LOGIN夫の子を妊娠した佳苗は、出産直後に命を落としかける。薄れる意識の中で聞こえたのは、夫と妹の残酷な真実だった――「佳苗は代理母として用済み」。 不妊の妹のため、夫と妹は最初から佳苗を利用していたのだ。絶望のまま死んだはずの佳苗は、気づけば妊娠前に戻っていた。今度こそ二人から逃げると決意した彼女の前に現れたのは、冷徹CEO・榊原雄吾。「やっと手に入る」――彼は昔から佳苗だけを執着する危険な男で…!?
View More「……これ、やりすぎじゃないですか?」 佳苗は思わず引きつった声を漏らした。 リビングのモニターにはマンション内の防犯映像。 エントランス。 エレベーター前。 フロア入口。 複数の警備員まで映っている。「通常対応だ」 ソファへ座った雄吾が平然と言う。「通常!?」「今の状況なら当然だ」 佳苗は絶句した。 昨日のメッセージ以降、警備体制が明らかに強化されている。 エレベーターも専用キー必須。 来客は事前登録制。 フロアには常時警備員。 もはや要人警護レベルだ。「私、そんな危険人物に狙われてるんですか……?」「悟は執着型だ」 低い声。「追い詰められると何をするか分からない」 佳苗は言葉を失う。 確かに最近の悟は怖い。 前のような穏やかさがなくなっている。 でも。「だからって、ここまで……」「お前は危機感が足りない」 即答だった。 佳苗はむっとする。「先輩、最近そればっかりです」「事実だからな」 雄吾はタブレットへ視線を落としたまま続けた。「外出はしばらく制限する」「えっ」「必要な買い物はこちらで手配する」「ちょ、ちょっと待ってください!」 佳苗は慌てて立ち上がる。「さすがにずっと家の中は無理です!」「今のお前を一人で歩かせる方が無理だ」「でも……!」 言い返そうとして、言葉に詰まる。 怖いのは事実だ。 また悟に会うかもしれない。 恵が来るかもしれない。 そう思うと外
「……どうして出ないのよ」 坂井恵は苛立たしげにスマホを睨みつけた。 佳苗へ何度電話しても繋がらない。 メッセージも既読にならない。 悟も最近ずっと機嫌が悪かった。「全部、お姉ちゃんのせいじゃない……」 ぽつりと呟く。 広いリビングには誰もいない。 以前は佳苗がいた。 食事を作って。 洗濯して。 家のことを全部やって。 悟の世話までしていた。 なのに今は、部屋が妙に荒れている。 シンクには食器。 脱ぎっぱなしの服。 悟は最近ずっとイライラしていて、少し注意しただけで怒鳴るようになった。『なんで家のこともまともにできないんだ』「……っ」 恵は唇を噛んだ。 前はそんなこと言わなかった。 もっと優しかった。 全部、佳苗がいなくなってからだ。「お姉ちゃんさえ戻れば……」 その時だった。 玄関の扉が乱暴に開く。 悟だった。 ネクタイを緩め、苛立った顔をしている。「お、おかえり……」「飯は?」「え……」 恵は固まった。 今日は何も作っていない。 というか、作れない。 料理は昔から佳苗任せだった。「……まだ」 途端に悟が舌打ちした。「は?」「ご、ごめんなさい……」「お前、家にずっといたよな?」 冷たい声。 恵の胸がひゅっと縮む。 違う。 こんな人じゃなかった。 でも。 佳苗がいなくなってから、悟はどんどん変わってしまった。「……佳苗なら、ちゃんとやってたのに」 ぼそりと落ちたその一言。 恵の顔色が変わる。「っ……!」 比べられた。 ずっと嫌だった言葉。 昔からそうだ。『佳苗ちゃんはしっかりしてるのに』『お姉ちゃんを見習いなさい』 両親も。 教師も。 周囲も。 みんな佳苗ばかり褒めた。 だから奪ったのに。 悟を。 佳苗の“幸せ”を。 それなのに。 どうして自分は幸せになれていないのだろう。「……最近、変だよ」 恵は小さく呟いた。「あ?」「前はもっと優しかったじゃない……」 すると悟が苛立たしげに髪をかき上げる。「仕方ないだろ」「え……」「佳苗がいなくなってから、全部狂ったんだよ!」 その瞬間。 恵の胸がざわついた。 全部狂った。 つまり。 この生活は、佳苗が支えていたということだ。「……お姉ちゃんがいないと駄目ってこと?」「そ
その日の夜。 佳苗は一人、部屋のソファへ座っていた。 窓の外には都会の夜景が広がっている。 静かだった。 あまりにも静かで。 だからこそ、悟の留守電が頭から離れない。『お前が帰ってくれば丸く収まる』「……どこが」 ぽつりと呟く。 前の自分なら、きっと揺らいでいた。 自分が我慢すればいい。 戻ればいい。 そう思ってしまっていた。 でも今は違う。 戻った先にあるのは、幸せな家庭じゃない。 利用されるだけの人生だ。 その時。 コンコン、と軽いノックが響いた。「……はい」 扉が開く。 雄吾だった。「起きてたか」「……先輩」 手にはマグカップが二つ。「眠れなさそうだったからな」 佳苗は目を瞬く。「分かるんですか?」「顔に出てる」 そう言いながら、雄吾は湯気の立つカップをテーブルへ置いた。「ホットミルクだ」「……子供扱いしてません?」「してる」 即答だった。 佳苗は思わず吹き出す。「否定してくださいよ……」「今のお前は放っておくと無理をする」 低い声。「だから甘やかしてる」 またそういうことを言う。 佳苗は熱くなった頬を隠すようにカップを持った。 温かい。 指先からじんわり熱が広がっていく。「……ありがとうございます」「飲め」 雄吾は向かいへ腰を下ろした。 しばらく静かな時間が流れる。 不思議だった。 沈黙なのに気まずくない。 むしろ落ち着く。「……先輩」「なんだ」「どうして、そこまでしてくれるんですか」 佳苗はカップを見つめたまま呟く。「普通、ここまでしないですよね」 家に住まわせて。 守って。 離婚まで手伝って。 そこまで他人に尽くす人なんて、普通はいない。 すると雄吾は少しだけ目を細めた。「普通じゃないからな」「……開き直りました?」「今さらだろ」 佳苗は小さく笑った。 だが次の瞬間。 雄吾が静かに続ける。「それに、お前は“他人”じゃない」 心臓が跳ねる。「……っ」「昔から、放っておけなかった」 低く穏やかな声。 押しつけがましくない。 でも真っ直ぐだった。 佳苗は視線を落とす。 この人はずるい。 強引じゃないのに、逃げられなくなる。「……先輩って」「なんだ」「絶対モテますよね」 すると雄吾は一瞬黙った。「興味な
「失礼いたします」 午後。 インターホンのあと、リビングへ入ってきたのはスーツ姿の女性だった。 三十代半ばくらいだろうか。 眼鏡をかけた知的な雰囲気の女性だ。「初めまして。榊原様の顧問弁護士をしております、三浦と申します」 佳苗は慌てて立ち上がった。「は、初めまして……!」「そんなに緊張しなくていい」 隣で雄吾が低く言う。「三浦は信頼できる」「榊原様、それ、褒め言葉として受け取っていいんですよね?」 三浦が苦笑する。 少し空気が和らいだ。「今日は離婚に向けた今後の流れをご説明します」 三浦はタブレットを開いた。「まず、現在の状況ですが――別居は成立しています」 佳苗は小さく息を呑む。 別居。 その言葉だけで現実感が増した。「今後は、不倫の証拠整理と財産関係の確認を進めます」「……証拠」「はい。すでにある程度はこちらでも調査しています」 その瞬間。 佳苗は思わず雄吾を見た。「……先輩」「最低限だ」 雄吾は淡々と言う。「お前が不利にならないようにしてるだけだ」 最低限。 これが最低限なのか。 佳苗は少し遠い目になった。 三浦が資料を見せながら続ける。「ご主人と妹さんのやり取りについても、現在確認中です」 胸が少し痛む。 まだ完全には慣れない。 夫と妹。 その組み合わせを聞くだけで苦しくなる。「……佳苗様?」 三浦が心配そうに声をかける。「あ、すみません」「無理はしないでください」 優しい声だった。 佳苗は小さく頭を下げる。 すると隣から低い声が落ちた。「今日はここまでにするか」「え?」 雄吾が資料を閉じる。「顔色が悪い」「だ、大丈夫です」「無理するな」 その言い方が自然すぎて、三浦がふっと笑った。「榊原様、本当に過保護ですね」「当然だ」 即答だった。 佳苗の顔が熱くなる。 三浦は面白そうに目を細めた。「安心してください、佳苗様」「え?」「この人、一度囲い込んだ相手には徹底的ですから」「三浦」 低い声。 だが三浦は気にした様子もない。「昔から変わりませんね」「余計なことを言うな」 珍しく少し不機嫌そうな雄吾に、佳苗は目を瞬く。 なんだろう。 今の会話。 妙に気になった。「……昔から?」 佳苗がぽつりと呟くと、三浦が「あ」と口元を押さ