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第2話

作者: 青の波
花にしても、香水にしても、もしかしたら私のためかもしれないと、心のどこかで期待していた。けれど、どちらも違った。

奈緒は緊張で手元が狂い、ネイルカラーを爪の外まで塗ってしまった。

慌てて拭き取りながら、「すみません」と何度も繰り返すばかりで、それ以外は何も言えなくなっていた。

ほんと、肝の小さい女。

私は小さく鼻で笑って手を引き、もういいと伝えた。

ネイルの腕も、男を見る目も、たいしたことはないらしい。

店を出ると、私はスマホを取り出して父に電話をかけた。

父はこの街でも指折りの資産家で、亮介の会社の筆頭株主でもある。

電話がつながると、私は淡々と切り出した。

「お父さん、亮介の会社への出資、引き揚げて。私、離婚する。

うん。不倫してたの」

……

それから30分もしないうちに、亮介の不倫を裏づける証拠がメールに届いた。

写真も動画も、日付順にきれいに整理されていた。

1月2日、亮介は仕事があると言って、私だけを実家へ帰らせた。

けれど本人は、奈緒の家へ年始の挨拶に行っていた。

4月20日、母が自宅で突然倒れ、意識を失った。

動揺した私は震える手で亮介に電話をかけたが、彼は出なかった。

その日は奈緒の機嫌が悪く、亮介は一晩中、彼女の機嫌を取っていた。

そして7月14日、私たちの結婚記念日。

亮介は丸一日姿を見せず、夜中になってようやく手作りのケーキを持って帰ってきた。

あのときは腹を立てていたのに、亮介の甘い言葉にほだされ、手作りのケーキをもらえた嬉しさで、いつの間にか怒りも消えていた。

けれど今になって、ようやく知った。

私がもらったのは、奈緒と一緒に作ったケーキの余りだった。

きれいに仕上げたほうは、とっくに奈緒のSNSに載っていた。

しかもその日、亮介は奈緒のためにパーティーまで開き、自分の友人をみんな招いていた。

その友人たちは普段、亮介の友人というだけで何かと私を頼ってきた人たちだった。

それなのに、その日は奈緒を囲み、まるで亮介の妻のように扱っていた。

送られてきた証拠を一つずつ確認していくうちに、胸の奥がどんどん重くなっていった。

やがて、母が亡くなった日の手術同意書が目に入った。続けて出てきたのは、同じ日付の奈緒の母親の手術同意書だった。

嫌な予感に襲われ、体が勝手に震え始めた。

私は震える手で奈緒のSNSの投稿を遡った。すると案の定、あの日に投稿されたものが見つかった。

そこには、手術同意書に署名する亮介が映っていて、奈緒の浮かれた声も入っていた。

「こんな人がお婿さんになってくれるなら、お母さんも大喜びだよね。大金まで出して、最後に残ってた心臓まで用意してくれるんだもん」

その瞬間、頭の中で何かがぷつりと切れた。

あの日のことは、今でもはっきり覚えている。

母の心臓病が急に悪化し、助かるには心臓移植しかないと言われた。ところが手術に入る直前、提供予定だったドナーの容体が急変し、心臓はもう移植に使えないと告げられた。

母は手術室の前で私の手を握ったまま、少しずつ冷たくなっていった。そして最後には、その手から力が抜けた。

私はその場に崩れ落ち、震える手で亮介に電話をかけた。泣きすぎて息もまともにできないまま、母が亡くなったことを伝えた。

出張中で戻れないと言っていたはずの亮介は、その後突然病院に現れ、私を強く抱きしめた。

「大丈夫。俺がいるから。ずっと真紀のそばにいる」

何度もそう言って、泣き続ける私を慰めてくれた。その後も母の葬儀をすべて取り仕切り、私が立ち直れずにいた間、ずっとそばで支えてくれた。

だからこそ、疑いもしなかった。

完璧な夫で、母にもよくしてくれる婿だと信じていた。

その亮介が、母に移植されるはずだった心臓を奈緒の母親に回し、母が助かる可能性まで奪っていたなんて。

思い返せば、怪しいところはいくらでもあった。

急に増えた「出張」、いつの間にかスマホに増えていたロック付きのアルバム、シャツに残っていた私のものではない長い髪。

それでも私は、亮介を信じ切って何ひとつ疑わなかった。

そのせいで、母まで失った。

憎しみが胸の奥から一気に込み上げ、残っていた理性まで吹き飛びそうになった。

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