Masuk失恋と失職に落ち込んでいた桜は、モデルの友人に誘われて訪れた舞台で、同級生の波音と再会する。 再会した波音から新たな舞台『失恋カレシ』の演技の練習相手になってほしいと頼まれ、新たな仕事が見つかるまでという契約でその仕事を引き受けることになるが、契約が成立するやいなや、波から思い切り甘やかされることに!? 【失恋カレシとは】 女子向けスマホ恋愛シミュレーションアプリ。 ある日、大失恋したヒロインがネットの広告にあった『失恋カレシ』を注文する。 すると翌日、失恋を慰めてくれるイケメンが現れ、甘やかされる毎日を過ごすうちに恋に落ちてしまう……というストーリー。
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男女の最後というものは、こんなにも呆気ないものなのだろうか。
『別れよう』 視界に映るのは、SNSのメッセージ。たったの四文字で、私たちの関係は終わった。 真っ暗な画面を見つめて、ため息をつく。 あれから一週間。追加の連絡は一切ない。 分かっている。彼はそういう人だ。分かっているのに、未だに通知がきていないか画面を見てしまう。 いくら願っても、彼からのメッセージがくることなんて有り得ないのに。 「はぁ……」 想い続けて六年間。 焦がれてこがれて、ようやく手に入れた恋だった。 それなのに……。 「なにがダメだったのかなぁ……」 (自分なりに尽くしたつもりだったんだけど……) 彼――
しばらく街中を歩いていると、沙羅がひとつの建物の前で立ち止まった。「さて。着いたよ」「ここ……?」 見上げる。沙羅が私を連れてきたのは、大きな劇場だった。『舞台・麗しの刀語り』とある。「……もしかして、今日って舞台を見るの?」「そっ! 実は、知り合いの俳優から余ってるチケットを二枚もらったの! でもモデル仲間と一緒だと七木さんの話できないし……それどころか彼を横取りされる可能性もあるし」 なるほど。だから私を誘ったのか。 私には人の好きな人を奪うなんてそんな度胸はないし。そもそも大失恋の直後でそんな元気もない。「桜は舞台なんて興味ないかもしれないけど……今回だけ、付き合ってくれないかな?」 上目遣いで見てくる沙羅に、私は笑顔で頷く。「もちろん」「桜~!! ありがとう!」 それにしても、舞台なんて見るのは初めてだ。「……あ、お金払うよ。いくら?」 バッグから財布を取り出しながら尋ねる。「いいのいいの! 私も貰ったやつだから!」「そうなの? それじゃあ……今日の帰りは私がご飯奢るね」「だからもうその奢り癖直しなって~! 私はそんなことのために桜に会ってるんじゃないんだからね!」 沙羅はぷんっと頬をふくらませて、私を咎める。「で、でも、なんか悪いし……」「私たちは親友でしょ! いきなり誘ったのは私だし、悪いとか言わないの! それよりもうそんな暗い顔しないでさ。今日は嫌なことは全部忘れて楽しもう?」 沙羅はぎゅっと私の腕に絡みつき、ぐいぐいと強引に歩き出す。 いつもより強引な沙羅に、私は内心で首を傾げる。 ……この感じは、覚えがある。 あれはたぶん、私が真宙くんに二度目の告白をしてふられたとき。あのときも沙羅は強引に私を外へ連れ出してくれた。 もしや、と思った。「……ねぇ、沙羅。もしかして知ってる?」「え?」 沙羅は今、ドラマのレギュラーが決まってものすごく忙しいはず。それなのに、急に連絡があったからなにかあったのかなとは思っていたけれど……。 意を決して言う。「私が、真宙くんと別れたこと」 沙羅はくるりと振り向くと、私を見て気まずそうに笑った。「……実は、SNSで大学時代の友達が呟いてるの見ちゃって……」「…………そっ、か」(SNSか……) 私の知らないところでまで、私のことはいろいろと広がってい
翌日。 「あっ! 桜~! こっちこっち!」 池袋駅前で、親友でモデルの沙羅と落ち合う。 沙羅とは高校時代からの親友だ。 沙羅は大学生のときにスカウトされて芸能界入りし、今はモデルと女優両方の仕事をしている売れっ子芸能人。 今日は、肩を大胆に出した黒のロングワンピースとサングラスをかけている。スタイル抜群の沙羅には黒が良く似合う。 本人は変装のつもりなのだろうけれど、オーラは全然隠しきれていない。 すれ違った人たちが、沙羅をちらりと見てひそひそとなにか話しながら通り過ぎていく。 (さすが沙羅だ……) 私も沙羅みたいに綺麗だったら、真宙くんにももっと好きになってもらえてたのかな。……なんて卑屈な考えが浮かんでしまう。 (ダメだ……今日はなにを考えてもマイナスなほうへいってしまう……) それは、付き合っていたのに彼に愛された記憶はほとんどないからか。 会いたいという言葉も、好きという言葉も、全部私発信だった。 足が重くなる。 ――と、そのとき。 「桜~!!」 沙羅の高い声が、耳朶を叩いた。その声は、いとも簡単に私の心の重い雲をふっと取り払っていく。 「あ、沙羅。久しぶ……」 沙羅は私を見るなり、テンション高く抱きついてきた。 「わわっ!」 「久しぶり!! 元気にしてた?」 「うん、元気だよ」 無理に作り笑いを浮かべて答える。 今日は私の話をしにきたわけじゃない。せっかく好きな人ができたっていう明るい話で会ったのに、私のせいで暗い気持ちにはさせたくない。 「半年ぶりかぁ。でも、沙羅のことは最近よくテレビで見るからあんまり久しぶりな感じはしないけどね」 すると、沙羅ははにかむように笑う。 「えへへ。桜はいつも私が出てるドラマ見ると連絡くれるよね! 実はそれ、すっごく楽しみにしてるんだよ! 出演情報とか言ってないのに、ちゃんと見てくれてるんだなぁって」 「当たり前だよ。沙羅は私の元気の源だもん」 沙羅の存在は、私にとって本当に大きい。 「ありがとう。さて、じゃあ行こっか!」 「うん」 ふたり横並びで歩き出す。 「それで、沙羅の好きな人ってどんな人なの?」 歩きながら、話を続ける。 「あっ、うん! あのね、七木大雅って言うんだけど、知っ
六年ぶりに再会した高校時代の同級生は、俳優になっていた。「桜、ずっと会いたかった」 そう言って、彼は優しく私を抱き寄せた。 ずっと、ただの友達だと思っていた彼。 生涯、あの人しか愛せないと思っていたのに、なぜか彼を見ると落ち着かない。 どうして?「契約しよう。俺が桜の失恋を慰めるカレシになるよ」 彼が提案してきたのは、甘くて残酷な契約。 偽物の恋人。 好きになってはいけない。 だけど……。「好きだよ、桜」「そんなにあいつがいいの?」「俺を好きになってよ」 毎日囁かれる甘い言葉は、次第に私の心を蝕んでいく……。 *** 男女の最後というものは、こんなにも呆気ないものなのだろうか。『別れよう』 視界に映るのは、SNSのメッセージ。たったの四文字で、私たちの関係は終わった。 真っ暗な画面を見つめて、ため息をつく。 あれから一週間。追加の連絡は一切ない。 分かっている。彼はそういう人だ。分かっているのに、未だに通知がきていないか画面を見てしまう。 いくら願っても、彼からのメッセージがくることなんて有り得ないのに。「はぁ……」 想い続けて六年間。 焦がれてこがれて、ようやく手に入れた恋だった。 それなのに……。「なにがダメだったのかなぁ……」(自分なりに尽くしたつもりだったんだけど……) 彼――冬野真宙くんと私は、高校と大学の同級生で、現在同じ職場に通っている。 高校生のときから真宙くんに片想いしていた私は、教師を目指していた彼を追いかけて同じ大学に進んだ。 真宙くんはすらりとした長身で、頭が良くて、爽やかで……女の子にものすごい人気で、彼女が絶えたことなんてほとんどない。 そんな彼に三度目の告白でいい返事をもらえたときは、本当に嬉しかった。 付き合って半年。たった半年……。 飽きっぽい彼に飽きられないように、自分なりに頑張ってきたつもりだったのに。 押し過ぎたのがいけなかったのか、尽くし過ぎたのがいけなかったのか。 真宙くん以外に経験がない私には、いくら考えても分からない。「どうしたらよかったんだろう……」 ぽつりと呟いても、この部屋に答えてくれる人はいない。 真宙くんはもう、私のことなんてすっかり切り捨てて、同期の女の子と付き合い出している。(未練なんて