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第779話

Author: 木真知子
本田家はどういう家か。

国内十大家系のひとつで、アジア各地に事業を展開している巨大財閥。

高城家ほどの権勢はないにしても、中立を保っていた本田家が。

もし仇敵である白石家と手を組むようなことがあれば......宮沢家にとっては、かなりの痛手になる。

「おじい様、ほんと我慢できないんですね。

ちょっと目を離したすきに、また宮沢家にちょっかい出しに来たんですか?」

重く冷たい、革靴の音がホールに響いた。

その場の空気が一変する。

優希が、整った端正な顔で現れ、ゆっくりとホールに入ってくる。

邪気を帯びたその笑みが、どこか挑発的だった。

秦の目が一瞬で輝いた。

まるでダイヤの鉱脈でも見つけたような勢いだった。

そう、この男こそ、彼女が夢にまで見た『未来の婿』!

本田家の長男が義理の息子になるなんて......

それだけで、今まで自分を見下していた上流階級の奥様たちが、こぞって尻尾を振って擦り寄ってくる!

「優希様!」

ボディガードたちは、全員一斉に深くお辞儀をした。

「優希、お前がどうしてここに......」

正太が渋い顔で問いかける。

「何って......隼人に会いに来たんだよ」

優希は冷ややかな視線で本田家の面々を見渡す。

その場にいた護衛たちは、ビクリと身を引き、視線を伏せた。

「タイミング、ちょうど良かったな。

俺が来てなかったら、この面白い茶番、見逃すところだった」

実は。

優希がこの件を知ったのは、可愛い恋人初露からの電話だった。

ちょうど外でプロジェクトの打ち合わせ中だった彼に、初露から連絡が入る。

「隼人お兄さんが大変らしいの。昭子たちが来て、家の中めちゃくちゃよ!」と。

心配になった初露が、優希にヘルプを頼んできたのだ。

恋人に頼まれたら、断るはずがない。

しかも相手は、兄弟同然の親友、隼人。

どんな商談より大事なことだと、車を飛ばしてすぐに駆けつけた。

「さ、だったらさっさと、隼人をここに連れてこい!」

正太は怒りのまま命じる。

「それは無理だね」

優希は桜子の車を見て、すべてを察した。

そして思わず、口元に柔らかな笑みが浮かぶ。

「今ごろ、桜子さんとラブラブなんだよ。

甘〜い空気の中で、ふたりっきり。

そんなとこに割り込むなんて、野暮の極みでしょ?」

「......っ!」
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