Masuk樹理が小さく悲鳴を上げ、早く下ろしてと慌てて言うと、白夜はようやく少し冷静になった。「すまない。今の君の体のことを忘れていた」白夜はさっきの自分の行動をひどく悔やんでいた。樹理はそこまで気にしていなかった。たしかに妊娠初期の三か月は安定しにくい時期だ。けれど、抱き上げられたらいけないというほどではない。ただ少し気をつければいいだけだった。二人で喜びを分かち合ったあと、樹理はふと児童養護施設の改修のことを思い出し、迷うように口を開いた。「じゃあ、今の私の状態だと、施設のほうは……」白夜は目を上げて尋ねた。「まだ行きたいのか?」「もちろん行きたいわ!」樹理は迷わず答えた。施設
園長は思いがけない変化に大喜びした。「これは全部、中川さんのおかげですよ!」樹理は控えめに笑い、水を一口飲んで何か言おうとした。その時、外から食事の匂いが漂ってきた。時間的には、ちょうど施設の子どもたちが昼食をとる頃だった。これまでも何度も嗅いできた匂いだ。けれどなぜか、今回だけはひどく受けつけなかった。胃の中が急にひっくり返るように気持ち悪くなり、樹理はゴミ箱のそばへ駆け寄って、何度かえずいた。園長はひどく慌てた。「中川さん、どうしました?具合が悪いんですか?」樹理は口を開こうとして、ふと気づいた。今月の生理が、遅れているのではないか。その考えが頭をよぎった瞬間、彼女は一
樹理はわかったと頷いた。職員が去ると、拓海の机のそばへ歩いていった。彼女はしゃがみ込み、積み木に夢中になっている拓海を見つめて言った。「私、これの組み立て方を知ってるの。教えてあげようか?」拓海の動きが止まった。樹理は気づかないふりをして続ける。「積み木って難しいよね。それに、あなたが持っているそれ、セットの一つだけみたい。ほかの部品もあるの?」拓海は彼女を一度見た。樹理は、きっと相手にしてもらえないだろうと思っていた。ところが、拓海は口を開いた。「うん。ある。部屋に」とても短い言葉だった。それでも樹理には、十分すぎるほど嬉しかった。どんな形でも、まだ言葉を交わせる可能性
樹理は彼女のことを心から尊敬した。園長の気持ちが少し落ち着くのを待ってから、樹理は施設の子どもたちに会ってみたいと申し出た。園長は快く頷いた。「ええ、ご案内します。ただ、あとで少し周りになじめない子がいるのを見かけるかもしれません。どうか気になさらないでください」話の途中で園長が言い添えたことに、樹理は少し驚いた。特別に触れられたその子に、自然と関心が向く。ほどなくして、彼らは一つの教室の前に着いた。そこは施設の職員たちが、空いていた部屋を使って作った教室だった。この施設には、学費を払えない子どもが多く、長いこと寄付をしてくれる人も現れなかったからだ。幼い子どもたちが、読み書きを
計画書はすぐにまとまった。けれど何より大切なのは、やはり実際に施設へ足を運び、自分たちの目で確かめることだった。そこで樹理は時間を作り、白夜と一緒に車で向かった。児童養護施設の立地は悪くなかった。ただ、そこは人々に忘れられた場所のようだった。何もかもが古びていて、建物は何十年も前のものに見える。正門さえ錆びつき、青緑色に変色していた。到着した樹理は、塗装の剥がれた壁を目にした瞬間、思わず言葉を失った。「今でもこんな建物があるの?危険建築って判断されないのかしら」彼女がそう言ったちょうどその時、ウールのコートを着た女性が中から出てきた。その言葉を聞いた女性は、すぐに苦笑した。「お
「うん。もうよさそうな児童養護施設は見つけてある」白夜が言った。樹理は驚いた。「もう見つけたの?でも……施設は新しく建てるって話じゃなかった?」男は首を横に振った。「そのあと考え直したんだ。新しく一から建てるとなると費用もかかるし、周囲から信頼を得るのも簡単じゃない。子どもを受け入れる体制を整えるのも大変だ」施設長や職員も、簡単に見つかるものではない。報酬が高い仕事ではないため、今の時代、時間を割いてまでそうした苦労の多い仕事を引き受けたいと思う人は多くなかった。「ちょうど以前、運営がうまくいかなくて閉鎖された施設がある。そこで働いていた職員たちも、行き場のない子どもたちも、施設が







