染まっていた。 ルードが続けた。「まあ、ニアの温情と同族のよしみということにしておいてやろう。お前も冒険者か?」
「同族?」
「その耳、森の民だろう。故郷を失った流浪の民。そんなことも分からないとは、まだ寝ぼけているのか?」
俺はマグカップを置いて、自分の耳を触ってみた。
……尖っている。なんだこれ。耳なんぞたまにしか触らないが、いつの間にこんなに先が尖った形になったんだ。
これじゃあまるで、ファンタジー映画に出てくるエルフのようだ。 よく見たら、ニアとルードも同じ形の耳をしていた。 そして二人とも不思議な色の髪と目をしている。青とか緑とか、人間にありえないような色。俺が呆然としていると、ルードはいかにも面倒そうに息を吐いた。
真っ二つに折れた俺の剣は、滑るようにヨミの刀身を下り。 そのまま、柄の宝玉に突き刺さった。まるで何かに導かれるかのような動きだった。「何!? バカなッ」 ヨミの剣を持つ王が、驚愕と焦りの表情を浮かべる。 折れた剣が突き入れられた宝玉は、急速に光と色とを失っていく。「ヨミ! お前まで俺を裏切るのか。お前まで、俺の望みを奪うというのか!」『ちげーよ』 答えたのは、弱々しいながらもいつも通りのヨミの声。『久々にお前の顔を見て、ちょいと忘れそうになったが。オレはお前に与えたかったんだ』「与えるだと? ふざけるな。いよいよ俺の願いが叶うというときに!」『いいや、これでいいんだ。……聞くけどよ。お前、この三百年。生き長らえて幸せだったか?』「何……」 俺は折れた剣から手を離して一歩下がった。 宝玉を割った剣は床に落ちて、カランと乾いた音を立てる。『延命の願いは叶えてやった。そして、たった一人でここにいて、奪われることはなかったはずだ。それで幸せだったか? お前の願いを叶えれば、永遠にこれが続く』「…………」 王の視線がわずかに揺れた。至近距離でなければ分からないほど、ほんのわずか。『だから――』 割れた宝玉がもう一度光を灯した。力を振り絞るように。『だから、これで終わりにしようぜ』 ヨミの剣が王の手を抜け出す。 宙に浮いた剣は切っ先を主に向けて、そのまま玉座へと串刺しにした。「がはっ……、ヨミ、貴様……」『お前の命を奪った代価は、オレの命で支払おう。あの世の旅路、付き合ってやるよ』 そうして彼らは息絶えた。 後には静寂だけが残った。 部屋の主と造物主
「させるかっ!」 俺は床を蹴った。剣を抜いて王とヨミへと斬りかかる。 王の皺深い顔がいびつな笑みに歪んだ。 この部屋はのぞみの部屋。 彼の望みを叶えるための場所。 かつてヨミの剣はこの土地の守護神を殺して力を奪ったと言っていた。 神の力とは、大きく分けて二つある。 一つは単純な力の強さ。神を名乗る存在は、そこらの魔物と比べ物にならないほど強い。 二つ目は特殊な権能。 例えば北の氷の女王は気候や気温を操ることができる。 単なる力や魔力の強さを超えて、この世界に干渉する力が神にはある。 たぶん、ヨミが殺した神は『願いを叶える』権能を持っていたのだと思う。 だからこそヨミはのぞみの部屋などというものを作った。 そして大規模な願いを叶えるには、他の神の秘宝を組み込む必要があった。 それまでの繋ぎとして、王の『永遠に存在する』という願いだけを叶えた。 この部屋の中において、ヨミと王とは絶対の存在。 永久氷河の勾玉を手放した俺が太刀打ちできるはずもなかった。 でも。 ヨミは迷っている。 王は言っていた。 血縁者から生贄を要求したのに、すぐに途絶えてしまったと。 子孫らは彼を忘れ去ったと。 そんなはずはないのだ。 だってパルティア王国には常にヨミの剣が在った。 神殺しの剣として王家と密に関わっていた彼がいれば、生贄を無理にでも出すことはできただろう。 ましてや忘れるはずがない。 ヨミは今でも、王を『我が主』と呼んでいるのだから。「ヨミの剣!」 俺は叫んだ。 王ではなく、剣の宝玉を見据えながら。「神としてのお前、王の剣としてのお前に問う! その願いは、叶えるに値するのか!?」 ヨミの記憶で見た場面が蘇る。 彼はこう言っていた。『我が主。どうすればお前の心は満たされる? かつてオレの飢えを満たしてくれたように、オレもお前に与えたい
目を開けると、目の前の扉は消え失せていた。 扉があった場所はくろぐろとした穴が開いて、石造りの通路が続いている。「――行きましょう」 ニアが言った。 通路に足を踏み入れる。 俺たちは誰もが無言で歩き続けた。 そうしてどのくらい進んだことだろう。 通路はまた扉に行き当たった。 けれど扉は封印も施錠もされておらず、手で押せばあっさりと開いた。 ズズ……と重たげな音とともに扉が開いていく。 その先は広間になっていた。 ひどく広い、真っ暗でがらんどうの空間。 俺たちが中に入れば、恐らく魔法の仕掛けだろう、部屋のそこかしこに明かりが灯った。「ここが『のぞみの部屋』?」 ニアがきょろきょろと辺りを見回している。 と。「ああ、そのとおりだ。森の民よ」 低くしわがれた声が響いた。 声の方向を見れば、部屋の中央に誰かがいる。 そこだけ豪華に作られた玉座に座って、フードを目深にかぶっている。「よくぞ秘宝を揃え、ここまでたどり着いた。お前たちには望みを叶える権利がある。さあ、願いを言うがいい」 ニアが一歩前に出た。 不安そうなルードにうなずいて、口を開く。「わたしの願いは、森の民の復活。エーテルライトに留まる魂たちに、新しい肉体を」「……承知した」 フードの人物が言うと、彼の頭上に光が現れた。 緑の光を放つ宝珠、エーテルライトだ。 扉に嵌め込んだ秘宝をここに呼び寄せたのだろうか。 エーテルライトから小さな光がいくつも飛び出した。 光は蛍のように飛び交って、宝珠のまわりをくるくると回っている。 光は徐々に大きくなって、だんだんに人の輪郭を取り始める。「みんな……これで、また会える……」
「愚かな! お前も操ってやる!」 メイデスが叫んで黒い霧がこちらに向かってくる。 重圧がかかる。ぐらぐらと視界が揺らいで意識を失いそうになる。 だが。 前に進み続ける俺のすぐ横を何かが追い抜いた。『オラァッ! 串刺しにしてやるぜ!!』 それはヴァリスによって投擲されたヨミの剣だった。 ヨミはまっすぐにメイデスへと向かって飛んでいく。「な、バカな!」 メイデスが悲鳴を上げる。 黒い霧がヨミを包むが濃度が薄い。 元からニアを操っているのに加えて、力を俺とヨミに振り分けたのだ。 明らかに力不足に陥っている! ヨミは投げ放たれた速度そのままにメイデスの胸を貫いた。 黒い霧が消えて俺の体も動くようになる。「…………ッ!」 俺はメイデスの首をはねた。 胴体から離れた首が床を転がっていく。 ――人殺しはしたくなかった。 でも今はそんなことは言っていられない。 ニアとルードを、俺の恩人たちを助けるのが第一。 秘宝を持つメイデスは確実に殺さなければ、何をしてくるか分からなかったから。 動揺しながらも襲ってくる兵士たちを叩き伏せる。 こいつらは気絶に留めたが、ヨミを手にしたヴァリスがきっちりと殺していた。 結局、俺が殺したのと同じことだろう。「ニア、しっかりしろ。ルードも」 床に倒れた二人を助け起こす。 ルードは気を失っているだけで、大きな怪我はない。 ニアも名を呼ぶとゆっくりと目を開いた。「ユウ……? どうしてここに」「助けに来たんだよ。命と魂の恩人だから」 俺が言えば、彼女は悲しげに微笑んだ。『あらよっと』 背後でヨミの声がする。 首を失ったメイデスの死体から、赤黒い水晶のようなものがこぼれ落ち