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第5話

Author: 月見凪
写真には、箱から取り出された避妊具がぎっしりと並べられていた。

全身が強張り、私は拳をきつく握りしめた。

震える手で通話ボタンを押す。長い呼び出し音の末、ようやく繋がった。

「もしもし、里見ちゃん?」

晋哉の声はわずかに弾んでいる。私は声の震えを必死に押し殺し、口を開こうとした。

だがその瞬間、受話口の向こうから、艶めいた女の喘ぎ声がかすかに漏れ聞こえてきた。

「ねえ……続けてよ、苦しいの……」

耳元で囁くような微かな声だった。それでもスマートフォン越しに、重く、確かに私の心を貫いた。

晋哉が唾を飲み込む音がはっきりと響く。その声は暗く、焦燥に滲んでいた。

「里見ちゃん、こっちのプロジェクトがちょっと厄介なことになってね。今夜は帰れそうにないんだ。いい子だから先に寝てて。明日、君の大好きなメロンパンを買って帰るから」

私は目を閉じ、虚しさを噛み締めながら、ゆっくりと口を開いた。

「晋哉。六年前、あなたと花穂の初めてって……私たちの新居の、あのベッドの上だったの?」

二秒ほどの沈黙。

やがて返ってきた彼の声には、はっきりとした苛立ちが混じっていた。

「その話はもうしないって約束しただろう。六年だぞ?どうしていつまでも蒸し返すんだ。

僕はこれまで一歩ずつ譲歩して、無条件に君をなだめてきた。それでもまだ足りないのか?これ以上どうしろって言うんだ。心臓を取り出して見せれば満足か?

もう勘弁してくれ、疲れてるんだ」

私は小さく笑った。答えは、もう明白だった。

それならば――これ以上、執着する必要もない。

「そうね、あなたの言う通り。お互いに疲れたわ。離婚しましょう」

電話の向こうで、再び二秒の沈黙。

続いて、冷ややかな鼻を鳴らす音が響いた。

「好きにしろ」

耳元に残る、通話が切れたという無機質な静寂。

---

手術室の台に横たわり、冷たい器具が体内へと入り込んできたとき――

ふと、先ほど産婦人科の待合室で見かけた光景が脳裏をよぎる。

わずかに膨らんだ花穂の腹部を、壊れ物でも扱うかのように抱きしめる男。その瞳に宿る微笑みは、腕の中の女こそが自分の世界のすべてであるとでも言うようだった。

私は目を閉じ、かすかに微笑んだ。血管に麻酔が流れ込み、ようやく解放されていくのを感じていた。

一時間後、私は下腹部を押さえながら、ようやく産婦人科の入り口までたどり着いた。

顔を上げた瞬間、こちらへ真っ直ぐ歩いてくる晋哉の姿が目に入る。

「里見、僕を尾行してたのか?いつの間にそんな疑り深い女になったんだ?」

言い返す気力はなかった。下腹部の激しい痛みに耐えきれず、私は無意識にうつむき、身体を丸める。

晋哉はそれを、後ろめたさから目を合わせられないのだと勘違いしたらしい。

彼の目に怒りが宿り、詰め寄ると、私の腕を強引に掴んだ。

「顔を伏せれば分からないとでも思って――」

だが、死人のように蒼白な私の顔を見た瞬間、晋哉は言葉を失った。無意識に問いかける。

「どうしてそんなに顔色が悪いんだ?」

私は残る力を振り絞ってその手を払いのけ、痛みに耐えながら立ち去ろうとした。だが、再び晋哉に行く手を阻まれる。

「里見、僕への当てつけに、自分の体でふざけた真似をするのはやめろ」

もみ合う拍子に、抱えていた精算書が地面に散らばった。

晋哉の視線が一点に釘付けになり、長い沈黙ののち、震える声で口を開く。

「中絶手術……これ、どういう意味だ?」

私は振り返り、静かに彼を見つめ、そっと微笑んだ。

「意味?子どもはいなくなった。そして、私とあなたも――これで終わりっていう意味よ」

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