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第2話

Author: ぽんたろう
しばらくして、悠真は未練たっぷりに橘咲良(たちばな さくら)を離し、こっちへ向かって歩いてきた。

私は慌てて家まで逃げ帰る。

家に着く前に、スマホが鳴る。

悠真からだった。

声には苛立ち気配が混じっていて、怒鳴るように言い放つ。

「ことは、ホテルで待ってろって言っただろ。お前、どこ行ったんだよ!」

喉の奥がひりついて、気付けば目尻に涙が溜まっていた。

本当は問い詰めるつもりだったのに、口から出たのは情けない声だけ。

「だって、なかなか戻ってこないから……家で待ってようかと……」

電話の向こうで、悠真がしばらく黙る。

次の瞬間には声色が優しくなって、私をなだめるみたいに。

「悪かったよ。道が混んでてさ、ちょっと遅れただけだ」

ソファに座って間もなく、悠真が帰ってきた。

まるでデートが誰かに邪魔されて、しぶしぶ帰宅したみたいなムスッとした顔。

無造作に薬を私の膝の上に放り投げる。

「薬、買ってきたから。自分で塗れよ」

私はぎゅっと薬を握りしめたまま、彼の背中を見つめる。

唇を噛みしめて、勇気を振り絞る。

「……顔の傷、あなたがやったんだから……塗ってくれない?」

その瞬間、悠真の目にハッキリとした嫌悪と軽蔑がよぎる。

彼は顔を背けて、冷たい声で鼻で笑った。

「それ、お前が自分で蒔いた種だろ」

「それに自分の手ぐらいあるだろ?大人なんだから、そのくらい自分でどうにかしろよ。他人に頼ってばっかで、まだ教えてもらいたいのか?」

次々に投げかけられる言葉に、恥ずかしさで胸が締め付けられた。

昔はこんなんじゃなかった。

前は、料理中にほんの少し指先を切っただけでも、悠真は大慌てで絆創膏を持ってきて、やたら大げさに貼ってくれた。

こっちは笑いながら「そんなに大騒ぎしなくても、すぐ治るのに」って言うと。

悠真は「そんなこと言うなよ」って、目を潤ませながら慌てて私の唇を押さえてくれたこともあったのに。

洗面台の前で、ひとり鏡に向かって薬を塗る。

そのとき、ふとリビングから電話の声が聞こえてきた。

かなり大きな声で話してるから、全部聞こえてしまう。

「明日、俺は病院でじいちゃんに会う。咲良も一緒に来ない?」

「……私が一緒でいいの?」

「いいに決まってんだろ。じいちゃんだってお前のこと知ってるし、そもそもお前が命を救ってくれなきゃ、今ごろどうなってたかわかんねぇ。じいちゃんは、お前を孫の嫁だと思ってるからな」

「やめてよ、そんなふうに言われたら恥ずかしいし、あなたにはもう婚約者がいるんだよ?私なんて一生そういう縁ないんだろうなぁ」

「そんなことねぇよ。俺の結婚相手は咲良だけだ」

その言葉を聞いた瞬間、手元の薬が洗面台に落ちて大きな音を立てた。

悠真はすぐに電話を切って、しかめっ面で洗面所にやってきた。

私が薬を塗っているのを見ると、眉をひそめて言う。

「ことは、明日俺と一緒にじいちゃんに会いに行かないか?」

本当は全部知っているはずなのに、胸がズタズタに傷ついて苦しい。

鏡に映る自分の顔は、殴られて腫れあがり、まるで誰かわからないくらい。

「こんな顔で行くのがふさわしいと思う?それに、本当に私を連れていく気があるの?」

これまでだって、何度も悠真のおじいさんに会いに行きたいって頼んできた。

そのたびに、彼は必ず理由をつけて断ってきた。

まるで、結婚式を先延ばしにされてきたのと同じ。

三年間も付き合ってきて、私は一度も彼の家族に会わせてもらったことがない。ただ、悠真にとって、自分を育ててきたおじいさんが最も親しい存在だということだけを知っていた。

それなのに、悠真は咲良を何度も家族に紹介していた。

鼻の奥がツンと痛んで、どうにか涙をこらえながら、もう一度尋ねる。

「……もし、私が行きたいって言ったら、本当に連れて行くの?」

悠真は答えず、黙ったまま。

そして、私の手から薬を取ると、優しく薬を塗ってくれる。

けど、口から出てくるのはまた、曖昧な約束だけ。

「大丈夫だよ、ことは。傷が治ったら、ちゃんとじいちゃんに紹介するから。ことはの素直で可愛いところ、きっとじいちゃんも好きになってくれる」

何も言わずにいると、心の奥底で大きな疑問が膨らんでいく。

こんな約束、これまで何度聞かされたことか。

ずっと「私のためだ」と思い込んで、じっと時が来るのを待ち続けていた。

今になってようやく気づいた。彼の描いていた未来は、架空のものにすぎない。

いろいろな口実をつけて、私を家族に会わせないのは、ただ私を本当の婚約者として認めてくれなかったんだ――
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