เข้าสู่ระบบこの感じだと、秦はまだ終わらせるわけにはいかない。今ここで潰れたら、宮沢家での自分の足場が消える。将来の駒を誰が用意してくれるっていうの。一方そのころ。竜也は病院の自室で荷物をまとめていた。しばらく盛京を離れるつもりで、準備はほぼ終わっていた。その時、机の上の携帯が鳴る。画面の名を見て、竜也はぱっと顔を明るくした。すぐに出る。「桜子様」「竜也先生、まだ盛京にいますか?」「います。まだ空港には向かっていません。ご用件を......」桜子は一拍置き、低く告げた。「今夜は行かないでください。便は私が取り直します」「何かあったんですね?」竜也の目に心配が宿る。「もし指示があるなら、私は残ります」本音を言えば、彼も去りたくなかった。厄介ごとは怖くない。ただ、彼女の力になれないことが怖い。「もうすぐ白露が、あなたの病院に着きます。突然あなたを訪ねるのは、秦の件に決まってます」今、桜子は盛京の別荘で、隼人の衣服を整えていた。仕草は小さな良妻。けれど、口から出る声は鋭い。「秦は光景に禁足されました。許可なしでは潮見の邸から出られないんです。この数日、注射は打てないはずです。いまごろ、相当きついでしょうね」竜也は日付を頭の中で弾く。「確かにそうです。予定では一昨日に来るはずでした。すでに二日遅れました。禁断症状、出ているでしょう」「だから白露は薬を取りに来ました」桜子は小さく鼻歌を口ずさみ、隼人のバスローブをクローゼットへ滑らせる。「来たら――渡してください。全部、秦に、好きなだけ打たせて」「なぜです?」竜也は首を傾げる。「苦しめるなら、断てばいいんです。毎日痛みの中で転がせばいいんです。なのに、なぜ渡すのですか?」「私は大仏じゃないんですよ。禁断から助けてやる義理はないんです」桜子は柔らかな布を指でなで、目尻に淡い光を落とす。唇だけが冷たく笑った。「堕ちたいなら、最後まで付き合ってあげます。それに――ああいう物は、使えば使うほど『効く』のでしょう?」竜也は、はっと息を呑む。そうだ。ここで断てば、結果的に更生を手伝うことになる。異変に気づいた宮沢家が厳重に囲い、秘密裏に国外へ送るかもしれない。そうなれば、今まで敷いた布石は無に帰す
深夜。白露は弁当箱を提げ、扉をとんとんと叩いた。「一日中、何も食べてない。そんなの、体がもたないよ。お母さんの好きなもの、入れてきた。開けて。ねえ、お母さん」......返事がない。部屋の中は、しんと静まり返っている。白露は不安になり、ドアノブを回した。鍵は――かかっていなかった。胸の奥で、怒りがはじける。宮沢家の使用人たち。風向き次第で態度を変える、あの計算高い目つき。光景が秦と離婚するって噂は、もう屋敷中に広まっている。権勢が落ちた母を、露骨にぞんざいに扱い始めたのだ。「食事をお持ちしましたが、お開けにならないので――」嘘。鍵なんて最初からかかってない。どうせ、食事を持ってきて放っていったんだ。白露はそろりと中へ。闇が濃い。冷気が肌を刺す。思わず身をすくめた。その時――寝室の方から、うめき声が聞こえた。胸がざわつく。白露は走った。扉を開けた瞬間、手の弁当箱が床に落ちる。声が喉で詰まった。秦が、火であぶられた芋虫みたいにもがいていた。髪は乱れ、顔は闇の中で真っ白。骨だけになったみたいに、ぞっとする白さ。「つらい......つらいの......つらくて、死にそう!」秦は歯を鳴らし、全身を震わせる。白露の背筋が凍り、背中が扉に貼りつく。「お母さん......ど、どうしたの?」実の母なのに。今は、幽霊に遭ったみたいに怖い。「白露......お母さん、もうだめ......死んじゃう......」秦はベッドから転げ落ち、犬みたいに這って白露の足元へ。スカートの裾を必死に掴む。「もう誰も助けてくれない......あなたしか、いないの......助けて」「ど、どうやって?」白露の声が震える。「黒滝医師のところへ行って。薬を持ってきて。自分で、注射するから」薬の名が出た瞬間、濁った瞳にぎらりと光が戻る。充血した目が大きく見開かれた。「その薬さえあれば......全部、良くなる。なかったら......生き地獄よ。生きてるほうが、つらい」「お母さん!それ、ほとんど中毒者だよ!もう打っちゃだめ!章って医者、お母さんを壊してるだけ!」白露は泣きそうに叫ぶ。どれだけ鈍くても、母の言う『薬』が何かくらい、わかっている。この姿を誰かに見られたら――
「光景にできると思うか?無理だ。あの人は骨の髄まで自分本位。母を愛したことなんて一度もない。愛してるのは自分だけ。......俺だって桜子の許しに値しない。あいつなら、なおさらだ」優希は小さくため息をつく。胸の奥が重い。その時、携帯が鳴った。重たい空気が少しだけ切れる。「状況は?」優希がスピーカーにして急いで尋ねる。「優希様、ちょっと厄介です!」高原の尾行を任せている部下の声は、焦りで荒れていた。「宮沢社長の読みどおりでした。高原にはT国で手引きする現地組織がいます!あいつらは悪名高い武装勢力で、T国の役人や財界ともツルんでます。麻薬、武器の密輸、殺人、強盗......やらない悪事がない。長年で根が張りすぎて、政府も王室も手を出せない状態です!」隼人と優希は目を合わせた。顔が同時に険しくなる。厄介だとは思っていた。だが、ここまでとは。「今、あの畜生はどこに潜ってる?まさか見失ってねぇだろうな!」優希が歯ぎしりする。「南島の近海まで追いました。高原がクルーザーに乗り込むのを確認。こちらは二隊で挟み撃ちにして、交戦に。......ですが、すぐに南島から増援が出てきました。全員が場慣れした動きで、射撃が正確。重火器も所持。こちらは大きな被害が出ました。二人は重傷のまま......助けられませんでした」優希の目が大きく見開く。拳が白くなるほど握り締められる。長年育ててきた手練だ。部下である前に、人だ。命が落ちた――平然でいられるわけがない。「高原は、南島に上がったんだな?」隼人の声は低く、冷たい。刃のように。「確実です。いったん戻った後、夜に再接近しました。双眼鏡で確認しました。高原の船は南島の岸に係留です。周囲は人の住める島はありません。やつはそこにいます」「......わかった。ここまでよくやってくれた」隼人の声音は柔らかい。どこか申し訳なさも滲む。「戻ったら、優希の名で礼をする。ここからは俺が行く」「な、何をおっしゃるんです!あいつらは人を殺すのが日常です!俺たちだって修羅場をくぐってきましたが、歯が立たないんです。あなたが行くなんて――」「普通のヤクザじゃない。傭兵上がりが多い。高原と同じ穴のむじなだ。......お前たちでは分が悪い」「隼人、お前も無茶はする
優希は口をぽかんと開けたまま、しばらく閉じられなかった。「おい隼人。お前さ、自覚ある?ちょっとマゾ気質っていうか、完全に『尻に敷かれる夫』の素質あるぞ。このままだと、そのうちカード全部、桜子に預けることになる。外で遊ぶ時は、毎回俺が払う流れか?」「......今までも、払ってたのはお前じゃなかったか?」隼人は平然と返す。「......」事実、反論できない。隼人は極端にインドアだ。仕事、筋トレ、ボクシング。娯楽はほぼゼロ。子どもの頃からだいたい、優希がドライバーとボディガードを引き連れて宮沢家まで迎えに行き、無理やり外へ連れ出してきた。自分から遊びに行こうと言うことは、ほとんどなかった。だが、それでいい。優希は苦じゃない。父を早くに亡くしたが、家族の愛情は十分にもらってきた。対して隼人は――何でも持っているようで、何も持っていない顔をする。だからせめて、短い時間でも楽しくさせたい。陰の中に閉じ込めたくない。「優希。俺、桜子に管理されるの、わりと好きなんだ」隼人は目を細める。薄い唇に、柔らかな笑みが乗る。「つまり、桜子は俺を気にしてくれてる。心に俺がいる。いっそ手錠で二十四時間つないでくれてもいい。毎日くっついていられるから。桜子のためなら、自由を差し出してもいい」「待て待て。やめろ。言い方が完全にやべぇ。鳥肌立つわ」優希は腕をさすり、ぶるぶる震える。「お前は縛られるのが嫌いだろ。天性の反骨。だからわからないんだ」隼人はふっと笑い、からかうように続ける。「お前が初露を選んだのは正解だ。あの子は優しくて、気が弱い。お前を縛れないし、縛ろうともしない。他の女だったら、とっくにお前を持て余してる」「チッ......でもさ、俺のこと好きになる女は雑草並みに生えるんだわ。一年で十回は刈れる」優希がむくれる。「――誇らしいのか?」隼人の黒い瞳が、冷たく横目で射る。優希は息を呑み、即座に伏せ目。「いえ......誇らしくないです。お兄様、すみません」「忠告しとく。初露に不誠実なことをしたら、一ミリでも傷つけたら――俺も、桜子も、容赦しない」優希はすぐに三本指を立てる。「誓う。俺は一生、初露を大事にする。女は彼女だけ。愛するのも彼女だけ。破ったら、落雷で死
「......わかりました。すぐに」中野が部屋を出る。扉が静かに閉まった瞬間、光景はようやく弱さを見せた。背もたれにぐったり身を預ける。力が抜ける。罪悪感と痛みが、嵐みたいに押し寄せてきた。胸が焼ける。頭の中がぐしゃぐしゃだ。声が重なり、絡まり、ほどけない。――「いつからだろう。あなた無しではいられなくなったのは」――「彼女は朝、目を開けるたびに『どうやって死のう』と考えてた。でも隼人の顔が浮かぶと、幼い息子を置いてはいけないって泣くの」――「......たとえ母さんが、昔お前を愛してたとしても......あの日、潮見の邸のバルコニーから身を投げた瞬間、母さんはもうお前を愛してなかった」光景ははっと目を見開く。心臓が暴れる。呼吸が追いつかない。ちょうどその時、中野が湯気の立つコップを持って戻ってきた。「中野、二十年前の......和情のこと、どれくらい覚えている?」中野は一瞬きょとんとし、それから柔らかく笑う。「私は記憶力だけは自信があります。会長も、その一点を買って秘書にしたんでしょう?何でも聞いてください」「当時、和情はうつ病になった。お前に病院へ連れていかせ、長い間つき添わせた。あの頃の状態は......どれほど悪かった?本当に『重症』だったのか」光景の目に陰が落ちる。苦さが滲む。「医師の診断は『重度のうつ傾向』でした。ですが、隼人様の支えと治療で、後半は少しずつ回復していました」中野は事実だけを淡々と告げる。「俺を愛していて。息子と離れたくなくて。静かに宮沢家から去ろうとしていた女が......なぜ突然、死を選んだ?」光景は額に手を当て、低く呟いた。和情の自殺は、宮沢家の誰にとっても青天の霹靂だった。うつ病の人が、ある日ふっと命を絶つことは珍しくない。だが、彼女は回復の兆しがあった。以前より表情が明るく、生活にも張りが出ていた。そばには毎日、息子がいた。それなのに、どうして。中野は唇を固く結び、長い沈黙のあとで口を開く。「......会長。ひと言だけ、いいですか。二十年、胸にしまってきました。今日こそ、聞かせてください」光景が顔を上げる。視線がぶつかる。耳の奥がわんわん鳴った。「和情さんの死をめぐって――あの時、会長は一瞬た
「それに......初露のこともあるだろう。初露の状態は、お前も知ってるはずだ。離婚すれば、秦は国外に送る。できるだけ遠くへ。けど、母親と引き離されたら、初露の心が耐えられない。病気が悪化するかもしれん」光景の声は静かだったが、どこか押し殺したように震えていた。中野は黙って頷く。彼もまた、その苦悩を痛いほど理解していた。「......それで、隼人の行方は?調べはついたか?」光景が問うと、中野はわずかに肩を落とした。「申し訳ありません。会長もご存じの通り、隼人様は手強いです。本人が隠れようと決めたら、誰にも見つけられません」「......そうか」光景は短く息を吐くと、黙って携帯を取り出した。指先が一瞬ためらい、それでも通話ボタンを押す。呼び出し音が何度も鳴り、ようやく隼人が出た。「......こんな時間に、何の用だ」「隼人、俺は――」「もしプロジェクト会議に出ろって話なら、無駄だ。行かない」冷たく突き放すような声。そこには、父子の情など微塵も感じられなかった。光景は唇を噛み、静かに尋ねる。「明日、時間はあるか?一緒に出かけたい」「......どこへ?」「お前の母さんに、会いに行こう」その言葉に、電話の向こうで長い沈黙が落ちた。電話越しに、空気が凍りつくのがわかる。隼人の吐息が低く響き、次の瞬間、怒りを押し殺した声が返ってきた。「......冗談か?自分の言ってること、わかってる?」「冗談じゃない。俺は本気だ、隼人」光景は深く息を吸い込む。宮沢グループを率いる男――その威厳の裏で、初めて人間らしい脆さが滲んでいた。「......わかってる。俺は、これまで本当にろくな父親じゃなかった。お前の母さんが亡くなってからも、夫としての責任を果たせなかった。墓参りにも行かず、彼女と向き合うことも避けてきた。俺は、本当に、最低だ」「最低?」隼人の笑いは冷たく、鋭かった。「たった最低の一言で済むと思ってるのか?二十三年間、母さんを苦しめ続けたことを、その一言で帳消しにするつもりか?『尊敬される宮沢社長』――その肩書きで、許されるとでも?」「......俺は、彼女の夫だ。彼女が、俺を愛していたのは事実だ!」光景の頬が熱く染まり、羞恥と怒り