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第 991 話

Author: 水原信
「海咲と一緒にいることを否定しているわけじゃない。ただ、心配なんだ……」

「心配なんて必要ないよ。これからどんなことがあっても、彼と一緒に乗り越える」海咲はファラオの言葉を遮り、素早く二人の前に歩み寄った。

州平の今の姿勢は、一切の揺らぎがないほどに強固だった。

その様子を見ていた海咲は、心の奥が苦しくなった。彼女が州平を想い考えたように、州平もまた彼女を想い考えている。それならば、なぜ二人で同じ道を歩み、未来のために共に考えられないのだろうか。

海咲は州平に向かってほほえみ、そして彼の手をしっかりと握りしめた。

ファラオは海咲に向けて力強く言った。

「お前がそう決めたのなら、俺は全力でお前を
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