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第71話
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契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1190話
霜村凛音と唐沢白夜の話になると、ずっと穏やかな笑みを浮かべていた柳愛子は、少し表情を曇らせた。何かを思い出したように、白石沙耶香の手をぱっと離した。「酷いと思うかもしれないけど、親なら誰でも子供のためを思うもの。もしあなたの生まれがもう少し良くて、教養があって、もっと自分を大切にしている女性だったら、私だって反対なんかしなかったわ」唐沢白夜と霜村凛音の件で懲りた柳愛子は、もう息子の恋愛に干渉するつもりはなかった。しかし、彼女から見ると、白石沙耶香は唐沢白夜より能力が劣り、愛情の深さも及ばない。そもそも唐沢白夜でさえ気に入らなかったのに、どうして白石沙耶香が良いと思えるだろうか？「沙耶香、名家はね、家柄の釣り合いをとても重視するの。幼い頃から受ける教育や考え方、先見性、価値観、学識、全てが違うから。今はお互いに惹かれ合っているのは、一時的な感情によるものよ。その勢いが過ぎたら、格差の大きさに気付くことになる」柳愛子の言葉の中で、この一言が白石沙耶香を一番惨めにさせる上に、一番反論できない言葉だった。ぎゅっと握りしめていた白石沙耶香の小さな拳は、ゆっくりと開かれた。もう一度柳愛子を見上げるその瞳には、少し疲労の色が浮かんでいた......彼女は何も言わず、心が揺れているようにも、考え込んでいるようにも見えた。柳愛子には分からなかったので、ただ話を続けた。「冷司と夕子は家柄の釣り合いから見たらあまりいい例とは言えないけれど、冷司は涼平とは違う。彼は夕子の全てを受け入れることができる。生まれや育ち、欠点さえも。きっと夕子が浮気をしたとしても、冷司は彼女を愛し続けると思う。でも、涼平はそうじゃない。涼平はまだ子供で、何も分かっていないの。手に入らないものが一番良く見えて、一度手に入れたら飽きてしまう。そうなった時、あなたはどうすればいいか、考えてみた？」柳愛子の言葉は白石沙耶香の心の奥底に突き刺さり、彼女が恐れている全てを白日の下に晒した。胸が締め付けられ、心が揺らぎながらも、あまりにも的確な指摘に、何も言い返せなかった......白石沙耶香の迷いを悟った柳愛子は、ソファに置いていた高級バッグを開け、中からブラックカードを取り出して、白石沙耶香に差し出した。「私が言いたいことはこれだけよ。沙耶香、よく考えて、本当に涼平と結婚するかど
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1189話
過去のことはもうどうにもできないけど、未来のことは約束できる。「柳さん、もし彼と結婚したら、以前みたいに彼に接することはしません。私は全てを捧げて、彼を心から愛し、大切に思い、優しくして、守り、絶対に裏切ったりしません」これが白石沙耶香が出せる誠意だ。そもそも、彼女は恋愛にはとても真剣だった。前の夫にも、夢中になって尽くしたし、柴田夏彦にも、恋人になるって約束したら、ちゃんと責任を果たそうとした。ましてや、特別な存在である霜村涼平には、結婚したら、もっと尽くすに決まってる......白石沙耶香が引き下がる気配がないのを見て、柳愛子は言い方を変えた。「うちの涼平は、実際、そんなに良い男でもないのよ。女好きで遊び人で、スキャンダルが絶えない。でも、それはあなたと出会う前までの話。あなたと付き合ってからは、確かに変わったわ。少なくとも、スキャンダルは少なくなった。その点では、感謝してる。だけど、あなたは賭けられるの？」ずっとソファに寄りかかっていた柳愛子は、急に背筋を伸ばし、白くて細い両手をテーブルの上に置き、両手を組んで、冷静かつ真剣に、白石沙耶香の目をじっと見つめた。「彼は小さい頃から家族に甘やかされて育ったから、わがままな性格なの。欲しいものはすぐに手に入れないと気が済まない。ゆきなと結婚しようとした時もそうだった。帰ってきて大騒ぎしたくせに、しばらくしたら飽きて、結婚する気が失せて、婚約は破棄だと言い張った。今、急にあなたと結婚する言ってるのが、単なる気まぐれじゃないって保証できるの？」岸野ゆきなについては、柳愛子も事情を知っていたが、わざとそう言って、白石沙耶香に諦めさせようとした。というのも、彼女は白石沙耶香のことを調べていて、前の夫に家を買ってあげたり、お金を貢いだり、尽くした挙句、裏切られたことを知っていたからだ。こういう経験をした女性は、恋愛や結婚に対して、より慎重になるものだと彼女は知っていた。つまり、急所を突けば人は簡単に崩れる。柳愛子はその急所を見抜いていた。白石沙耶香が一番心配し、恐れている部分、つまり霜村涼平を一番よく知っているのは彼の母親であり、その母親でさえ気まぐれだと思っているのなら、白石沙耶香は当然、不安になる。彼女も、霜村涼平が自分を抱いた責任を感じて、結婚しようと言ってるんじゃないかと疑っ
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1188話
柳愛子は白石沙耶香のことを理解できないだろうし、白石沙耶香も柳愛子に理解してもらおうとは思っていない。ただ、柳愛子の立場になって考え、彼女の言い分を認めているだけだ。「柳さん、もし私があなただったら、自分の息子より何もかも劣る女を相手にするなんて、と同じように不満に思うでしょう。お気持ちは分かります。でも、涼平のことも考えてください。結婚したいのは彼の方で、私が無理に結婚しようとしているわけではありません。私が身を引くのを望むなら、彼に直接言ってください。もし彼があなたに説得されて、私と結婚するのをやめると言うなら、私に教えてください。そうしたら潔く身を引きます。むしろ、今後は彼と関わらないようにします......」白石沙耶香は一気に言い終えると、心臓がドキドキした。霜村涼平のために、これほど強く、誰かに立ち向かうのは初めてだった。自分が彼に劣り、釣り合わないことは分かっていたが、彼が愛してくれている上に、そして自分も彼を忘れられないから、頑張ろうと思えたのだ。柳愛子は白石沙耶香を見つめ、しばらくしてから、急に唇を歪めて笑った。「あなたはさっき、私の息子を愛していないと言ったのに、今は、彼と結婚するのを諦めるつもりはないと言うのね。どうやら沙耶香にとってうちの息子なんて、その程度ってことね。だったら、その程度の相手に、なんで情熱だの覚悟だのって持ち出して、結婚なんて選ぶのかしら？」柳愛子の質問はかなり考えさせられるもので、白石沙耶香には言葉に詰まり、うつむいた。柳愛子は彼女のその様子を見て、さらに続けた。「あなたの個人的な背景や学力などはさておき、このことだけでも、母親なら誰でも、息子のお嫁さんには息子を心から愛してほしいと思うものよ。あなたはこのことすら満たしていないのに、どうして私が息子を説得しなければならないの？」白石沙耶香はその言葉を聞いて、伏せた睫毛をわずかに震わせた。あの夜の一夜限りの関係がなければ、自分はもう結婚を考えることはなかっただろう。しかし、あの馬鹿げた夜の後、霜村涼平の必ず結婚するという言葉を聞いて、思わず決意が揺らいでしまったのだ。しかし、揺らいだ理由は、霜村涼平の「結婚する」という言葉だけではない。心の奥底では、まだ霜村涼平のことを忘れられていないことに気づき、もう一度この思いに賭けてみようと思った
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1187話
柳愛子のこの言葉は、鋭い棘のように白石沙耶香の心臓に深く突き刺さり、霜村涼平とのデートで上気していた顔色は一瞬にして消え失せ、真っ白になった。白石沙耶香は、唐沢白夜の当時の苦しみが、突然理解できた。温厚で上品な顔立ちで、一見とても優しい人に見えるのに、どうしてこんなに受け入れがたい言葉を口にするんだろう......自分には両親がいない。自分の身辺調査をした柳愛子が、そんなことを知らないはずがないのだ。しかし今、明らかにわざと自分の痛いところを突いている......霜村涼平との結婚を決意した白石沙耶香だったが、この瞬間、急に結婚を躊躇した。結婚は、二人の問題ではなく、二つの家族の問題だ。幼い頃から家庭のない自分は、当然、相手の温かい家庭を切望していた。しかし目の前のこの女性は......白石沙耶香はぎゅっと拳を握りしめ、爪を肉に食い込ませ、どうにか心を落ち着かせた。「柳さん、私には両親がいません......」柳愛子は驚いた表情さえも見せず、単刀直入に言った。「わかってる。だからあなたと涼平はあまり合わないと思うの......」この言葉の裏には、両親の躾を受けていない子は、息子には相応しくないという意味があった。もし相手が他の人の両親だったら、白石沙耶香はとっくに席を立って出て行っていただろう。しかし霜村涼平の母親を前に、そうすることはできなかった。最も痛いところを突かれても、歯を食いしばって耐えた。彼女がこうするのは、すべて霜村涼平のためだ。否定できないのは、彼のことが好きで、どうしても諦めきれないから。だから彼のために、立ち向かうべきなのだ。そう考えて、白石沙耶香は固く握りしめていた拳を解き、冷静に柳愛子を見た。「柳さん、両親がいないのは私のせいではありません。この点だけで、私と彼が相性が合わないと思うのはやめてください」白石沙耶香は、柳愛子の言葉の裏の意図を指摘しなかった。ただ彼女の言葉に沿って話を進めただけだ。しかし柳愛子には、白石沙耶香が状況を理解して身を引かないように聞こえた。「沙耶香、本当は言葉を濁したくなかったんだけど、あなたが理解できないなら、はっきり言わせてもらうわね」柳愛子が次に何を言うかは大体予想がつき、白石沙耶香の顔色はますます青白くなっていった。しかし柳愛子は彼女の気持ちを無視し、さらに
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1186話
ちょうど霜村涼平をブロックリストから外そうとしていた白石沙耶香は、この見知らぬ電話番号を見て、反射的に通話ボタンをスライドさせた......「沙耶香、こんにちは。涼平の母よ。時間があれば、コーヒーでもいかがかしら？」白石沙耶香のスマホを握る手に、ぐっと力が入った......霜村涼平が両親に知らせると言った矢先に、彼の母親から電話がかかってくるなんて、なんと早い対応だろうか。ただ......霜村涼平の母親が電話をかけてきた目的は、だいたい想像がつく。白石沙耶香としては、あまり行きたくない気持ちもあったが、結婚に関わることだし、彼の両親が慎重になるのは当然のことだとも思う。彼女は迷いに迷った末、「ええ、ぜひ」と返事をした。するとすぐに柳愛子から場所が送られてきたので、白石沙耶香はその場所で会うことになった。白石沙耶香は控えめな服を選び、薄化粧をして、車で家を出た。カフェに到着すると、高級車から降りてくる上品な女性の姿が見えた。一目見ただけで、白石沙耶香は相手が誰だか察しがついた。霜村家の子供たちは揃って容姿端麗だが、それは両親から受け継いだ優れた遺伝子のおかげだ。霜村涼平の母親も、そんな遺伝子を持つ一人だった。上品な顔立ち、すらりとしたスタイル、全身から気品が漂い、年齢を感じさせない美しさがある。日頃のケアの賜物かどうかはさておき、霜村涼平の母親は生まれながらの美人であることは間違いない。霜村涼平や霜村凛音があんなに美しいのも納得がいく。白石沙耶香はその優雅な姿がカフェに入るのを見届けてから、車から降りた。カフェの入り口に立つ白石沙耶香は、無意識に何度も唾を飲み込んだ。柴田夏彦の両親に会う時よりも緊張しているのは何故だろう......心臓がドキドキと高鳴るのがわかる。どんなに押さえても、その激しい鼓動を抑えることはできず、ただ身に任せるしかなかった......彼女はひどく緊張し、不安に駆られながら、しばらく入り口で立ち尽くしたが、ようやくドアを開けて中に入った。柳愛子は自分のことを調べていたのだろう、すぐに自分だと気づいた。「沙耶香、こちらへ」白石沙耶香は強張った口角を無理に上げて、笑顔を作った。「柳さん、こんにちは」彼女は「おばさん」と呼ぶような親しげな態度は取らず、敬意を込めて「さん」付けで呼び、後輩と
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1185話
霜村涼平は眉をひそめて振り返った。「もし凛音にあんな仕打ちをしなかったら、落ち着いて一緒に食事をすることもできたかもしれない。自分の娘に何をしたか、よく考えてみろよ！」霜村涼平は未だに霜村凛音の肩を持っていた。唐沢白夜は霜村凛音を深く愛していたのに、両親のせいで無理やり別れさせられたのだ。白石沙耶香に最高の結婚式を挙げさせてやりたいという気持ちが無ければ、この家には二度と戻りたくなかった......霜村真一は怒りでテーブルを叩いた。「凛音のことはもう過ぎたことだ。いつまでもぐちぐち言うな。今になって俺たちに説教するとは、大人になったから親の言うことを聞かなくてもいいとでも思っているのか？」霜村涼平は霜村真一と口論するのが面倒だった。「好きに言ってればいい。とにかく、僕が言うべきことは言った。後は勝手にしてくれ......」本当に同意しないなら、両親を飛び越えて霜村冷司に証人になってもらえばいい。大した違いはない。霜村家は自分の両親が仕切っているわけでもないし......「それと、前みたいに沙耶香に個人的に接触するな。もし接触したら、この家をぶっ壊すぞ！」霜村涼平はこの言葉を吐き捨てると、二人に目をやることもなく、コートを手に取り肩にかけ、踵を返した......そのふてぶてしい後ろ姿を見送りながら、霜村真一は怒りで顔が真っ赤になった。「見てみろ、あれがお前が育てた息子だ。自分の父親を親とも思っていない......」柳愛子は怒りのあまり、持っていた箸を投げ捨てた。「執事、沙耶香の電話番号を調べなさい」生意気にも両親を脅すようになったとは。柳愛子は、自分が白石沙耶香に接触した後、霜村涼平がどうやってこの家を壊すのか、この目で確かめてみたくなった。執事は「かしこまりました」と返事をして仕事に取り掛かり、すぐに白石沙耶香の電話番号を調べ、スマホを柳愛子に差し出した。柳愛子がスマホを受け取り、電話をかけようとした時、霜村真一が手を差し出して止めた。「生意気で横柄な態度の息子だが、凛音の二の舞にはさせたくない」既に一人の子供の心を傷つけてしまった。もう二人目は傷つけられない。そうでなければ、老いた時に子や孫に囲まれるどころか、一人も孫がいないことになるかもしれない。柳愛子は霜村真一の手を振り払った。「この沙耶香っていう子は、白夜
