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十年の介護の末、叔父が遺産を奪いに帰ってきた

十年の介護の末、叔父が遺産を奪いに帰ってきた

By:  白圭Completed
Language: Japanese
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建国記念日の日、叔父の結婚式で、突然祖父が片麻痺になった。 叔父は慌てる様子もなく、「今日は晴れの日だ。二、三日待って病院に連れて行けばいい」と言った。 私は叔父の言葉を聞き入れず、すぐに救急車を呼んだ。 迅速な救命処置のおかげで、祖父の命は助かった。 しかし叔父は激怒し、叔母を連れて海外へ去ってしまった。 そのため母は一人で老人の世話を引き受けることになった。 十年後、祖父母の命が風前の灯火となった時、叔父は息子を連れて帰国した。 二人の老人は全ての財産を実の息子に遺した。 その時私たちは初めて知った。この十年間、祖父母は私が余計な口出しをしたことを恨んでいたのだと...... 言い争いの最中、従弟は私を階段から突き落とし、私は上肢切断を余儀なくされた。 もう母には苦労をかけたくないと思い、私は自ら命を絶った。 次に目を開けた時、私は建国記念日の日に戻っていた......

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Chapter 1

第1話

祖母の看病を母と共にして十年、もう終わりが近づいていた。

病床でやせ細っていく老人を見ていると、私の胸も締め付けられた。

それでも気持ちを奮い立たせ、母と一緒に祖母の最期を看取ろうとしていた。

誰も予想していなかった。十年も消息不明だった叔父が、この時期に突然病室に現れるなんて。

しかも叔父だけでなく、七、八歳の子供とスーツを着た弁護士まで連れていた。

いつも温厚な母でさえ、叔父を見た瞬間に顔を強張らせた。

私も例外ではなく、冷たい表情で辰哉に退室を求めた。

「出て行ってください。さもないと警備員を呼びます」

それを聞いた辰哉は、唇を歪めて言った。「生意気な小娘が、俺に指図するとはな。どの面下げて」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、病床から祖母の激しい咳が響いた。

「みんな家族なんだから、騒ぎ立てないで。人に笑われるじゃないか」

「お母さん、辰哉はこれだけの年月、あなたたちを放っておいたのに、どうしてまだ庇うの!」

祖母が叔父の味方をするのを見て、母は怒り心頭だった。

あの建国記念日の休暇、田村辰哉は結婚式を挙げていた時、祖父が宴席で突然片麻痺になった。

私は慌てて救急車を呼ぼうとしたが、辰哉に止められた。

私は医学部出身ではないが、さすがに大人として片麻痺が何を意味するか分かっていた。

祖父が脳卒中になってから何年も経つのに、辰哉はいつも言い訳ばかり。

仕事が忙しいだの、恋愛で忙しいだの。

二人の老人の面倒を見る時間なんて、一度もなかった。

ほとんどの日々、家の内外の世話は母が一手に引き受けていた。

もし本当に何かあったら、結局苦労するのは母なのだ。

だから私は辰哉の言うことは聞かず、断固として救急車を呼んだ。

その結果、辰哉は私たちと絶縁し、そのまま国外へ出て行った。

大学から社会人になったこの数年で、私もずいぶん成長した。

もう辰哉と言い争うのはやめて、祖母の方を向いた。

「おばあちゃんが呼び戻したんですか?」

正確な住所が分からなければ、辰哉がここを見つけるはずがない。

祖母は気まずそうに頷き、すぐに平静を装って言った。

「今日お前たち母娘を病院に呼んだのは、死ぬ前に後のことをはっきりさせておきたかったからだよ」

母はそんな言葉を聞きたくなくて、また涙がこぼれた。

母は祖母を諫めるように言った。「お母さん、そんなこと言わないで。死なないでよ」

祖母は手を振って、母に慰められるのを制した。

「私が死んだら、家はお前に、預金は辰哉にやる。そうすれば兄妹で争うこともないだろう」

「弁護士さんもいることだし、問題なければ契約書にサインしておくれ」

祖母の言う家というのは分かっていた。田舎にある数十年前に建てられた二階建ての家だ。

田舎の家はもともと価値が低く、まして数十年前の建物なら尚更だ。

疑問に思ったのは、預金?

祖父母は普通の農民だったはず。預金なんてあるはずがない。

そして何より重要なのは、この薄情者の辰哉は、一日も老後の面倒を見なかったのに、遺産を相続する資格があるのか。

眉をひそめながら、まだ呆然としている母の前に立ち、祖母に尋ねた。「契約書を結ぶのは構いませんが、預金額くらい教えてくださいよ」

私は祖母をじっと見つめ、その目に一瞬の動揺を見た。

そして続けて祖母が話題をそらし、預金額に正面から答えないその態度は、私の推測を裏付けるものだった。

ここには何か裏があるに違いない。

私の追及に、祖母は観念したように言い放った。「1600万円だ」

その数字を聞いて、私は驚愕した。

田舎の古い家なら、せいぜい5、600万円の価値しかない。

今回の入院費用だけでもその金額を超えている。

それなのに、老夫婦を顧みなかった息子に1600万円をポンと渡すつもりなのか。

母も気付いたようだ。「お母さん、前にお金がないって言ってたじゃない?」

「前にお父さんの葬式の時、私の貯金を全部使って、遥香は私を助けるために三つもバイトして家計を支えてくれたのに」

「どうしてそんな薄情なの。お金を出して助けてくれなかったなんて」

祖母は母の涙ぐんだ目に気後れしたのか、顔を横に向けてしまった。
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第1話
祖母の看病を母と共にして十年、もう終わりが近づいていた。病床でやせ細っていく老人を見ていると、私の胸も締め付けられた。それでも気持ちを奮い立たせ、母と一緒に祖母の最期を看取ろうとしていた。誰も予想していなかった。十年も消息不明だった叔父が、この時期に突然病室に現れるなんて。しかも叔父だけでなく、七、八歳の子供とスーツを着た弁護士まで連れていた。いつも温厚な母でさえ、叔父を見た瞬間に顔を強張らせた。私も例外ではなく、冷たい表情で辰哉に退室を求めた。「出て行ってください。さもないと警備員を呼びます」それを聞いた辰哉は、唇を歪めて言った。「生意気な小娘が、俺に指図するとはな。どの面下げて」その言葉が終わるか終わらないかのうちに、病床から祖母の激しい咳が響いた。「みんな家族なんだから、騒ぎ立てないで。人に笑われるじゃないか」「お母さん、辰哉はこれだけの年月、あなたたちを放っておいたのに、どうしてまだ庇うの!」祖母が叔父の味方をするのを見て、母は怒り心頭だった。あの建国記念日の休暇、田村辰哉は結婚式を挙げていた時、祖父が宴席で突然片麻痺になった。私は慌てて救急車を呼ぼうとしたが、辰哉に止められた。私は医学部出身ではないが、さすがに大人として片麻痺が何を意味するか分かっていた。祖父が脳卒中になってから何年も経つのに、辰哉はいつも言い訳ばかり。仕事が忙しいだの、恋愛で忙しいだの。二人の老人の面倒を見る時間なんて、一度もなかった。ほとんどの日々、家の内外の世話は母が一手に引き受けていた。もし本当に何かあったら、結局苦労するのは母なのだ。だから私は辰哉の言うことは聞かず、断固として救急車を呼んだ。その結果、辰哉は私たちと絶縁し、そのまま国外へ出て行った。大学から社会人になったこの数年で、私もずいぶん成長した。もう辰哉と言い争うのはやめて、祖母の方を向いた。「おばあちゃんが呼び戻したんですか?」正確な住所が分からなければ、辰哉がここを見つけるはずがない。祖母は気まずそうに頷き、すぐに平静を装って言った。「今日お前たち母娘を病院に呼んだのは、死ぬ前に後のことをはっきりさせておきたかったからだよ」母はそんな言葉を聞きたくなくて、また涙がこぼれた。母は祖母を諫めるように言っ
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第2話
しかしその問題が解決する前に、辰哉は嘲笑うように言った。「母さん、言っただろう。嫁に行った娘はこぼした水のようなものだって」「娘は懐かないもんだよ。まだ死にもしないうちから、母さんのポケットの中身を狙ってる」「この数年、母さんの面倒を見てたのも、きっとこの母娘は朝から晩まで母さんの金のことばかり考えてたんだろう」その冷たい言葉に、心が凍りつくようだった。私は祖母が反論してくれると思っていたが、意外なことに彼女は黙り込んでしまった。何も言わなかったが、それは全てを物語っているようだった。母はもう信じられないという様子だった。この十年間、母は家計を支えながら、祖父母の世話をしてきた。まだ八十歳にもならないのに、髪はすっかり白くなっていた。親戚も近所も、母のことを大孝女と褒めていた。なのに祖母と辰哉の目には、母のこれらの献身が、私たちが知りもしなかった預金目当てだというのだ。母は怒りと悲しみで、何も言えなくなった。そんな時、祖母が口を開いた。「お前が私を安らかに死なせたいなら、弟と遺産を争うのはやめなさい」「これは私だけじゃなく、お父さんの生前の意思でもあるんだよ」「このお金は辰哉のためじゃない。彼の子供のためなの。これは私たち田村家の血筋を継ぐものなんだ」「それに、あの時お前たちが無理やり父さんを病院に連れて行かなければ、辰哉が怒って国外に行くこともなかった」怒りが極限に達すると、思わず笑いが出てくるものだ。なるほど、この数年間、老夫婦は娘と孫娘が必死に働いて世話をする姿を見ながらも、預金を出し渋っていた理由が分かった。ずっと私たち親子を恨んでいたのだ。私たち親子のせいで家族が離れ離れになったと思っていたのだ。祖母の話は段々熱を帯びてきて、言外の意味も私には分かった。もし母が辰哉と遺産を争えば、それは死者の願いを無視する、人でなしだということだ。そして、ずっと孝行を尽くしてきた私という孫娘も、会ったこともない孫息子には及ばないのだ。なるほど、死ぬ前に辰哉を呼び戻したのは、一生懸命貯めたお金を全部彼に渡し、後顧の憂いをなくすためだったのか。私は何も言わず、母の腕を取って立ち去ろうとした。母は俯いて何を考えているか分からなかったが、とても悲しんでいるのが伝わってきた。「ど
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第3話
「それに父さんはいつものことじゃないか。何年も前から脳卒中だし、二、三日経てば良くなるさ」辰哉は祖父の片麻痺を全く気にかけていなかった。祖父の今の症状が脳梗塞によるものだとは知らないのだ。早期治療を怠れば、命に関わる可能性がある。前世では、私は携帯で関連情報を検索し、すぐに病院に搬送する必要があると気付いた。辰哉の言葉に従わず、独断で救急車を呼んだ。早期治療のおかげで、祖父は後遺症は残ったものの、命は取り留めた。しかしそれが私たち家族への恨みを生んだ。辰哉は私が意図的に彼の結婚式を台無しにしようとしたと思い込んだ。「どうせこの家では、俺の言うことなど通用しない。年下にさえ言うことを聞いてもらえないなら、ここにいて屈辱を味わう必要もない」家族と大喧嘩をした末、叔母を連れて国外へ去った。十年間、一度も電話をかけず、一銭も送金せず、祖父の葬式にすら姿を見せなかった。母は彼を探そうとしたが、手掛かりすら掴めなかった。実家では、もしかしたら外国で何か事故に遭って死んでしまったのではないかと噂されていた。でなければ、大の大人が十年も音信不通になるはずがないと。祖父母は節約して彼の学費や結婚資金を工面してきたというのに。まさか大人の男が、そこまで薄情になれるはずがないと。だが私は辰哉という徹底的な利己主義者の醜い本性を見くびっていた。よく考えれば、不思議でもない。結局、祖父母も母に対して同じことをしていたのだから。親の血を引く子は似るものだ。叔父も彼らの遺伝子を受け継いだのだ!前世で母が倹約し、一生懸命に老人の世話をして受けた苦労を思うと、全く報われなかったと感じる。でも私は戻ってこられた。今度こそ、母をこの苦しみから救い出してみせる。そう考えていると、前から声が聞こえてきた。「遥香、お前はどう思う?」話しかけてきたのは祖母で、期待に満ちた顔で私を見ていた。家族の中で、私と辰哉だけが学のある者だった。父は孤児院育ちで親戚もなく、水難事故での人命救助で亡くなった後、私は母と共に彼女の実家に戻ってきた。母が孝行娘だったので、彼女を安心させるため、私も出来る限り祖父母に尽くし、見返りは求めなかった。これまでなら、私は必ず祖父母のために辰哉と議論したはずだ。しかし前
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第4話
その言葉に、祖母は明らかに戸惑った。「おばあちゃんの目障りなら、私が出ていきます」そう言って、私は母の腕を引いて外へ向かった。母は反応できず、よろよろと私について二、三歩歩いた。私がドアを開けて廊下に出るまで、母はそこで立ち止まった。「遥香、今日どうしたの?」母は明らかに私の様子がおかしいことに気付いていた。しかし私は黙るようなジェスチャーをしただけで、何も言わなかった。部屋の中では、辰哉が祖母と口論を始めていた。「母さん、俺のことも考えてくれよ。うちの家柄で美由紀と結婚できるなんて、分不相応なくらいいい話なんだ」「今日はこんなに人も来てるし、父さんも大した事にはならないだろうし、そんなに焦らなくてもいいじゃないか」「でも...」祖母は明らかに辰哉の意見に賛成できなかったが、息子には逆らえなかった。彼らは部屋の中でさらに十数分話し合ったが、声は段々小さくなっていった。最後には、辰哉はついに祖母を説得した。というより、祖母の認識の中では、息子は天であり、言うことは全て正しかったのだ。たとえ夫の命に関わることでも、少し待てるというわけだ。事態が収まりかけたその時、廊下から大叔父の荒々しい声が響いた。「みんなで客の相手もせずに、何をごちゃごちゃ言ってるんだ?」大叔父の息子は市で役人をしていて、私たちの村でも名が通っていた。最も重要なのは、祖父と血縁関係があることだった。辰哉は私たちに目配せをして、すぐに出てきて、笑いながら説明した。「何でもありません。父が少し体調を崩しているだけで」事を大きくしたくないのは分かっていた。でも、私が彼を楽に済ませるわけがない。「体調が悪いだけ?じゃあなんでさっきおばあちゃんは私に怒鳴って、人命に関わるって言ったの?」私の言葉で、廊下全体が静まり返った。辰哉は額から冷や汗を流し始めた。母は気付かないまま、私の言葉に頷いて言った。「おじさん、父を見てやってください。体が動かなくなって、片麻痺みたいなんです」「なんだって!」大叔父は学歴こそ高くなかったが、息子に連れられて病院での検査は数多く経験していた。片麻痺が何を意味するか、当然知っていた。同様に、彼は年寄りとして、辰哉が先ほどから嘘をついている理由も分かっていた。彼は手を打ち、
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第5話
前世では、祖父は早期治療で後遺症もなく済んだ。辰哉がそんなことを言うのもまだ理解できる。しかし今回は、実際に片麻痺になり、医師も診断を下したというのに、まだ白を黒と言い張っている。病室の全員が呆然とした。いつも辰哉を贔屓にする祖母でさえ、どう助け舟を出せばいいのか分からないようだった。病床に横たわる祖父は、声を出し続けていた。ただ片麻痺のせいで、まともな言葉を発することができない。しかし表情を見れば、その怒りは明らかだった。でも私は少しも同情しなかった。前世で、辰哉が怒って出て行った後、私と母は必死で二人の面倒を見た。早く回復してもらおうと、スマートフォンには十個以上のアラームを設定し、薬、注射、検査、栄養食の準備。なのに老人は善悪も分からず、私たちが意図的に虐待していると思い込んでいた。よく村の人々に、母の心が不純だなどと吹聴していた。幸い村の人々には目があり、母の苦労は見えていた。そんな噂を聞くたび、母は布団の中で涙を流していた。それでも母は自分に言い聞かせた。祖父は口は悪いが心は優しいのだと。私も以前はそう思っていた。あの1600万円がなければ......自業自得だ。これは因果応報なのだ!私は既に大叔父に連絡を入れ、他の親戚と一緒に祖父の様子を見に来てもらっていた。辰哉が大言壮語を吐いている時、お爺たちは病室の入り口に着いていた。一言一句、はっきりと彼らの耳に届いた。田舎の老人が最も恐れるのは、子供が不孝行で、最後に面倒を見る者がいなくなることだ。不孝な子供は、背中を指さして非難される。これまで、みんな祖父母には孝行な娘と出世した息子がいると羨ましがっていた。しかし今日の出来事で分かった。辰哉は全く当てにならない薄情者だということを。父親の命が危ないというのに、息子は自分の結婚式のことばかり気にかけている。最も短気な遠縁の三番目の叔父が突然部屋に飛び込んできて、手にした果物籠を辰哉に投げつけた。「このクソガキ、ぶっ殺してやる」辰哉は不意を突かれ、三番目の叔父に地面に押さえつけられて何発も殴られた。祖母が飛びついて引き離さなければ、きっと逃げ出していただろう。「もういい、もういい。殴って怪我でもさせたらどうするの」しかし、みんな明らかに祖母
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第6話
祖父の家は貧しく、母は中学を中退して工場に入り、毎月仕送りをしていた。手帳には、母のこれまでの家計簿が記されていた。母は何が起きているのか分からず、私の行動を困惑して見ていた。正直、この結婚式には感謝すべきだ。これほど多くの人が集まることはなかっただろうから。その場の全員の前で、私は冷淡に辰哉に言った。「私というお荷物を連れて、実家で居候しているって母のことを非難してたわよね」「じゃあ、今日はきちんと計算してみましょう」私は手帳を祖父の家に住み始めた最初の日のページを開き、毎日の出費を読み上げ始めた。親戚たちは顔を見合わせた。祖母は太腿を叩きながら叫んだ。「やれやれ、お父さんが倒れてるときに、こんな恥ずかしいことを」「早く娘を止めなさい」これまで母は彼らの言うことを何でも聞いていたが、今回は動かなかった。むしろ毅然として私の前に立った。「お母さん、辰哉を贔屓にしてきたこと、黙っていたけど分かってたわ」「家族なんだから、誰が多く出し、誰が少なく出したって、気にすることじゃない」「でも今、私の娘をお荷物呼ばわりするなんて、叔父としてそんなこと言っていいの!」母は子供を守る雌獅子のように、「敵」に向かって牙を剥いた。祖母はこんな場面を見たことがなく、すぐに口を閉ざした。私は数年分の家計簿を素早く読み上げ、さらに母が持っていた支払い伝票を取り出した。「今回の祖父の入院で、母は走り回って、12万円以上も使ってます」「叔父さん、あなたはこの息子として、これまで家にいくら出したの?」私が挑発的に眉を上げると、瞬時に彼の怒りに火がついた。他人がいることも気にせず、直接怒鳴った。「俺は息子だぞ、同じじゃないだろ?」後から気付いて、付け加えた。「将来は俺が父さん母さんの面倒を見て、最期を看取るんだ。今ぐらい姉さんが出してどうした!」私はこの言葉を待っていた。「母は果たすべき責任は果たしました。今あなたは結婚したんだから、責任を担う時じゃないですか」「二十五年前から、母は毎月2万円を仕送りし、祖父が脳卒中になってからの数年も、ずっと母が看病してきました」「計算してみれば、あなたは損してないはずです」まあ、人生をもう一度生きている者として、人情の機微を知っているから、私は一気に攻め立て、
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第7話
「母さん、1600万円の預金があったの?知らなかったよ」祖母が否定しようとした時、私の意味ありげな笑みを目にして言葉を飲み込んだ。しぶしぶと頷いて認めるしかなかった。私は故意にこのことを明らかにした。辰哉の強欲さを見込んでの賭けだった。前世で十年も姿を消していた彼が、遺産相続と聞いて飛んで帰ってきたのだから。今の彼が心動かされないはずがない。案の定、辰哉は祖母の両手を取り、誠意あふれる様子で言った。「母さん、安心して。必ずお父さんとあなたの面倒を見るから」親戚や友人たちの立ち会いの下、祖父母の老後の世話と将来の遺産相続は全て辰哉に任されることになった。母は毎月数千円を気持ち程度に渡せばいいということになった。途中何度か、母は何か言いかけては止めていたが、結局何も言わなかった。家に帰ってから、やっと母は私を座らせて話をした。私は隠さず、転生のことと前世で起きたことを全て打ち明けた。最初、母は信じられず、私が精神を病んでいると思い、医者に連れて行こうとした。でも私が、私の治療費を工面するために父の形見まで質に入れたことを話すと、母は崩れるように泣き出した。私は母が、何十年も二人の老人の世話を焼いたのに、何も得られないどころか実の母に訴えられたことを悲しんでいるのだと思った。しかし母は、私が飛び降り自殺したことを悲しんでいたのだった。私の両足を震える手で触りながら、涙を流して言った。「遥香、きっとすごく痛かったね」「ママが悪かった。あなたを守ってあげられなくて」私は何度も何度も母を慰め、私たちは二人とも疲れて眠りについた。翌朝目覚めると、母は昨夜私が話したことと同じ夢を見たと言った。「遥香、安心して。今度こそ母さんは心を鬼にして、あなたを巻き込んで苦しませたりしないわ」母の約束に、私はほっと胸をなでおろした。私が最も恐れていたのは、母が優しさに負けて、祖父母の暮らしぶりを見て、また世話を焼きに行ってしまうことだった。価値のある人への献身は善意だが、価値のない人への献身は愚かさでしかない!案の定、母が手を引き、世話をしなくなると、祖父は入院一週間で辰哉に強制退院させられた。前世では、祖父が片麻痺になる前でさえ、母は心配で一ヶ月以上入院させていた。彼は金のことばかりで、祖父
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第8話
そこまで低姿勢でいても、辰哉の妻は彼女がゴミを家に持ち込むことを嫌い、縁起の悪い人間だと言った。辰哉の妻は教養ある人間で、汚い言葉は使わず、路上で騒ぎ立てることもなかったが、皮肉や遠回しな非難は次から次へと繰り出してきた。これだけの年齢になって、嫁に指をさして侮辱されるなんて、以前母の世話になっていた頃の祖母なら、とても耐えられなかっただろう。彼女は母の良さを思い出した。確かに以前、母が私と田舎に住んでいた時、彼女は何も心配する必要がなかった。衣食住全てが整えられ、まさに至れり尽くせりだった。しかし母は電話番号を変え、連絡が取れなくなっていた。私の通う学校のことも、覚えていなかった。仕方なく、近所に助けを求めたが、誰も取り合ってくれなかった。みんな彼女の失態を笑い、自業自得だと言った。お金を稼ぐため、もっと必死にビン集めをしたが、夜中に路地で足を捻り、骨を傷めてしまった。こんな重傷を負えば、辰哉が病院に連れて行ってくれると思った。しかし彼は傷薬を一本渡しただけで、それを塗るように言った。結局、噂を聞いた母が見かねて、私と一緒に訪ねて来て、祖母を病院に連れて行った。「本当に悪かった。許してちょうだい」祖母は母がまだ昔の情を残していると思い込み、親子の絆で引き止めようとした。私も緊張した。しかし母の答えは痛快だった。「お母さん、あなたは間違いに気付いたわけじゃない。ただ私に甘やかされることに慣れていただけ」「病院に連れて来たのは、親戚に後ろ指を指されたくないからで、これからの面倒を見るつもりはないわ」「もう家と預金は全部辰哉にあげたんだから、彼があなたを餓死させることはないでしょう」言い終わると、母は私を連れて病院を後にし、祖母の号泣する声を後に残した。その後、辰哉が国外へ行くという噂を聞いた。祖母のビザはどうするのだろうと気になっていた時、衝撃的なニュースが飛び込んできた。祖母が警察署に自首し、辰哉と妻が祖父を殺害したと告発し、証拠の動画もあるというのだ。家族として、私たちは警察に呼び出された。そこで初めて分かったことだが、祖父は辰哉の家に戻ってから、ずっと寝たきりだったという。辰哉夫婦は世話を嫌い、祖父は苦しみながら毎日部屋で叫んでいた。トイレにも行けず、ベッ
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