天寿を全うしたら美少女閻魔大王に異世界に転生を薦められました。~戦国時代から宇宙へ~

天寿を全うしたら美少女閻魔大王に異世界に転生を薦められました。~戦国時代から宇宙へ~

last updateÚltima atualização : 2026-09-07
Por:  常陸之介寛浩Atualizado agora
Idioma: Japanese
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百歳の天寿を全うした平成の剣聖・三上龍之介。死後に待っていたのは、恐ろしい閻魔ではなく、茨城県担当を名乗る美少女閻魔ちゃんだった。天国へ行く代わりに異世界転生を勧められた龍之介は、若き肉体と武芸百般、現代技術の知識を携え、本能寺の変直前の戦国時代へ。憧れの織田信長を救い、天下統一を支えながら、戦車や兵器、産業を次々と生み出して歴史を塗り替えていく。やがてその野望は日本を飛び出し、世界、そして宇宙へ――。百年分の経験と尽きぬ好奇心を武器に、元気すぎる転生剣豪が美少女たちを巻き込みながら駆け上がる、常識破りの歴史改変ファンタジー!

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Capítulo 1

第一話 御臨終

 この物語の主人公、三上龍之介は、百歳の誕生日を迎えた翌日の朝、安らかに息を引き取った。

 龍之介は、平成の世には珍しい、筋金入りの武道マニアだった。剣は鹿島神道流、香取神道流、二天一流、柳生新陰流などを修め、居合いや抜刀術にも通じていた。槍は宝蔵院流、さらに弓矢や火縄銃、合気道、空手、柔道、忍術道に加え、ライフル射撃や猟銃の扱いまで身につけていたのだから、武芸百般という言葉がこれほど似合う男も珍しい。

 いつしか龍之介は、平成の剣聖、剣豪、最後の武士、さらには塚原卜伝の生まれ変わりとまで呼ばれ、武道の世界では広く名を知られる存在になっていた。

 そんな厳めしい経歴とは裏腹に、龍之介の性格は驚くほど柔軟だった。若者の文化を頭ごなしに否定することはなく、むしろ面白そうだと思えば自分から進んで触れてみる。愛読書には孫たちが買ってくるライトノベルが並び、夜更けには深夜アニメを楽しみ、美少女アニメの登場人物について孫たちと真剣に語り合うことさえあった。

 筋骨隆々の武道家でありながら、その実、少し変わり者のオタク老人でもあったのである。

 龍之介は第二次世界大戦に出兵し、無事に帰国したあとは、地元の大企業である世界のHIT●CHIに入社した。そこでエンジニアとして働き、定年を迎えるその日まで管理職の椅子に安住することなく、現場に立ち続けた。

 戦場を生き抜き、戦後の復興と発展を働き手として支え、定年後は趣味の武道に打ち込んだ。その長い人生を振り返れば、百歳という年齢まで生きたことも、決して不思議ではないように思えた。

 しかし、その男の死は、本人にとっても家族にとっても、あまりに突然訪れた。

 龍之介は死の前日まで元気に過ごしていた。それが翌朝、いつもの時刻になっても起きてこないことを心配した十歳年下の妻が寝室を訪れると、龍之介は深い眠りに落ちたまま、いくら呼びかけても目を覚まさなかった。

 妻は震える手で119番へ連絡し、龍之介は救急車で病院へ運ばれた。しかし、救急隊員や医師がどれほど呼びかけても、その意識が戻ることはなかった。

 龍之介自身は、まるで全身麻酔を受けたかのような深い眠りの底にいた。身体は動かず、まぶたを開くことも、声を出すこともできない。それでも不思議なことに、耳から入ってくる音だけは、途切れ途切れながらも意識の中へ届いていた。

 一説には、人が死を迎える間際まで残りやすい感覚は聴覚だと言われている。龍之介の場合も、まさにそうだったのかもしれない。

 声を出して尋ねることはできなかったが、医師や看護師の慌ただしい足音、医療器具が触れ合う硬い音、そして自分の名を呼ぶ家族の声を聞いているうちに、龍之介は自分がどのような状況に置かれているのかを理解した。

「ピッ、ピッ、ピッ――――」

 一定の間隔で鳴っていた電子音が、突然、長く途切れることのない音へと変わった。龍之介の胸に取りつけられていた心電図モニターが、彼の心臓が鼓動を止めたことを、静まり返った病室に知らせていた。

 医師は龍之介の手首に指を添えて脈を確かめ、続いて瞳孔の反応を確認した。その表情から医師としての冷静さが消えることはなかったが、声には長い人生を終えた老人への静かな敬意がにじんでいた。

「ご臨終です」

「おじいちゃん……おじいちゃん、ねえ、聞こえるでしょう。目を開けてよ」

「じいじい、起きてよ。まだ一緒にいたいよ……」

 孫や玄孫たちがベッドへすがりつき、声を上げて泣いた。まだぬくもりの残っている龍之介の身体に触れ、何度も呼びかけ、わずかな反応を求めるように肩へ手を置いたが、龍之介が再び目を開くことはなかった。

「あなた、本当にご苦労さまでした。百年も生きたのですものね。もう、頑張らなくてもいいのですよ」

 長年連れ添った妻は、龍之介の手を両手で包み込み、震える声でそう告げた。目元からこぼれ落ちた涙が、幾筋ものしわが刻まれた頬をゆっくりと伝っていった。

 龍之介の死因は老衰だった。百年にわたって働き続けた細胞も、絶えず鼓動を刻んできた心臓も、とうとうその役目を終える時を迎えたのである。細胞分裂の回数も、心臓が刻める鼓動の数も限界へ達したのだと考えれば、それは人として避けることのできない、自然な最期だったのだろう。

 もっとも、龍之介が家族へ残した最後の言葉は、平成の剣聖と呼ばれた男のものとしては、あまりにも彼らしいものだった。

「今期のアニメの最終回を見たかった……」

 それが、三上龍之介の最後の言葉だった。

 龍之介は孫たちの影響を受けてオタク文化に触れ、そのまま自分も夢中になっていった。孫たちに頼まれるまま、いくらでも小遣いを渡すような甘い祖父ではなかったが、本を買ってほしいと頼まれたときだけは別だった。

 龍之介は本というものを愛していた。歴史書であろうと専門書であろうと、漫画であろうとライトノベルであろうと、そこに優劣をつけることはなかった。孫たちが読みたいと望む本であれば、どのような本でも分け隔てなく買い与え、自分も興味を持てば同じ本を手に取った。

 孫たちのために買ったはずのライトノベルや漫画を、いつしか龍之介自身も楽しみにするようになり、物語の中に描かれた空想の世界へ、自分の夢を重ねるようになっていたのである。だからこそ、武道の達人でありながらアニメや漫画の話が通じる、理解のある少し変わったおじいちゃんとして、家族から深く愛されていた。

 家族に見守られながら臨終を迎えた三上龍之介、享年百歳。

 平成の剣豪、剣聖、最後の武士、塚原卜伝の生まれ変わりとまで言われた男の人生は、こうして終焉を迎えた。

 その死は突然訪れたものではあったが、最期は潮が静かに引いていくように穏やかだった。戦場を生き抜き、家族を持ち、仕事を勤め上げ、好きな武道を究め、孫や玄孫たちに囲まれた末の大往生である。

 三上龍之介は、確かに死んだ。

 意識が闇の中へ沈んだ次の瞬間、龍之介は底の見えない暗い場所を、ほんの一瞬だけ通り抜けたような感覚を覚えた。

 やがて、その闇の向こうから明るい光が差し込んできた。それは目を焼くような強い光ではなく、温かな春の日に木々の隙間から降り注ぐ、柔らかな木漏れ日のような光だった。

 龍之介が重いまぶたを薄く開くと、その光が視界いっぱいに広がった。

 気がつけば、龍之介は現世とはまったく異なる建物の中に立っていた。先ほどまで病院のベッドに横たわり、指一本動かせなかったはずなのに、今は自分の足でしっかりと畳の上に立っている。

 いつ、どこを通って、この場所へ来たのかは分からない。暗い場所を通り抜けたような曖昧な記憶だけが残っていたが、それ以前のことをどれほど思い返そうとしても、霧の向こうをのぞき込むようにはっきりしなかった。

 龍之介が立っていたのは、ひどく広い日本式の部屋だった。

 整然と敷き詰められた畳からは、かすかに青々とした香りが立ち、太い柱と精巧な欄間、重厚な襖が、部屋の格式を物語っている。奥には一段高くなった上段の間が設けられており、その造りは、龍之介が写真や映像で何度も見た二条城の大広間、大政奉還が発表された場面を思わせた。

 障子越しに淡い光が差し込んでいるものの、あまりにも広い部屋には龍之介以外の人影がなく、物音ひとつ聞こえない。その中央にただ一人、龍之介だけがぽつんと立っていた。

「ああ、ここがあの世か。しかし、三途の川も渡っておらんし、お花畑も見ておらん。ということは、これから閻魔様に会うのだろうか。世界大戦へ出兵して、どうにか無事に帰国し、それからは家族とごく普通に暮らしてきた。定年退職したあとは趣味の武道に熱中し、平成の剣豪と呼ばれるまでに数々の武術を修めることもできた。全国津々浦々の温泉や寺社仏閣を巡り、そのついでに各地の道場を訪ねて鍛錬もできたのだから、もう思い残すことはない。幸せな人生だった。だから泣くな、孫たちよ。これも運命というものだ。しかし、今期のアニメの最終回だけは見たかったのう。そればかりは残念だが、死んでしまったものは仕方がない。これも運命と諦めるしかないか。さてはて、儂は地獄へ落ちるのか、それとも天国へ行けるのか。ここで待っていれば閻魔大王様が現れるのか、それとも阿弥陀如来様が迎えに来てくださるのかのう」

 龍之介は誰もいない大広間を見渡しながら、自分の身に起きたことを一つずつ考えた。

 不思議なことに、死んだことへの恐怖も、現状に対する激しい戸惑いもなかった。自分は百年を生き、家族に見送られて人生を終えたのだという事実が、極めて自然なこととして胸の内に収まっていた。

 死後という世界は、案外そういうものなのかもしれない。

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第一話 御臨終
 この物語の主人公、三上龍之介は、百歳の誕生日を迎えた翌日の朝、安らかに息を引き取った。 龍之介は、平成の世には珍しい、筋金入りの武道マニアだった。剣は鹿島神道流、香取神道流、二天一流、柳生新陰流などを修め、居合いや抜刀術にも通じていた。槍は宝蔵院流、さらに弓矢や火縄銃、合気道、空手、柔道、忍術道に加え、ライフル射撃や猟銃の扱いまで身につけていたのだから、武芸百般という言葉がこれほど似合う男も珍しい。 いつしか龍之介は、平成の剣聖、剣豪、最後の武士、さらには塚原卜伝の生まれ変わりとまで呼ばれ、武道の世界では広く名を知られる存在になっていた。 そんな厳めしい経歴とは裏腹に、龍之介の性格は驚くほど柔軟だった。若者の文化を頭ごなしに否定することはなく、むしろ面白そうだと思えば自分から進んで触れてみる。愛読書には孫たちが買ってくるライトノベルが並び、夜更けには深夜アニメを楽しみ、美少女アニメの登場人物について孫たちと真剣に語り合うことさえあった。 筋骨隆々の武道家でありながら、その実、少し変わり者のオタク老人でもあったのである。 龍之介は第二次世界大戦に出兵し、無事に帰国したあとは、地元の大企業である世界のHIT●CHIに入社した。そこでエンジニアとして働き、定年を迎えるその日まで管理職の椅子に安住することなく、現場に立ち続けた。 戦場を生き抜き、戦後の復興と発展を働き手として支え、定年後は趣味の武道に打ち込んだ。その長い人生を振り返れば、百歳という年齢まで生きたことも、決して不思議ではないように思えた。 しかし、その男の死は、本人にとっても家族にとっても、あまりに突然訪れた。 龍之介は死の前日まで元気に過ごしていた。それが翌朝、いつもの時刻になっても起きてこないことを心配した十歳年下の妻が寝室を訪れると、龍之介は深い眠りに落ちたまま、いくら呼びかけても目を覚まさなかった。 妻は震える手で119番へ連絡し、龍之介は救急車で病院へ運ばれた。しかし、救急隊員や医師がどれほど呼びかけても、その意識が戻ることはなかった。 龍之介自身は、まるで全身麻酔を受けたかのような深い眠りの底にいた。身体は動かず、まぶたを開くことも、声を出すこともできない。それでも不思議なことに、耳から入ってくる音だけは、途切れ途切れながらも意識の中へ届いていた。 一説には、人が死を迎え
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第二話 閻魔大王は美少女コスプレイヤー?
「ようこそ、天界にある閻魔の間へ。長い生涯を終えられたこと、誠にご苦労さまでした」 静まり返っていた大広間の襖が音もなく開き、明るく澄んだ声が響いた。 龍之介が声のした方へ顔を向けると、一人の美少女が満面の笑みを浮かべながら部屋へ入ってきた。軽やかな足取りで畳の上を進んでくる姿からは、死者を裁く者のような威圧感などまるで感じられない。龍之介の目には、この見知らぬ場所を案内する水先案内人か、閻魔大王のもとで働く若い案内役にしか見えなかった。 もっとも、ニコニコと屈託なく笑う少女を眺めながら、龍之介の胸には少しばかり複雑な思いも湧いていた。 自分は先ほど死んだばかりなのに、随分と明るく迎えてくれるものだと思ったのである。百年を生きたことに悔いはなく、自らの死も受け入れてはいたが、長年連れ添った妻や、可愛がってきた孫や玄孫たちと永久の別れをしたばかりなのだから、そのような気持ちになるのも当然だった。 このころ現世では、龍之介の葬儀がすでに終わり、その遺体は荼毘に付されていた。家族に見送られながら、百年を生きた肉体は静かに役目を終えたのである。しかし、天界にいる龍之介が、そのことを知る由はなかった。 龍之介は気持ちを落ち着かせるように一度息を整えると、目の前まで歩いてきた美少女へ尋ねた。「あの世の水先案内人ですか。それとも、これから閻魔大王様のところまで案内してくださる方でしょうか?」「いいえ、案内人ではないわ。私が閻魔ちゃんよ」 少女は自分の胸へ手を当て、何でもないことのように答えた。 龍之介は思わず目を見開いた。目の前にいる少女を閻魔大王と呼ぶより、その微笑みを天使のようだと表現した方が、はるかにしっくりくる。 腰まで届く艶やかな黒髪は、歩くたびにさらさらと揺れ、身にまとっている鮮やかな着物には、燃えるように赤い曼珠沙華が描かれていた。その上から羽織っているものは陣羽織に似ており、黒と赤を基調とした色合いが、白い肌と長い黒髪をいっそう引き立てている。 年齢は、二十歳になったかどうかというところだろうか。背丈はやや低く、小柄な体つきと幼さの残る顔立ちのせいで、実際の年齢よりも若く見えた。 しかし、その頭には中央に大きく「閻」と記された、王冠のような装飾品が載せられている。片手には笏を持ち、服装だけを見れば、確かに閻魔大王を意識した姿であることは
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第三話 天国か地獄? ではなく、天国か? 異世界?だった!
第三話 天国か地獄? ではなく、天国か? 異世界?だった!「さてはて、閻魔大王様」「閻魔ちゃんと呼んでね」 龍之介が改まって呼びかけると、閻魔大王本人は、もっと親しみを込めて呼んでほしいとでも言うように、自分を指さしながら微笑んだ。「では……閻魔ちゃん。私は地獄へ行くのでしょうか、それとも天国へ行けるのでしょうか?」 龍之介は、自分の孫ほど年の離れているように見える閻魔大王へ、背筋を伸ばして恭しく尋ねた。 百歳まで生きて大往生を遂げたとはいえ、自分がこれから天国と地獄のどちらへ送られるのかは、やはり気になる。死者として最初に知りたいことは何かと尋ねられれば、ほとんどの者が同じ質問をするのではないだろうか。 これまで龍之介が知っていた死後の行き先は、天国か地獄の二つしかない。もっとも、自ら進んで地獄へ行きたいと願う死者など、そうそういるはずもなかった。 もし痛みや苦しみに快楽を覚え、地獄へ行くことを望む者がいるとすれば、よほどのマゾヒスト、それも超がつくほどの者だろう。あるいは、現世で悪行を重ね、その罪を心から悔いている者ならば、自ら罰を受けたいと願うこともあるのかもしれない。「もう、龍之介ちゃんはせっかちなんだから。めっ。ちょっと待ってね」 閻魔ちゃんは悪戯をした子供をたしなめるように人差し指を立てると、何やら確認するように視線を動かした。「はい、お待たせ。龍之介ちゃんは、これといって悪いことをしていないから天国よ。それとも、輪廻転生してもう一度生まれ直したい? と言っても、もともと地獄なんて存在しないのだけれどね」「えっ、地獄がないのですか? それでは、生前に悪行を重ねた者が死んだ場合はどうなるのでしょう。まさか、死んでしまえば無罪放免というわけではありませんよね?」「もちろん、そんなわけはないわ。悪行を重ねた者は現世へ転生させられて、ミジンコやアメーバ、プランクトンあたりから人生をやり直すのよ」「ミジンコやアメーバからですか。それでは、小さな生物として輪廻転生を繰り返しながら、最終的に人間へ戻るということなのでしょうか?」「そうよ、正解。まあ、途中で脱落してしまう者もいて、そういう魂は永遠の混沌に包まれた、何も存在しない無の世界へ行ってしまうのだけれどね。光も音もない暗闇の中を、永遠に漂い続けるだけの世界よ。なかなか良いでしょう?
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第四話 異世界転生先はロールプレイングゲーム?
 龍之介は、国立国会図書館やヴァチカンの図書館にも匹敵するほどの本が隙間なく収められた部屋で、異世界転生設定資料という名の物語カタログを読みながら、一人で考え込んでいた。 天井近くまで伸びた書棚の間には、数え切れないほどの本が並んでいる。一冊を手に取り、内容を確認してから元の場所へ戻し、また次の一冊を開くという作業を、龍之介は延々と繰り返していた。 いったい、どれほどの時間が経過したのだろう。 部屋には時計がなく、窓の外から差し込む淡い光も、まったく変化していない。何時間も本を読み続けているはずなのに、腹が減ることもなければ、喉が渇くこともない。目の疲れも肩の凝りも感じず、眠気さえ襲ってこなかった。 それは現在の龍之介が、人間という名の生命ではなく、肉体から離れた死者の魂であることを、何よりも明確に物語っていた。「異世界へ転生し、チートスキルを持つ勇者になって、美少女たちを集めてハーレムを作る……。これはまた、孫たちが喜びそうな、異世界転生ライトノベルの典型ではないか」 龍之介は手にしていた分厚い本をめくりながら、思わず苦笑した。 本の中には、剣と魔法が存在する世界へ勇者として転生し、圧倒的な力で魔物を倒しながら、次々と美少女たちを仲間に加えていく人生が紹介されていた。孫たちが読んでいたライトノベルにも、似たような物語がいくつもあったことを思い出す。「儂は異世界冒険物よりも、学園青春ラブコメの方が好きだったのだがな。儂の青春時代は戦争の真っただ中で、同級生の娘と放課後に寄り道をしたり、誰かと甘酸っぱい恋をしたりする余裕などなかった。今から学生になり、そういう青春をやり直すというのも悪くはないが……本当に一からやり直すことができるのだろうか」 龍之介は本を閉じると、近くに置かれていた別の一冊へ手を伸ばした。 転生先として用意されている設定は、本当にごまんとあった。 学園で恋をする青春ラブコメ転生、可愛らしい妹に慕われる妹萌え生活設定、仲間とともに魔王討伐を目指す勇者冒険設定、一国の主となって天下を統一する設定、圧倒的な権力を握る独裁者設定、誰とも打ち解けられない非モテ根暗生活設定、人気ライトノベル作家を目指す生活設定、変わり者の妹と格闘の日々を送るシスコン生活設定、さらには宇宙全体の支配を目指す戦争設定まで存在している。 恋愛、冒険、戦争、政
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第五話 異世界転生には特典が付いていました
 閻魔ちゃんの秘書である司録に案内され、閻魔大王の間まで戻ってきた龍之介は、入口の前に用意されていた待合用の椅子へ腰を下ろしていた。 どうやら、閻魔ちゃんのもとには先客がいるらしい。閉じられた戸の向こうから、誰かを厳しく叱りつける大きな声が聞こえてきた。「あなたは鬼畜よ! 数多くの婦女暴行に殺人、放火まで重ねるなんて、これほどの悪人は久しぶりに見たわ!」 先ほどまで龍之介と冗談を交わしていたときとは、まるで別人のような閻魔ちゃんの声だった。高く澄んだ美少女の声であることに変わりはないが、その一言一言には、聞いている者の魂まで震わせるような怒りと威厳が込められている。「あなたはミジンコから輪廻転生を繰り返し、魂を一から浄化しなさい! そして、いつの日か再び人間へ生まれ変わることができたなら、そのときこそ善行を積めるよう精進しなさい! あなたをミジンコの刑に処します。以上! 司録、そこにいるのでしょう? この者を連れていきなさい!」 戸の外に座っている龍之介にも、その宣告は一言残らず聞こえていた。「ミジンコ……。本当にミジンコの刑があるのか……」 龍之介は、自分が水の中を漂う小さなミジンコへ転生した姿を想像し、背筋に冷たいものを感じた。「ミジンコから輪廻転生を繰り返し、もう一度人間になれる日は、いったいいつになるのだろう。そもそも、あの者は無事に人間まで戻れるのか……。しかし、罪状が罪状だけに情状酌量の余地はないな。儂が生きていた時代なら、その場で斬り捨てておるところだ」 ミジンコからやり直す果てしない道のりを考えると、龍之介の顔色も自然と悪くなる。しかし、婦女暴行や殺人、放火を重ねたという先客の罪に対しては、強い怒りを覚えていた。 龍之介は戦場を知り、人が人を殺す場面も見てきた。それでも、力の弱い者を一方的に傷つけ、自らの欲望のために命を奪う行為を許せるはずがない。閻魔ちゃんの裁きが重すぎるとは、少しも思わなかった。 しばらくすると戸が開き、先ほど龍之介を資料室まで案内した司録が、無表情のまま先客を連れて出てきた。龍之介と目が合うと、司録は小さく一礼し、そのまま長い廊下の向こうへ歩いていった。 やがて、部屋の中から先ほどまでの厳しい響きが嘘だったかのような、明るい声が聞こえてきた。「龍之介ちゃん、もう入っていいわよ。転生先が決まったのね?」
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第六話 所持品を考える龍之介
 異世界へ持っていける所持品は十個。さらに、生前に寺社仏閣へ参拝し続けたことで得た特典として、転生後の出生身分まで自由に設定できる。 閻魔ちゃんから突然そのように告げられた龍之介は、案内された書院造の個室に一人で座り、畳の上へ広げた用紙を前にして慎重に考え込んでいた。 異世界転生を題材にした物語の多くでは、転生する者が神様などからチートスキルや所持品を提示され、その場ですぐに選択を迫られる。しかし、龍之介の場合は違っていた。すでに死者となった彼には時間がいくらでもあり、閻魔ちゃんも急いで決める必要はないと言ってくれている。 そのため龍之介は、思いついた品物をすぐに用紙へ記入するのではなく、それが本当に必要なのか、戦国時代で役に立つのか、別の品物で代用できないのかを一つずつ吟味していた。 百歳まで生きたためか、それとも戦争や仕事を通じて、準備不足が命取りになる場面を何度も経験してきたためか、龍之介は石橋を叩いて渡るような慎重さを身につけていた。「まず必要なのは、時代と身分に合った服だな。これは当然として記入してよいだろう。さすがに閻魔ちゃんが喜んで言っていたような、裸一貫でチンコをぶらぶらさせた状態では困る。儂は露出狂でもなければ、変態でもないからのう」 龍之介は筆記具を手に取ると、用紙の最初の欄へ「時代と身分に合った服」と書き込んだ。「次は日本刀だな。戦国時代へ行くうえに、剣術の腕をそのまま持っていけるのだから、刀を持たないという選択肢はない。しかし、『名刀大小』と書いた場合、太刀と脇差で二つと数えられるのだろうか。それとも、大小一組として一つに数えてくれるのか」 持っていける品物は十個までと決められているが、どこからどこまでを一個として扱うのかは聞いていなかった。刀と鞘を別々に数えるとは思えないが、大小二振りを一つと認めてもらえるかどうかは分からない。「それに、名刀と書くだけで、どの程度のものまで許されるのだろう。せっかくなら国宝級の刀を望みたいところだが、あまり欲張れば閻魔ちゃんに却下されるかもしれん。とはいえ、遠慮してなまくら刀を持っていっても仕方がない。ここは思い切って希望を書いた方がよいだろうな」 龍之介は刀に関する候補を余白へ書き留めると、次の品物について考え始めた。「刀を持つなら、次は甲冑だ。儂の好みで言えば、伊達政宗が用いた黒
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第七話 閻魔ちゃんの許可
第七話 閻魔ちゃんの許可 異世界へ持っていく十個の所持品と、自分自身の出生設定を決めた龍之介は、完成した申請用紙を司録へ手渡した。 縁なしの眼鏡をかけた司録は、書き込まれた内容へ上から順に目を通すと、確認のため、一つずつ落ち着いた声で読み上げていった。「所持品の一つ目は、時代と身分に合った服。二つ目は、名刀の大小一組として童子切安綱。三つ目は、伊達政宗型の黒漆塗五枚胴具足。四つ目は、現代の一千万円分に相当する金子。五つ目は、リボルバー式拳銃の三五七マグナムと銃弾一万発。六つ目は、高性能ライフル銃と銃弾一万発。七つ目は、料理を完全に習得した美少女の妻。八つ目は、剣術を習得した忍びの部下。九つ目は、名槍の蜻蛉切。そして十個目が、軽量鉄骨造りでソーラー充電設備を搭載した、高気密高断熱住宅。ウォシュレット付き洋式トイレ完備……ですか」 最後の一つを読み終えた司録は、申請用紙から顔を上げ、眼鏡の奥から龍之介を見つめた。その表情は相変わらず冷静だったが、わずかに呆れているようにも見えた。「続いて、三上龍之介殿ご自身の設定ですね。お名前は、従三位権中納言藤原朝臣三上龍之介正圀。年齢は二十歳。帝の落胤であることは周知の事実ですが、帝位継承権は持たない。中流貴族でありながら、常に帝への拝謁を許されている。藤原三上家の当主で、龍之介殿を慕うブラコンの妹が二人いる。陰陽道の力を持ち、現世で鍛錬した武術の力も、すべてそのまま引き継ぐ……以上で間違いありませんか?」「はい、その内容でお願いします」 龍之介が満足そうにうなずくと、司録はもう一度、所持品と設定が書かれた用紙へ目を落とした。「かなり欲張りましたね」「やはり駄目でしょうか?」「許可するかどうかを決めるのは閻魔ちゃんですが、童子切安綱や蜻蛉切といった国宝級の武具を、当たり前のように希望するとは思いませんでした。銃弾も、それぞれ一万発ずつですし、住宅に至っては、複数の設備を無理に一つへまとめていますよね」「伊達に百年も生きておりませんから、多少は図々しくなりました。遠慮した結果、本能寺の変を阻止できなか
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第八話 時は今 天が下知る 五月かな
  三上龍之介改め、従三位権中納言藤原朝臣三上龍之介正圀は、京都の西部にそびえる愛宕山、その山中に鎮座する愛宕山神社の境内に立った状態で目を覚ました。 天界で龍之介を包み込んだ青白い光は、すでに跡形もなく消えている。目の前には苔むした石畳と古びた社殿があり、その周囲を初夏の深い緑が取り囲んでいた。 湿り気を帯びた山の空気が鼻を通り、土と木々の香りが胸いっぱいに広がる。枝葉の間から差し込む日の光は柔らかく、遠くからは小鳥のさえずりが聞こえていた。「ここが、儂の望んだ戦国時代なのか……」 龍之介は周囲を見回したあと、最初に自分の身体を確かめた。 百歳のころには深く刻まれていた手のしわが消え、指も手首も若々しい。背筋を伸ばしても腰や膝に痛みはなく、胸へ空気を吸い込めば、二十歳のころを思い出させる力が全身に満ちていた。 魂だけでなく、肉体も確かに若返っている。 続いて龍之介は、自分が身につけている衣服を確認した。服装は中流公家の身分にふさわしいもので、頭には長烏帽子をかぶり、腰には名刀・童子切安綱の太刀を佩いている。 公家であるため、腰に小太刀は差していなかった。しかし装束の内側を調べてみると、外からは見えない位置に小太刀が隠されている。 鞘からわずかに抜き、刀身を確認した龍之介は、その見事な刃文に目を細めた。「これは正宗ではないか。申請した覚えはないが、ずいぶんと豪勢なものを持たせてくれたな」 さらに装束の脇下には、革製のホルスターへ収められた三五七マグナムがあった。懐を探ると財布も入っており、すぐに使えるだけの金子が納められている。 童子切安綱、正宗の小太刀、三五七マグナム、そして財布。 龍之介は一つずつ手で触れ、転生直後から必要になる装備が、確かに用意されていることを確認した。「服も身分に合っているし、武器も金もある。しかし、これだけでは、本当に戦国時代へ来たのかどうかまでは分からんな」 龍之介が一人で呟いた、そのときだった。 耳の奥で小さな電子音が鳴り、続いて聞き覚えのある女性の声が
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第九話 1582年6月21日
  歴史上、本能寺の変が起きた日の早朝。 もし、この日に本能寺の変が起こらず、織田信長が生き延びて天下統一を成し遂げていたならば、日本の未来はどのように変化していたのだろうか。 後世における世界の中心は、アメリカ合衆国ではなかったかもしれない。産業革命もイギリスではなく、日本から始まっていたかもしれない。 そのように評価されるほど、織田信長という人物には、歴史そのものを変える可能性があった。 本来であれば、その織田信長の命日となるはずだった朝、三上龍之介正圀と明智日向守光秀、そして光秀の配下数人は、本能寺の門前に立っていた。 龍之介たちは夜のうちに愛宕山を下り、まだ都が眠りから覚めきらない時刻に本能寺へ到着していた。周囲の家々は静まり返り、往来を行き交う人影もほとんどない。東の空がようやく白み始め、朝露を含んだ冷たい空気が、薄暗い京の町を満たしていた。 本能寺は一重の水堀と塀に囲まれており、寺というより、小さな砦と表現した方が似つかわしい造りになっている。 織田信長が京都へ滞在する際の宿泊所として使う施設であるため、敵の襲撃へ備えた最低限の防衛設備は整えられていた。しかし、本格的な城郭と比べれば、その守りが十分であるとは言い難い。 二条城という城があるのだから、そこへ宿泊すればよいものを、あえて本能寺を選んだことは、天下統一を目前に控えた信長の油断だったのかもしれない。 もっとも、史実では二条城も明智軍の別働隊によって攻め落とされている。そのため、本能寺の変は、織田信長を殺害するという一点においては、成功した謀反だったと考えてよいだろう。 しかし、今朝の本能寺へ明智光秀の大軍が押し寄せることはなかった。 光秀は信長を討つためではなく、腹の内を明かし、これまで抱えてきた誤解を解くために来ている。 謀反の意思がないことを示すため、光秀は愛宕山で身につけていた甲冑を脱ぎ、平服へ着替えていた。武将としての威厳は損なわず、それでいて主人へ拝謁する際に失礼とならないよう、身なりを丁寧に整えている。 光秀は一度だけ大きく息を吸うと、本能寺の門番
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第十話 信長と龍之介
 明智光秀が毛利攻めへ向かうために本能寺を出ると、謁見の間には織田信長と龍之介が残された。 信長は光秀が去っていった方へしばらく視線を向けていたが、やがて龍之介へ向き直った。「さて、中納言殿。儂は以前から、一度そなたと腹を割って話してみたいと思っておりました」「それは奇遇ですな。それがしも、安土様とは一度、ゆっくりお話をしてみたいと思っておりました」「では、茶室へ場所を移しましょう。蘭丸、茶室の支度はできておるか?」 信長が声をかけると、襖の外で控えていた森蘭丸が、間を置かずに返事をした。「はっ。すでに整っております」 蘭丸は、信長が龍之介と二人で話すために茶室へ移ることを予想し、謁見が始まる前から準備を進めていたらしい。 信長が細かな指示を出すより先に、その意図を読み取って動く。蘭丸が小姓として寵愛されているのは、容姿が美しいからだけではなく、主人の考えを先回りできる有能さを備えているからなのだろう。「中納言様、こちらでございます。茶室までご案内いたします」 龍之介は信長に続いて立ち上がると、蘭丸の案内で本能寺の庭へ出た。 庭園の一角に、周囲の景色へ溶け込むように小さな茶室が設けられていた。 建物そのものは質素で、華美な彫刻や金銀の飾りは見当たらない。しかし、庭の石や木々との釣り合いが見事に整えられ、窓からは季節の草花を借景として楽しめるよう工夫されている。限られた空間の中へ自然の美しさを取り込む造りには、武将としてだけでなく、文化人としても優れた感性を持つ信長の才能が表れていた。 龍之介と信長は、身体をかがめなければ通れない狭い躙り口から茶室へ入った。 室内に入ったのは二人だけであり、森蘭丸は外で待機している。わずかな物音にも対応できる位置にはいるが、二人の会話を邪魔することはなかった。 茶室の中には畳と土壁の落ち着いた香りが漂い、庭から聞こえる鳥の声と、時折風に揺れる葉の音だけが、静かな空間へ届いていた。 信長は龍之介の前へ座ると、自ら茶を点て始めた。 茶道具へ手を伸ばす所作には、一切の
last updateÚltima atualização : 2026-09-04
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