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23話

مؤلف: 東雲桃矢
last update تاريخ النشر: 2026-05-07 20:21:29

「くどいようだが、死人と生きてる人間は別物だ。失敗しても、笑うなよ?」

「分かってる。笑わないから」

 にこにこした顔で言われても、説得力に欠ける。疑いの目を向けても、サクはにこにこしたまま。

「イマイチ信用ならねぇな……。まぁいい。これっきりだからな」

 改めて道具を一通り見ると、化粧品も化粧道具も一通り揃っている。普通の化粧では、普通に使わない道具まであった。こんなに揃えられると、プレッシャーを感じてしまう。

「道具は一通り揃っているな……。おしろい、水でといてくる」

 トキは数種類あるおしろいからひとつ選ぶと、台所へ行く。その後ろで、サクは鼻歌を歌っていた。

(ったく、人の気も知らないで、いい気なモンだ)

 トキが普段化粧を施している相手は、死人だ。いくら死人に使われていない道具が揃っていても、生きた人間に化粧を施すのは気乗りしない。それはサクに言ったように、必要な技術の違いだけが理由ではない。自分が化粧を施したら、相手は死ぬんじゃないかと思ってしまうからだ。

 なんの根拠もない迷信じみた、馬鹿げた話ではあるが、職業柄、迷信もある程度信じているトキには、気が重い話だ。

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  • 冷たい唇に紅と熱   43話

    「最後に、化粧を施そうか。今度は絶対、綺麗にするからな」  トキは新品のおしろいを選び、水で解いていく。彼女には、真新しい化粧品を使ってほしかった。おしろいを解きながら思い出すのは、サクにせがまれて化粧をしてやった時のこと。あの時は、我ながら呆れ返るほどにひどい出来だった。「まずはおしろいだ」  はけでおしろいを丁寧にぬっていく。慣れた感覚がサクの死を実感させてきてつらいが、泣いてばかりでは、彼女を美しくしてやれない。 「前より出来てる……。今度は均一に塗れてるから、安心してくれ」 次に粉おしろいを生え際にはたきこむ。 「おしろいはこれくらいでいいか」  頬紅を塗り、目元も紅で彩っていくと、死人とは思えないほど血色が良く見える。 「最後に、紅を塗るからな」  婚礼のために買った紅を。指先につける。いつもは筆でやるが、そっとなぞるように塗った。 「あぁ、綺麗だ……。生きてるお前に施したかった……。あの後、自分の顔で練習してたんだよ。白無垢を着たお前に、化粧をしてやりたくて。サク、前に言ってただろ? 化粧をしてくれる恋人は素敵って。結構上達してきたんだ」 練習用に化粧品を買い、時間を見つけては練習していたのを思い返しながら、サクの髪を優しく撫でる。 「けど、もう叶わなくなっちまったな……。俺はなんとか上手くやってくから、心配しすぎて残ったりするなよ? お前が来る前は、ひとりで全部やってたんだ。だから、お前は安らかに眠れ」 サクが極楽浄土で安らかに過ごせることを祈りながら、彼女の冷たい唇に、自分の唇を重ねた。

  • 冷たい唇に紅と熱   42話

    「はぁ……。弱音ばかり吐いてちゃ、お前に笑われちまうな……。仕事、しなきゃ……。まずは着物、脱がせるぞ……」 着物を脱がせると、襦袢も赤く染まっていた。真っ白な襦袢に、付着した血液は、着物よりもはっきり見えて痛々しい。 「襦袢まで、こんな真っ赤になっちまって……」  襦袢を脱がし、再びサクの頬に触れる。先程は冷たいと思っていたが、まだ微かにあたたかい。 「微かに、あったかい……。少し前まで、お前は生きてたんだな……。今綺麗にしてやるから、待っててくれ」 壁にかけてあった水桶を手に取り、水を汲みに行く。ついでに棚にしまってある新品の手ぬぐいを1枚取って、桶に入れた。 死者も人間。他人が使った手ぬぐいを使われるのは嫌だろう。ひとりひとり新しい手ぬぐいを使うのが、トキのこだわりだ。 「はぁ、この水桶も手ぬぐいも、お前のために用意したモンじゃなかったんだがな……。血や土がついたままじゃ嫌だろ? 今、拭いてやるからな」  丁寧にサクの体を拭いていく。ひと拭きするたびにサクの体温を奪っているようで、胸が苦しい。サクの胸元には、トキがつけた所有印がまだある。トキは痕にそっと触れる。 「俺がつけた痕、まだ残ってる……。死んでもお前は俺のモンだし、俺もお前のモンだ。だから、安らかに眠ってくれ」 サクの手を取り、拭いていく。彼女の手は、生気がぬけたせいか、頼りなく、華奢に見える。 「か弱い手……。この手で美しい刺繍をしたり、美味い飯を作ったり、俺に愛を与えたりしてくれてたんだな……」  次に足を拭いていく。小柄なサクの足は、トキから見たら小さく愛らしい。 「俺よりも小さい足……。この足で、俺の家に毎日のように来てくれた……」  そして、愛しい顔を丁寧に拭いていく。ころころと表情を変えるサクの顔が、脳裏に浮かんでは消えていく。 「顔にも、土が……。百面相するお前の顔は、見てて飽きなかったし、お前の笑顔には何度も救われてきた。俺も、お前を救えてただろうか?」  腹の傷に触れると、指先にサクの血液がつく。こうして鮮やかな血液がつくのは、少し前まで彼女が生きていた証だ。食人をするつもりはないが、彼女の血液を

  • 冷たい唇に紅と熱   41話

     サクを見送った後、トキは座布団を枕にして寝ていた。ここ最近、過労と不安でほとんど眠れず、限界が近かった。「店は橋を渡ってすぐのところにあるんだ、問題ないだろ」 サク達がよく行く店は、トキの家から歩いて5分もしない場所にあった。それに辻斬りは激減している。眠気と感覚の狂いが、トキを安心して眠らせ、サクを見送らせた。 横になると睡魔は一気に訪れ、トキはあっという間に深く眠ってしまった。 乱暴に戸を叩く音と叫び声で目が覚める。性格な時間こそ分からないが、外はもう真っ暗だ。「んだよ、人が気持ちよく寝てるってのに」「トキ、はやく開けろ!」 聞き覚えのある声ではあるが、寝起きの頭では誰なのか思い出せない。目をこすりながら戸を開けると、魚売りの三吉がいた。 三吉は快活な若者で、トキの賭け仲間でもある。お調子者の三吉が、珍しく重々しい顔をしていた。その顔で、死人が出たと悟る。「トキ、死人が出た……」 三吉は外に出るように促すかのように、トキが出やすいように体をずらす。下駄を引っ掛けて外に出ると、荷車が置いてある。荷車には、ござで包まれた遺体が積んであった。膨らみなどからして、小柄な人物か子供だろう。「こんな時間に運び込まれるなんてな。辻斬りか? というか、こいつの身内は?」「それは……。俺からは言えん!」 三吉はつらそうに顔をしかめ、走り出してしまった。「あ、おい! 待てよ!」 トキが呼び止めても、彼は止まることも戻ることもなく、闇夜に紛れて消えてしまった。「荷車も置いて行っちまうとはな……。一緒に運んでほしかったが、仕方ない……」 少し闇に慣れた目で、改めてござを見る。15前後の子供か、小柄な女性と見た。「ござの膨らみからして、男ではなさそうだな……。よいせ、っと」 遺体を抱えると、ござ越しでも濡れているのが分かる。濡れ具合からして、堀から引き上げてすぐ、

  • 冷たい唇に紅と熱   40話

     2ヶ月も経つと、辻斬りが更に数人捕まり、事件も落ち着いてきた。とはいえ、まだひとりかふたりはいるらしく、時々事件が起きる。 それでも仕事量がぐっと減ったため、トキの情緒も安定してきた。 婚礼の準備は相変わらずほとんど進んでいない。やっとできた余裕を、気持ちの回復に使いたかった。 昼過ぎ、サクは作業場で裁縫道具を広げている。ここ最近仕事が立て込んでいたため、糸の消費も激しい。針も2,3本ほど折れてしまったし、今使っているものも使いづらくなってきたから、予備に何本か買いたいところだ。「改めて見ると、仕立て屋の裁縫道具は圧巻だな……。ところで、道具一式広げて、何してるんだ?」「確認してるの。少なくなってきた糸もいくつかあるし、針も使いづらくなってきたから、買い替えようと思って」「あぁ、最近仕事が多くて、手入れする時間もあんまりなかったよな」「糸とか買ってくる」「糸を買うなら、少しだけどこれを使え」 トキは懐から財布を出すと、いくらかお金を出してサクに握らせた。糸を2,3軸ほど買って少しお釣りが出る金額だった。「そんな、受け取れないよ」「うちで働いて消費してるんだ、俺が出すのが筋ってモンだろ。足りない分は帰ってから請求してくれ」 ここまで気遣ってるのに断るのは失礼だと思い、受け取ることにした。それにトキは頑固なところがあって、一度渡したものは決して受け取らない性格だった。「ありがとう」「ん。陽が落ちるのもはやくなってきたし、ほとんど捕まったとはいえ、まだ辻斬りもいるから気をつけろ。暗くなったら、誰かの家に泊めてもらえ。このご時世だ。誰も嫌な顔はしないだろうよ」「えぇ、そうする」「最近寝れてないから、俺は寝て待ってる。用心するんだぞ」 トキはあくびをしながら言う。情緒が安定してきたとはいえ、まだ眠れない日があるらしく、夜に彼が外に出ていくのを、サクは知っていた。「はい、行ってきます。ゆっくり休んで」 サクは座布団で枕を作るトキに声を掛けると、家を出た。「トキさんってば、心配性なんだ

  • 冷たい唇に紅と熱   39話

    「お疲れ様、トキさん」「あぁ、ありがとさん。サクも疲れただろう」 ちゃぶ台をはさみ、向かい合いながらお茶を飲む。最近サクは自宅に帰ることなく、トキの家に入り浸っている。残念ながら、入り浸っている理由は婚礼の準備ではない。 ふたりが旅行から帰ってきて1週間経つ頃、この町に辻斬りが横行し、死傷者が急増している。生存者達から犯人の特徴を聞くが、人物像はばらばら。どうやら辻斬りをしている者はひとりだけではないらしく、犯人を捕まえても、次の犠牲者が出てしまう。 現時点では3人捕まって事件の数は減ってきているが、それでもまだ、毎日のように死者が出る。 死者が多くてはトキの負担が心身共に大きいからと、父が泊まり込むように言ったのだ。 お言葉に甘え、トキを支えるためにしばらく彼の家に泊まっているが、想像を絶するほど凄惨な現場に、サクも参っていた。1番忙しい頃は、1日に10人以上の遺体が運ばれてきた。今も落ち着いてきたとはいえ、毎日3,4人は運ばれてくる。 トキもサクも疲労困憊で、夜伽どころではない。夜伽はトキにとって精神安定剤のようなものではあるが、夜になるとそんな気にならないほど参っていた。 肌を重ねられない代わりに抱き合って眠っているが、それでも限界は近いだろう。「トキさん……」 少しでも癒やしたくて、サクからトキに口づけをする。トキは一瞬目を丸くし、力なく笑った。「あぁ、すまないな。お前も疲れてるのに」「私は、刺繍をするだけだから」「何言ってるんだ。刺繍だって疲れるだろ。あれだけ集中してるんだから。気を遣わせてすまない」「謝らないで。お互いに気を遣って支え合う。夫婦ってそういうものでしょ?」「サク、お前は本当にいい女だよ」 トキはサクを優しく押し倒すと、触れるだけの口づけをし、彼女の胸に顔を埋める。「甘えさせてくれ」「えぇ、いくらでもどうぞ」 トキの髪を撫でながら、今日はもう誰も運ばれてこないことと、トキの心の傷が少しでも癒えることを祈った。「ねぇ、トキさ

  • 冷たい唇に紅と熱   38話

     最終日の朝、ふたりは朝食を終えると、村にある茶屋に向かった。澄み切った空気に包まれた村は、皆働き者で、もう畑仕事をしていた。「邪魔するよ」「おや、トキさんとお嬢さん。朝からどうしたんだい?」「私達、今日帰るので、挨拶をしに来ました」「なんだい、もう行っちまうのかい? まだいればいいのに」 サクがぺこりと頭を下げると、女将は残念そうな顔をし、トキは苦笑する。「そうしたいがね、俺もサクも多忙なんだよ。それに、あの宿は居心地がいいぶん、高い」「うちの人は安くするって言ってるのに、きっちり払うからだろう」「そんな気遣いされちゃ、他の客に申し訳ないんでね。それより、団子を包んでおくれ。ふたり分な」「はいよ。待ってな、ちょうど出来立てなんだ」 女将は団子を取りに、調理場へ行く。彼女はすぐに戻ってきて、包をひとつずつ手渡してくれた。「はい、お待ちどおさま。おまけしといたから、仲良くお食べ」「悪いねぇ」「ありがとうございます」 トキは団子の代金を払うと、懐に財布と団子をしまった。サクも大事に懐に団子をしまう。旅行を許可してくれた父への土産にするつもりだ。「それじゃ、またそのうち顔を出すよ」「今度は子供も一緒につれておいで」「馬鹿、気が早い」 子供という言葉に、サクの頬が熱くなる。もちろんいつかは欲しいが、そういった話はまだしたことがない。「気を付けて帰るんだよ」「女将さんも、体に気をつけなよ。すぐ無茶するんだから」「お世話になりました」 ふたりは村を出ると、町がある方へ歩く。途中、人力車を捕まえると、駄弁りながら帰路を辿る。「あの宿、どうだった?」「景色も料理もすごくよかった。でも、1番はトキさんのことを知れたことかな」「なんだよ、それ」「だってトキさん、過去を話したがらないから、聞いたらまずいと思って」「聞かれなかったから話さなかっただけだ」「じゃあ、話してって言えば話してくれる?」「気が向いたらな」「じゃあ、今度聞かせて」「あぁ、分かったよ。その代わり、お前のことも聞かせろよ?」「えぇ、もちろん」 ずっと触れられなかった彼の過去に触れられるのが嬉しい。自分のことを話すのは恥ずかしいが、それ以上に知ってもらえる喜びがある。 話すのに夢中になっていると、人力車が停まった。「あれ、ここって」 そこはサクの家で

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