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第30話

Author: ミツバチちゃん
涼夏のその言葉を聞いて、遼河はようやく満足したようで、彼女を抱き上げて自分の寝室へと向かった。

ドアの近くまで来たとき、遼河はふと振り返り、まだ「眠っているふりをしている」栞に一瞥をくれてから、そのまま部屋を後にした。

自分の寝室に戻った遼河は、欲のままに涼夏を求めた......

遼河が涼夏を連れて自室に戻った頃、実は栞はすでに目を開けており、静かにベッドから起き上がった。

その目は澄み切っており、とても寝起きとは思えなかった。

彼女はそっとベッドを降りて遼河の部屋の前まで行き、中から聞こえてくる涼夏の微かな声と遼河の息遣いを耳にした。

手が無意識に握り締められ、爪が肉に食い込んでも痛みは感じなかった。

涼夏、この裏切り者!まだ懲りていないというの?早く死ねよ!

顔を暗くしたまま涼夏の部屋に戻り、ナイトテーブルの上に置かれた涼夏のスマホを手に取ると、ロックを解除して中を確認した。

そこには遼河からのメッセージが表示されていた。

【今夜、俺の部屋に来い。待ってる】

このメッセージは、先に涼夏がシャワーを浴びているときにすでに見ていた。

涼夏がそれを見てから隠すような素振りをして、自分が気づいたかどうかをうかがう様子があまりにも滑稽で、笑い出しそうだった。

栞は、表面上の姉妹関係を保つために何も見ていないふりをしていた。

さっきだってそうだ。

自分のすぐ隣で遼河と涼夏が、まるで自分など存在していないかのように。

布団の中の手がどれだけ強く握られていたか、どれほど憎しみで震えていたか、誰も知らない。

それでも、熟睡しているふりをするしかなかった。

だからこそ、涼夏の部屋に一緒に寝ると言い出したのだ。

遼河が涼夏と関係を持たないように、それを阻止するために。

あの二人を壊してやるために。

それなのに、遼河はやってきた。

しかも、出ていくときに自分と目が合った。

あの時の彼の目には、全てを見透かしているような光があった。

まるで、自分の考えも、行動も、全部お見通しのような......

憎い。

どうして母は涼夏ばかりを可愛がり、遼河までもが涼夏を選ぶ。

涼夏、このクソ女は......母を奪っただけじゃない。

自分こそ本当の娘なのに、なぜ母は彼女を選んだ?

母も父も、結局彼女のせいで死んだのに、それでもまだ、男まで自分から
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