結婚記念日。食卓に並べた料理は、冷めては温め直されることを繰り返し、私・森咲里見(もりさき さとみ)は麻痺したような指先で、ふと目に飛び込んできた話題の投稿をタップした。【元カレともう一度復縁するのって、あり得るもの?】【自分を騙すのはやめなよ。男は演技が上手い生き物だし、どうせ女が心変わりするのを高を括ってるだけ。そんな手に引っかかる人がいるなんてね】そのトップコメントを見た瞬間、胸の奥がずしりと重く沈んだ。六年前、私は神田晋哉(かんだ しんや)と、あの女の不倫現場を押さえた。プライドの高い彼が、あの時初めて泣きながら土下座した。熱があったせいで、彼女を私と見間違えたのだと、苦しい言い訳を口にして。七年かけて築き上げた信頼という高い壁。その内側に突き立てられた棘を、私は無理やり飲み込んだ。それ以来、晋哉は女性関係を一切断ち、私を骨の髄まで甘やかした。私は自分に言い聞かせ続けてきた。ひびの入った関係でも、もしかしたらやり直せるのかもしれない、と。我に返り、たかがネットの投稿に共感を求めていた自分を、内心で冷笑する。だが、無意識のまま画面を最下部までスクロールしたとき、このスレの最新の返信が目に留まった。【不倫相手の奥さんも、あんたたちと同じように「不倫夫が反省する」なんておめでたい夢を見てるわ。彼女は知らないの。この六年間、私が一度も彼女の夫と離れていなかったことも、今、彼の子を身ごもっていることも】【今日は二人の結婚記念日。見てよ、彼に家に帰りたそうな様子なんて微塵もないでしょ】指先の震えが止まらない。添えられた写真には、女の膝に横顔を預けて眠る男の姿があった。顔ははっきりとは見えない。それでも、私には分かってしまう。それは、一晩中待ち続けていた私の夫――神田晋哉だった。投稿者が写真を晒したことで、このスレの注目度はさらに上がり続けていた。その厚顔無恥ぶりに呆れたネットユーザーたちから、罵倒のコメントが相次ぐ。【結局あんた、他人の家庭に割り込んだ泥棒猫ってわけ?恥を知りなよ】【本当。よくもまあ堂々と言えたもんだね。最近の不倫女ってここまで図太いの?みんな、拡散して!奥さんが地獄から抜け出せるように祈ってるわ】しかし、当の投稿者は気にする様子もなく、文面からは傲慢さが溢れ出ていた。
Read More