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第1063話

Author: 夜月 アヤメ
「西也、次はもう、こんな馬鹿なことはしないでくれ。そんな価値のあることじゃない」

成之の言葉に、西也の表情が冷たくなった。

「私のことは、私が決めます。もう子どもじゃないんです。いちいち繰り返し言われる筋合いはありません」

その態度に、成之も違和感を覚えた。

そして、静かに口を開いた。

「けれど、お前にどうしても伝えておかなくてはならないことがある。今、言わせてもらうよ」

「......何の話ですか?」

二人が病室に入ってきたときから、どこか様子がおかしいと西也は感じていた。

「俺の兄が亡くなる前に、一人の娘がいたんだ。まだ赤ん坊のころに、危険を避けるために他の場所へ送られた。兄の妻がその子を傷つけるかもしれないと心配されてな......それ以来、村崎家でも行方がわからなかった。でも―約一年前に......」

そこまで聞いたところで、西也の顔は明らかに曇った。

「もう、それ以上は言うな」

だが、成之は話を止めなかった。

「一年前、私はある女性が、あのときの伯父の女性によく似ていることに気づいた。そして調べてみたら、彼女の育ての親は、実の親ではなかったとわかったんだ」

「やめろって言ってるんだ!!」

西也が突然、枕を掴んで成之に向かって投げつけた。

「お兄ちゃん、やめて!」

花が慌てて枕を受け止めて抱きしめる。

「相手は叔父さんなのよ、そんなことしちゃダメ!」

「......出て行け。全員、出ていけ!」

成之はまだ話し終えていなかったが、西也には、言おうとしている内容がもう分かっていた。

こんなときに、こんな話をするなんて―彼らの意図は明白だった。

そう、若子がその「娘」だということを、伝えに来たのだ。

けれど、成之はもう止まらなかった。西也が聞きたくなくても、どうしても伝えなければならないと覚悟していた。

これ以上、西也が壊れていくのを黙って見ているわけにはいかなかった。

「松本若子は、お前の従妹なんだ。彼女は俺の兄の娘で、つまりお前たちは血のつながった親戚同士なんだ。だから......離婚するのは、正しい選択だ」

「黙れ......黙れって言ったはずだ!」

西也の声は、怒りで震えていた。

彼はベッドから無理やり体を起こし、成之を思いきり突き飛ばす。

「出ていけ!今すぐ、出て行け!」

「お兄ちゃん、やめて!」
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Comments (5)
goodnovel comment avatar
ayako
若子が今までと違い西也の言い訳や説得に流される事なくキッパリとした態度を取れているの凄いですね!読んでいて気持ちいいです!そして叔父さんにすぐに相談してくれた花や、すぐに対応してくれた叔父さんも!やきもきしていた近親婚の事がやっと西也に伝わりスッキリしました! この調子で、侑子のこれまでの若子への態度や西也に監視カメラの事をバラした件も早くバレてくれるといいですね。修、ちゃんと調べてくれてるかな。絶対に手を抜かないで調べて欲しいです!
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hayelow488
西也、なかなかくたばらないですね。 話長いです(笑)。 西也だけでは不公平ですので、次は、侑子の化けの皮を剥がしてください。 そのときは喜んで何度も読み返します。
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barairose88
昨日からの西也のターン、あまりにも卑劣で、計算高く、嫌悪感しかありません。 西也にしても侑子しても、本当に安易に、命を盾に駆け引きをする、繋ぎ止めようとする、愚か過ぎます。 ただそんな中、若子の冷静さが救いです。 今までなら絆されていた…流されていた… でも今回はきっちり、侑子の関与を含めたアメリカ編の全貌を究め、更に西也との正しい離婚を決断出来た! 本当に強くなりましたね! そして西也、血の繋がりの真実を、現実を直視して! 成之叔父さんと花ちゃんの言葉を真摯に受け止め、退場して欲しい。
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