LOGINもう会うこともないと忘れたはずの人が目の前に―再会×未練×大人の恋 ― 大手リゾート企業で働く冬月朱莉、30歳。会社のパーティーに現れた代表設計士は、8年前、何の説明もなく彼女の前から去った元恋人・篠宮蒼也だった。ずっと、忘れたふりをしてきた...... その想いは再会で揺らぎ、蒼也もまた別れの本当の理由を抱えたまま未練を抑えきれない。 あの別れは決断か、すれ違いか。 過去と未来が交差する、大人の再会ロマンス。
View Moreどうしてこんな所に彼がいるの?
この会社で働き始めて8年、秘書室の中では結構な古参に入る。この4月から秘書室長の推薦を受けて代表取締役の
今夜開催される新しいリゾート開発プロジェクトのラウンチパーティに、社長が同行すると言って連れて来た代表設計士は、朱莉が忘れようとして、いまだに忘れられない元カレだった。
秘書カウンターのこちら側で驚いた顔をしている自分を見つめて、向こうも一瞬目を見張ったが、その後すっと目を外された。
まぁ、そうでしょうね。今さら私を見たところで......朱莉は、心の中で苦々しくそう思った。
でも、私はそうじゃないのよ。ずっと忘れられなくて苦しかった。これだけ時間が経って、ようやく忘れられそうだったのに。
社長室に入っていく男の後姿を見つめながら、過去を振り返った。
◇◇◇
その頃、朱莉は、弟の
特に夜のバイト先のバーは、店の雰囲気もとても良く、オーナーでバーテンダーの神木さんもとてもいい人で本当に大当たりのバイトだった。特に、客のいない時間には、事務所のPCで大学の課題をすることを許してくれるという神対応にまさしく“神木だけに神!”だった。
蒼也とは、客と店員としてバイト初日に出会った。
「珍しいね。神木さんが女の子のアルバイトを雇うなんて」
目の前に座る人の良さそうな笑顔が、人たらしな感じでちょっと警戒してしまったのは、もう自分が彼に惹かれ始めていたからだったのだと思う。
「朱莉ちゃん、
そう言われて、店の隠れた売りでもあるバターラスクとシチューをカウンター越しに置いた。
「ありがとう。ほぼ毎日この店に来てるから、これからもよろしくね」
蒼也は、同じ大学の建築学専攻の大学院3年目で、1級建築士でもあった。
実はこのバーのリフォームの設計をしたのが初めての仕事だったのだそうだ。「もともと、このバーのある建物が、古くてすごくいい物だったから、前から通ってたんだよ。で、神木さんが、水回りがくたびれてるからリフォームしたいって話をしてたから、それ、考えさせてくれないかってお願いして」
タダで図面を引いて、知り合いの建築業者を紹介して、仕事を進めたらしい。
「学生の俺に好きなようにやっていいって言う神木さんは、本当に『神木だけに神』だよな」
そう言って、くしゃっと笑う顔にあっという間に落とされてしまった。
サウナの前で待ち合わせ、蒼也と顔を合わせた時、聖の表情は昨夜とは大違いだった。そっけないふりをしようと頑張ってはいるが、昨夜までの張りつめたものは、もう感じられなかった。蒼也もその聖の空気にうれしそうにしていて、その表情に胸が温かくなった。聖とキヨがサウナの玄関へ向かう背中を追いながら、蒼也と並んで歩いた。「少しでも言葉を交わせて、よかった」独り言のように小さく呟く蒼也の目元は、穏やかに和らいでいた。私は、そっと彼の指に自分の指を絡めた。――8年前あの時。 もし彼を引き止めていたら。 もし宮崎まで追いかけていたら。そんな「もしも」を何度も考えてきた。でも――結局、私たちはこうしてまた出会い直した。だからきっと、あの恋は終わっていなかったのだ。 途切れたのではなく、ただ時間をかけて再び動き出すのを待っていただけ。「朱莉、なんでそんなに嬉しそうにしてるの?」 「ん? 私嬉しそうなの?」 「すごくニヤニヤしてるね」「ん~だって、蒼也と一緒にいられるから」顔を見上げて笑うと、蒼也は耳まで赤くしながら、満面の笑みを返した。 その笑顔を見ていると、胸の奥があふれそうなほど熱くなる。「蒼也、大好き」そう彼に向かって笑いかけると、蒼也が思わず顔を寄せてきた。その時、聖とキヨの呼ぶ声が飛んできた。蒼也が、我に返り苦笑いしながら耳元で囁く。「二人きりになったら……覚悟しといて」二人のもとへ歩き出した背中に、「望むところだ」と心の中で返す。これから先も、きっと迷う。 不安になって、泣くこともあるだろう。それでも彼となら、そのたびに向き合い、何度でも恋をし直せる。
翌朝。台所で味噌汁の湯気に気持ちを慰められる。 こういう時こそ普段通りの朝食を整えた方がいい気がして、炊きたてのご飯と卵焼き、焼き鮭を並べた。普通過ぎてお正月とは思えないのが残念だが。「朝ごはん、できたよ」聖の部屋に向かって声をかけると、ぼんやりとした様子の聖とボサボサ頭のキヨが出て来た。 小さく、おはよ、と言いながら聖が席に着く。 瞼の赤みは引いていて、まだ少し腫れぼったいけれど、表情は幾分落ち着いて見えた。「……お腹、すいた」ぼそりと呟く声に、少しだけほっとする。「ほらな」 キヨが肩をすくめて笑う。 「オレが言った通りやろ。飯食わんと気持ちも整理つかんから」三人で食卓を囲んだ。しばらくは箸の音だけが響いたけれど、やがて聖が口を開いた。「……あーちゃん。昨日はごめんなさい」ご飯を見つめたまま、ぽつりと言葉を落とす。「ちょっと子どもみたいな拗ね方だったと思う」 「子どもなんかじゃないよ。ひーちゃんは、自分の気持ちを言っただけ。大事なことだったと思う」 「……でも、あーちゃん、ものすごく困ってたじゃん」そう言って俯く聖の横顔を見て、私は小さく首を振った。「私は、ひーちゃんが正直でいてくれてよかったって思ったよ」その言葉に、聖は少しだけ顔を上げる。「本当に?」 「うん。大事なことを隠したままでずっといたら、すごく悲しかったと思う」 「あーちゃん。怒ってない?」 「怒るわけないじゃん」聖の表情に笑みが浮かぶ。その様子を伺っていたキヨが声をあげる。「よーし、昨日の重い空気はこれで終わりにしよ」そして、茶碗を置き、にかっと笑う。「オレ、チョー久しぶりの東京やし、観光したいねんけど。 三人でどっか出かけへん?初詣とか。 聖、甘いもんでも食べに行ったら元気になるんちゃう?」 「……子ども扱いしないでよ」聖がむくれたように
「ひーちゃん。ちょっとは落ち着いた?」うつむく聖にそう声をかける。沈黙が流れ、リビングの壁掛け時計の秒針の音ばかりが妙に響く。「さっきは、ごめんなさい」ようやく聖が口を開いた。抱えていたクッションを強く抱きしめ、視線を落としたまま続ける。「僕……あんなこと言うつもりじゃなかった。ずっと、思ってたことは本当なんだけど……でも、あんな風に言ったら、あーちゃんを困らせるだけだって、わかってたのに」どう言葉をかければいいのか迷う。弟として大切にしてきた存在に、思わぬ形で向けられた告白。驚きと戸惑い、そして彼を傷つけたくない気持ちが胸の中で絡まる。「さっき、聖と話してて。オレももっと聖の気持ちを聞く時間を持ってやれば良かったって思った。悪かったな」キヨが聖の頭を撫でながら、ぼそりと呟く。「でもな聖。姉ちゃんに言うてしもたってことは、もう自分の中で整理せなあかん。逃げずにな」「……わかってるよ」聖は唇を噛み、頷いた。 その姿に、そっと声をかける。「ひーちゃん。私にとって、ひーちゃんは大切な存在。弟とか、家族とか、そういう言葉で表せないくらい大事な存在なの。でもね……結婚して夫婦になる相手かっていうと、私の中ではちょっと違うな」聖の瞳が揺れた。「じゃあ、僕は、あーちゃんの家族にはなれないんだ。一生」その言葉にゆっくりと首を横に振る。「ひーちゃんは、私のたった一人の家族だよ。 お互いに支え合ってきた大事な大事な家族」言葉を選びながら、どうか、この気持ちが聖に伝わって欲しいと思いながら話す。「家族になるって、ひーちゃんと私が結婚することだげが、最善の方法じゃないんじゃないかな」その言葉に聖は、顔をクッションに埋めた。「……でも、あーちゃんをあんな男に奪われるくらいなら、僕の方がいいって……そう思っちゃうんだ」抑えた声が呟く。「聖」私は、手を伸ばして聖の頬をそっと両手で挟んだ。
店を出て、「家の前まで送る」と言う蒼也と並んで歩く。「ねぇ、蒼也。さっきの話だけど……なんで、あんなタイミングであんな大事なこと言うの?」寄り添って並木道を歩きながら、思い出したように尋ねた。「……はぁぁぁ」蒼也は、深いため息をついて立ち止まった。また、眉間に皺が寄っている。「聖ちゃんが、本当は朱莉のことをそういう目で見てたんだと思ったら……先に言わなきゃって、焦ってしまって」「ふぅん」普段は落ち着いている彼が混乱している姿が、妙に新鮮で少し楽しい。「今日は何の準備もしてなかったのに……あぁ、もう、俺はほんとにどうしようもない」 「ぷっ……あははは」 「笑い事じゃない」 「だって、蒼也が面白いんだもの。あははは」普段は、何事にも動じないような雰囲気を出しているのに、自分の前でだけこんな姿を見せる彼に、どうしようもなく愛しさが込み上げてしまう。「とにかく……聖ちゃんが俺を許してくれたら、その時にちゃんとする」自責の念に駆られて落ち込んだ表情を見せる蒼也の腕に、そっと自分の腕を絡める。「そうねぇ。何年後になるか分からないけど、待ってるから」 「その時は……いい返事を聞かせてもらえる?」 「それは……今のところ、なんとも。ひーちゃんに先にプロポーズされちゃったしね」蒼也がまた立ち止まり、真剣に顔を覗き込んでくる。その表情が普段の冷静さを欠いていて、再び笑いがこみ上げる。「ねぇ、蒼也。ひーちゃんも冷静になったら、気持ちに変化があると思う」蒼也は小さく息を吐き、絡めていた腕を滑らせて私の手を取ると、自分のコートの中に押し込んだ。「……ゆっくり待つよ。大丈夫、耐えられる」最後の言葉は、自分に言い聞かせているように聞こえた。「ほんと、こういうのは……殴られるより堪えるな」電車に揺られながら、並んで夜景を眺める。 黙って寄り添っているだけで十分だった。 最寄り駅に着いて外に出ると
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