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第2話

Autor: 微気力
蒼真が屋敷に戻ってきたのは、それからずいぶん経ってからのことだった。

私はめちゃくちゃに壊されたアトリエの床に座り込み、キャンバスから最後に残ったサインの部分を切り離していた。

この絵は、私が7年の歳月をかけて描き続けてきたものだ。

23歳の蒼真は黒いシャツを纏い、24歳の彼は窓の前に立って煙草を吹かし、25歳の彼は初めて泥酔してソファにもたれかかりながら、姉の名前を呼んでいた。

1年が経つごとに、私はこっそりと筆を重ねてきた。

長い時間をかけて描き続ければ、いつの日か、彼が私に向ける眼差しもほんの少しは優しくなるのではないかと信じていた。

だが、もうその必要はない。

キャンバスは私の手でズタズタに切り裂かれ、蒼真の顔だった切れ端が床一面に散らばっている。

ドアを押し開けて入ってきた彼は、ちょうど床に散らばった肖像画の自分自身の目を革靴で踏みつけた。

「萌奈はもう大丈夫だ」彼の声は相変わらず氷のように冷ややかだった。

深夜にわざわざ帰宅したのは、ただ姉の無事を私に宣告するためだけであり、決して私の様子を見に来たわけではない。そう言わんばかりだった。

私はうつむいたまま、ハサミを入れてキャンバスの端を切り落とした。

「……そう、よかったわ」

蒼真は怪訝そうに眉をひそめた。

以前の私なら、姉が少しでも体調を崩せば、必ず激しく騒ぎ立てていたはずだからだ。

姉の心臓発作が起きて彼が病院へ駆けつけた時は、邸宅の門をきつく施錠し、彼の車のキーを水槽へ投げ捨てた。

姉が手術を受け、彼が病院で徹夜した時は、パジャマ姿のまま病院の入り口に座り込み、朝食や書類、充電器などを一つひとつゴミ箱へ放り込んだ。

病室にいる姉を指差して、彼を何度も問い詰めたものだ。「お姉さんには夫がいるのに、どうしてあなたが付き添うのよ?」

彼はそんな私を、全く話が通じないと激しく罵った。

すると私は彼のネクタイを乱暴に掴み寄せ、大勢の人の前で口づけをした。

まるで狂人のように、彼が私のものだと見せつけるために。

だが、今の私はもう騒ぎ立てる気すら起きなかった。

そんな私の態度に、蒼真はかえって戸惑いを覚えたようだった。

彼は一枚の検査結果を私の前に無造作に投げ捨てた。「医者の話では、過度なショックを受けただけとのことだ」

「明日、病院へ行って謝れ」

私はそれにちらりと視線を落とした。

姉も子どもも、無事だった。それなのに蒼真は、目を真っ赤に腫らしてずっと姉に付き添っていた。

一方で、私が洗面所に吐き出した血は、おそらくとっくに使用人が洗い流してしまったことだろう。

私は布から伸びる最後の糸をハサミで断ち切った。

「ええ、謝りに行くわ」

彼は私をじっと見つめ、次の言葉を待ち構えているようだった。

私が「もうお姉さんに会わないで」と要求してくるのを。私が謝罪と引き換えに、何か条件を突きつけてくるのを。

何しろこの数年間、私がただで頭を下げることなど一度たりともなかったからだ。

結婚1年目、姉の心臓病が再発した。

蒼真は高熱を出して寝込んでいた私を放り出し、彼女に付き添って病院へ駆けつけた。

私はその日の夜のうちに人を呼び、姉が一番気に入っていたガラスの温室を取り壊させた。

帰宅した彼は、烈火のごとく激怒した。

私は40度の高熱を示す診断書を彼の顔に叩きつけ、姉の温室と私の寝室のどちらかを選べと迫った。

彼は最終的に、私の寝室へ入ってきた。

ベッドのそばに座って一晩中書類に目を通し、私とは一言も口を利かなかったとしても、それでも私は自分が勝ったと思っていた。

翌年、姉が帰国した。

蒼真は自ら空港まで彼女を迎えに行った。

私は車で20キロも追いかけ、わざと彼の車の横をかすめてガードレールに激突した。

彼は顔中血だらけになった私を抱き抱え、病院へと向かった。

目を覚ました後、私は彼の袖を握りしめながら笑ってみせた。

「蒼真、見て。結局あなたは、私を選んだじゃない」

彼の顔には、心配の色など微塵もなかった。ただ、深い嫌悪だけが浮かんでいた。

「結月、お前は本当に狂ってる」

けれど、私は気にしなかった。

彼がそばにいてくれるなら、狂っていようが何だろうが構わなかった。

私は蒼真を10年間愛してきた。

彼にどれほど忌み嫌われようと、それすら意に介さないほど深く。

彼が私の夫である限り、私は永遠に彼を奪い続けることができると信じていたのだ。

だが今、私にはあと3ヶ月しか残されていない。

蒼真はしばらく待っていたが、結局私が条件を口にすることはなかった。

それでも彼の顔から警戒の色が消えることはなかった。「結月、変な小細工はしないことだな」

私は顔を上げた。「もし私が本当にお姉さんに謝るって言ったら、一つだけ私の願いも聞いてくれる?」

蒼真の瞳に、すべてを見透かしたような冷たい光が宿った。「言ってみろ」

「今夜は、病院に行かないで」

途端に、蒼真の顔色がスッと険しく沈んだ。

私はハサミを放り出した。これまでのように強気で迫ることはせず、ただ静かに言った。「今夜だけでいいから、私のそばにいて」

今日、私は医者から余命3ヶ月だと告げられた。

今日、彼にアトリエを壊された。

今日、初めて彼に殴られた。

今夜だけは、一人になりたくなかったのだ。

だが、蒼真は冷笑した。「それがお前の本当の目的か。萌奈のお腹の子がまだ不安定だって知っていながら、こんな時にまで張り合おうというのか」

私は長い間、彼を見つめ返した。「もし……私も病気になったって言ったら?」

一瞬だけ、彼の瞳を微かな緊張がよぎった。

だが次の瞬間、私の足元に散らばった無残な肖像画の切れ端が彼の目に入った。

その微かな緊張は、瞬く間に深い失望へと変わった。

「結月、その手はもう使っただろう。5年前、萌奈の誕生会に行かせないために交通事故に遭ったと嘘をついた。今度は何の病気を装うつもりだ?」

私は何か言おうと口を開きかけたが、結局何も言えなかった。

5年前、姉の誕生日の日。確かに私は彼に電話をかけた。

交通事故に遭ったから助けてほしいと泣きついたが、実際は額を少し擦りむいただけだった。

それでも彼は本当に駆けつけてくれた。運転席から私を引きずり出した時、彼は怒りで両手を震わせていた。

なのに私はそんな彼に抱きつき、まるで世界中のすべてを盗み取ったかのように満面の笑みを浮かべた。

そのことだけで、私は丸5年間も喜びを噛みしめていた。

人はあまり嘘を重ねてはいけないらしい。さもないと、いざ死の淵に立たされた時、たった一つの真実さえ誰にも信じてもらえなくなる。

蒼真は車のキーを手に取った。「今夜は萌奈のそばにいる」

ドアの前に立った彼は、私がまた取り乱して騒ぎ出すのを警戒したのか、振り返って冷たく言い放った。「もしまた自分の身体を盾にして俺を脅そうとしても、戻ってきたりしないからな」

私は彼を見つめ、静かに頷いた。「わかったわ」

扉が閉まった後、私は身をかがめて床に落ちたキャンバスの切れ端を拾い上げた。

胸の奥を抉るような激痛が、ついに抑えきれなくなった。

激しく咳き込んだ拍子に、吐き出した血が絵の中の彼の目に飛び散った。

今度こそ、絵の中の蒼真も私のために目を赤くしてくれた。

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