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第5話

Author: るる
心臓がどくりと跳ね、京介は思わず詩織を見た。その顔色は一瞬にして険しく曇った。

「なんだと、結婚するのか?」

「はい」

彼女はまっすぐ彼を見つめ、視線を避けることも隠すこともなく頷いた。

「京介お兄さんも、もしお時間があれば、式にいらしてください」

その言葉を聞き、彼の顔色がさっと沈んだ。詩織の手を掴んでその場を去ろうとしたが、美緒が不思議そうに彼を見た。

「お兄さん、何するの?」

京介は一瞬足を止めたが、それでも表情を変えずに言った。

「ちょうど出かけるところだ。詩織を家まで送っていく」

詩織は断る間もなく、彼に腕を引かれるまま車に乗せられた。

車に乗るやいなや、彼は彼女をシートの背もたれに押し付け、怒りに歪んだ顔で激しく言った。

「詩織、ネックレスのことでまだ怒ってるのは分かるが。

だからといって結婚なんて馬鹿げた冗談を言うのはやめろ!」

彼女はふっと笑った。正直に伝えたのに、彼が全く信じていないみたいだ。

自分がただ機嫌を損ねて拗ねているだけだと思っていることに呆れたのだ。

「冗談じゃありません。あなただって結婚するんでしょう?

私が結婚してはいけない理由なんてないじゃない」

「言っただろう、俺と清華の婚約は全部偽装なんだ……」

彼の言葉が終わる前に、詩織が遮った。

「偽装なのに、彼女をウェディングドレスの試着に連れて行くんですか?

偽装なのに、婚約者として公表するんですか?

偽装なのに、彼女が私を侮辱するのを黙って見ていたんですか?」

立て続けの問い詰めに、京介は言葉に詰まり、反論できなかった。

しばらくして、彼はようやく疲れたように眉間を押さえた。

「多くの人が俺の行動に注目している。芝居をするなら、完璧にやらないとな」

彼女は自嘲気味に笑った。

では、今の自分に対する彼のこの振る舞いも、完璧な芝居の一部なのだろうか?

だとしたら、彼も大変だった。以前、本命の人がいなかった時はともかく、今、その本命の人が帰国したというのに、まだ身代わりの自分を相手に芝居を続けなければならないとは。

「君が悔しい思いをしたのは分かってる。

もう少しの間だけ、辛抱してくれ。後で必ず、ちゃんと埋め合わせをするから。な?」

彼はもはや言い争いは無駄だと判断したのかもしれない。

あるいは、彼女のような若い子をまともに相手にする必要はないと思ったのか、態度を和らげ、優しい声で言い聞かせるように言った。

しかし彼女は、依然として真剣な表情のまま、もう一度はっきりと言った。

「私、本当に実家に戻って結婚するんです!」

だが彼の様子を見る限り、彼はやはり本気にしていなかった。

ただ、そばにあった、前もって用意してあったらしい箱を取り、彼女に手渡した。

「ほら、ネックレスはちゃんと専門家に頼んで修理してもらった。

だからもう、こんな冗談はやめろ」

車のエンジンがかかる轟音が、彼女が続けようとした言葉を飲み込んだ。

しばらく沈黙してから、彼女は元の位置に座り直し、それ以上説明するのをやめた。

もういい。彼が信じないなら、それで結構だ。

夜、実家の父親からまたメッセージが届いた。

ウェディングドレスと指輪を先に選んでおくように、とのことだった。

続いて送られてきたドレスや指輪の写真が次々と画面に表示され、詩織はそれぞれの美しさに目を奪われた。

彼女が画面を見つめて真剣に選んでいると、京介が風呂を終えて部屋に入ってきた。

彼女の様子を見て、何気なく声をかけた。

「そんなに真剣に何を見てるんだ?」

彼女は一瞬ためらったが、それでもありのままを答えることにした。

「ウェディングドレスと、指輪です」

彼女は嘘をついていなかった。しかし、目の前の男はまたしても突然怒り出し、眉をきつく寄せた。

「その話はもうしないと約束したじゃない?」

彼の顔に浮かぶむき出しの不機嫌さと苛立ちを見て、詩織はもはや説明しようとはしなかった。

彼女が本当に結婚するのか、彼もすぐに知ることになるだろう。

彼女はさっさとベッドに潜り込み、全てのことを頭から追い出した。

そして翌朝、起きると、実家の父親からまたメッセージで一連の数字が送られてきているのに気づいた。

「詩織、これはお相手の男性の番号だ。何か聞きたいことがあったら、彼に連絡してみるといい。

もうすぐ結婚するんだ、たくさん話しておいた方がいいだろう」

番号を連絡先にコピーし、名前を入力しようとした時、詩織はふと思い当たった。

そういえば、父は、相手の名前をずっと教えてくれていなかった……

そのためだけにわざわざ電話して名前を尋ねるのも、なんだか気が引けると感じた。

少し考えて、ある呼び名が頭に浮かび、彼女は素早く携帯にその文字を打ち込んだ。

名前が分からない以上、仮の登録名でもつけておけば、それでいいだろう。
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