Masuk美しく完璧なリタ・ルードヴィング伯爵令嬢(18)…の代役であるステラの役割は、代役として完璧であることと、帝国の皇太子、ロイ・ミラディア(20)の婚約者の座を得ること。 8年間の努力が実り、ついにロイと婚約を結んだ夜。 ステラはルードヴィング伯爵に裏切られ、命を狙われる。 助かる為に選んだ最終手段は、〝時間を戻す魔法薬〟の試作品を飲むことだった。 しかし時間は戻らず、なぜか12歳の姿になってしまう。 ステラを保護した次期公爵ユリウス・フランドル(18)。 自分が婚約したのは今目の前にいるリタではないと勘づき、本物のリタ(ステラ)を探し始めるロイ。 逃げたいステラは、無事生き延びることができるのか?
Lihat lebih banyak暖かく心地いい布団に包まれ、ふわふわのマットレスに身を沈め、眠る。全部が全部、ふわふわで最高だ。…最高なはずなのに。どうしてだかとても苦しい。前から温かくて硬い何かに締め付けられているような、そんな感覚がする。「…ゔ」あまりにも息苦しいので、目の前の何かをぐっと押し、何とか離れようとした。だが、それはびくともしない。…何なんだよ、もう。さすがにここまでしていると、もう目が覚めてしまった。そして私はすぐに自分の置かれている状況を把握した。「…」ーーー今日もか。私を力強く抱きしめている相手を睨む。しかしその相手、ユリウスはこんなにも私に押されていたというのに、未だに気持ちよさそうにまぶたを閉じており、すやすやと眠っている。…本当、安眠妨害だ。窓から差し込む太陽の光を吸い込む黒髪に、そこから覗く美しく整った顔。この恐ろしいほど綺麗な男は、今日も何故か12歳の私の時と同じように、19歳の私とも一緒に寝ていた。リタに襲われ、ユリウスたちに助けられてからもう1ヶ月が経った。あれからリタとルードヴィング伯爵は様々な罪で帝国管理下の地下牢へと投獄された。私の命を狙う者はもういない。帝国外へと逃げる必要もなくなった。その為、私はここ、ミラディア帝国に残ることを決めた。犯罪ギリギリ、ほぼアウトな方法で外へ出るよりも、出た後に自由ではあるが苦労することが目に見えている生活よりも、普通に帝国内に留まった方がいいと思ったからだ。そして帝国内で暮らすことを決めた私が新たに生活する場所に選んだのが、フランドル公爵邸だった。…まあ、選んだというよりも、選ばざるを得なかったって感じだが。私の今の名前は、ステラ・フランドルだ。少し前まで
「君があの全てを完璧にこなし、僕の心を掴んだリタだったんだね」「…え」ロイの言葉に、私は思わず固まった。ロイが私の正体や事情を知っていたことについては、ユリウスから聞いていたので把握していた。だが、その後に聞かされた部分については、全く知らない。ーーーロイの心を掴んだリタ?あの表情に、あの甘い声。どう考えても〝僕の心を掴んだ〟とは、好きにさせた、と言っているようにしか聞こえない。リタ代役時代、確かにロイに面白がられている、または退屈しのぎになると気に入られている自覚はあった。だが、そこに〝好き〟だという感情は全くないと思っていた。そもそもロイが誰かを愛せるとも思っていなかった。この男には、まるで心がないように見えていたから。「心を掴んだって…。興味を持ったとかですよね?」「僕の気持ちをわかっていて確認するだなんて、ステラもなかなか意地悪だね?」勘違いであってくれ、と祈りながらおそるおそるロイに確認した結果、私は撃沈した。わざとらしく恥ずかしそうに甘く笑うロイに、どうやら嘘はないらしい。どうすればいいのかわからず、気まずさもあり、ロイから視線を逸らす。「…ロ、ロイ様」するとこの場に弱々しいリタの声が静かに響いた。その声に、ここにいる全員がリタに視線を向ける。全員の注目を集めたリタの顔には、ステンドグラスから降り注ぐ光によって、深く暗い影が落ちていた。悲しみや嫉妬、悔しさなど。様々な感情が複雑に絡み合い、ミラディア帝国の美の女神と呼ばれるその美しい顔を歪めさせる。「ねぇ、ロイ様?アナタは私の婚約者ですわよね?私の未来の旦那様ですわよね?だからそんなどこの馬の骨かもわからない女に愛を囁く訳がありませんわよね?」
太陽の光を吸い込むほどの黒髪がさらりと揺れている。その髪から覗く切れ長の黄金の瞳が私を捉え、私と同じように大きく見開かれた。ーーーーユリウスだ。最期に会いたいと願った私に、神様が幻覚でも見せているのだろうか。「…ユ」目の前にいる人物の名前を、私は咄嗟に呼ぼうとし、やめた。ユリウスが知っているのは12歳の私であり、今の19歳の私ではない。きっと今の私に名前を呼ばれても困惑するだけだ。「ステラ!」だが、ユリウスは私の予想とは反して、私の名前を必死に呼びながら馬から飛び降りた。そしてその腕で、私を思いっきり抱きしめた。目の前いっぱいに広がるユリウスのしっかりとした胸板と、鼻をかすめる懐かしいユリウスの香り。夢ではない、幻覚でもない。本物のユリウスが今、私を抱きしめている。「…わ、私が、ステラだって、わかるの…?」今の状況があまりにも信じられなくて、声がわずかに震える。私はアナタが知るステラじゃないんだよ?それなのにどうしてそんなにもまっすぐに〝ステラ〟と呼んでくれるの…?「当たり前だろう。俺の大切な護衛…いや、家族なんだから。どんな姿になってもわかる。お前はステラだ」「…っ」冷たくもどこか優しいユリウスの声音に、私はやっとユリウスの背中へと手を回した。心の奥底が締め付けられるように苦しくて、熱くて、嬉しい。嬉しくて嬉しくて苦しいなんて自分のことなのに訳がわからない。ああ、だけど、これだけはわかる。私はユリウスのことが大切で大切で仕方なかったのだ、と。「…ユリウス」
sideステラ 「ふふふ、あはははっ」廊下にリタの愉しそうな笑い声が響く。車椅子から引きずり落とされ、倒れ込んでいる私の前にはリタが、後ろには騎士たちがおり、逃げ場はない。おまけに足には感覚すらもない。息の詰まるほどの閉塞感が私を襲う。この絶望的な状況を打開する為には、もうあれに頼るしかない。私はネックレスを握り締める右手にぎゅうと力を込めた。…本当は極力使いたくなかったんだけど。それでも覚悟を決め、握り締めていたネックレスの容器の蓋を開ける。それから容器のふちに口をつけ、紫色の液体を一気に飲み干した。サラサラで意外にも無味だったそれが、勢いよく喉を通っていく。「…っ!」万能薬を全て飲み切ったところで、ドクンっ!と大きく心臓が跳ねた。急激に体に様々な不調が現れる。息ができないほど苦しくて熱い。身体中が締め付けられるように痛い。「…ゔぅ」辛い状況に私から呻き声が漏れ出た。 ただただこの途方もない痛みから解放されたい一心で、何も考えられない。もうこのまま死んでしまうのではないかと思えてしまう。バクバクと大きく跳ね続ける鼓動。それを聞きながらも、私は背中を丸め、その激しい痛みに耐え続けた。そして数秒後。体感にして数分で、その痛みからやっと解放された。「…はぁ…はぁ」乱れた息をゆっくりと整えながらも、足に力を入れてみる。すると今まで一切、感覚がなかったことが嘘かのようにそこには確かに感覚があった。この様子だと骨折も治っているはずだ。さすがキースが〝万能薬〟だと言った魔法薬だ。完治に