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第9話

Author: 小春日和
奈津美は床に落ちた新聞に目を落とした。太字の見出しが飛び込んでくる。

【黒川グループ、滝川との契約を破棄 百億円規模の再開発から撤退へ】

奈津美の眉間に皺が寄った。

記憶が確かなら、このプロジェクトは滝川グループが手掛けている大型マンション開発で、工事は既に半ばまで進んでいた。

この時期に涼が撤退すれば、工事は中断を余儀なくされ、新たなスポンサーを探さなければならない。

しかし、涼との決別が報じられた今となっては、神崎市で滝川グループと組もうとする企業など現れるはずもない。

結果として、この百億円規模の開発は頓挫し、滝川も相当な痛手を被ることになる。

身を屈めて新聞を手に取ると、まだ温もりが残っていた。明らかに刷りたてを直接届けさせたものだ。

涼の対応は実に早い。彼女に力の差を見せつけ、この神崎市での影響力を思い知らせようという魂胆だろう。

「奈津美!滝川家のお嬢様として、家のために少し努力するくらいで何なの?

たかが男一人の機嫌を取るだけじゃない。そんなにプライドが高いの?

女なんだから、せっかくの美貌も活かせないなんて、本当に情けないわ!」

美香は憤懣をぶちまけるように言った。

「こんな調子で滝川家を継ぐつもり?

いい加減諦めて、健一に譲りなさい。

会長様の心を掴んで、黒川家に嫁ぐことこそがあなたの本分でしょう!」

「もう十分です!」

奈津美は冷ややかな目で美香を見て言った。

「私のことは心配しないでください。

そんなにご心配なら、お母さんご自身が嫁がれては?

お母さんの方が、私なんかよりずっとお上手なはずでしょう」

「この生意気な!」

美香が声を荒げる中、奈津美は新聞を手に階段を上っていった。

涼の投資撤退......これは意外な好機かもしれない。

前世でこの開発は大成功を収めたはずだ。

ただし、涼が百億円を投じて筆頭株主となっていたため、滝川家の取り分は微々たるものだった。

今、涼が撤退すれば、滝川家が主導権を握れる。

他の投資家に頼らず自力で進められれば、すべての利益を滝川家で独占できる。

ただし......必要な資金を銀行から調達しなければならない。

百億円という規模は、決して小さな額ではない。

翌朝、思いがけず綾乃から連絡があった。

前世では綾乃とはほとんど接点がなかったはずだ。まして綾乃から会いたいと言ってくることなど一度もなかった。

今回は、自分が涼との婚約破棄を持ち出したことで、綾乃の思惑が狂ったのだろう。

カフェに着くと、綾乃はすでに窓際の席で待っていた。店内は二人きりだった。

綾乃は清楚で端正な顔立ちをしているが、自傷行為のせいか顔色が優れない。

コーヒーカップを置きながら、綾乃が切り出した。

「滝川さん、今日は謝罪に参りました」

奈津美が率直に尋ねると、綾乃は唇を噛んで言った。

「感情的な判断は控えていただきたくて、滝川さんと涼様こそが運命の相手です。

私は二人の邪魔をするつもりはありません。心から二人の婚約を願っています」

「婚約を願う?冗談でしょう?」

奈津美は笑って言った。

「本当にそうお考えなら、私たちの婚約パーティーの夜にあのようなことはなさらなかったはずです」

その言葉を聞いて、綾乃の表情が急に曇った。

「本当に故意ではなかったんです。それを責められても仕方ありません。

でも、涼様にふさわしいのは滝川さんだけです。

滝川家の力があってこそ、黒川グループはさらなる発展ができる。滝川さんこそが涼さまのお相手として相応しい方です」

そう言うと、綾乃は突然正座をして深々と頭を下げた。

「滝川さん、約束します。もう二度と涼様とは関わりません。

ただ、涼様と黒川グループのためにも、このような事態は収めていただきたい。

これ以上続けば、滝川家のためにもならないはずです」

綾乃の言葉の端々に、涼への思いが滲み出ている。

同時に、涼が自分を選んだのは滝川家の力が目的だということも暗に示していた。

「白石さんの言葉は感動的ですね。

ただ......なぜ私が涼さんや黒川財閥のことを考えなければならないのでしょう?」

その言葉に、綾乃は明らかに動揺した。

この3ヶ月間、奈津美がいかに涼に夢中だったか、彼女は見ていた。

奈津美が「涼さんのためなら何でもする」と言っていたことも聞いていた。

なぜ突然、態度が変わったのだろう。

「もしお怒りでそうおっしゃっているのでしたら、私からお詫びいたします。

ただ涼様とうまくやっていただきたいだけなんです。

私は身を引いて、涼様の目の届かない場所で暮らします......」

自分の無私の愛を語り続ける綾乃に、奈津美は冷たく言葉を遮った。

「それは白石さんの願望に過ぎません。

なぜ私が、心に別の女性がいる男性と人生を共にしなければならないのですか?

そんなことを仰るのは、非常識だとは思いませんか?」

「私への誤解があるのは分かります。でも涼様のためなら、私は何でも......」

綾乃はバッグからキャッシュカードを取り出し、奈津美の前に差し出した。

「涼様が誤解されて、滝川家にご対応なさったことは存じています。

今、滝川家にはお金が必要なはず。これは50億円です。

お詫びとしてお受け取りください。どうか涼様と仲直りなさって、婚約を続けていただけませんか」

綾乃の真剣な表情を見て、奈津美は心の中で冷笑した。

前世でも綾乃はこんな態度だった。

涼を遠ざけながら、同時に関係を保ち続け、要するに涼を翻弄していたのだ。

綾乃が今、必死に自分と涼の婚約を進めようとする理由は明白だった。

会長が綾乃を認めないことを知っているからだ。

そして、滝川家には後継ぎが少なく、自分には頼れる人もいない。

将来、黒川財閥が滝川家を利用し終えた時、簡単に切り捨てられるだろう。

しかも、神崎市の誰もが知っている通り、自分は綾乃に三分ほど似ている。

綾乃からすれば、涼が他の名家の令嬢と結婚するよりも、誰もが知る「代用品」である自分と婚約する方がましなのだ。

将来、綾乃と涼が和解すれば、人々は「幼なじみが結ばれた」と祝福するだけだろう。

そして今、会長は高齢だ。綾乃は会長が亡くなる日を待つだけでいい。

その時が来れば、涼を頼りに黒川家の奥様の座を手に入れられる。

「白石さん、涼さんはあなたが私に会いに来ることを知っているんですか?」

その問いに、綾乃は一瞬動揺した。

「そんなに長く正座していては、お膝が痛むでしょう。お手を貸しましょう」

奈津美が綾乃を助け起こそうと身を屈めた瞬間、カフェのドアが開き、風鈴の音と共に涼が入ってきた。

涼は強く奈津美を押しのけた。

「滝川奈津美!何をしてやがる!」
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