元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。

元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。

last updateLast Updated : 2025-06-28
By:  専業プウタCompleted
Language: Japanese
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マルテキーズ王家の為に生きるように育てられたモニカは、皇帝暗殺の命を父より賜りアレキサンダーの元に嫁ごうとしていた。帝国へ向かう森の中で、前世での捨て犬としての記憶が蘇る。王家の為に尽くしてきたが自分は家族により捨てられたことを察し、新しい主人になるアレキサンダーの忠犬になる事を誓う。彼ははマルテキーズ王家の企みに気づき、「魔性の悪女」との異名を持つモニカを警戒していた。悪女と忠犬の資質を合わせ持つモニカを理解するのは容易ではなかった。しかし、人間不信だった彼の警戒心は彼女の献身に気が付くと共に徐々に溶かされていく。モニカは鋭利な感覚と知略を武器に彼を狙う多くの陰謀に立ち向かうのだった。

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Chapter 1

1.私、また捨てられたんだ⋯⋯。

脳腫瘍と診断された後、白石紗季(しらいし さき)は二つの事実を知ることになった。

一つは黒川隼人(くろかわ はやと)との婚姻届が偽物だったこと。もう一つは実の息子――黒川陽向(くろかわ ひなた)もその事実を知っており、他人を母親として望んでいたこと。

この時紗季は自分の家族を捨て、全てを彼らに捧げた七年間が、まるで茶番だったことを悟った。

そこで紗季は三つのことを実行し、この薄情な父子の前から完全に姿を消すことにした。

一つ目は、一ヶ月前に予約していた結婚七周年記念のキャンドルディナーをキャンセルし、陽向の幼稚園のクラスLINEグループと、父子の健康のために入っていた数十の健康関連のグループから退会すること。

二つ目は、医師からストレステストを受け、特効薬を処方してもらい、海外まで移動できる体調を確保すること。

三つ目は、七年間連絡を絶っていた兄の白石隆之(しらいし たかゆき)に電話をかけ、遠くへ嫁いだことを後悔して、帰りたいと告げること。

――

「紗季さん、がん細胞が脳神経を圧迫しています。早急な決断が必要です」

消毒液の匂いが漂う病院の廊下で、医師の言葉が今も紗季の耳に響いていた。

全身を震わせながら、しわくちゃになった検査結果の用紙を握りしめた。

最近頭痛や嘔吐に悩まされ、時々鼻血も出ていた。

寝不足による単なる体調不良だと思っていたのに、検査結果は恐ろしい事実を突きつけてきた。

医師は治療方針を選択する必要があると言った。

手術をして五十パーセントの生存確率に賭けるか。

それとも保守的な治療を選び、投薬と化学療法で髪の毛は抜け落ちるが、あと数年の命を繋ぐか。

紗季はその五十パーセントという確率に賭けることが怖かった。

幼い頃から注射さえ怖がっていた彼女にとって、冷たい手術台の上で生死を分ける選択をすることは想像もできないほど怖かった。

しかし手術をしなければ、脳の腫瘍は大きくなり、苦しみながら死んでいくという残酷な現実が待っている。

紗季は目を閉じ、隼人のことを考えた。

彼女は隼人と結婚してもう七年になる。彼女は彼を愛していて、まだ長い間一緒に生活したいと思っている。

そして何より、二人は頭がよく、優秀な息子――陽向を一緒に育てている。

人生で最も大切な二人のことを考えると、勇気が湧いてきた。

彼女は立ち上がり、医師の診察室のドアを開けた。

「先生、決心しました。開頭手術の予約をお願いします」

医師は厳かな表情で言った。

「五十パーセントの確率です。怖くないのですか?」

紗季は微笑んだ。「怖くありません。夫と子供が私の側にいてくれると信じています。二人がいれば、何も怖くありません」

医師はゆっくり頷いた。

「分かりました。一ヶ月後の手術を予約しておきます」

紗季は病院を出て、急いで帰宅した。夫と子供の慰めと支えが欲しかった。

家政婦は隼人が会社に行ったと告げた。

紗季は急いで黒川グループへ向かい、社長室の前まで来た。

中に入る前に、男性の声が聞こえてきた。

「隼人、紗季にお前が美琴を秘書にしたことを知られたら、怒るんじゃないか?」

紗季は凍りつき、ドアの隙間から隼人の親友――青山翔太(あおやま しょうた)の姿をはっきりと見た。

美琴?

美琴!

この名前は彼女にとってあまりにも馴染みがあった。隼人が十年もの間、心の奥底に秘めていた初恋の人だった。

机に向かって座る隼人は目を伏せ、袖をまくり上げた。黒いシャツの襟元は少し開いていて、どこか冷たい既婚者の雰囲気を醸し出していた。

彼はいらだって言った。

「会社のことに口を出すな」

翔太は首をすくめ、苦い顔をした。

「まあね、俺はこの何年もお前の面子を立てて、紗季のことを奥さんって呼んできたけど、周りの人はみんな、お前たちが偽装結婚だって知ってるよ。それに婚姻届は俺が偽造したんだ。ハハハハ!」

これを聞いた紗季は、顔が真っ白になり、その場で凍りついた。

彼女は......何を聞いたのだろう?

隼人との結婚は......偽装だったの?

隼人はオフィスのドアに背を向けて座り、ドアの外に人が立っていることに全く気付いていなかった。

翔太は好奇心に駆られて尋ねた。

「隼人、なんで黙ってるの?今美琴が戻ってきたんだから、早く紗季と別れればいいじゃん?当時紗季がしつこく迫って、お前が酔っ払ってた時に誘惑して妊娠したから、子供の戸籍のために仕方なく偽装結婚したんだろ。その結果、美琴が傷ついて出て行って、今やっと戻ってきたわけだし」

紗季は息を飲んだ。

激しい頭痛が襲ってきて、紗季は口を押さえ、必死に吐き気をこらえた。

あの夜、バーに翔太も確かにいたはずなのに!

自分は隼人にお酒を勧めてなどいなかったのに、隼人はビジネスライバルに薬を盛られていた。翔太はそれを分かっていたはずだ。

自ら「解毒剤」になろうとして、隼人とホテルへ行ったのだ。

なぜすべての責任を自分一人に押し付けるのか?

翔太は軽く笑い、からかうような口調で言った。

「お前はいつ美琴と結婚するつもりだ?当時彼女は重い心臓病にかかって、お前の足手纏いになるのを恐れて去った。紗季にその隙を突かれたんだろう?美琴はもともとお前の妻になるはずだったのに!」

隼人は鋭い視線で翔太を見つめた。

その目は氷のように冷たく、警告が伝わってくる。

「俺と紗季には陽向がいるんだ......」

紗季は全身を激しく震わせ、立っているのがやっとだった。

彼女は彼らの会話に吐き気を催した。聞き続けられなくなり、そのままトイレに駆け込んだ。

そのため隼人が言いかけていた言葉を聞き逃してしまった。

紗季は洗面所で激しく嘔吐した。

残酷な真実に吐き気を催したのか、脳腫瘍による生理反応なのか分からなかった。

女性社員が入ってきて驚き、急いでティッシュを差し出した。

紗季は目を赤くしてティッシュを受け取り、泣くよりも醜い笑顔を作って言った。

「ありがとうございます......隼人には私が来たことを言わないでください」

彼女は振り返り、よろめく足取りで会社を出て、まるで生ける屍のように街をさまよった。頭の中では、隼人との初めての出会いが思い返されていた。

7年前、彼女は海外でも有名なデザイナーで、兄――隆之のジュエリー会社で重要なポジションを担っていた。その頃、隼人とは何の接点もなかった。

ある出張の際、紗季がホテルを出たところで突然スカートが裂けてしまったのだ。

彼女が露出してしまいそうになり、ひどく恥ずかしく慌てていた時、隼人が高級車から降りてきて、彼女の前に歩み寄り、スーツの上着を差し出した。

「腰に巻いてください」

適切な援助が、見知らぬ環境での彼女の窮地と不安を一瞬で解消した。

彼女は顔を上げると、かっこいい顔に一目惚れした。

それ以来紗季は彼のことが忘れられず、隆之を通じてコネを作り、あらゆる手段を尽くして隼人との仕事上の接点を作り、積極的に追いかけた。

隼人の心の中に忘れられない初恋相手がいることを知りながらも、彼女は決して諦めなかった。

その後、酒の席で偶然会ったことがきっかけとなって二人は親しくなった。紗季が妊娠したことで、自然な流れで結婚することになったのだ。

紗季は新婚初夜のことを覚えていた。彼女は隼人に尋ねた。

「私は責任を取れとは言わなかったのに、なぜ私と結婚してくれたの?」

いつも冷淡な隼人が、初めてあんなに真剣に彼女を見つめ、ゆっくりと答えた。

「お前に、そして俺たちの子供に、家族を与えたいんだ」

この一言のために、紗季はこの結婚に全てを捧げた。彼女は隆之の強い反対を押し切って自身のキャリアを捨て、国内に留まり、妻として母として全力を尽くした。

しかし今、彼女が全てを捧げた結婚は最初から最後まで偽りだったのだ!

隼人は最初から彼女を本当の妻とは見ていなかった!この7年間、彼の心には別の女性がいて、彼女とは夫婦のふりをしていただけだった!

紗季の心はまるで血を流すように痛んだ。最初から最後まで完全な笑い物だったことを痛感した。

彼女は決心した。

一ヶ月後、もし手術が成功して生き延びたら陽向を連れて出て行こう。

隼人は陽向のことを遠慮する必要はない。好きな人と結婚すればいい!

子供のことを考えると、紗季に少し力が戻ってきたような気がした。

彼女は家に駆け戻り、階段の入り口まで来たところで、陽向が執事――森下玲(もりした れい)と話しているのが聞こえた。

「パパとママの婚姻届が授与されてないって、ママが知ったらどうなると思う?」

陽向の幼い声が聞こえてきた。

紗季は目を見開き、その場に立ち尽くした。

玲は優しく笑って答えた。

「仕方がないですよ、坊ちゃま。ご主人様は奥様のことをお好きではないですからね、それはご存知でしょう」

陽向は子供らしく鼻を鳴らした。

「実は僕もママのこと、あんまり好きじゃないんだ。僕は美琴さんの方が好き!すっごく優しいんだよ。ママが僕をパパの会社に連れて行くたびに、美琴さんはいっぱいおいしいものとか、面白いものをくれるんだ。ママみたいに、お菓子を食べ過ぎちゃダメだとか、勉強しなさいとか言わないし。うるさくないんだよ!美琴さんがパパと結婚できたらいいのにな!」

紗季は掌を強く握りしめたが、気を失いそうになった。

育てた実の子供までもが、隼人と同じように、彼女にこれほど冷たく無情だとは予想していなかった。

紗季は過去の「母子の愛」「夫婦の睦まじさ」という温かな情景を思い出したが、今となってはそれが全て夢だったと感じた。

これは甘美に見えて、実は恐ろしい悪夢だった。

当時、隆之が結婚のことに強く反対したのは、彼女が苦労することを心配してのことだった。彼女は隆之の言葉に耳を傾けるべきだったのだ。

もし隆之が隼人のしたことと陽向の態度を知ったら、きっと怒り狂って刃物を持って殺しに来るだろう。

紗季は胸の痛みで目を瞬かせ、黙って階段を降りた。

彼女は夫と子供のために死を恐れずに、手術台に横たわることを決意したが、今ではその支えとなっていた希望も完全に粉々に砕けてしまった。

彼女はリビングに来て、電話をかけた。

「お兄ちゃん、隼人と離婚したい。家に帰ってもいいかな?」
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1.私、また捨てられたんだ⋯⋯。
 春の日差しが暖かくて気持ちが良い。 今日は花々に囲まれたガーデンにお茶の席を設けた。 集まった貴族令嬢たちとの大好きなお喋りの時間だ。 甘い花の匂いに包まれて私はまた幸せで楽しい時を過ごした。 美味しいものを食べて、会話をすることの幸せを噛み締められるようになったのは前世の記憶を取り戻してからだ。 孤立していた私に友人ができたのは、バラルデール帝国でできた初めての友人ジョージのおかげだ。 恋を知らず、人の好意を利用し「魔性の悪女」と呼ばれた私が愛し、愛される人に出会える日が来るとも思っても見なかった。 それまでの私はマルテキーズ王家の為に身を捧げるだけで、何をしても空虚に感じるつまらない女だった。「では、皆様、またご一緒しましょうね」  今日はこれから、夫のアレクと春の植物を観察するお散歩に行く約束をしている。 私は令嬢たちとの交流を終え、政務会議をしている彼のことを重い扉の前で待った。 バラルデール帝国の皇城内は、私の育ったマルテキーズ王城とは構造も違う。 マルテキーズ王城の扉は薄く、聞き耳をたてれば中の声が聞こえる。 バラルデールの議場の豪華で重い扉の中の声が聞こえるのは恐らく私だけだ。「だから、余はモニカ以外の妻は迎えないと言っただろう」 重い扉の内側から聞こえてくる愛するアレクの声に胸が熱くなる。 私がアレキサンダー・バラルデール皇帝の元に嫁いでから1年が経つ。 一向に私が懐妊しないので、彼は今日も貴族たちから新しい妻を迎えるように言われたようだ。 議場の重い扉が開くと、肩までつきそうな黒髪にエメラルドグリーンの瞳をした愛しのアレクと目が合った。「モモ、待たせたな。一緒に散歩に行こうか」 私は彼がエスコートしようと差し出した手に手を重ねる。 彼の指先が冷え切っているのが分かって、私の体温を伝えようと手を握った。「アレク、髪が伸びましたね。あとで髪を切らせてください。長い髪も素敵だけれど、これから暖かい季節になります」 彼は伸びた前髪をいじりながら頷いた。 私は議場での会話が聞こえなかったフリをしながら、彼と一緒に城の庭園まで来た。 「あっ! タンポポです。可愛い⋯⋯」 私がしゃがみ込んで発した言葉に、アレクが吹き出した。 「雑草じゃないか。花が好きな君のために沢山春の花を植えさせたんだ。チューリップ
last updateLast Updated : 2025-05-07
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2.私は、本当に幸せだ⋯⋯。
 私は初めてバラルデール帝国領に入った。 バラルデール帝国は馬車に乗りっぱなしで、マルキテーズ王国から2ヶ月以上も掛かる。 私はマルキテーズ王国の周辺諸国については、勉強したが帝国については知らないことが多い。 父も、今回の縁談がなければ、遠いバラルデール帝国まで手を伸ばそうとは思わなかっただろう。 馬車の外に見える風景が、目新しい。 夕暮れで暗くなり始めているのに、街灯が付いていて街中には沢山の人が行き交っている。  犬のモモだった前世の記憶を思い出してから、自分が人間であることに幸せを感じる。 目に映る全ての人たちと関わってみたいという好奇心が抑えきれそうにない。(初めての友人ができたりして⋯⋯)「ルミナ⋯⋯素敵ね、親が子供の手を繋いで歩いているわ。夕暮れのお散歩は空の色が移り変わって行くから楽しいでしょうね」 ルイとお母さんが手を繋いで私に会いに来てくれた日を思い出した。 ルイのご両親は彼にとっては悪い人ではない。 ただ、犬だった私のことを家族とは思っていなかっただけだ。「姫様、ルミナは最期の時まで姫様と共にいます」 私の様子がいつもと違って、ルミナを不安にさせたようだ。 確かに私は生きる喜びを忘れて、マルテキーズ王家の為に動く道具だった。 風景はいつも白黒で、何も楽しいことなど何もなかった。 令嬢たちとのお茶会も楽しめず、王家の邪魔になる人間を引き摺り下ろすネタを掴んだ時だけ心が踊った。  馬車が止まり扉を開けると、そこには見たこともない程の沢山の花々に囲まれた皇宮が見えた。 花の香りが優しく私の鼻を擽り、私は思わず馬車を飛び降りた。「素敵⋯⋯ここが私の新しいお家なのね⋯⋯」 思わず漏れた言葉に、レイ・サンダース卿がエスコートしようとした手を引っ込めた。 手を差し出してくれてたのに、美しい世界に惹かれて気が付かなかった。「お前が、モニカ・マルテキーズだな」 低く重い声、肩までつきそうな黒髪にエメラルドグリーンの瞳が鋭く光る美しい獣のような男。 一目で彼が特別な存在の男だと分かった。 この帝国の若き君主アレキサンダー・バラルデールだ。 確か私より歳は3歳年上で、大人の色気というか雰囲気のある方だ。 流石は帝国の皇帝と言ったところで威圧感があり、私は少し緊張した。 若くして彼が皇位を継いだのは、先の
last updateLast Updated : 2025-05-07
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3.早く、陛下の妻になりたいので今サインします。
 バラルデール帝国の皇帝になり、半年で早く妻を娶るようにと周囲が煩くなった。 半年前、皇帝であった父が亡くなったのは間違いなく暗殺だ。  父アルガルデ・バラルデールは保守的で、好戦的なレイモンド・プルメル公爵と度々対立した。 父の死因は心不全とされているが、俺はレイモンド・プルメル公爵が裏で手を引いたと思っている。 若くして公爵位を継いだレイモンド・プルメルは、貴族派の筆頭で宰相職にもついていて強い発言力を持っている。 父、アルガルデ・バラルデールは高齢で政務から離れ気味にもなっていたので、レイモンド・プルメル公爵が俺の留守中には皇帝のように振る舞っているとも聞いていた。 俺がレンダース領の暴動を鎮める為に遠征している時に、父の死の知らせが届いた。 バラルデール帝国に戻るなり、俺は皇帝に即位した。 俺はどこか壊れているようで、人を切ることに何の躊躇いもなかった。 むしろ、窮屈な皇城でくだらない貴族の権力争いを見ていると戦場に出たくなった。 たかだか、辺境の領地の暴動鎮圧に俺が出向いたのは暴れたくなったからだ。 まさか、俺の留守中に父が亡くなるとは思っても見なかった。 俺の荒っぽさは皇太子時代からバラルデール帝国だけでなく世界中に伝わっていて、皇帝になると「暴君」と影で囁かれるようになった。  そして、最近何やらマルテキーズ王国周辺が騒がしい。 その元凶がランサルト・マルテキーズ国王だ。 野心家の彼は国民に徴兵の義務を化し、屈強な軍隊を作った。 彼の息子であるマルセル・マルテキーズも計略に長けている。 そして、絶世の美女と噂の彼の娘、モニカ・マルテキーズは「魔性の悪女」との異名まである恐ろしい女だ。 騙されていると分かっても、各国の政府の要人は彼女にはまり機密情報を漏らしてしまうらしい。 「陛下、恐縮ですが、そろそろ妻を娶られませんと後継者の問題もありますし帝国民に不安が広がります」 レイモンド・プルメル公爵がに妻を娶るようにとしつこく迫ってくる。 そして、次に彼は自分の娘である俺と同じ歳のマリリン・プルメル公女を薦めてくるだろう。 マリリンもプルメル公爵に似て野心家で、幼い頃から俺に擦り寄ってきた。 父親と同じ銀髪に紫色の瞳をしていて顔立ちも似ているので、たまに公爵が女装して纏わりついて来ているように錯覚しゾッとし
last updateLast Updated : 2025-05-07
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4.私が陛下の為にできることはないかしら?
 目が覚めた時、隣にアレキサンダー皇帝はいなかった。 私は酷く寂しい気持ちに襲われた。(また、捨てられるのが怖い⋯⋯) 気だるい体を起こして、呼び鈴を鳴らすとクレアがやってきた。 服を着替えるのを手伝って貰い、食堂に向かう。(ルミナは本当にどこに行ったのかしら⋯⋯後で陛下に聞かないと⋯⋯) 陛下と一緒に食事をとれると期待したのに、私はまた1人で食事をするようだ。「朝食に陛下はいらっしゃらないの?」「陛下は既に朝食を済ませております」(今日も、料理からほのかに草の匂いがする⋯⋯苦手な香りづけ⋯⋯) クレアの言葉に私はアレキサンダー皇帝の体が心配になった。(まだ、日が昇って間もない時間なのに、もう働いているの?)「クレア⋯⋯私が陛下の為にできることはないかしら? お疲れの毎日でしょうに、私は昨晩陛下にわがままを言ってしまったの。陛下の負担ではなく助けになれる女になりたいのよ」 アレキサンダー皇帝の気持ちは全く分からない。 彼は帝国の皇帝らしく表情管理が完璧だ。 それでも、彼は側にいて欲しいと願った私の為に、部屋を出ようとしたのに戻ってきてくれた。(本当に優しい方だわ⋯⋯)「皇妃殿下ができる事は何もありません。今日は下がらせてもらいます」 私がおかしな質問をしたせいか、クレアを戸惑わせて気を遣わせてしまった。 私は夢にまで見た人間になれたのに無力感に打ちひしがれた。 マルテキーズ王国にいた時、父や兄を支えたように政治的な面で陛下の役に立ちたい。 しかし、警戒されているだろうから、相当信用を得てからでないと仕事を任せてもらえないだろう。 犬の記憶が蘇った私は鋭い嗅覚と聴覚を持っている。 その能力も活用して陛下の役に立てないだろうか。 人間としては特殊な能力である以上、自分自身で彼の為に何ができるか考えなければならない。 私は今度こそ利用されたり、捨てられたりするのではなく手を繋いで貰える家族になりたい。 朝
last updateLast Updated : 2025-05-08
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4.私が陛下の為にできることはないかしら?
 目が覚めた時、隣にアレキサンダー皇帝はいなかった。 私は酷く寂しい気持ちに襲われた。(また、捨てられるのが怖い⋯⋯) 気だるい体を起こして、呼び鈴を鳴らすとクレアがやってきた。 服を着替えるのを手伝って貰い、食堂に向かう。(ルミナは本当にどこに行ったのかしら⋯⋯後で陛下に聞かないと⋯⋯) 陛下と一緒に食事をとれると期待したのに、私はまた1人で食事をするようだ。「朝食に陛下はいらっしゃらないの?」「陛下は既に朝食を済ませております」(今日も、料理からほのかに草の匂いがする⋯⋯苦手な香りづけ⋯⋯) クレアの言葉に私はアレキサンダー皇帝の体が心配になった。(まだ、日が昇って間もない時間なのに、もう働いているの?)「クレア⋯⋯私が陛下の為にできることはないかしら? お疲れの毎日でしょうに、私は昨晩陛下にわがままを言ってしまったの。陛下の負担ではなく助けになれる女になりたいのよ」 アレキサンダー皇帝の気持ちは全く分からない。 彼は帝国の皇帝らしく表情管理が完璧だ。 それでも、彼は側にいて欲しいと願った私の為に、部屋を出ようとしたのに戻ってきてくれた。(本当に優しい方だわ⋯⋯)「皇妃殿下ができる事は何もありません。今日は下がらせてもらいます」 私がおかしな質問をしたせいか、クレアを戸惑わせて気を遣わせてしまった。 私は夢にまで見た人間になれたのに無力感に打ちひしがれた。 マルテキーズ王国にいた時、父や兄を支えたように政治的な面で陛下の役に立ちたい。 しかし、警戒されているだろうから、相当信用を得てからでないと仕事を任せてもらえないだろう。 犬の記憶が蘇った私は鋭い嗅覚と聴覚を持っている。 その能力も活用して陛下の役に立てないだろうか。 人間としては特殊な能力である以上、自分自身で彼の為に何ができるか考えなければならない。 私は今度こそ利用されたり、捨てられたりするのではなく手を繋いで貰える家族になりたい。 朝
last updateLast Updated : 2025-05-09
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5.陛下⋯⋯泣いても良いのですよ。
 ふと、意識が戻ると背中が柔らかさを感じた。 誰かが、私をベッドの上に運んでくれたようだ。 体がだるい。 目が開けられない。 おそらくレイ・サンダース卿の投げたナイフにはマルネスの木の樹液が塗ってある。 体中に痺れて、しまいには気管閉塞までおき呼吸が停止する毒だ。  ナイフを受けたのが私でよかった。 私はマルテーキーズ王国で使われる毒には耐性がある。 母に言われて幼い頃から少しずつ摂取して、免疫をつけていたのだ。 おそらくナイフを受けたのが、アレキサンダー皇帝だったら10分足らずで身体中に毒が回り亡くなっていただろう。 私は苦しみながら、少しずつ毒を飲んで耐性をつけてきた幼い日々を思い出していた。 意識が遠のいていき、思考が奪われていくのを感じる。 きっと、次に目が覚めた時には毒に私は打ち勝っている。 私はそう信じて再び意識を手放した。 「皇妃⋯⋯目を開けろ⋯⋯」 遠くにアレキサンダー皇帝の声が聞こえる気がする。(よかった、生きてる⋯⋯私は毒に勝てたんだ) 「アレキサンダー皇帝陛下⋯⋯」 目を開けると、目の前に心配そうに私を見つめる陛下の顔があった。「1週間も目覚めなかったんだぞ」 アレキサンダー皇帝が、まるで私を愛おしい女のように抱きしめてくれる。 彼の温もりと爽やかな香りが私に安心感をもたらす。「私の連れてきた護衛騎士を、マルキテーズ王国に返してください。バラルデール帝国には立派な騎士団がありそうだったので、彼は必要なさそうです」 レイ・サンダース卿のプライベートは知らないが、彼は王家に絶対服従の人だ。 私から指名されて帝国までついてきたけれど、実は彼を待つ方がマルキテーズ王国にいるかもしれない。 彼は兄の命令に従っただけだ。「あの護衛騎士はすでに処刑したよ。今回の暗殺未遂の実行犯だ」 おそらく私に刺さったナイフがマルテキーズ王国で作らたものだとわかったのだろう。 そ
last updateLast Updated : 2025-05-10
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6.パートナーなのに色も合ってない⋯⋯。
「姫様、お会いしたかったです」 「ルミナ⋯⋯会いたかった」 やはり、アレキサンダー皇帝は優しい方だった。  私の我儘を聞いて、ルミナを呼んでくれた。 レイ・サンダース卿が処刑され、ルミナはどうしているのか心配していた。「ルミナ⋯⋯私、ここでアレキサンダー皇帝の妻として暮らすつもりなの」  マルテキーズ王家の意向に逆らおうとしている私を彼女はどう思うだろう。  私は彼女を勝手に母親のように思っているが、彼女は王家が雇ったメイドに過ぎない。「姫様、ルミナはいつも姫様と共にいます」 「ありがとう。じゃあ、早速準備にかかるわよ」 支度を終えて舞踏会会場に向かう途中、何人かの貴族令嬢とすれ違った。  私は淡い水色のシンプルなロングドレスに、髪を下ろしていた。 しかし、バラルデール帝国の貴族令嬢は髪を結い上げ、サファイアやルビーといった宝石の髪飾りをつけている。 ドレスも赤や緑といったハッキリしたもので、贅をつくすように宝石がまぶしてあった。(どうしよう⋯⋯陛下のパートナーとして出席するのに質素過ぎる) 舞踏会会場の扉の前には緑色の礼服を着た陛下がいた。 (しまった⋯⋯パートナーなのに色も合ってない⋯⋯) 何色を着るのか尋ねもしなかった自分の気の利かなさに、ため息が漏れそうになる。「アレキサンダー・バラルデール皇帝陛下に、モニカ・マルキテーズがお目にかかります」 帝国では皇后になる人間だけ、バラルデールの姓を頂けるらしい。  ドレスを持ち上げて挨拶している間も、陛下は私をじっと見つめていた。「今日はそなたのお披露目にもなるな。まだ、体調が完全に回復してないだろうから、開会のダンスを踊ったら下がると良い」「分かりました」 確かに陛下の言う通り、まだ足元がふらついている。  頭もモヤがかかっていて、脳が正常に働いていない気がする。 (失言でもしたらまずいから、陛下の言う通りにした方が良さそうね) それにして
last updateLast Updated : 2025-05-13
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31.私がジョージの事を想うのは当然でしょ。
 スレラリ草の毒に侵されている状態だと聞いたが、突発的な熱と不妊以外は気にする必要がないだろう。 私は私のやるべき事をやるだけだ。 私は朝から、ずっと私と過ごそうとするアレクを引き剥がして部屋で今後の対策をしていた。 アレクは私がブームなのだろう。  本当に人間とはどこの世界でもトイプードル、パグ、チワワとブームによって可愛がるペットを変える。 私はそのようなブームさえもない雑種犬だった。  今は時の皇帝のブームになっているのだから、感謝して彼に尽くすべきだろう。 ノックの音と共に、見知らぬ令嬢がやってきた。侍従に連れられてきたその少女は茶色い短い髪と瞳をした割と地味な女の子だ。  彼女からは私への敵意を感じないので、不思議な感じがした。  「モニカ・マルテキーズ皇妃殿下に、リアナ・エンダールがお目にかかります」  「エンダール伯爵の娘さん。どうぞ、入って」  私の言葉に緊張しながら部屋に入ってくる彼女をみて、私の警戒心はとけていった。「皇妃殿下、しょ、処刑されてしまったジョ、ジョージ・プ、プルメル公子よりお手紙を預かってきました⋯⋯」  泣き出すリアナ嬢はジョージが本当に死んだと思っているのだろう。  明らかに手が震えていて、今、遺言を私に託すとばかりに手紙を渡してくる。「とにかく、そこに座ってくれる?」  リアナ嬢は嗚咽を耐えながらソファーに座った。 手紙の封を開けて私は思わずため息をついた。 (ジョージ⋯⋯この手紙の危険性に気がつけないの?) ジョージは私の悩みを解決しようと、私と友人になれそうな令嬢を探してくれていたようだ。 マリリンとは関係がない私の助けになってくれそうな、令嬢や夫人たちがリストアップしてある。 プルメル一族の処刑の後に建国祭があって、私が準備をしなくてはいけない事を心配してくれていたようだ。 リアナ嬢はジョージとアカデミー時代の同期だったらしい。  彼女は見るからに貴族世界で揉まれて
last updateLast Updated : 2025-05-31
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7.それに雌犬って何で陛下がそのことを知って⋯⋯。
 「どうぞ、お座りください。今、紅茶を淹れますね」 ジョージア・プルメル公子に案内されたのは、広い応接室のような場所だった。 壁にパラルデール帝国の歴代皇帝の肖像画が飾ってあって、置いてある調度品も一目で一流のものと分かる。 (このような場所で対応をするのは国賓級の方なはずだわ⋯⋯)「私を訪ねてきた遠方からの来客とはどなたでしょうか?」 私は不安で仕方がなかった。 私はバラルデール帝国に来てから、1度も父や兄に便りを送っていない。(私が死んでも良い⋯⋯そんな風に捨てた人たちとはもう関わりたくない)「あれは、嘘です。ただ、皇妃殿下が今日まで意識が戻らなかったと聞いていたので、体調が心配になりお休みになって欲しかっただけです」 思わず安堵のため息が漏れた。 そして、初対面の私に親切にしてくれたジョージア・プルメル公子に好感を持った。 よく考えればマルテキーズ王国から帝国まで片道2ヶ月も掛かるのだから、父や兄がここまで来ていることはありえない。「お気遣いありがとうございます。ジョージア・プルメル公子⋯⋯」「僕のことはジョージとお呼びくだい。僕は皇妃殿下の臣下です」 私はとても温かい気持ちになった。 彼の父親のレイモンド・プルメル公爵は曲者だと聞いていたが、息子さんはお優しい方のようだ。「ジョージ⋯⋯私のこともモニカと呼んでください。臣下だなんて⋯⋯私はバラルデール帝国のことは勉強不足で貴方から学びたいことが沢山あります」「モニカ⋯⋯可愛い名前ですね」「ありがとうございます」 急にジョージが私の言葉に吹き出したので、何事かと思った。「申し訳ございません⋯⋯実は今日、モニカがありがとうございますを連発しているのが少しおかしくて⋯⋯」「えっ? そんな⋯⋯恥ずかしいです」 私は「母がつけてくれた名前を褒められて嬉しい」と返せばよかったと後悔した。 それにしても、オーケストラの演奏の中ダンスをしている会話を聞かれているとは思わなかった。
last updateLast Updated : 2025-06-01
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8.俺は彼女に何を言った?
 モニカ・マルテキーズはいつも俺を緊張させた。 淡い水色のロングドレスで現れた彼女は誰にも見せたくないくらい美しかった。 ゴテゴテと宝飾品で着飾り、自分たちを少しでも美しく見せようと必死な貴族令嬢たちが滑稽に見えた。  皇妃の艶やかなプラチナブロンドの髪が、ステップを踏むたびに揺れてキラキラ揺れて見惚れた。 大勢の人間が舞踏会会場にいるのに、俺には彼女しか見えなかった。 俺にそっと体を預けながら踊る彼女を愛おしく思った。 しかし、そんな夢のような気分に浸れたのは束の間だった。 俺とのダンスが終わるなり、彼女は他の男と連続して踊り出した。 体をくっつけて、見つめあって、まるで恋人同志のようだ。 彼女はそうやって相手を誤解させて、籠絡する天才なのだろう。(俺も危うく騙されるとろだった⋯⋯) そして、カイザーに何か声を掛けたかと思うと、よりによってレイモンド・プルメル公爵の息子ジョージア・プルメル公子と舞踏会会場を出ていった。「皇妃殿下はプルメル公子と休憩室に向かわれたようです」 侍従が耳打ちしてきた言葉に脳が沸騰するのを感じた。  彼女はジョージア・プルメル公子を籠絡して、プルメル公爵家と結託し俺を貶めようとしているのではないだろうか。 直ぐにでも休憩室に向かいたいが、カイザーの挨拶を聞いてからにしようと思った。 いつもより、表情が暗いカイザーは徐に俺の隣に来た。「カイザー、5歳の誕生日おめでとう」「兄上、今までご迷惑お掛けしました」(迷惑? なんのことだ?) カイザーの返しを不思議に思っていると、彼は徐に口を開き挨拶を始めた。「皆様、本日は僕の誕生日を祝いに来て頂きありがとうございます。僕は5歳になりました。僕は罪人の息子です。その責を負って僕は皇位継承権を放棄する事をここに宣言します」 周りがカイザーの思っても見なかった宣言に騒ぎ出す。(皇位継承権を放棄するだと?) 俺は彼に彼の母親エステラ
last updateLast Updated : 2025-06-02
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