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第352話

Author: 楽しくお金を稼ごう
蓮司は続けた。「もう二度と、お前をがっかりさせない」

その言葉が終わるやいなや、大勢の記者がなだれ込んできて、二人に向かってひっきりなしにシャッターを切り始めた。

天音は驚いて目を見開いた。記者たちの後ろに要が立っていたからだ。

天音は、要の立場を思い、力任せに手を振りほどいて一歩下がった。「私が夫から離れるわけないでしょ。風間社長、考えすぎよ」

天音が外へ向かうと、記者たちはさっと道を開けた。その先に、要が立っているのが見えた。

要が一歩前に進むと、天音は彼の腕に自分の腕を絡ませた。

記者たちは、そんな二人に向かって夢中でシャッターを切りながら、ひそひそと囁き合った。

「元旦那さんが諦めきれずに、しつこく言い寄ってるのですね」

「隊長ご夫妻は、すごく仲が良さそうに見えますけど」

「さっきネットで話題になってた件、もう消されてますよ。デマを流したアカウントはいくつか凍結されたみたいですよ」

そんな会話が、途切れ途切れに聞こえてくる。

「隊長、もう帰りましょう」暁がタイミングを見計らって言った。

天音は要の腕を組んだままホールに入った。記者たちは特殊部隊の隊員に止められて外に残されたけど、それでも必死にシャッターを切っていた。

すれ違いざま、蓮司が天音の手を掴もうと腕を伸ばした。彼の目には驚きと痛みが浮かんでいた。「天音……」

要は天音をぐっと抱き寄せると、蓮司に冷たい視線を一瞥し、天音を守るようにしてエレベーターへ向かった。

由理恵が想花を抱いて乗り込むと、暁が蓮司の行く手を阻んだ。

「風間社長、このマンションは、あなたと隊長の二世帯しかいない。隊長と奥様の安全のために、ずいぶんとご配慮いただき感謝しますよ」暁はもう一方のエレベーターを指し示しながら、閉じるボタンを押した。

蓮司は、天音の怒りに満ちた視線を受け止めた。閉まっていくエレベーターのドアを前に、何もできなかった。

「遠藤!」

蓮司は、壁に拳を叩きつけた。

その痛みで、少しだけ正気を取り戻した。

焦ってはいけない。

冷静さを失ってはだめだ。

……

暁は部屋には入らず、由理恵が想花を寝かしつけた。

リビングには二人だけが残り、気まずい沈黙が流れた。

「水、あるか?」要が尋ねた。

天音はすぐにキッチンへ行き、水を注いで要に渡した。

要の指はすらりと長く美し
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