Partager

認めるわけにはいかない

Auteur: 影畑凛星
last update Date de publication: 2026-08-01 14:48:37

 テーブルの上に置かれた離婚協議書を、拓也はじっと見つめていた。

 受任通知が届いた時も驚いた。

 美月が本当に弁護士へ依頼したのだと知り、さすがにやりすぎではないかと思った。

 それでも、時間が経てば落ち着くはずだと考えていた。

 美月は感情的になっているだけ。

 少し距離を置けば、きっと戻ってくる。

 そう信じていた。

 だが――。

「離婚協議書……」

 その5文字だけは違った。

 これは勢いで送るような書類ではない。

 本当に離婚するつもりだからこそ、弁護士が作成し、送ってきたのだ。

「だから気にしなくていいのよ」

 和江は書類をちらりと見て、鼻で笑った。

「こんなもの一枚送ってきたからって、離婚が決まるわけじゃないでしょう」

「でも……」

「納得できないなら応じなければいいだけよ」

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   離婚調停

     数日後。 美月は藤崎の事務所を訪れていた。「では、離婚調停を申し立てる方向で進めます」「はい」 美月はしっかりと頷いた。 拓也が話し合いでの離婚に応じない以上、いつまでも返事を待っているつもりはない。「調停になったら、拓也と会わないといけないんですか?」「基本的には、同じ場所で直接話し合うわけではありません」 藤崎が説明する。「裁判所では、それぞれ別の待合室で待機して、調停委員を介して話をする形になります。事情についてはこちらからも伝えておきます」「そうなんですね」 美月は少しだけ肩の力を抜いた。 拓也と顔を合わせなければならないのではないか。 それが一番不安だった。「ただ、ご主人がどういう主張をするかは分かりません」「……はい」「これまでの経緯についても整理しておきましょう」 藤崎は手元の資料へ視線を落とす。 拓也の浮気。 家を出てから繰り返された連絡。 実家やカフェへの訪問。 警察への相談。 第三者を使って届けられた手紙。 一つずつ並べていくと、美月自身が思っていた以上に多かった。「こんなにあったんですね……」「そうですね」 藤崎は淡々と答える。「記録が残っているものは、今後のためにもまとめておきます」「お願いします」 事務所を出る頃には、美月は少し疲れていた。 けれど、不思議と後悔はなかった。 もう待たない。 そう決めてから、少しずつ前へ進んでいる。 建物の外へ出ると、蒼真の車が停まっていた。 美月に気付いた蒼真が、運転席から降りる。「お疲れさまでした」「ありがとうございます」 車へ乗り込んでから、蒼真が尋ねる。「今日はどうでした?」「離婚調停を申し立てることになりました」「そうですか」「やっぱり少し緊張しますけど」 美月は苦笑した。「でも、拓也が離婚してくれるのを待ってるよりいいと思います」「はい」「裁判所で直接顔を合わせなくていいみたいなので、それはちょっと安心しました」「それなら良かったです」 蒼真はそれ以上、離婚について口を挟まなかった。 そのことが、美月にはありがたかった。 自分で決める。 蒼真は、その決断を邪魔せずに支えてくれる。「終わったら、何か食べて帰りませんか?」 不意に蒼真が言った。「え?」「昼食には少し遅くなりましたが、まだ何も

  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   変わらない意思

     藤崎からの電話を切ったあとも、拓也はしばらくその場に立ち尽くしていた。 美月は手紙を読んだ。 それなのに、帰ってこない。 離婚する意思も変わっていない。「……なんでだよ」 拓也はソファへ座り込んだ。「俺、ちゃんと書いたよな?」 和江が向かいに座る。「書いたわよ。私も読んだもの」「だったら、普通は少しくらい返事するだろ」「そうね……」「それすらしないって、おかしくない?」 拓也は納得できなかった。 何度も謝った。 やり直したいと伝えた。 九条とのことまで許すと書いた。 それでも美月は、自分を拒絶した。「やっぱり、九条が何か言ってるんだ」 拓也が呟く。「弁護士も美月本人の意思だって言ってたけど、そんなわけない」「拓也……」「だって、あいつはこんな女じゃなかった」 以前の美月なら、拓也が怒れば謝った。 頼めば家事もしてくれた。 多少不満があっても、最後には自分に合わせてくれた。 それが拓也にとっての「美月」だった。「急に人間が変わるわけないだろ」 拓也はそう言い切った。 一方。 サービスアパートメントでは、美月が藤崎からの報告を受けていた。『ご主人には、手紙を受け取ったことと、直接返答する意思がないことを伝えました』「ありがとうございます」『今後の連絡についても、改めてこちらを通すよう伝えています』「はい」『また何かあれば、すぐにご連絡ください』「分かりました」 通話を終える。 美月は小さく息を吐いた。

  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   返事を待てない男

     三日目の朝。 拓也は目を覚ますと、真っ先にスマートフォンを確認した。 通知はいくつか届いている。 けれど、どれも美月からではない。「……まだかよ」 ベッドの上で、何度も画面を更新する。 手紙は確実に届いている。 知り合いが、美月の実家に届けたと言っていた。 なら、美月は読んでいるはずだ。 それなのに、何の返事もない。 拓也は身体を起こした。「考えるって言っても、三日もかかるか?」 もちろん、美月は考えるとは一言も言っていない。 それでも拓也の中では、返事がない理由は「迷っているから」になっていた。 リビングへ行くと、和江がテレビを見ていた。「母さん」「何?」「まだ美月から返事ないんだけど」「そうなの?」「もう三日だよ」 和江は少し考える。「手紙、本当に美月さんが受け取ったの?」「実家には届けたって」「でも、お母さんが美月さんに渡さなかった可能性もあるんじゃない?」 拓也の動きが止まった。「……え?」「だって、あっちのご両親もあなたに怒ってるんでしょう?」「……」「美月さんに見せないで、勝手に捨てたとか」 拓也の表情が変わっていく。「ありえる……」 自分の手紙を読んでも返事をしない。 その可能性よりも、誰かが美月へ届けなかったと考える方が、拓也には受け入れやすかった。「じゃあ、美月は読んでないのかもしれない」「そうかもね」「だったら、返事がないのも当然じゃん」 拓也は立ち上がった。 何か別の方法で、美月本人に届けなければならない。 しかし、すぐに昨日の知

  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   届かない返事

     知り合いと別れたあと、拓也は一人で自宅へ戻った。 玄関を開けると、和江がリビングから顔を出す。「お帰り。どうだった?」「駄目だった」「何が?」「あいつ、もう協力しないって」 拓也は苛立った様子でソファへ腰を下ろした。「手紙は届けてくれたんでしょう?」「昨日はな」「じゃあ、もう一度頼めばいいじゃない」「頼んだよ」 拓也はスマートフォンをテーブルへ置く。「美月から返事があるか聞いてきてくれって言ったら、そこまではしたくないって」「どうして?」「知らないよ」 和江は不満そうに眉を寄せる。「それくらい聞いてくれてもいいのにね」「だろ?」「手紙を届けるのも、返事を聞くのも同じじゃない」 拓也は大きく頷いた。 自分たちにとっては、その違いが理解できなかった。「美月、読んだかな」「読んでるでしょう」「そうだよな」 拓也は自分に言い聞かせるように呟く。 手紙には、自分の気持ちをきちんと書いた。 怒っていないこと。 九条とのことも許すこと。 帰ってきてほしいこと。 子どもが生まれたら、今度こそ家族としてやり直したいこと。 あれを最後まで読めば、美月だって少しは考え直すはずだ。「でも、返事がないんだよ」「まだ一日でしょう?」「……そうだけど」「考えてるんじゃない?」 和江の言葉に、拓也の表情が少し明るくなる。「そうかな」「すぐ返事できるような話じゃないもの」「そうだよな」 拒絶されているとは考えない。 返事がないのは、迷っているから。 そう思えば、拓也には希望があるように感じられた。「しばら

  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   頼まれただけ

     美月は、拓也から届いた手紙を封筒へ戻した。 できれば二度と見たくない。 それでも、捨てるわけにはいかなかった。「明日、藤崎先生に連絡します」 美月が言うと、父が頷いた。「その方がいいな」「うん」 母はまだ玄関の方を気にしていた。「でも、本当に誰だったんだろう。あの人」「何か言ってなかった?」「『朝倉美月さんに渡してください』って、それだけ」「拓也の名前は?」「言ってないよ。だから私も普通に受け取っちゃった」「そっか……」 母を責める気にはなれなかった。 自分宛ての封筒を持ってきた人間が、拓也に頼まれた人物だとは普通は思わない。「顔は覚えていますか?」 蒼真が尋ねる。「うーん……見たら分かると思うけど」 母は少し考える。「知らない人だったから、そんなにちゃんとは見てないかな」「そうですよね」 蒼真もそれ以上は聞かなかった。 美月は封筒をバッグへしまう。 せっかく久しぶりに実家へ帰ってきたのに、気持ちはすっかり沈んでしまった。「ごめんね」 思わず口から出た。 父が眉を寄せる。「何がだ?」「せっかく久しぶりに帰ってきたのに、また拓也のことで……」「美月が謝ることじゃないだろ」「でも」「手紙を持ってこさせたのは拓也さんでしょ」 母も言う。「美月じゃないんだから」「……うん」 何度も同じことを言われている。 拓也がしたことまで、自分の責任にしなくていい。 頭では分かっているのに、つい謝ってしまう。「今日はもう、その話やめよう」 母

  • 妊娠中に夫が浮気。お腹の子を守るため離婚を決意したら御曹司に溺愛されました   手紙の中身

     美月は白い封筒を見つめたまま、しばらく動けなかった。「美月?」 母に呼ばれ、ようやく顔を上げる。「……拓也から」「え?」 母の表情が変わった。 父もすぐに身を乗り出す。「どうしてここに?」「分からない」 美月は封筒を裏返した。 郵送されたものではない。 切手も消印もなかった。「さっき、誰が持ってきたの?」 美月が尋ねる。「宅配の人かと思って出たんだけど、若い男の人だったよ」「男の人?」「美月に渡してほしいって、これだけ渡されて……」 母も今になって気付いたらしい。「拓也さん本人じゃなかったよ」 美月の背筋が冷たくなる。 警察から直接接触を控えるよう言われた。 だから、自分では来なかったのだろうか。「朝倉さん」 蒼真が静かに声を掛ける。「無理に読む必要はありません」「……はい」 美月は封筒を握り締める。 読みたくない。 そう思う一方で、何が書かれているのか分からないままなのも怖かった。「読みます」 美月は封筒を開いた。 中には、便箋が数枚入っている。 最初の一行を見ただけで、胸がざわついた。『美月へ』 見慣れた拓也の字だった。『ちゃんと話を聞いてほしくて、手紙を書くことにしました。電話にも出てもらえないし、会いに行くと周りの人に邪魔されるから、こうするしかありませんでした。』「……」 美月の指先に力が入る。 邪魔される。 拓也は、そう思っているのだ。 美月が自分の意思で拒絶しているとは、今も考えていない。 続きを読む。『病院で九条さんと一緒にいる君を見て、正直ショックでした。でも、俺は怒っていません。

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status