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第1455話

Author: 夜月 アヤメ
家に帰るまでの道中、修も卓実も、親子ふたりとも口をきかなかった。

重い沈黙のまま家に着くと、修は無表情のままソファに座り、冷たい声で言った。

「卓実、学校で問題を起こすのは、これで何回目だ?」

修の目は、氷のような冷たさをたたえている。

「だって、向こうが先に悪口言ったんだ」卓実はうつむいたまま、声を絞り出した。

「じゃあ、前の件はどうなんだ?お前が先に人をいじめたこと、何も言わないのか?」

修は厳しく問い詰める。

自分の息子がいつも被害者だとは思っていない。時には、卓実が加害者になることもあるのを、彼は知っていた。

もし相手が先に手を出したり、ひどいことを言ってきたなら、修は全力で息子を守る。

でも、理由もなく人を傷つけたなら、話は別だ。

普段なら、問題が起きるたびに秘書に処理を任せてきたが、積み重なるトラブルに、修は危機感を覚え始めていた。自分が直接手を打たないと、この子はどう育ってしまうかわからない、と。

「でも今回は向こうが先にいじめたんだ」卓実は強情を張る。

「今回のことじゃなくて、前の話だ。人のカバンに偽物のヘビを入れたり、教科書を溝に捨てたり、あの子たちはお前に何もしてなかっただろ?」

こういうことがあるたび、修は何度も卓実を叱ってきた。でも全然直らない。

「だってあいつら、僕に嫌なこと言うもん。悪口も言うし」

「何て悪口を言われたんだ?」

「とにかく言われたんだ!」卓実は怒って叫ぶ。「あいつらなんか嫌いだ!」

そう言って、卓実は逃げようとする。

修はすかさず腕をつかんだ。

「卓実、前にも言っただろ。いじめるのは禁止だ。俺の言うことを聞き流す気か?また同じことしたら、今度お前が逆にいじめられて相手の親が殴り込みに来ても、俺はもう助けない。そっちに引き渡すぞ」

「助けてくれなくていいよ!どうせ僕なんかどうでもいいんだろ!」

卓実は修の手を力いっぱい振りほどき、そのまま走り去った。

「卓実」

修は立ち上がり追いかけようとしたが、卓実は執事のところへ飛び込んだ。

執事は卓実を抱きかかえ、涙をぬぐってやる。

修はため息をつき、重い足取りで階段を上っていった。

一歩一歩がやけに重く感じた。

自分はいい父親だと思っていた。若子もかつてそう言ってくれた。でも現実は違った。息子がこんなふうに育ったのは、自分の責任が
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Comments (5)
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ウサコッツ
見なければいいのではないでしょか
goodnovel comment avatar
nami
消えるのはあなたですよー↓↓↓ コメウザいので消えてください
goodnovel comment avatar
ウサコッツ
修も卓実も あの女がいなくても大丈夫くらいになってればな あの女が現れて 新たな男連れてきたら 絶対狂うでしょ 卓実も修もあの女に憎しみや嫌悪感 憎悪くらい持って 現れても無視するくらい強くなって欲しい
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