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球技大会のヒーロー(chapter6)

last update Data de publicação: 2026-10-14 07:05:17

「よしくーん! 頑張ってー!」

 背中越しに志保の声援が聞こえた。

「川島ぁ! ここで打たなかったらブッとばすからね!」

 美咲の応援? も聞こえる。マウンドには市原が立っていた。

「絶対打たせないから!」

 市原が大きな声でそう言った。相当気合が入ってるようだ。

(アイツ、目がマジモードじゃんかよ)

 良樹は負けじと大声で言い返して、自分に気合を入れた。

「いや、絶対打つから! 宇宙の果てまで飛ばしてやるぜ!」

 良樹たちの中学校は、春と秋に球技大会をする。

 男子の競技はソフトボール・サッカー・バレー・バスケットで、女子の方はサッカーが軟式テニスに替わる。これを学年ごと、つまり3日間にわたってやるという一大イベントだ。

 ちなみに部活でやってる競技には出られない。

「なんか男子のソフトボールが面白いことになってるみたいだぞ」

 生徒たちが続々とグラウンドに集まってくる。その試合は、良樹と市原が直接対決している決勝戦だ。

 試合は2転3転する接戦で、1点差で市原のA組リードのまま最終回の裏になった。

 ツーアウトでランナーは2塁。ここでヒットが出れば最低でも同点、もしホームランなら逆転サヨナラ勝ちという場面で良樹に打席が回ってきた。

(これはもう、サヨナラ勝ちを決めてヒーローになれって言ってるようなもんだよな)

 彼は打つ気マンマン、ヒーローになる気マンマンで打席へと向かう。

 良樹のスポーツ万能っぷりを知らない者はクラスにいない。当然期待度マックスの声援が良樹の背中越しに聞こえる。

 その中でも志保の声は、ハッキリと彼の耳に届いていた。

(アイツの声って不思議と聞こえるんだよな。なんでだろ)

 だが今日は、珍しく志保以外の女の子の声援も聞こえる。これが黄色い声援ってヤツなのだろうか。

(なんか良い気分だぞ、これ)

 ソフトボールだからピッチャーの市原はアンダーハンドで投げるのだが、これが結構速い。

 それだけ彼も真剣になってるということなのだろうが、それがなおさら良樹の気持ちを燃えさせた。

 バッターボックスへ入る前に1回2回と軽く素振りをする。良樹はもう、完全に自分で試合を決める気でいた。狙うはホームランのみだ。

「川島! 体育館越え、頼むぞ!」

「校舎に直接当ててもホームランだからな! かっとばせよ!」

「わかってるよ! 任しとけって!」

 初球は外角に外れた。2球目はファウルになった。3球目もまたファウルになったところで、良樹は1度バッターボックスを外した。

(市原のヤツ、すっげー気合入ってんな)

 スポーツでは負けたくない自分が気合十分なのは当然としても、市原がどうしてそれほど本気で挑んできているのかさっぱりわからない。それほど今日の市原は別人のように見えた。

 良樹はマウンド上の市原から視線を外し、バックネット裏を見やった。

 そこには志保と美咲がいる。

(見てろよ、志保。絶対に打つからな)

 心の中でそう誓う良樹だったが、本気で挑んでくる市原が厄介なことも忘れてはいない。

(とはいうものの、本気で投げる市原の球が、あんな速いと思わなかったぜ。アイツ、なんか絶対負けたくない理由でもあんのか?)

 良樹は気づいていなかった。市原のその燃えるような視線が、誰に向けられているのかを。

 彼の視線は良樹にではなく、そのさらに向こう側に向けられている。

 良樹の隣の席で彼と笑い合っている、渡辺のその横顔に注がれていることになど気づきもしなかった。

 そんなことよりも良樹は、とにかく真剣勝負が出来ること、それ自体にワクワクが止まらない。

(もっと勝負を楽しみたい気もするけど、そうもいかねえしな)

 良樹はもう一度バックネット裏を見てから打席に戻った。

 (よしっ! いっちょうやったるか!)

 打ち頃の球が来たら逃さず絶対に打つ。そして勝つ。

 良樹は打席に戻りながら、バットで軽くコンコンと自分の頭を叩いた。

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