LOGIN彼氏が何かにつけて私より優先する女友達、川島絵里香(かわしま えりか)が、また腹を立てた。 付き合って5年の記念日に、彼氏の黒田智也(くろだ ともや)が、私――桜井千尋(さくらい ちひろ)にだけプレゼントを用意し、絵里香の分を忘れていたからだ。 絵里香が泣いて騒ぎ出すと、智也はいつものように私に別れを切り出し、ブロックして友だちリストからも削除した。さらに、おそろいだったアイコンまで別のものに変えた。 「絵里香って、すぐ機嫌悪くなるからさ。ちょっと機嫌取ってくるよ。千尋はいい子で待ってて。終わったら、アイコンもすぐ戻すから」 私は念を押した。 「これで100回目だよ」 智也は笑いながら、私の唇に軽くキスをした。 「分かってるって。今回は長引かせないから」 その晩、絵里香がSNSにこんな投稿をした。 【誰かさん、今回は上出来。特別に3日だけ自由にしてあげる】 智也はすぐに私のブロックを解除した。 【もう大丈夫。千尋、おそろいのアイコンに戻そう】 ところが、私とおそろいのアイコンを使った男性名義のアカウントから、智也に友だち申請が届いた。続けて、こんなメッセージが送られてきた。 【おそろいのアイコンって、3人で使うものなんですか?】
View More「絵里香にはもう罰を受けさせた」目を赤くした智也が、私を見た。「これで少しは気が晴れたか?」私は裸の写真を引き裂き、智也の顔に投げつけた。「悪いのは絵里香だけだと思ってるの?」智也は戸惑ったように私を見つめた。私は一歩ずつ智也に近づいた。「絵里香1人で、私をここまで追い詰められたと思ってる?本当に分からないの?それとも、分からないふりをしてるだけ?あなたがいなかったら、絵里香にこんなことができたわけないでしょ!」次の瞬間、私は智也の頬を思いきり叩いた。誰よりもプライドの高い智也が、こんなふうに頬を叩かれたことなど一度もなかった。智也は目を見開き、呆然と私を見つめた。私はその場を離れようと、智也に背を向けた。「千尋!」背後から低い声が響いた。振り返ると、智也がその場に膝をついていた。「どうすれば、俺を許してくれる?江坂と結婚しないなら、何だってする」私は足を止めた。そのとき、反対側のドアが開き、翔が姿を現した。翔は黙ったまま、私たちを見つめていた。私はテーブルの上のナイフをつかみ、智也の足元へ投げた。ナイフは乾いた音を立て、床を転がった。「自分の腹を3回刺す覚悟、ある?」智也は顔を上げ、驚いたように私を見た。「それくらいの覚悟もないなら、何だってするなんて言わないで」私は冷たく笑い、智也の横を通り過ぎた。「千尋!」背後から声が上がった。振り返ると、智也は自分の腹にナイフを深く突き刺していた。「1回目だ……」智也の口元から血が一筋流れ、声も少しかすれていた。「ごほっ!」ナイフを引き抜いた途端、智也は床に血を吐いた。「千尋……あと2回だ……終わったら、あいつとは結婚するな……」ズブッ!智也は再び、ナイフを腹に深く突き立てた。翔が息をのんだ。智也が再びナイフを腹に突き立てようとした瞬間、翔はたまらず怒鳴った。「やめろ!」ズブッ!智也は柄を握り締めたまま、口元から血を流しながら笑った。そしてナイフを引き抜くと、私に差し出した。「これで3回だ……千尋、終わったぞ」「お前……」翔の握り締めた拳には、青筋が浮かんでいた。私はその腕を押さえ、智也を冷たく見た。「それで私が翔さんとの結婚をやめるな
警察署を出ると、智也の友人たちが大勢待っていて、拍手と歓声で出迎えた。智也が近づくと、みんなが一斉に声をかけた。「智也さん、お帰りなさい!」「智也さん、こんなに早く出てこられるなんて、さすがですね!今夜は俺がおごりますよ!」「絵里香さんに会えてうれしいでしょ?今日のために、朝からめかし込んで待ってたんですよ!」智也は振り返った。きれいに着飾った絵里香が、恥ずかしそうに笑いながら、髪を耳にかけた。けれど智也はすぐに絵里香から目をそらし、友人たちをかき分けながら、誰かを捜すように辺りを見回した。どこを見ても、千尋の姿はなかった。智也は震える息を吐き、ようやく口を開いた。「千尋は?」友人たちは一瞬、ぽかんとした。「千尋はどこだって聞いてるんだ!」慌てた友人たちは、絵里香を智也の前へ連れてきた。「智也さん、絵里香さんならここにいますよ」「千尋は……」智也の声が低く沈んだ。「千尋はどこにいる?」……海外での毎日は、息をつく暇もないほど忙しかった。仕事に追われ、自由な時間は以前より減った。それでも、頑張った分だけ成果が数字に表れ、口座の残高も少しずつ増えていった。そんな日々に、私はこれまでにないほど安心していた。そんな中、智也が突然私の前に現れたときは、さすがに驚いた。かつてあれほど思い悩み、何度も泣かされた相手なのに、今こうして目の前に立っていても、遠い昔の人を見ているような気がした。「そいつと、どういう関係なんだ?」智也は、私の隣にいる翔を見た。翔が口を開くより先に、私は彼の腕を引き、かばうように一歩前へ出た。「智也、私たち、もうすぐ婚約するの。祝ってくれるならありがとう。でも、用がそれだけじゃないなら帰って」「今、何て言った?」智也は目を見開いた。次の瞬間、乾いた笑いを漏らした。「千尋、この前は知らない男とおそろいのアイコンにして、今度は婚約か。そこまでして俺の気を引きたいのか?」翔が眉をひそめた。智也の目は、うっすらと赤くなっていた。「分かったよ。認める。お前がほかの男とそんなふうにしてるのを見たら、俺だって平気じゃいられない。これで満足か?もういいから俺と帰れ。帰ったら、すぐ結婚しよう」「人の話が分からないのか?」翔は冷や
「誰か!」私は淡々と言った。「何するつもりなの!?」絵里香は、私の後ろから次々と現れたボディーガードを見て、顔をこわばらせた。私は絵里香に目を向け、薄く笑った。「あの女の服を全部脱がせて、外に放り出して」「ちょ、ちょっと……!」絵里香は青ざめ、さらに後ろへ下がった。「近づかないで!私に触らないで!私にこんなことして、智也が黙ってると思ってるの?あんたたち、ただじゃ済まないわよ!」「うるせえ!」ボディーガードの一人が、絵里香の頬を平手で打った。「黒田なんか、うちの社長の足元にも及ばねえよ」口元に血をにじませた絵里香が、信じられないものを見るように私を見た。「……何ですって?」「やめろ!」怒鳴り声とともに、慌ただしい足音が近づいてきた。智也は絵里香の襟元をつかんでいた男に駆け寄ると、胸元を思いきり蹴り飛ばした。男はその場に倒れ込み、血を吐いた。「絵里香に触るんじゃない!」「智也!」絵里香は泣きながら智也に飛びついた。「絵里香……」智也はかすかに震える手で絵里香の乱れた襟元を整え、外れていたボタンを留め直した。その背後には、こちらをはるかに上回る数のボディーガードが並び、逃げ道を塞ぐように私たちを取り囲んでいた。「千尋……」智也は、今にも私を殺しそうな目でこちらを見た。「この前あれだけの目に遭っても、まだ分からないのか?」私は眉をひそめた。「何をするつもり?」「こいつの服を全部脱がせて、そのまま人通りの多いところに放り出せ」智也は冷たく言い放った。智也の部下に取り押さえられた私のボディーガードたちが、声を上げた。「黒田、やりすぎだ!人を裸にして晒すなんて、そんな卑劣な真似をするな!」「卑劣?」智也は押さえ込まれた彼らを冷たく見渡した。「お前らも絵里香に同じことをしようとしただろ。それでよく、俺を卑劣だなんて言えるな」「こいつらも全員、裸にしろ!」服が次々と裂かれ、怒鳴り声と罵声が廊下に飛び交った。床に押さえつけられながら、私は智也を睨みつけた。「智也!こんなことして、ただで済むと思わないで!」智也は絵里香を背後にかばい、冷え切った目で私を見下ろした。「身につけてるものは全部脱がせろ」「やめて!」私の
「千尋?」翔は心配そうに、私の顔をのぞき込んだ。私はソファで膝を抱え、声もなく涙を流していた。「泣かないで。君が映っていた動画も写真も、もう全部消させた。ネットにも残ってないから」翔は少し慌てたように、私の頬を伝う涙を拭った。「ありがとうございます、翔さん」私は手首につけていたブレスレットを外し、翔の手にそっと載せた。「助けていただいたことは、絶対に忘れません。これは母の形見です。今の私には、これくらいしかできませんが、きちんと恩返しできるようになるまで、預かっていてください」「千尋!」部屋を出ようとしたところで、翔に呼び止められた。翔はしばらく言葉を詰まらせてから、口を開いた。「俺が助けたのは、ただ放っておけなかったからだ。何か返してほしいなんて思ってない」私は振り返らなかった。「千尋……」少し間を置いて、翔は続けた。「分かってほしい。俺は、何かを返してもらうために千尋を好きになったんじゃない。ただ、千尋の力になりたいんだ」私は涙で濡れた顔のまま振り返った。「それなら、智也を社会的に潰せますか?」「もちろん」翔はゆっくりと私の前まで歩み寄った。「任せてくれ、千尋」そして、そっと私を抱きしめた。「最初から、そのつもりだ」……パーティー会場では、絵里香が友人たちとダンスフロアではしゃいでいた。友人の一人が智也の席までやってきた。「智也さん、今日は絵里香さんと踊らないんですか?前は、ほかの男とは絶対に踊らせなかったじゃないですか」「服は届けたか?」智也はグラスを握ったまま、まだ一口も飲んでいなかった。「ああ、千尋さんの服ですか?とっくに届けましたよ。ほら」差し出されたスマホには、カメラに背を向けた男が、スーツの上着で千尋の体を包んでいる写真が映っていた。その男は、服を届けに行かせた男と背格好がよく似ていた。写真を見た智也は、グラスを握る手からふっと力を抜いた。ようやくグラスに口をつけ、ゆっくりと酒を味わった。「もうこれくらいでいい。誰かに様子を見に行かせろ。あいつは冷え性だから、いつまでも外に放っておくな」「分かりました!」智也はグラスの酒を一気にあおると立ち上がり、笑みを浮かべたままダンスフロアにいる絵里香のもとへ向かった。