ログイン美しく完璧なリタ・ルードヴィング伯爵令嬢(18)…の代役であるステラの役割は、代役として完璧であることと、帝国の皇太子、ロイ・ミラディア(20)の婚約者の座を得ること。 8年間の努力が実り、ついにロイと婚約を結んだ夜。 ステラはルードヴィング伯爵に裏切られ、命を狙われる。 助かる為に選んだ最終手段は、〝時間を戻す魔法薬〟の試作品を飲むことだった。 しかし時間は戻らず、なぜか12歳の姿になってしまう。 ステラを保護した次期公爵ユリウス・フランドル(18)。 自分が婚約したのは今目の前にいるリタではないと勘づき、本物のリタ(ステラ)を探し始めるロイ。 逃げたいステラは、無事生き延びることができるのか?
もっと見るsideステラ花祭りから2週間。私は未だに、ここフランドル公爵邸から出られそうにない。ユリウスと過ごす時間も何故か徐々に増えつつあり、もちろん使用人や護衛騎士たちの監視の目もあり、今の状況では、自分の力だけで逃げ出すことはほぼ不可能だった。そんな私は今、フランドル公爵邸の花畑にいる。本邸から少し離れたこの場所は、本当にフランドル公爵邸内なのかと疑いたくなるほど自然豊かで美しい場所だった。「ねぇ、メアリー」「はい、何でしょう」花冠を作りながら私は、傍に控えていたメアリーに声をかける。「さっきここに来るまでに他のメイドたちが話していたのって…」「ああ!その話でございますね!」私の問いかけに、メアリーは、いつものように明るい表情を浮かべた。相変わらず愛らしいメアリーには、背後に広がる花畑が本当によく似合っている。「リタ様とロイ様のことでございますよね」「うん」ここに来るまでに、たまたま耳にしたある話。その話とは、まさにリタとロイの話である。メアリーは自分を興味深く見つめる私に、表情豊かに2人の話を始めた。約3ヶ月前、このミラディア帝国の皇太子ロイがルードヴィング伯爵家のリタと正式に婚約をした。2人の婚約は非常に大きな出来事で、ここ数ヶ月、帝国の話題の中心は婚約したての2人だ。そしてここからが肝心なのだが、婚約してからの2人はどうも様子がおかしいらしい。「リタ様は性格の悪い悪女だと有名ですが、それと同時に文武両道、才色兼備、非の打ち所のない聡明なご令嬢でもあると有名でございました。それがここ最近全くそのような姿をお見せにならないのだとか。まだ学院生であるにもかかわらず、学院の授業には一切出ず、宮殿に籠って皇后教育に励んでいらっしゃるらしいのですが、忙しいと仰っている割には、パーティーや舞踏会、お茶会には必ず参加し、演劇鑑賞、ショッピングなど遊んでいらっしゃる姿も多く見られているのです。この間の花祭りの時も使用人といつまでも遊んでいらしたとか」止まることなく、怪訝そうに話を進めるメアリーの話に、「やっぱり」と心の中で頷く。結局、今まで世間が評価してきた〝リタ〟は私なのだ。そんな私が消えてしまえば、やはり本物のリタの評価はそうなってしまうだろう。もう少しボロが出ないように伯爵辺りがいろいろと手を回すだろうと思っていたが、も
太陽がゆっくりと沈み、空を茜色に染める。俺はそれを横目に、魔法店からまっすぐ公爵邸へと帰った。そして、ステラの元へ行くために、一階の外へと繋がる渡り廊下を歩いていた。どうやらステラは今、外の騎士団鍛錬場で、剣術の稽古を受けているらしい。そう先ほど偶然出会ったメアリーに教えてもらった。「…はっ!」カンッ!とステラの声と共に、木刀と木刀がぶつかる音が響く。音の方へと視線を向ければ、そこには鍛錬服を身にまとったステラが、真剣な表情で木刀を振るっていた。大人の男を相手に怯むことなく、ステラが鋭い一撃を繰り出していく。それを剣術の先生であるヴィルが、軽くいなしているようにも見えるが、表情はあまり穏やかなものではなかった。おそらく、動きほど余裕はないのだろう。続くステラの猛攻に、ヴィルは一瞬だけだが、体勢を崩した。だが、致命的なものではない。すぐにでも整えられるほんの小さな綻びだ。しかし、ステラはその綻びを見逃さず、次の一手を講じていた。剣術を習いたての12歳の少女には見えない動きだ。相手をよく見て、攻撃の手を止めない。だからといって、自分を決して無防備に晒しているわけではない。ヴィルが反撃をしないのでわかりづらいが、ちゃんと反撃された時のことを考え、ステラは剣を振るい続けている。大胆で、それでいて、どこか知略的。ステラの姿に、俺はどこか既視感を覚えた。ーーー誰かと似ている、と。騎士団の…いや、どこかで見た者の動きでも真似ているのだろうか。あれは一体、誰の動きだっただろうか。騎士団、学院の生徒、俺の知っている剣術ができる者の動きを、なぞるように一人ひとり思い浮かべてみる。「…あ」ふと、揺れる絹のような銀髪が脳裏を過ぎる。気の強そうな紫の瞳は、いつも鋭く俺を射抜き、大胆不敵に俺へと飛び込んでいた。ーーーリタ嬢だ。自分よりも大きな男に果敢に立ち向かうステラの姿は、かつて共に切磋琢磨していたリタ嬢と重なった。しばらく剣を振るうリタ嬢を見ていなかったので忘れていたが、リタ嬢もこんな風に剣を振るっていた。小さな体ではあったが、逆にそれを利用して早く動いたり、相手の動きを読んで次の一手を打ったりする、それがリタ嬢の剣術のスタイルだった。純粋な力でこそ俺には勝てないリタ嬢だったが、そうやって隙や勝ち筋を見つけ、何度か俺からも勝ち
「いらっしゃい…あぁ、これはこれはユリウス様」古びた店の扉を開けた俺を見て、店主である老婆の魔法使いがこちらに深々と頭を下げる。それから「本日はどういったご用件で?」とにこやかに俺に近づいてきた。「これを大事な人から貰ってな。肌身離さず付けるつもりだから壊れないようにして欲しい」俺は懐から上等な布で作られた小袋を出し、そこからさらに、昨日ステラから貰った守護石のピアスを取り出す。「守護石に守護の魔法ですか?」「ああ」「かしこまりました」俺を一瞬だけ不思議そうに見ていた魔法使いだったが、すぐに切り替えて店の棚の物色を始めた。何を不思議に思ったのだろうか。「…大変不躾な質問ですが、大切なお方とは女性ですか?」棚から目を離さず、恐る恐るといった感じで、魔法使いがそんなことを口にする。「そうだが。それがどうした?」魔法使いの質問の意図はわからなかったが、俺は淡々とそう答えた。ステラは女なので、魔法使いの質問は正しい。まあ、女性というより、少女だが。魔法使いはそんな俺に「まあ!そうですか!ついにですか!いやあ!そうですか!」とどこか興奮気味に反応していた。…全く魔法使いのリアクションの意味がわからない。異様にテンションの高くなった魔法使いは、どこか嬉しそうに棚から小瓶をいくつか取り出し、こちらに戻ってきた。「こちらが守護の魔法薬でございます。右から順に効果が強くなっております。どの強さをお選びになりますか?」すぐ側にあった小さなテーブルをこちらに近づけ、魔法使いが薬を並べていく。俺はそれをじっと見た後、迷わず1番効果が強いと言われた
「ユリウス様、ステラ様、ただいま戻りました」程なくして、両手にいちご飴とわたがしを持った大男、ジャンが私たちの前に現れた。大男に何とも可愛らしい食べ物たちは、正直、全く似合っていない。だが、ジャンは好き好んでこの二つを持っているわけではなかった。主人であるユリウスに言われて仕方なく持っているのである。このミスマッチな可愛らしさは不本意に違いない。「どうぞ」ジャンはそう言うとユリウスにではなく、私にいちご飴を渡した。あくまでもいちご飴を頼んだのは、私の隣で無の状態で立っている男なのだが、ジャンは私が食べたかったものだと理解していたらしい。「ありがとう、ジャン」「いえいえ。いちご飴の後はこちらのわたがしをお召し上がりください。からあげはできたての方がいいかと思いまして、ステラ様が食べるタイミングで買いに行こうと思っています。あ、ですが今食べたい場合はすぐにお申し付けくださいませ。すぐに買いに行きますので」「あー。うん」丁寧に説明するジャンに、私はいちご飴を受け取りつつ、曖昧な返事をしてしまった。至れり尽くせりで、なんだか申し訳ない。どう考えても騎士のする仕事ではないのに。そんなジャンと私のやり取りを、なぜかユリウスは誇らしげに見ている。「どうだ?フランドルの者はきちんとしているだろう?」と言いたげな目だ。その後、私はなるべく一つの店をじっと見ることをやめた。そうしなければユリウスが全部買い与えようとするからだ。そんなにも食べられないし、物もいらない。せめて自分の為にお金を使ってくれ、ユリウス。*****そんなことを思いながらも、私はユリウスとなんだかんだいって花祭りを楽しんでいた。いちご飴、わたがし、からあげでは、お腹いっぱいにはならなかったので、追加でパンケーキまで食べた。街中の至る所でやっているショーや広場で披露されている歌なども鑑賞することができ、本当に充実した時間を過ごせた。「あー!楽しかった!」日も暮れ、いよいよ帰る雰囲気になってきた頃。ふとそう言い、視線を向けた場所に、興味深い店を見つけた。花をモチーフにした守護石のお店だ。守護石とは、魔法使いが古代の魔法と同じ手順で、守護の魔法をかけている石のことだ。もう失われている技術なので、本当に危険な時に守護をしてくれるわけではないが、一種の願掛けのような意味で