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第4話

Author: 小春日和
隣の個室で、月子はビールを3本空けて、カラオケで熱唱していた。

奈津美はスマホのトレンドを見ながら違和感を覚え、月子の袖を引っ張って尋ねた。

「私、いつ涼さんのEDの話なんてしたっけ?」

「あ~それ?私が書いたの!ニュースは衝撃的じゃないと注目されないでしょ」

奈津美は顔を曇らせた。

「でも、こんなことをした結果について考えなかったの?」

酔っ払った月子は、マイクを握りしめたまま大声で言った。

「結果?何があるっていうの!

まさか黒川が包丁を突きつけてトレンド削除しろって脅しに来るわけないでしょ?」

「バン!」

突然、個室のドアが蹴り開けられた。

カラオケの音楽が急に止まった。

奈津美はドアの前に立つ、険しい表情の涼を見て、心臓が一拍飛んだ。

涼が来ることは予想していた。

だが、こんなに早く来るとは思っていなかった。

「記事、お前が流したのか?」

涼の声には殺気が含まれていた。

月子は怖くなって奈津美の後ろに隠れた。

奈津美は落ち着いた様子を装って言った。

「私です」

「そうか」

涼は冷笑し、前に進み出て月子を引っ張り出し、陽翔の腕の中に投げ入れた。

「全員出ていけ!」

涼を見た瞬間、月子の足はガクガクと震えていた。

奈津美を守ろうとしたが、陽翔が彼女を部屋の外へ引っ張り出した。

「早く出ろよ、急いで!」

ドアが閉まり、部屋の中には奈津美と涼だけが残された。

涼が徐々に近づきながら冷たく言った。

「昨夜は破談を宣言し、翌日にはもうクラブで遊び歩く。

滝川奈津美、今まで随分と見くびっていたようだな」

目の前の男を見つめながら、奈津美の脳裏には前世で誘拐犯に押さえつけられた時の忌まわしい記憶が蘇った。

胃が激しくむかつき、思わず一歩後ずさりした。

「涼さん、婚約パーティーで私を置いて綾乃さんのところへ行ったのはあなたです。

私たち滝川家では分不相応でした。この婚約は、お互い穏便に終わらせましょう」

穏便に終わらせる?

涼は冷笑した。

「お前の言う穏便とは、ネットで俺を中傷することか?」

「あれは事故です!」

「滝川奈津美、俺の気を引くための手段としては面白いと認めよう。

だが前にも言っただろう。私の前で策を弄するなと」

突然、涼は彼女を壁に押しつけた。

涼の目には冷酷な色が宿っていた。

奈津美は涼に強く押さえつけられた手首を見つめ、前世のこの日のことを思い出した。

婚約パーティーの翌日、会長の命令で涼が彼女を家まで送ることになったが、涼は彼女を寒風の中に置き去りにし、冷たく言い放った。

「お前との婚約は、滝川家に価値があるからに過ぎない。私がお前を好きになると思うな」

前世の記憶が蘇り、奈津美は急に手を振り払い、涼の左頬を思い切り平手打ちした。

「パシッ!」

その音がマイクで増幅され、響き渡った。

外にいた陽翔と月子が慌ててドアを開けた。

「奈津美!大丈夫?」

「おい涼!いくら怒ってるからって、手を上げるのはダメだろ!」

陽翔と月子が駆け寄ってきたが、言葉を失ったのは奈津美ではなく、涼の方だった。

奈津美は冷たく言い放った。

「涼、人の言葉が分からないの?

この婚約、あなたの黒川家だけが破棄できるわけじゃない。

私、滝川奈津美が破棄すると言えば、必ず破棄します」

「貴様!」

涼は怒りに震えたが、奈津美の目に浮かぶ露骨な嫌悪感を目にして、一瞬凍りついた。

これまで奈津美がこんな目で自分を見たことは一度もなかった。

たった一晩で、あれほど自分に献身的だった奈津美が、まるで別人のように変わっていた。

「月子、行きましょう」

奈津美は涼に一瞥もくれず、まるで彼を見るだけで吐き気を催すかのようだった。

月子は酔っ払っていて、何が起きたのか理解できていなかった。

さらに困惑していたのは陽翔だった。

酒も飲んでいないのに、幻覚を見ているのだろうか?

かつて涼に優しく接し、綾乃のように温和で思いやりのあった奈津美が、涼に手を上げるなんて?しかも平手打ちまで?

「お、おい涼......」

陽翔は涼の前で手を振りながら尋ねた。

「気が変になってないか?」

涼はまださっきの平手打ちから立ち直れていないようで、眉をひそめながらドアを指差した。

「あいつ、俺を殴った?」

「ああ......殴った。跡もまだ残ってるぞ」

その言葉を聞いて、涼の表情はさらに暗くなった。

先ほどの奈津美の大胆な言葉を思い出し、涼は怒りを笑いに変えた。

「滝川家に伝えろ。この婚約、滝川奈津美には破棄させん」

翌日、滝川家にて。

「破棄しないですって?」

リビングのソファに座った奈津美は眉をひそめた。

前世では涼は骨の髄まで彼女を嫌っていた。

会長の強い意向がなければ、涼は決して妥協しなかったはずだ。

昨夜、自分から破談を切り出し、おまけに涼を平手打ちまでした。

これは涼の面子を完全に潰す行為だった。それなのになぜ破談に応じないのか?

「よかった!本当によかった!」

美香は胸をなで下ろし、言った。

「てっきり黒川様が今度こそお怒りになったかと思ったわ。でも大丈夫よ。

奈津美、早く黒川様のところへ謝りに行きなさい。そうすればこの件は水に流してくれるわ」

「謝りたければお母さんが行ってください。私はこの結婚はしません」

奈津美の態度は冷淡だった。

これに美香は不満げに言った。

「この子ったら、どうしてこんなに分かりが悪いの?

お父様がいなくなって、私たち滝川家が黒川家を頼らなければ、どうやって生きていけるというの!」

その言葉を聞いて、奈津美の表情が冷たくなった。

前世で父が亡くなった時、彼女が精神的に最も弱っていた時期だった。

その時、涼が滝川家に援助の手を差し伸べ、美香は常に涼が奈津美に好意を持っているという考えを吹き込んでいた。

次第に、彼女は涼に恋をしてしまった。

後になって分かったことだが、涼が滝川家を助けたのは、単に奈津美が綾乃に少し似ていたからに過ぎなかった。

しかしその時には、彼女はすでに涼に深く心を奪われ、抜け出せなくなっていた。

さらに美香の言葉を信じ、綾乃の代わりとして涼の機嫌を取ることさえ厭わなかった。

当時の彼女は、いつか涼の冷たい心を温められると愚かにも信じていた。

今思えば、本当に笑い話だった。

「お母さん、ご心配なく。滝川グループは父が残してくれた会社です。

私が必ず守り抜きます。もしお母さんが黒川家なしでは無理だとお考えなら、ご自身で試されたらいかがですか」

奈津美はそう言い残して階段を上がった。

「あんた!なんてことを!

私はみんな滝川家のためを思って......あんたみたいな女の子に会社の経営なんてできるはずがないわ!

いい旦那様を見つけて、大人しく家庭を守る方がずっといいのよ!」

奈津美は後ろで叫ぶ美香の声を無視した。

美香が彼女を涼と結婚させたがるのは、自分の息子に滝川グループを継がせ、未来の黒川夫人である彼女に母子の道を開かせるためだった。

でも滝川グループは父が彼女に託した会社だ!

前世のように愚かに、この恩知らずな母子に滝川グループを明け渡すようなことは、二度としない!
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