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第3話

Auteur: 梨ちゃん
その夜、景吾が珍しく家に帰ってきた。手には精巧なバースデーケーキを提げていた。

まさかの展開に、私は少し驚いた。というのも、彼が自分から歩み寄るような素振りを見せたのは、これが初めてだったからだ。

まだ婚約したばかりで、私が彼との未来に淡い期待を抱いていた頃――

私は何気なく、自分の誕生日について話したことがあった。日が近づくにつれて、胸の中の期待もだんだんと膨らんでいった。

けれど、当日になっても、ケーキどころか景吾の姿すら見えなかった。

電話をかけると、彼は冷笑を浮かべてこう言った。

「早織と別れさせられて、今度はお前を愛せっていうのか?

美知留、お前ってほんと欲張りだな」

そのとき初めて知った。景吾は、ずっと前から私を憎んでいたのだと。

それ以来、私は自分のことを一切口にしなくなった。

景吾は私の誕生日なんて、とうに忘れたと思っていた。

まさか覚えていたなんて。ただの意地悪で無視していただけだったなんて。

「誕生日、おめでとう」

景吾は笑顔で私を見つめ、軽い調子で言った。

彼はいつだって取り繕うのが上手い。何もなかったふりをして、平穏で円満な日々を演じるのが得意だった。

私は彼を見つめ返し、何も言わなかった。

景吾の笑顔が引きつり、部屋を見回しながら、無理に話題を探し始めた。

「美知留、お前の私物、なんで全部なくなってるんだ?」

そのとき、私は景吾の首筋にうっすらと残る赤みを見つけた。

厚くファンデーションを塗っても隠しきれていない。

きっと、ベッドから飛び出してそのまま来たのだろう。

私は息を吸い込み、言葉を吐き出した。

「ほとんど古い物だし、置いてても邪魔なだけでしょ。

それに、あんたいつも私の趣味をガラクタ扱いしてたじゃない」

私の声には怒りがにじんでいた。もう我慢するつもりなんてなかった。

私の最近の変化に、景吾も不安を感じたのか、いつになく優しくなった。

「考えてみたけど、最近の早織はちょっとやりすぎだったな」

彼は手を伸ばし、私の髪に触れようとした。

かつて憧れたその距離感が、今では吐き気すら催すほどだった。

私は後ろに身を引き、彼の手を避けた。

「写真やチャットの履歴は、俺が処理させる。事情を知ってるやつも全員クビにした。もう仕事にも生活にも影響出ないようにするよ」

景吾はケーキをすくい、私の口元に差し出した。

「お父さん、最近会ってないけど、体調どうかな。明日、母に会った後、一緒に見舞いに行こう。

病院に新しい特効薬が入ったらしくて、効果があるかもしれないんだ」

景吾はまだ話し続けていた。しかし、私の耳には何一つ届いてこなかった。

この期に及んで、彼はまだ知らないのだ。

早織が好き勝手やったあの日、父が怒りで命を落としたことを……

それなのに、家庭円満で幸せな結婚生活なんて、よくもまあ夢見ていられるものだ。

怒りが一気にこみ上げ、私はケーキを持ち上げ、それを床に叩きつけた。

「景吾、よくもまあ白々しく……出ていけ!」

怒鳴りつけた。

何度も私に恥をかかされてきた景吾も、さすがに我慢の限界だったのだろう。

顔を真っ赤にして、黙ったまま立ち上がり、私を見据えた。

「美知留、お前、いつになったらその強情で偏った性格を直すんだ。

お前が早織みたいに優しくて素直だったら、こんなことにはならなかった」

私は彼を突き飛ばし、ドアを勢いよく閉めた。

床に散らばるクリームを踏みつけながら、ベッドサイドへと向かい、しゃがみこんで、父の遺骨を抱きしめた。

こんなに目立つ場所に置いてあるのに、景吾はまるで見えていない。

私はもう、無視されるのも、冷たくされるのも、勝手に決めつけられるのも、うんざりだった。

明日、私は必ずこの家を出ていく!

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