Share

冷たい唇に紅と熱
冷たい唇に紅と熱
Author: 東雲桃矢

1話

Author: 東雲桃矢
last update Petsa ng paglalathala: 2026-04-29 15:25:01

 穏やかな昼下がり。城下町にはゆったりとした時間が流れる。それは死化粧師のトキも同じで、彼の自宅兼職場も、和やかな空気が漂っていた。

「暇ってのは、いいねぇ。何もしてない時間が、1番落ち着く……」

 ぽつりと呟き、あくびをひとつする。外から聞こえるのは鳥のさえずりと、風で揺れる木々の音。そして商人達の声。

「トキさん、良かったらどうぞ」

 恋人のサクが、ちゃぶ台に湯呑みをふたつ並べてくれる。彼女は仕立て屋のひとり娘だ。サクの母親が病死した際、トキが母親に死化粧を施した。

 遺された者が泣いていたら、死者はあの世にいけないという考えのトキは、サクに寄り添い、慰め続けた。何度も会っているうちに惹かれ合い、今に至る。

 サクは実家の仕立て屋がそう忙しくない日にトキの元に訪れ、家事や仕事を手伝ってくれる。といっても、サクに遺体を触らせることはないが。

 彼女は無地の白装束で旅立たせるのは忍びないというトキの考えを理解し、白装束に故人の好きなものを刺繍してくれる。

 修行中だからと、刺繍の代金を受け取ろうとしないところを除けば、サクは理想的な女性だ。

「お茶を淹れてくれたのか、ありがとう」

 猫舌のトキは、何度もお茶に息を吹きかけ、冷ましていく。ひと口飲むと、頬が緩む。

「ふぅ……。ほっとする味だ……」

 強く逞しい男が持て囃されているが、サクはそういった力強い男性よりも、トキのゆるやかな笑みと雰囲気が好きだ。死化粧師の彼がこうして和やかに過ごしているのは、平和の象徴のような気がする。何より、見ていて癒やされるのだ。

「平和ね。ずっとこうだったらいいのに」

 遺体が運ばれた日のトキは、遺族やその友人の前ではしっかりしているが、いつもつらそうにしている。だから、こんな日がずっと続いてほしい。そう思って、言葉にすると、トキは目を丸くする。

「バカ!平和とか暇とか口走るな。そういうこと言うとな……」

 勢いよく戸が開かれ、トキの言葉が遮られてしまう。そちらを見ると、中年男性が焦った様子で入ってくる。大工の男だ。口は聞いたことないが、仕事をしたり、仲間と呑みに行っているのを、何度か見かけたことがある。

「おい、トキはいるか?」

 いきなりのことに驚いて、気づくのに遅れたが、彼は何故か全身びしょ濡れだった。サクはちょうど近くにあった手ぬぐいを、大工に渡す。

「すまねぇな、嬢ちゃん」

 大工は手ぬぐいを受け取ると、乱雑に顔を拭い、手ぬぐいを首にかけた。

「仏さんは連れてきた。とにかく見てくれ」

 大工は返事も待たず、大きなくしゃみをしながら外に出ると、半被を脱いで絞った。

Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App

Pinakabagong kabanata

  • 冷たい唇に紅と熱   15話

     ふたりで蕎麦屋に向かう途中、トキの知り合いがふたりを見つけては、声をかけてくる、「おぉ、トキ。逢瀬か。はやく結婚しねーと逃げられるぞ」「余計なお世話だ」「相変わらず、美男美女でお似合いだ」「羨ましいだろ?」「また花札やりに来いよ」「あぁ、そのうちな」 トキは慣れた様子で言葉を返す。サクはこういったやり取りに、未だに慣れないでいる。元々恥ずかしがりだ。冷やかされてもどう返せばいいのか分からない。「ったく、賑やかな奴らだ」 やれやれと言わんばかりの態度だが、まんざらでもなさそうだ。軽口を返せるトキが、少し羨ましい。「それだけトキさんが、皆に信頼されてるってことじゃないの」「それは嬉しいけど、お前といる時くらい、放っておいてほしいものだ」 肩をすくめ、ため息をつくトキに笑みがこぼれる。「その意見には賛成かも。ちょっと恥ずかしいし」「あぁ、だろうな。変なこと言う奴がいたらすぐに言えよ? 俺が殴っといてやる」 トキは拳骨を作ってみせると、1発殴るような動作をする。「喧嘩はだめよ」「なに言ってんだ。火事と喧嘩は江戸の華ってよく言うだろ」「ほどほどにね。ところで、どこの蕎麦屋さんに行くの?」「もうすぐ着くさ」 辺りを見回してみるが、この辺に蕎麦屋があるなんて聞いたことがない。ほとんどが民家で、茶屋と和菓子屋があるだけだったと記憶している。「ここだ」 トキが立ち止まったのは、茶屋の前。一応まわりを確認するが、やはり蕎麦屋はない。「あの、ここ茶屋みたいだけど……」「最近蕎麦も始めたって聞いてたんだ。団子よりも美味いって評判だぜ。お前と食べてみたいって思ってたんだ」 わくわくしながら茶屋に入るトキに続くと、店内は夕刻と思えないほど賑わっている。しかもほとんどの人が、蕎麦を食べていた。「空いてる席があったら、そこに座ってくれ」 忙しそうな店主はふたりに気づくとそれだけ言って、客に蕎麦と団子を運んでいる。「そこ、空いてるね。座ろうか」「えぇ」 トキが見つけたのは、出入り口に1番近い席。きっと落ち着けないから空いていたのだろう。席に座ってから、蕎麦と団子を注文する。しばらくすると店主の娘が、蕎麦と団子を持ってきてくれた。「わぁ、美味しそう」 机に置かれた途端、出汁がふわっと香る。時間が時間なのであまり気がすすまなかったが、出

  • 冷たい唇に紅と熱   14話

    「はぁ!?」 予想の斜め上のお願いに、素っ頓狂な声が出る。こればかりは叶えるのが難しい。「ダメ?」 こてんと小首を傾ける仕草が愛らしい。いつもならすかさず了承しているところだが、こればかりは譲れない。「あのな……、俺が化粧を施すのは死人だけだ。そもそも道具だってない」 「いつものは?」 サクの問いに、目眩がする。彼女の倫理観が心配になる。彼女は死人と同じ化粧道具を使われることに、抵抗がないのだろうか? 普通の人なら嫌がるだろう。 「いつも使ってるやつは死人に使ってるんだぞ? それに、死人に化粧するのと、生きてる人間に化粧をするのはわけがちがう」 「どう違うの?」 今度は頭痛までしてきた。トキは死化粧師になったばかりの頃、人との関わりを極力絶っていた。今でこそよく声をかけたり遊んだりする相手はいるが、トキから誘うこともなければ、外出もほとんどしない。そのせいか、未だに人に何かを説明するというのが苦手だ。 「難しいことを聞くなよ……。そうだな……。同じ絵を描くでも、机に半紙を置いて絵を描くのと、誰かに半紙を持ってもらって描くのとじゃ違うだろ? これで伝わるか?」 「伝わるけど、そういうものなの?」 楽しそうなサクを見て察した。(こいつ、確信犯だな) いつも大人しく愛想が良い反動なのか、サクは時折トキを困らせて遊ぶことがある。今回もそうなのだろう。それにしたって、悪趣味がすぎる。 「お前、絶対理解した上で質問してるだろ……。冷たくてかたい遺体と、あったかくて柔らかい人間は別物だ。そもそも、死人に使ってる道具を、生きてる人間に使うわけないだろ。縁起悪いし、病気になるかもしれないからな。俺に化粧してもらうのは諦めろ」 「じゃあ、道具があればいいの?」 「……考えとく」 言葉を濁すと、サクはにっこり微笑む。この笑い方をするサクは、是が非でも自分の意見を押し通す。(はっきり断ればよかったか?) 後悔先に立たず。今更きっぱり断ったところで、サクは諦めないだろう。 「今度持ってくるね」 「考えとくってだけで、やるとは言ってないからな?」 「はいはい。それじゃ、お化粧は今度にして、出かける?」 念を押すが、暖簾に腕押し。サクが絶対に化粧してもらう気でいるのは、目を見て分かる。だが、久しぶりの再会で喧嘩などしたくなかった。それに、サクの

  • 冷たい唇に紅と熱   13話

     ある日の夕刻前、トキはひとりで茶を飲んでいる。今日は誰も運ばれることがなく、静々と時が流れる。いつもなら誰かが運ばれるか、サクが来てくれてるかで、ひとりでいることなどほとんどないのだが、今日はサクは来ない。繁忙期でしばらくは顔を出せないと聞いている。 話を聞いた時は、少し寂しいが、たまには悪くないと思っていたが、何日も会えないと、やはり寂しい。サクとは、もう5日ほど会えていない。 「たまにはひとりってのもいいって思ったけど、やっぱり寂しいもんだな」 どんよりした空気を入れ替えようと障子窓を開けると、雲ひとつない晴天が広がり、商人も子供も大人も楽しそうに笑っていた。 「は、暗い顔してるのは俺だけってか」 惨めな気持ちになってふて寝しようと座布団を折り曲げていると、誰かが戸を叩く。こんな中途半端な時間に客人などおかしい。最悪のことを想像しながら身構える。「どちらさん?」 「トキさん。私、サクよ」 今1番会いたかった人の声に、気持ちが高ぶる。「サク、今開けるよ」 戸までの、短い距離でさえもどかしい。ずっと座ってしびれた足をもつれさせながら、戸を開ける。愛しい人の顔を見て気持ちが押さえきれなくなり、彼女を抱きしめる。「わっ!? トキさん?」 「サク! 今日は仕立て屋の仕事が忙しいんじゃなかったのか?」 「予定よりはやく終わったの。あとは小さな仕事しかないから、行ってやりなさいって、父さんが」  事情を知り、トキはサクの父親に感謝した。彼女の父親は厳格で、几帳面で、客以外の相手には仏頂面で、何を考えているのか分からなくて苦手だ。サクとの仲を認めてくれてはいるものの、まだ結婚していないからと、名前を教えてくれない。「お義父さん」と呼ぶと怒るので、「サクのお父さん」、「仕立て屋の旦那」など、長ったらしい呼び方しかできない。 どちらかというと江戸っ子気質のトキとは、合いそうにない。サクとの結婚の障害のひとつと考えている。未だに結婚していないのは、彼女の父親がもっと貯金をしてからと言うからだ。「そうか、おつかれさん。はやく終わったってことは、また腕を上げたのか?」 「自分で言うのは照れくさいけど、そうみたい。父さんに褒められたの。まだ荒削りだけど、継がせるには申し分ない実力だって」 サクは頬を染めながら報告してくれる。「よ、おふたりさん! 見せ

  • 冷たい唇に紅と熱   12話

     ある曇りの日、近くの神社で祭りが行われる。曇天だというのに、祭り会場は雲を跳ね返しそうなほど賑やかだ。「やっぱり祭りはいいね。騒がしくて、いるだけで楽しい」 会場を見回し、トキは子供のようにはしゃぐ。(トキさん、可愛い) サクはあたたかい気持ちで、きょろきょろ見回すトキの横顔を見る。 以前、彼が祭りや人混みが好きだと言っていたのを思い出す。死や孤独を何よりも嫌うトキらしい。 サクは人混みが苦手だが、祭りの雰囲気は好きだ。お囃子や掛け声を聞いていると、こちらまで明るい気分になれる。「お、団子売りだ!」「ちょっとトキさん!」 練り歩く団子売りを見つけると、トキは目を輝かせて走り出してしまう。「もう、困った人」 そう言いながらも、サクの口角は上がっていた。想像以上の人の多さに戸惑いはしたが、楽しそうなトキを見れたのだから、来たかいがあったというものだ。 はぐれないように小走りでトキに近寄ると、彼は団子を手に、嬉しそうに振り返った。「サク、一緒に食べよう」「はい」 邪魔にならないよう、隅に移動し、人々を眺めながら団子を頬張る。「んー、賑やかな外で食う団子は格別だ」「ふふ、そうね」 人々は焼き鳥、そば、天ぷらなどを楽しんでいる。特に天ぷらは目の前で揚げてもらえるからか、大盛況だ。「片っ端から食ってくか」「え? わ、ちょっと!」 団子を食べ終えると、トキはサクの手を引き、屋台や商人の元へ行く。焼き鳥とそばを食べ終え、天ぷらの屋台に並んでいると、トキが難しい顔をして空を見上げ、鼻をひくつかせる。「トキさん? どうしたの?」「雨の匂いがする。場所、変えようか」「雨の匂い?」 サクの鼻をひくつかせて匂いを嗅いでみるが、美味しそうな匂いがするだけで、雨の匂いなど分からない。もっとも、雨の匂いを感じたことがないのだが。「行こう」 トキに腕を引かれ、祭り会場を離れる。「天ぷらはいいの?」「天ぷらはいつでも食える。お前に風邪をひかれたくない」 正直言うと、サクはもうお腹いっぱいだった。それに、人酔いしかけていた。連れ出してもらえるのはありがたいが、トキは目的地を教えてくれない。「よし、着いた」 トキが立ち止まったのは、出合茶屋の前。「トキさん、ここって……」「2階から祭りを見物しよう」 トキは困惑するサクの手を引き、店

  • 冷たい唇に紅と熱   11話

    「そうだ、そうやって俺のことを見ててくれ。俺も、お前のこと見てるから」 愛と熱がこもった視線が絡み合う。こうして見つめ合えば、体の繋がりよりも心の繋がりを感じるのだから不思議だ。「もっと、お前の熱を感じたい……。舌、出して」 言われるままに舌を伸ばすと、トキの舌がすくいあげるように絡みつく。舌を吸われ、締め付けてしまう。「ふぁ、んんぅっ♡」「んっ、締まる……! 口づけ、好きか?」「はぁ、んんっ♡ 好き」「俺もだ。もう1回しようか」 今度は互いに舌を絡め合う。舌が擦れ合う度に締めてしまい、絶頂が一気に近づく。「もっとしたいけど、これ以上したら先に果てちまいそうだ……」「あ、あぁっ♡ 私も……」「さっきより艷やかな声になってきたな」「もう、私、果てそう」「俺も、もう果てそうだ……」 トキはサクの腰を掴むと、激しく突き上げる。突如押し寄せる快楽の荒波に飲まれぬよう、サクは必死にトキにしがみつく。「ひゃうぅ♡ んあ、ああっ♡ 激し、いぃ♡」「いっ――!?」 トキは悲鳴を上げ、サクの腰から手を離してしまう。ぬるりとした生暖かい感触で、彼の背中を引っ掻いてしまったことに気づく。「ご、ごめんなさい! 手当を……」 薬を取りに行こうとすると、腕に力を込められ、動けなくなる。驚いてトキに顔を向けると、彼は微笑を浮かべていた。「トキさん……?」「いい。気にするな。爪を立てちまうほど感じてるんだろ? 男冥利に尽きる。それに、この痛みは生者の特権だ」 触れるだけの口づけをされる。不意打ちの口づけが嬉しくて、体が反応して締めてしまう。それはトキだけでなく、サク自身のことさえも絶頂へと追いやる刺激となってしまった。 トキは再びサクの腰を掴み、激しく突き上げる。突然のことに、一瞬、息を忘れる。「は、ああっ♡ ト、トキさ、んああっ♡ は、激しいのぉ♡」「仕方ないだろ? お前が、煽るように締めるから……」「そんな、ああぁっ♡ 煽ってなんか……。あ、あ、あ、あああっ♡」「はぁ、もう……、限界だ……!」「わ、私も、ひううぅっ♡」 どくどくと脈打ち、熱いものが蜜壺に出される。サクはうっとりと熱を受け止める。「はぁ、あぁ……♡ あつ、い……」 寝室には、ふたりの息遣いだけが聞こえる。目が合うと、どちらからともなく触れるだけの口づけをする。「は

  • 冷たい唇に紅と熱   10話

    「そうか。なぁ、今度は俺を満足させてくれよ。俺の上に乗って、動いてくれるか?」「うん、いいよ……」「ありがとう、好きだ」 今度は頬に口づけを落とされる。 積極的になるのは恥ずかしいが、今はトキのわがままを叶えてあげたい。遺体があがった日にトキが意地悪になるのは、サクの反応を見て、生を実感したがるから。だから、どんなに恥ずかしくても、すべて叶えてあげたくなる。 演技なんかではなく、本物の反応を見てほしいと思ってしまう。その想いには愛と敬意が込められていた。「さ、おいで」 トキはサクの上から退くと、あぐらをかいて歓迎するように両手を伸ばす。サクはトキの上に跨ると、彼の陰茎に片手を添え、蜜壺にあてがう。小さく息を吸って覚悟を決めると、ゆっくり腰を落として挿入していく。「はぁ、んんっ♡ あぁ……♡」 自分の穴が、トキの熱くて硬い陰茎に押し広げられていく感覚に、背筋が震える。陰茎が自分の中に入ってくるのを感じながら、自分の体がどれほどこの瞬間を待ちわびていたのか自覚する。「きゃふっ♡」 途中、体の力が抜けてしまい、一気に奥まで押し込まれる。亀頭が子宮口をぐいっと押し上げるのが分かってしまう。「よしよし、奥まで入れられたな。しがみついた方が楽なら、そうしてくれていい。というか、そうしてほしい」「ん、こう?」 トキの背中に腕をまわしてしがみつくと、肌が密着する。見上げると、すぐそこにトキの顔があった。「ありがとな。こうやって肌を密着させると、落ち着くんだよ」 少しでも安心してほしくて頭を撫でると、トキは気持ちよさそうに目を細める。「はは、お前は本当に優しいな。けど、もう我慢できない。動けるか?」「自信ないけど、やってみる……」 トキにしがみついたまま、腰を振る。不慣れなせいか、あまり気持ちよくなれない。「んぅ、ふ、はぁ……。難しい、かも……」「気持ちよくなれるところ、分かってるだろ? そこに擦り付けるように動いてごらん」「あふ、ん、ああっ♡」 言われた通り、感じる場所を意識しながら腰をくねらせると、先程とは比べ物にならない快感が押し寄せてくる。 ただ上下に動くよりも、円を描くように動いたほうが気持ちいい。自分で動くことが興奮材料となり、締め付けて感じてしまう。「いいな、これ。お前の顔が近いし、こうやってお前を抱きしめられる……」

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status