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第1194話

Author: 夜月 アヤメ
「ありがとう」若子はタピオカを受け取りながら、小さなギフトボックスを手渡した。

「これ、ささやかだけどプレゼントです。受け取ってください」

「わ、プレゼントまで!」作者は両手で丁寧に受け取り、にっこり笑った。「ありがとう、優しいんだね。じゃあ、お昼は私がおごるよ!」

ファンと直接会えることに、作者はとても嬉しそうだった。

「いえ、ここは私がごちそうさせてください」若子は遠慮がちに言う。

「だめだめ、それはこっちのセリフ。読んでくれて本当に嬉しいし、感謝の気持ちを込めて私がごちそうしたいな」

「あなたの作品が素晴らしいから、読むのが止まらなくなったんです」

「わぁ、それは嬉しい。じゃあ、ぜひ感想を聞かせて。どんなふうに感じた?」

作者は誠実な表情で尋ねた。単なる中傷ではなく、本気で作品を読んだ人の意見なら、どんなものでも受け止めるつもりのようだった。

若子は少し考え込んでから口を開いた。

「正直、すごくドロドロしてて......読んでて何度もムカッとしました。でも、文章はすごく読みやすくて、ついページをめくっちゃう。説明とか言い回しも簡潔で、テンポが良くて。とにかく、引き込まれます。感情移入しやすいです」

「ふふっ、やっぱりそう思う?私、あえて『ドロドロ系』に振り切ってるの。でも、現実のほうがよっぽどドロドロしてたりするんだよね」

作者は肩をすくめながら笑った。若子もつられて微笑む。

「そういえば、この前読んでたとき、『安奈』って名前の読者がずっとあなたを誹謗中傷してたんですけど、あれ、気づいてます?」

「うん、もちろん。あの子はね、どうやら感情移入しすぎて、女主人公が男主人公を許さない展開にブチ切れたらしくて。最初はキャラ叩きだけだったのに、だんだん作者の私にまで攻撃してくるようになってね。下品な言葉ばかりで、下ネタまで混ぜてくるし、味方も引き連れて、まあしつこいのよ」

そう言いながら、作者はどこかあっけらかんとしていた。

その様子に、若子は首を傾げた。

「......あそこまでひどいこと言われてたのに、全然気にしてないんですか?」

「なんでそんなバカのことで怒らなきゃいけないの?」作者は肩をすくめながら言った。「あんなの、私の執筆にはなんの影響もないし、普通の読者はちゃんとしてるからね」

「本当に割り切ってるんですね」若子は感
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