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第7話

作者: みずちゃん
三日後、あずさは一人で退院した。

その日は偶然にも、怜奈の誕生日であり、同時にあずさ自身の誕生日でもあった。

予約していたバースデーケーキが届くと、あずさはキッチンに立ち、自分の好きな料理を作った。

テーブルに料理を並べ、ケーキにろうそくを立てる。小さな炎が揺れるのを見つめながら、静かにバースデーソングを口ずさんだ。

そして目を閉じる。

――願わくば、もう二度と直哉と会いませんように。

願い事を終えた直後、玄関の扉が開く音がする。

直哉が帰ってきたのだ。

酒に酔っているらしく、足取りは少しふらついている。

テーブルの上に置かれたケーキとろうそくを見た瞬間、顔が険しくなる。

彼は大股で歩み寄り、ケーキを床へ叩き落とした。さらにテーブルを乱暴に払いのける。

「何度も言っただろう!誕生日を祝うなって!怜奈はもう誕生日を迎えられないんだぞ。それなのに、勝手に自分の誕生日を祝うなんて……俺が苦しむってわかっててやってるのか!」

あずさは直哉を見据え、静かに問い返した。「じゃあ聞くけど、怜奈が亡くなったからって、たまたま同じ日に生まれた私も一生誕生日を祝う資格がないの?」

直哉は一瞬言葉に詰まった。だがすぐに冷たい表情へ戻る。「少しくらい配慮してやってもいいだろ。怜奈はもうこの世にいないんだから」

あずさは呆然とした。そして次の瞬間、小さく笑った。

笑いながら、涙が滲む。

「分かった。直哉、これから先、あなたの前で誕生日を祝うことは二度とないわ」

……

それから、あずさの顔をもう見たくないのか、直哉は家にも帰らなくなった。

彼の秘書のSNSを見れば、直哉の近況は自然と伝わってくる。

相変わらず怜奈に似た女性を探し続けていること。だが決定的に似た相手には出会えていないこと。

その情報を確認しながら、あずさは静かに時を待った。

そしてついに――全ての準備が整い、花音が直哉のそばに来れる日が来た。

あずさもようやく、自由になれる。

その日、あずさは一人で役所へ向かった。今後のために、そして、直哉に現実を理解してもらうために、離婚届受理証明書をもらいに行ったのだ。

家に帰ると、酔い潰れた直哉がソファで眠っていた。そして眠りながらも、掠れた声で同じ名前を呼び続けている。

「怜奈……怜奈……」

あずさは彼を一瞥して、静かに離婚届受理証明書をテーブルに置く。そしてスマホを取り出し、花音を呼び出した。

玄関の外で、花音は緊張した様子で立っていた。不安そうにあずさの手をぎゅっと握る。「あずささん……私、本当に大丈夫でしょうか。ちゃんとできるか心配で……」

あずさはその手を優しく握り返す。「大丈夫よ。中へ入ったら、自分は怜奈だって伝えればいい。生き返ったって言えばいいの。あなたにはその顔があるもの、直哉は信じてくれるし、一生優しくしてくれるわ」

花音の顔こそが最大の切り札なのだ。

花音は唇を噛みしめる。次の瞬間、ふと思い出したように尋ねた。「あの……もし直哉が、あずささんのことを聞いたら?どこへ行ったのかって聞かれたら、私は何て答えれば……」

その問いに、あずさは穏やかな声で返事をした。

「聞かないと思うわ。でも、もし聞いたら――死んだって言って」

そう言って、あずさはそっと花音を抱き締め、彼女の背中を押した。

そして、スーツケースを手に取り、玄関の扉を閉める。

道路へ出ると、一台のタクシーがちょうど通りかかる。手を上げると、車は静かに停まった。

運転手が尋ねる。「お客様、どちらまで?」

あずさは笑った。「空港までお願いします」

その声は、かつてないほど軽やかだった。

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