Short
愛はここで幕を下ろし、続きはない

愛はここで幕を下ろし、続きはない

By:  ご飯ちょうだいCompleted
Language: Japanese
goodnovel4goodnovel
9Chapters
0views
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

穂高峻矢(ほたか しゅんや)が死んでから5年、私は、自分を彼と同じような人間に仕立て上げた。 彼の仇を討つため、血を見るだけで気を失っていた音羽家のお嬢様、この音羽美寧(おとわ みね)は、蒼海市で血も涙もない姐御へと変わり果てた。 あれから5年、ついに仇の一族を皆殺しにした。 街中がその噂で持ちきりになり、誰もが恐れおののいた。陰で私のことを、人でなしと罵る者もいる。 その日の夜、峻矢の墓を掘り起こした。彼と同じ墓に入り、あの世まで追いかけていくつもりだった。 しかし、墓を開けると、中は空だ。 峻矢は、まだ生きている……か? 峻矢の行方を追いつづけ、再びまみえたのは、彼と私の妹、音羽美愛(おとわ みあ)の結婚式だった。 式場は祝福に包まれ、関係者が勢揃いしている。 私の姿を見つけるなり、父・音羽正吾(おとわ しょうご)と母・音羽佳代(おとわ かよ)は、真っ先に美愛を庇うように立ち塞がる。 「銃を下ろせ!この人殺し!実の妹まで殺す気か!」 長年右腕として仕えてきた成田健人(なりた けんと)までもが、必死になだめてくる。 「美愛さんはもう妊娠してるんです。峻矢さんだって、死を偽装して、ようやく裏社会のしがらみから抜け出せたんです。どうか、2人を許してやってください」 峻矢は、あろうことか私に銃口を向けた。 「美寧、いい加減にしろ。これ以上暴れるなら、容赦しないぞ」 5年間、一瞬たりとも忘れたことのないその顔を見つめ、ゆっくりと微笑む。 「私を殺せば、これですべて終わり。でも、殺せなければ、私を裏切ったことを後悔させてやる。 さあ、撃てよ!」 パンッ!銃声が轟いた。

View More

Chapter 1

第1話

肩に、焼けつくような激痛が走る。

「美寧、穂高グループを仕切ってくれたことと、昔の情に免じて今は殺さない。

これ以上しつこくするなら、次は頭を撃ち抜くぞ!」

傷口を手で押さえると、指の隙間から血が流れ落ちる。

それでも一歩も引かず、峻矢と真っ向から視線を合わせ、無言のまま対峙している。

見慣れた顔ぶれを、一人ずつ見渡す。

家族、友人、恋人……みんな、私を騙していた。

「どうして……この5年間、あんたたちが欲しがるもの、権力も、金も、名誉も、全部与えてきたじゃない。なのに、どうして私を騙したの?

あんたの死を悲しんで、人を殺すことさえためらわない人間に変わっていく私を見て、面白かった!?」

峻矢は呆れたようにため息をつき、青ざめた私の顔を見つめる。

「お前は行きすぎなんだよ。

最初はただ足を洗って、美愛と平凡な暮らしがしたかっただけだ。事態が落ち着いたら、お前に事情を話すつもりだった。

だが、お前があの片足の男を殺したとき、ようやくわかったよ。お前がどれだけ残酷な人間なのか」

残酷?

失血のせいで、体がふらりと揺れる。

「血を見ただけで倒れていた私が、今は血塗られた罪人になってしまった。

いったい、誰のためだと思ってるの?」

峻矢は答えられない。長い沈黙のあと、銃を下ろす。

「相変わらず頑固だな……健人、美寧を家まで送れ」

健人は近づき、私の体を支えようとしたが、私はその手を振り払った。

複雑な表情で、健人を睨めつける。

「あんた、いったい誰の味方なの?」

健人は押し黙ったまま、私と目を合わせようとはしない。

やがて、美愛が峻矢の背後から顔をのぞかせ、おずおずと口を開く。

「健人はもともと私のボディーガードだったの。

お姉ちゃんに従っていたのも、私のためよ。お願いだから、健人を責めないで」

怒りを通り越して笑いが込み上げ、顔を上げて美愛に怒鳴りつける。

「お姉ちゃんって呼ばないで!私には、恩を仇で返すような妹なんていない!

姉の彼氏を横取りするなんて、どうしてそこまで恥知らずになれるのよ!」

美愛はうつむき、ただ小さくすすり泣くばかりだ。

それを見ていられなかった両親が、美愛を庇い、前に出る。

「恩知らずなのはお前のほうだ!妹に向かって、なんて口の利き方だ!」

「横取りだなんて、人聞きが悪いわ!美愛と峻矢くんは、愛し合っているのよ。美愛は気が弱いから、守ってくれる人が必要なの。

あなたは愛されていないんだから、仕方ないじゃない。別の相手を探しなさい!」

まだ何か言い返そうとしたが、峻矢に遮られる。

「いい加減にしろ!

ここは俺と美愛の結婚式場だ。お前の裁判所じゃない。健人、さっさと連れ出せ」

健人は歯を食いしばると、私の腕をつかみ、外へ引きずり出す。

大量の出血のため、抵抗する力も残っていない。

されるがまま、車に押し込まれる。

車は泥だらけの山道を猛スピードで走り抜ける。やがて健人に車から蹴り落とされ、私は腐り果てたゴミのように、ぬかるみに倒れ込んだ。

激しい土砂降りの中、雨水が血と混じり合い、傷口に流れ込む。

出血のせいで、意識はどんどん遠のき、まぶたは鉛のように重くなる。

そのとき、頭上にゆっくりと黒い傘が差しかけられた。

雨は遮られた。

誰かがしゃがみ込み、指先でそっと肩の布地をよけて、傷の手当てを始める。

誰なのか、すぐに分かった。

「取引しない?事が済んだら、あなたのプロポーズ、受けてあげる」

そう口にしたとき、遠くの山頂にある教会から、鐘の音がかすかに聞こえてきた。

峻矢と美愛の結婚式が始まったのだ。

「うるさいね……」

かすれた声でつぶやいたあと、とうとう意識を手放した。

だから、鐘が3度鳴り響いたとき、山頂から天を突くような炎が立ち上ったことなど、知る由もなかった。

結婚式場は、炎に包まれた。

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters
No Comments
9 Chapters
第1話
肩に、焼けつくような激痛が走る。「美寧、穂高グループを仕切ってくれたことと、昔の情に免じて今は殺さない。これ以上しつこくするなら、次は頭を撃ち抜くぞ!」傷口を手で押さえると、指の隙間から血が流れ落ちる。それでも一歩も引かず、峻矢と真っ向から視線を合わせ、無言のまま対峙している。見慣れた顔ぶれを、一人ずつ見渡す。家族、友人、恋人……みんな、私を騙していた。「どうして……この5年間、あんたたちが欲しがるもの、権力も、金も、名誉も、全部与えてきたじゃない。なのに、どうして私を騙したの?あんたの死を悲しんで、人を殺すことさえためらわない人間に変わっていく私を見て、面白かった!?」峻矢は呆れたようにため息をつき、青ざめた私の顔を見つめる。「お前は行きすぎなんだよ。最初はただ足を洗って、美愛と平凡な暮らしがしたかっただけだ。事態が落ち着いたら、お前に事情を話すつもりだった。だが、お前があの片足の男を殺したとき、ようやくわかったよ。お前がどれだけ残酷な人間なのか」残酷?失血のせいで、体がふらりと揺れる。「血を見ただけで倒れていた私が、今は血塗られた罪人になってしまった。いったい、誰のためだと思ってるの?」峻矢は答えられない。長い沈黙のあと、銃を下ろす。「相変わらず頑固だな……健人、美寧を家まで送れ」健人は近づき、私の体を支えようとしたが、私はその手を振り払った。複雑な表情で、健人を睨めつける。「あんた、いったい誰の味方なの?」健人は押し黙ったまま、私と目を合わせようとはしない。やがて、美愛が峻矢の背後から顔をのぞかせ、おずおずと口を開く。「健人はもともと私のボディーガードだったの。お姉ちゃんに従っていたのも、私のためよ。お願いだから、健人を責めないで」怒りを通り越して笑いが込み上げ、顔を上げて美愛に怒鳴りつける。「お姉ちゃんって呼ばないで!私には、恩を仇で返すような妹なんていない!姉の彼氏を横取りするなんて、どうしてそこまで恥知らずになれるのよ!」美愛はうつむき、ただ小さくすすり泣くばかりだ。それを見ていられなかった両親が、美愛を庇い、前に出る。「恩知らずなのはお前のほうだ!妹に向かって、なんて口の利き方だ!」「横取りだなんて、人聞きが悪いわ!美愛と峻矢
Read more
第2話
私が目を覚まして間もなく、美愛は両親を連れ、怒りをあらわにしながら、病室のドアを乱暴に押し開けた。父は歩み寄るなり、私の頬を思いきりひっぱたいた。「お前が人を差し向けて、美愛の結婚式を台無しにしたんだな!」続いて母も罵声を浴びせてくる。「あんた!それでも人間なの!?私たち全員を殺すつもり!?」美愛は母の胸にすがりつき、泣きじゃくっている。「全部、お姉ちゃんのせいよ!健人は私を守るために、全身にひどいやけどを負って、今もICUで意識が戻らないままなのよ!」頬を打たれた勢いでよろめき、ベッドの縁に手をついて、どうにか体勢を立て直す。顔を上げ、両親を見つめる。もはや否定する気すら起きない。「ずっと聞きたかったの。どうしていつも美愛ばかりをひいきするの?あんたたちは、私が買った家に住んで、私が命をかけて稼いだお金を使っている。私を特別扱いしてほしいなんて言わないけど、せめて平等に扱うことくらい、できるはずでしょ」父は忌々しげに舌打ちをして、鼻で笑った。「そんな汚い金、欲しがるものか!俺たちが欲しいのは、そばにいてくれることだ!お前は人の道に外れたことばかりしている。お前の金を使うとき、俺たちも美愛も後ろめたくてならないんだ。お前と違って美愛は、ずっとそばにいて、俺たちを気遣ってくれる。美愛こそ、俺たちの自慢の娘だ」母も追い打ちをかけるように言い放つ。「美愛をかわいがって、何が悪いのよ!あんたみたいな人殺しをひいきしろっていうの?」思わず笑いがこぼれた。冷ややかな視線で、ゆっくりと3人を見回す。母はつい先日私が贈ったばかりの、鮮やかな緑色のエメラルドのネックレスを、父は数千万円もする腕時計をつけている。美愛が持っているのは、大金を積んでもめったに手に入らないハイブランドのバッグだ。とてもお金に無頓着な人には見えない。「昨日だって、お金をせびりに来たばかりじゃない。今の家じゃまだ狭いから、老後のためにもっと広い邸宅を買ってほしいって言ったのは、どこの誰だったかしら?私のお金が汚いと思うなら、これからは1円たりとも渡さない。そのなけなしの年金だけで、せいぜい仲良く老後を過ごせばいいわ」両親の顔色が一瞬にして変わった。プライドが邪魔をして、今さら頭を下げることもできない。かと
Read more
第3話
私が言い終えるやいなや、峻矢が手下を引き連れて病室に乗り込んできた。「穂高グループを返せ!」峻矢へ視線を向ける。あの銃弾が撃ち抜いたのは、肩ではなく、胸だったかもしれない。だから今は、息ができないほど、胸が痛い。「返さないわ。一生私だけを愛するって誓って、穂高グループを結納金代わりとして渡すって言ったのは、あんたじゃない。そもそも、この5年間、私がいなければ、会社が今まで持ちこたえられたと思ってるの?」峻矢は再び銃口を私に向ける。今度は私から歩み寄り、その銃身を握って、自分の胸に押し当てる。冷たい銃身に、涙がぽつりと落ちる。「撃ちなさいよ。穂高グループに興味はない。あんたの仇を討つために、命をかけて会社を守ってきた。私が死んだところで、5年前に死んだことになっているあんたが、今さら会社を取り戻せるわけがない。林グループがずっと狙っている。それに、林家の人間は、私みたいに甘くはないわ」峻矢の手が震えているのが分かる。長い沈黙の末、彼はとうとう手を下ろし、銃をしまった。そして、少し声を和らげる。「美寧、俺たちが殺し合う必要はないんだ。お前を騙したのは悪かった。俺はただ、血なまぐさい裏社会にうんざりして、平凡な暮らしがしたかった。お前と違って美愛は弱くて、優しすぎるから、俺がいなきゃ駄目なんだ」その言葉に、怒りが込み上げる。傷口が引きつり、目の前が真っ暗になるほどの激痛も構わず、峻矢の襟元をつかんで怒鳴りつける。「じゃあ、私は!?昔の私だって、そうだったじゃない!峻矢、私たちが出会った頃のこと、忘れたの?私は抗争に巻き込まれたところを、あんたに助けられた。私だって、血を見ただけで倒れるような世間知らずのお嬢様だったのよ。そんな私が、どうしてこんな人間になったのか、本当に分からないの!」峻矢は私の目をまともに見られず、顔をそむける。「俺のためにいろいろやってくれたのは分かってる。だが、美愛はもう妊娠してるんだ。俺は父親としての責任を果たさなきゃならない。それに、お前の体じゃ子供は産めないだろ。俺は……」「7年前、あんたを庇って撃たれたからよ!」声を張り上げた拍子に傷口がまた鋭く痛み、体がぐらりと揺れて倒れそうになる。峻矢は反射的に手を伸ばし、私の腕を支える。
Read more
第4話
再び目を覚ましたのは、3日後だ。体に力が入らず、起き上がることすらできない。目を開けると、そこに峻矢と弁護士がいた。峻矢は私の体を支え起こすと、手にペンを無理やり握らせた。「美寧、サインしろ。俺はお前を殺したくない。ただ、お前の名義を使って会社を取り戻すだけだ。解毒剤は俺しか持っていないんだ。俺を困らせるな」声を出すこともできず、ただ涙に濡れた目で峻矢を睨みつける。意地でもペンを動かそうとはしない。そのとき、病室のドアが乱暴に開き、美愛が入ってくる。衰弱しきった私を前にして、その口元には隠しきれない笑みが浮かんでいる。彼女は心配しているふりをして言う。「お姉ちゃん、早くサインしたほうがいいわよ!特別個室で手厚く看病してもらうか、精神科病院に送られてひどい目に遭うかは、お姉ちゃんの出方次第なんだから」ペンを握る手が、怒りで震えている。やがて呼吸することさえ苦しくなり、気を失ってしまう。意識が遠のく中、峻矢と美愛が声をひそめて話すのが聞こえた。「水でもぶっかけて目を覚まさせたら?もうすぐ役員会議が始まっちゃうわ。こんなときに情けをかけちゃ駄目よ!」峻矢はまだためらっているようだ。美愛は少し膨らんだお腹をなでながら、優しく説得する。「安心して。これからあなたが忙しいときは、私がお姉ちゃんの面倒をちゃんと見るから。お姉ちゃんが情に弱いこと、よく知ってるでしょ?今は少し腹を立ててるだけよ。本気で私たちと縁を切るわけないじゃない?」峻矢はその言葉に背中を押されたようだ。次の瞬間、冷たい水が頭から浴びせられた。私は激しくむせ込みながら目を覚ました。全身ずぶ濡れで、寒さで顎がひとりでに震え、歯がカチカチする。息を整える間もなく、峻矢に手をつかまれ、無理やりサインさせられた。咳が止まらない私を見て、峻矢は親指の腹で私の顔についた水滴を優しく拭った。さらに身をかがめ、額にキスまでした。「美寧、俺を信じてくれ。穂高グループを取り戻したら、絶対にお前のことは大事にするから」そう言い残し、峻矢は足早に病室を出ていった。峻矢の姿が見えなくなると、美愛は優しい妹という仮面をかなぐり捨てた。ボディーガードたちに冷たい声で命じる。「こいつを縛って、精神科病院に連れていって。向こ
Read more
第5話
峻矢は目を見開き、信じられないといった様子で、私を上から下まで見回している。「お前、どうして……」「どうして起き上がれるの?どうしてまだ話せて、歩けるのかって聞きたいんでしょ?」峻矢の言葉を遮り、蔑むような目を向ける。「峻矢、あんたのやり方、本当にしょうもないわね」そう言って、まっすぐ上座に向かい、腰を下ろす。「その紙くず、もう捨てたら?病室には監視カメラがあったわ。意識がもうろうとした状態で、無理やり書かされた委任状なんて、法的に無効よ。つまりあんたは、株なんて1%も持っていないの」顎をしゃくり、入り口に控えているボディーガードに命じる。「穂高さんを連れ出して」峻矢の手から委任状がバサリと床に落ちる。彼は近づこうとするが、すぐにボディーガードに押さえられた。「ば、ばかな!俺は確かに毒を盛った!お前が飲み込むところも、この目でしっかり見た!どうして無事でいられるんだ!」私はすぐには答えない。会議室にいる人々に視線を巡らせる。「どうやら、穂高さんとは少し個人的な問題を片付けなければならないようですね。ほかに用がなければ、お引き取りください」その場にいた者たちは、修羅場から解放されたように次々と去っていく。林家の人間たちはこの機に乗じて、媚びへつらうような笑みを浮かべて近づいてくる。「甲斐社長、そして奥様。以前お約束いただいた西北地方のあの土地と工場の件ですが……」それを聞いた怜司は、私へと顔を向け、どうするつもりなのかと目で尋ねてきた。彼に微笑み返してから、林家の人間に向き直る。「この間、ずいぶんといい芝居をしてくれたわね。報酬は、約束の倍払うわ」林家の人間たちは大喜びで何度も頭を下げ、足早にこの修羅場から立ち去っていった。会議室は、再び静寂に包まれる。私と林家の人間たちとのやり取りを見ていた峻矢は、ようやくすべてを悟ったようだ。もはや抵抗することもやめた。まるで背骨を抜かれたかのように、その場にへたり込む。うつろな目で私を見上げ、口を開く。「すべて……お前が仕組んだ罠だったのか?」そのとき、両親が息を切らしながら駆け込んできた。母は私を指差して怒鳴りつける。「この人でなし!今すぐ美愛を精神科病院から出しなさい!さっき、美愛から電話があっ
Read more
第6話
両親はその場で呆然と立ち尽くしている。そして峻矢に目を向ける。彼ががっくりと肩を落としているのを見て、私が嘘をついていないと悟ったようだ。母は焦って峻矢の肩を揺さぶり、甲高い声で問い詰める。「絶対に失敗しないって言ってたじゃない!どうして、こんなことになったのよ!」父の顔から血の気が引いていく。「ばかな!あの毒は、俺がツテを頼ってやっと手に入れたものだ。飲ませさえすれば、確実に効くはずだ!」父に目を向け、冷笑を浮かべる。「そのツテって、楠本っていう人でしょ?あの毒は本物よ。ただ、お父さんに渡す前、その楠本って人に銃を突きつけて、中身をすり替えさせたの。だから私が飲んだのは毒なんかじゃない。ただのビタミン剤よ。病院の院長とは知り合いでね。だから協力してもらって、芝居を打ったの」私の言葉を聞いて、両親はよろめき、その場に崩れ落ちる。これ以上、彼らの茶番に付き合う気にもなれず、そばに控えるボディーガードに目で指図する。ボディーガードは彼らを外へ引きずり出していく。扉の近くまで引きずられたとき、峻矢が突然もがきながら顔を上げる。血走った目でこちらを見る。「美寧、お前は昔、こんなんじゃなかったはずだ。どうして、こんなふうになってしまったんだ?」その言葉を聞いて、私は小さく笑った。やがて笑い声はどんどん大きくなり、悲痛な響きを帯びていく。涙が頬を伝い落ちる。「全部あんたのせいよ」引きずられていく足音が、次第に遠ざかり、消えていく。怜司が近づいてきて初めて、自分の体が抑えきれずに小刻みに震えていることに気づく。彼は何も言わず、背後から腕を回し、私を強く抱きしめる。会議室には、私のしゃくり上げる声と、怜司の心臓の鼓動だけが響いている。長い沈黙のあと、怜司が口を開く。「美寧、まだあいつに情けをかけるつもりか?」顔を上げ、淡々と答える。「もう、情けなんてないわ」……あの日から、私は容赦なく峻矢を追い詰め始めた。かつて峻矢が死を偽装して姿を消したのは、血みどろの因縁を置き去りにし、美愛と平凡な暮らしを送るためだった。5年後、再び姿を現したのは、決して良心に目覚めて私に謝るためなどではない。手元のお金が底をつき、私が5年間必死に守り続けてきた穂高グループが欲しくなったから
Read more
第7話
「すまない、美寧。結局、すべては俺が悪かった。お前を愛していたのに、裏社会の血なまぐさい争いに巻き込んでしまった。それなのに、欲張って美愛にまで手を出して、厄介な後始末を全部お前に押しつけた。血を見るだけで気を失っていたお前を、人を殺すことすらためらわない人間に変えてしまった。ひどいことをしたと分かっている。頼む!もう一度だけ、チャンスをくれ」私は迷うことなく断る。「2度目なんてないわ。一緒にいた7年間、あんたを庇って3発の銃弾を受けて、致命傷を12か所も負った。そのせいで、子どもを産めない体になった。このまま死なせるなんて、あまりにも楽な最期だって思ってたのよ。だから今日は、とびきりの贈り物を用意したの」軽く手を叩くと、ボディーガードが車の後部座席から、一人の人間を引きずり出した。美愛だった。彼女は精神科病院の病衣を着ていて、髪はぼさぼさだ。頬には、「手厚く看病された」ときについた青あざが残っている。膨らんでいたお腹は、ぺちゃんこになっている。峻矢を見た瞬間、美愛は目を輝かせた。しかし、峻矢がもはや絶体絶命の窮地に立たされていることに気づくと、小刻みに震えながら私に命乞いしてくる。「お、お姉ちゃん……ごめんなさい……」私は小さく笑った。美愛のうなじをつかみ、自分の前へ引きずり出す。そして、震えが止まらない彼女の手に銃を押し込み、その手を握りながら、峻矢の眉間に銃口をぴたりと定める。「あんたが後悔してるって、分かってるわ。安心して。私は情に弱いんだから、最後に一度だけチャンスをあげる。引き金を引いて峻矢を殺せば、あんたを許してあげる。できなければ、あんたが代わりに死ぬのよ。分かった?」峻矢は目を見開いた。私がこんなことをするとは思いもしなかったのだろう。彼は私に向かって怒鳴る。「美寧、彼女を追い詰めるな!美愛、俺のために無茶するな!俺が必ず助ける。俺たちの子どもも守ってみせる!美愛は優しいから、俺を撃つなんてできないぞ。彼女を死に追いやるつもり……」パンッ!峻矢が言い終わる前に、美愛の撃った銃弾が彼の肩を貫いた。かつて結婚式で峻矢に撃たれたのと同じ場所だ。美愛は銃を握りしめたまま、呆然と立ち尽くしている。どうやら彼女は、狙いを外したことが信じられないようだ。
Read more
第8話
「美寧、俺が悪かった。俺を本当に愛してくれていたのは、お前だけだったんだ」峻矢はそう言いながら、体に巻きつけた爆弾を外し、無造作に海に投げ捨てる。そして、私に力なく笑いかける。「爆弾なんて、嘘だ。ただ、お前に会いたかっただけだ」彼は手をゆっくりと上げ、近づいてくる。「美寧、俺たちが一緒に過ごした7年間を忘れたのか?愛し合って、キスをして、結婚の約束までした。俺はもう、美愛の本性を見抜いた。俺たちの仲を引き裂く者はもういない。それでいいじゃないか?」峻矢が少しずつ距離を詰めてくる。私はそれに応えるように、口角をわずかにつり上げる。次の瞬間、腕を上げ、引き金を2回引いた。峻矢の両脚を撃ち抜いた。峻矢は信じられないという目で私を見つめる。まるで、この瞬間になってようやく、私がもう情けをかけないと悟ったかのようだ。膝から力が抜け、彼は血だまりの中にどさりと倒れ込む。「病院へ運んで。楽に死なせるわけにはいかないわ」……峻矢は、骨身にしみる激痛の中で目を覚ました。病室には窓がなく、冷たい光を放つ蛍光灯だけが天井に取り付けられている。彼が最初に感じたのは、両脚から伝わる耐え難い激痛だった。脚には分厚いギプスが巻かれ、わずかに動かすだけで全身から冷や汗が噴き出す。続いて、消毒液と肉の腐ったような不快な臭いが鼻をついた。視線を向かい側に移した瞬間、再び気絶しそうになる。向かいの椅子に、人の形をした何かが座っている。顔全体の皮膚が、おぞましくめくれ上がっている。鼻は凹んだ穴になり、唇はギザギザに裂けている。むき出しの腕には、赤黒色のケロイドが広がっている。まるで、何匹ものムカデが這い回っているかのようだ。相手は峻矢の視線に気づくと、ゆっくりと顔を上げ、かろうじて無事に残った片目で、峻矢をじっと見据える。「お久しぶりだな、峻矢」重度のやけどを負った健人だった。「俺はお前に尽くしてきたのに、なぜ俺を見捨てたんだ?生死を共にすると約束したじゃないか!なのに、俺があの事故で全身を焼かれて、命からがらICUに入っていたとき、お前と美愛は治療費も出し渋った。治療は打ち切られて、俺は病院から追い出されたんだ。野垂れ死にそうになりながら、3か月苦しんで何とか生き延びたが、おかげで今じゃ、
Read more
第9話
私が怜司と結婚する当日、美愛は精神科病院で自ら命を絶った。その知らせを聞いても、何も感じなかった。私の隣に立つ怜司が、髪に留めたベールを優しく直してくれる。「ボディーガードから報告があったんだが、物乞いにまで落ちぶれた君の両親が、まだ諦めていないらしい。毎日泣き叫んで、君に会いたいと言っているそうだ。そのうち本当に君の前に現れて、君を不快にさせるんじゃないかと心配でね。始末しておこうか?」私は首を横に振り、軽く笑い飛ばした。「その必要はないわ。昨日会ったばかりだし」私の車を追いかけて必死に走っていた、2人の無様な姿を思い出す。母は走っている途中で入れ歯が落ちてしまい、慌ててしゃがんで拾っていた。父は背中を丸め、今にも地面にくっつきそうなほど前かがみになっていた。2人は走りながら、泣き叫んでいた。「美寧、俺たちが悪かった!これから音羽家の娘はお前だけだ!必ず大事にするから!」「美寧、私たちは、あなたを愛しているのよ!」その姿は、滑稽としか言いようがない。「放っておいて、好きにさせればいいわ。どうせ私の評判なんて、もともと悪いんだから、あの2人が騒いだところで、大して変わらないわ」怜司はうなずき、少し声を潜めて尋ねる。「それで、穂高は?あいつもそろそろ限界だろ?」少し沈黙したあと、窓の外に目を向ける。「たぶん、もう死んでるわ。彼を穂高家に送り届けたんだけど、その数日後に火事が起きたらしいわ。彼も健人も、今ごろは黒焦げの遺体になっているはずよ」怜司は何も言わず、ただゆっくりと私を抱きしめる。彼の熱い涙が、私の手の甲に落ちるのを感じた。私は顔を上げて彼に尋ねる。「怜司、どうして泣いているの?」怜司が泣くのを見たのは、初めてだ。「君が、泣かないから。君が泣けないなら、俺が代わりに泣く。君が痛みを感じられないなら、俺が代わりに痛みを叫ぶ」私は顔を上げ、怜司の頬を伝う涙をそっと拭い、少し申し訳なさそうに言う。「ごめん。あなたが何を望んでいるのか、分かっているのに……でも私、もう人を愛することができなくなってしまったみたい」怜司は私の手を握り、うつむいて私の指先にそっと口づけをした。「構わない。俺だって、そんな立派な善人じゃないんだ。母はキャバ嬢だった。甲斐家
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status