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第2話

Author: ノース
真吾は口元に嘲るような弧を描き、私の何も持っていない両手に視線を走らせた。「忘れ物?この家にわざわざ戻ってくるほどのものが、まだ残ってるとでも?」

彼はさらに二歩前に出て、私を見下ろすような口調で分析し始めた。「認めろよ。結局、俺よりいい男が見つからないだけだろ。家出なんて形で俺の気を引こうとするのも、一回ならまだしも、何度もやれば嫌われるだけだ」

それを聞くと、胸の奥が、細かな埃で塞がれたみたいに重くなってきた。

見慣れたその顔を見つめながら、私たちの間には、決して突き破れないガラスの壁があるように感じた。

私は返事をせず、本棚へ向かった。そこには、私がよく読んでいた本がまだ数冊残っている。「これらの本を取ったら、すぐ出ていく」

真吾は、私が棚の上段にある本に手を伸ばすのを見た。あれは、かつて彼が誕生日にくれた本だ。

彼の視線がわずかに揺れ、口調も少し和らいだが、棘は消えなかった。「その本、最後の半分は一緒に読み終えるって言ってただろ。今さら持っていく気になったのか?」

私の手は一瞬、空中で止まった。そしてその本を飛び越え、その隣に並んでいる、心理学の専門書の二冊だけを抜き取った。

本を胸に抱え、私は冷静な声で言った。「約束にも、期限切れってあるし」

玄関へ向かうと、彼も思わず後を追ってきた。

私が本当に出て行こうとしているのを見て、真吾の声に焦りが混じった。「そこまでする必要があるのか?物を放っておけ!」

今回は、私は一瞬たりとも立ち止まらなかった。

玄関で本を置き、キーホルダーから手早く銀色のアパートの鍵を外し、下駄箱の上にそっと置いた。

金属が大理石に触れ、澄んだ音を立てた。

私は振り返った。「忘れ物は全部取った。鍵、返すね」

そして再び本を抱え、ドアノブを握り、最後に一度だけ顔を横に向けた。さらに、ため息のように、かすかな声でこう言った。

「真吾。迷って戻ってきたんじゃない。あなたに、別れを告げに来ただけなの。

もう、二度と来ないから」

……

私は、あの見慣れた病院に戻ってきた。消毒液の匂いは相変わらずで、なぜか心を落ち着かせてくれる。

静まり返った廊下で、私は採血の順番を、列の最後で待っている。

診断を受けたあの日、なぜ肺がんになったのか、私は医者に尋ねた。

煙草も吸わないし、酒も飲まない。

医者は眼鏡を押し上げて言った。「がんの原因はとても複雑です。遺伝が土台にあり、長期間の精神的ストレスや、吐き出せない思いも引き金になります」

少し間を置き、彼はこう続けた。「多くの患者さんは、見つかった時にはすでに中期から末期なんです」

寝返りを打ち続けた夜、動悸がして息もできなくなった瞬間、引き出しに増え続けた抗うつ薬。すべてが、ここへ繋がっているのか。

運命はとっくに筋書きを書き終えている。私が今になって、ようやく最後のページをめくっただけだ。

不思議なことに、結末を知った途端、かえって気持ちは軽くなった。

残された時間が少ないなら、最後くらい、自由に生きたっていい。

「次の方」と、看護師の声が、思考を遮った。

立ち上がろうとしたその時、廊下の向こうに見覚えのある姿が目に入った。

真吾が長野琴音(ながの ことね)を支えながら診察室から出てきた。仕草はひどく優しい。

彼も私に気づき、表情が一瞬で曇った。

彼は大股で近づき、琴音を半分かばうようにして言った。「俺たちを尾行してたのか?」

十年も愛してきたその顔を見つめながら、私は急に、他人のように感じた。

「病院は公共の場よ」と、自分でも驚くほど、私の声は落ち着いている。

琴音が彼の袖を引いた。「たまたまかもしれないし……」

「たまたま?」と、真吾は冷たく笑い、私の手にあるカルテに視線を落とした。「腫瘍科から出てくるのも偶然か?俺の気を引くためなら、今度は不治の病だなんて嘘までつくのか?」

周囲で待っている人たちの視線が、一斉に集まった。

私は大きく息を吸い、指先が掌に食い込むのを感じた。「あなたの中では、私はあなたの関心を引くこと以外、何もできない人間なの?」

「違うのか?」と、彼の声には怒りを含んでいる。「前はうつ病、その前は動悸、そして今度はがん?少しは大人になれないのか?」

私は思わず笑ってしまった。彼の思い上がりを、そして、この十年の感情そのものを。
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