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第三話

Author: 朱宮あめ
last update Last Updated: 2025-12-23 11:48:00

 沙羅と一緒に観劇したのは、いわゆる2.5次元舞台というやつだった。

『舞台・うるわしの刀語かたながたり』は、もともとスマホゲームだったらしい。

 男性キャラのみで構成されているゲームで、ターゲット層はほぼ女性。

 私たちが観劇した舞台の観客も、圧倒的に女性が多かった。

 そして2.5次元舞台とは、ゲームの中のキャラクターたちを舞台俳優が演じて、リアルにキャラクターたちを再現するというもの。

 沙羅がパンフレットを見ながら、私にあれこれ説明してくれる。

「私が好きなのは、あの白髪の人ね。七木ななき大雅たいがさんっていうんだ」

 舞台を観劇しながら、沙羅がこっそり耳打ちしてくれる。

「七木大雅……」

「覚えた? 覚えて?」

「う、うん」

 とりあえず頷く。圧が強い。

(七木大雅さんか……)

 歳は私たちより二つ上の二十六歳。

 全国イケメンコンテストのグランプリを受賞して芸能界入りした、華やかな経歴を持つ人らしい。

 注目して見てみると、とってもかっこいい。

 殺陣も上手で体もしなやか。歌も上手い。

 本番一発勝負の世界でこんなに堂々と動けるなんて、心からすごいと思う。

 私は初めての舞台をわくわくしながら見終えた。

(あっという間だった……!)

 かなり長い間上演していたはずなのに、振り返ってみると本当にあっという間で。

 最初は楽しめるか心配だった舞台だったけれど、役者たちの完璧な再現力と演技力にあっという間にとりこになった。

(そういえば、あの人どこかで……)

 舞台の観劇中、ひとりだけ気になる人がいた。

(見たことがあるような気がしたんだけど……誰だっただろう?)

 なにを隠そう、この舞台の主役の男の人。

 金髪のかつらをつけたその人は、カラコンと化粧で素顔はよく分からなかったけれど、その声とオーラを私はどこかで見たような気がした。

 とはいえ、私には沙羅以外に芸能人の知り合いなんていない。

(……なにかのテレビで見たのかな?)

 結局彼のことは思い出せないまま、舞台はカーテンコールを迎えた。

「はぁ~よかった!」

 沙羅は瞳をハートにしてパンフレットを抱き抱えたまま、未だ舞台を眺めている。

「桜、どうだった!? 舞台初めてだったんでしょ!」

「うん、すごく面白かった」

「でしょ!」

 沙羅が嬉しそうに頷く。

 想像以上に迫力があって、内容もしっかりしていて。

 また来たいと思える舞台だった。

「また誘ったら付き合ってくれる!?」

「うん!」

「やった~!!」

 スマホの電源をつけて帰る準備をしていると、隣で沙羅がすくっと立ち上がった。

「よし、本番はこれからだよ!」

「本番?」

(……え、舞台は終わったはずだけど、まだなにかあるのかな?)

 私は首を傾げて沙羅を見上げる。

「実はね、私がもらったこのチケットは、バックステージに入れちゃうレアものなんですよ!」

「バックステージ……?」

 バックステージとは、つまり控え室とかの舞台裏のことを指す。

 ……さすがというかなんというか。でも、この気合いの入りよう。

 私は笑って沙羅を見る。

「本気なんだね、七木さんのこと」

「もちろん! ね、桜も来るでしょ?」

「え、私は一般人だし、いいよ」

 もともとのファンでもないのに特別待遇は申し訳ない。

「私、ひとりだと緊張しちゃって話できる気がしないの。ね、桜、お願い! もう少しだけ付き合ってよ」

「……えぇ……」

 緊張とか、絶対うそ。沙羅はそんなことで緊張するような子ではない。

 ……けど。

「親友の頼みです! このとおり!」

 ぱんっと両手を合わせて頭を下げられる。

 ここまで頼まれたら仕方ない。

「分かったよ……」

「きゃあ~! ありがと桜~!!」

 こうして、半ば強引に私は沙羅とバックステージへ行くことになったのだった。

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