登入もう会うこともないと忘れたはずの人が目の前に―再会×未練×大人の恋 ― 大手リゾート企業で働く冬月朱莉、30歳。会社のパーティーに現れた代表設計士は、8年前、何の説明もなく彼女の前から去った元恋人・篠宮蒼也だった。ずっと、忘れたふりをしてきた...... その想いは再会で揺らぎ、蒼也もまた別れの本当の理由を抱えたまま未練を抑えきれない。 あの別れは決断か、すれ違いか。 過去と未来が交差する、大人の再会ロマンス。
查看更多帰宅して、一息ついて、菱本にメッセージを送る。 《芹沢さんと最近連絡取った?》《芹沢とは仕事で頻繁に連絡取るけど》 《私の話、何かした?》……既読でも、なかなか返信がこない。やっぱりね。少しおいて、着信音が鳴る。「……何か言いたいこと、あるよね?」こちらの第一声に、向こうが詰まった。「あ……芹沢はさ~、ずっと朱莉のこと、いいって言ってたんだよ?」「だから?」「だから、元カレのことを忘れようとしてるって話を……ほんのちょっと……」「は?」「だって、芹沢が“社内で声かけづらい”って、ずっとモダモダしてたから……ちょっと背中押しただけだよ」「人のプライベートを勝手に話すとか……あり得ないから」「そんな、蒼也さんのことは話してないよ! 誓う!」「当たり前でしょ。そんなこと話したら、絶交だからね」「絶交って、小学生かよ、朱莉~」その返しで、思わず吹き出してしまった。「……まぁ、とりあえず、食事に行く約束はしたから」「え!マジで! 良かった! 芹沢はほんっとうに良い子だよ? 真面目で爽やかで、実家も太いし。玉の輿も夢じゃない!」「そこまでは考えてないから、けど……ほら、この間あんたが言ってたみたいに、“前を向く”って大事かなって思っただけ」「だよね! そうだよ朱莉! 恋しなきゃ、気づけば枯れススキになっちゃうよ?」「枯れススキって、なにそれ……」菱本の変な例えに2人で大笑いした。新しい恋を始めたいとか、そんなわけではない。 でも、ほんの少しでも何かが前に進めば――この堂々巡りの想いから、抜け出せるかもしれない。とはいえ、今後は余計な背中の押し方をされないよう、菱本には改めてくぎを刺しておく必要がありそうだった。「朱莉が玉の輿に乗ったら、僕がキューピッドってことで」と得意げな声に、深いため息をつきつつも、彼のおかげで笑うことができて、ほんの少し心が軽くなったのは確かだ。金曜の夜、待ち合わせ場所のビル前に着いた時、芹沢さんはすでに到着していて、少し離れた場所でスマホを気にしながらこちらを探していた。「お待たせしました」「あ、冬月さん。いえ、僕が早く来すぎただけです」ネイビーのジャケットに白のシャツ。シンプルだけど、きちんと手入れされた靴や、やや緊張気味の笑顔が好印象だった。 向かったのは、
重たい身体を引きずるように出社し、机に向かう。 週末の間に届いていた大量のメールの中に、「エスモード・デザイン」の名前がCC欄にあるのを見つけた。……痛いなぁ。気にしないように、と意識すればするほど、余計に気になってしまう自分がいる。けれど、慣れた仕事を無心でこなしていると、不思議と身体の重さも気にならなくなる。 「ワーカホリック」と言われても、仕事に没頭している方が、余計なことを考えずに済むのは事実だ。ようやく終業時間が近づき、少しだけ自分を取り戻せた気がしたその時――「……あの、冬月さん。えっと……」帰り支度を整えた東畑さんが、そわそわと落ち着かない様子で話しかけてきた。「どうしたの? 何かあった?」 「え、えっと……あのっ! ふ、冬月さん、合コン行きませんか?」合コン……?「今日? 誰か急に来れなくなって、人数合わせとか?」 「い、いえ、そういうわけでは……」「二十代の若い子たちの中に、三十路のお局を放り込むのは、相手にも私にも失礼じゃない?」ちょっと意地の悪い口ぶりで返してしまった。「ち、違うんです! 営業部の方に、冬月さんもお誘いしてって言われて……!」半ば涙目で東畑さんが声を張る。「本当は昨日、お伝えしようと思ってたんですけど、お休みされていたので……」 「私を誘えって言ったのは、誰?」ちょっと声が低くなってしまった。「え……第2営業部の芹沢さん、です……」しゅんとした声で、東畑さんが答える。――芹沢。名前には覚えがあるけれど、顔がすぐには浮かばない。「……そうなのね。でも今日は体調もまだ本調子じゃないし、遠慮しておくわ。誘ってくれてありがとう」 「そ、そうですよね! 病み上がりですもんね。ちゃんと伝えておきます!」ぺこりと頭を下げる東畑さん。「こっちこそ、ちょっと意地悪な言い方してごめんね。“お局いびり”かと思っちゃって」冗談めかして言うと、東畑さんはさらに慌てて、「そんなのあるわけないです!」と全力で否定してきた。「今度、体調が良い時にまた誘って。芹沢さんにもそう伝えてね」そう言うと、彼女はようやく少しホッとした顔になって、何度も頭を下げながらエレベーターホールへと去っていった。PCの電源を落としたのは、それから2時間近く経った頃だった。エントランスホールを抜け、外に出たところで、不意
蒼也との再会という、心の奥が泡立つような出来事はあったけれど、あれ以降の日々は、何事もなかったかのように淡々と過ぎていった。相変わらず、業務メールの送信元やCCに彼の会社の名前を見つけては、『ああ、明日は営業とのミーティングか』なんて、勝手に彼の予定を追いかけてしまう自分がいた。 でも、実際に顔を合わせることはなく、それも次第に“いつものこと”として、自分の中に沈んでいった。ある昼休み。PCの前でサンドイッチを食べていた時、スマートフォンの画面に『今年は台湾、来ないの?』と菱本からのメッセージが届いた。毎年、夏の終わりに綾香と一緒に出かけていた台湾旅行。今年は彼女が妊娠中ということもあり、どうしようか迷っていた。 でも、そのメッセージを見たとき、2、3日だけでも空気を変えるのもいいかもしれない、と思えた。9月の中旬、5日間の有休を取り、そのうちの3日間を台湾で過ごした。 いつもの台南のホテルに泊まり、菱本家族とあちこち遊び歩いて、美味しいものを食べて、心からリフレッシュできた……はずだった。帰国したのは、昼どきの成田空港。 軽く何かを食べてから帰ろうと、ロビーからフードコートに入った時――ふと、見慣れた背中が視界に入った。間違いようがなかった。どんなに遠くからでも、自分が見つけてしまう姿。 淡いブルーのシャツ。姿勢の良い背中。蒼也だった。会社では会わないのに、こんな場所で……。ほんの数メートル先のテーブルに彼は座っていた。 思わず声をかけようと足を進めた、ちょうどその時。彼の向かいに、幼い女の子が笑っているのが見えた。まだ2〜3歳くらい。玄と同じくらいの年齢だろうか。 その面影が、蒼也に似ていることに気づいた瞬間、足元からすうっと血の気が引いていくのがわかった。どうして、蒼也が結婚していないと思い込んでいたんだろう。 当たり前のように、自分と同じ、彼もまた独身だと信じて疑わなかった。彼は私より6歳も年上だ。家庭を持っていても、何の不思議もなかった。 むしろ、そう考える方が自然なのに。視線を合わせてしまう前に、足早にその場を離れた。 背中がぞくりとするほど冷えていた。家に着いた頃には、旅行で感じていた軽やかさはすっかり消え失せていた。 スーツケースも開けず、ただベッドに身を投げだす。――騙された
「あーちゃん!」品川駅北口の改札の向こうで、さらさらの金髪をなびかせながら、聖が手を振っていた。 周囲の女子高生たちが、「え、背高っ」「めっちゃ綺麗、モデルさん?」とざわめく声が聞こえてくる。正直、ちょっと誇らしい。まるで自分のことを褒められているみたいで、つい顔がほころんだ。「おかえり、ひーちゃん。荷物、これだけ?」 「うん。一応出張だし、仕事道具はもう本社に送ってあるから」水曜日の夜。東京出張でやってきた聖と、2か月ぶりの再会だ。「このまま、ごはん食べに行こうと思ってたんだけど……なに、この肉まんとシュウマイの匂い。まさか、新幹線で飯テロしてきた?」 「ふふふ。まんまと周囲のサラリーマンさんたちを空腹に追い込んできたよ」聖が手に提げた紙袋から、大阪土産の香りがふわっと漂ってきて、一気にお腹が鳴る。「やばい、お腹すいた。もう、デパ地下でサラダとか買って、家でゆっくり食べようか」 「大賛成!」2人で笑いながら腕を組み、そのままデパ地下へ。あれこれ言いながら惣菜を選ぶ時間も、愛おしいほど楽しかった。◇◇◇家に帰って、買ってきたサラダやお惣菜をテーブルに広げ、インスタントのスープを用意する。お風呂あがりの聖は、ふわふわのヘアバンドに、淡いブルーのタオル地のパジャマ。すっぴんでも、相変わらず可愛い。「ひーちゃん、なんか……綺麗になった?」 「え? あ、脱毛したの」顎を突き出してくるので「へぇ〜」と感心したように、指先でそっとなでてあげる。「私も膝下やりたいんだけど、なかなか時間なくてさ」 「あーちゃん……美容の時間は“作る”もんなの」呆れたように言われる。「それ、わかってるけど……」聖がじっとこちらの顔を見つめてくる。「ねえ、目の下のクマ、けっこう出てるよ。あと、髪も結構パサついてる」 「……三十路だもん。そういうお年頃なの!」笑い飛ばしてはみたけれど、正直、自分でも気づいていた。 蒼也のことがあって、気持ちがずっとざわついていた。眠りも浅くて、嫌な夢で目が覚めることも増えた。「仕事、そんなに忙しいの?」 「聖だってでしょ? でも、好きな仕事だと、つい夢中になっちゃうよね。やっぱ姉弟だわ」笑って言えば、聖も「似たもの姉弟だよ、ほんと」と微笑み返す。食後のコーヒーを淹れている間に、聖がキッチンで食器を洗ってくれ
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