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第4話

Autor: 野菜好きな木偶
しばらくして、博之が病室から出てきて、わずかに罪悪感を滲ませながら言った。

「悠斗が熱を出したんだ。まずは悠斗に使わせる」

麻実は拳を強く握りしめた。

「晴菜こそ、あなたの娘でしょう!」

博之は不快そうに眉をひそめた。

「悠斗だって、俺の息子同然だ」

麻実はかつてのように反論することなく、唇の端を歪めると、俯いてタオルで晴菜の顔を拭いた。

博之は麻実が黙り込んでいるのを見て、一瞬ためらった後、無言で歩み寄り、晴菜の顔を拭くのを手伝おうとした。

しかし、その指先が麻実の手の甲に触れた瞬間、彼女はさっと手を引いた。

「私に触らないでッ!」

博之は一瞬、呆気に取られた。

以前のふたりは、喧嘩をするたびにこうして関係を修復してきた。麻実はいつもそこで折れ、目を赤くしながら素直に彼の腕の中に収まったものだった。

博之はふつふつと湧き上がる怒りを抑え込み、冷ややかに警告した。

「綾子に絡むのはやめろ」

言い終えると、彼はそのまま病室へと入っていった。

最初から最後まで、晴菜に一度も目を向けることはなかった。

晴菜は堪えきれず涙をこぼし、しゃくり上げながら言った。

「ママ、晴菜、何か悪いことした?どうしてパパは、晴菜より悠斗くんの方が好きなの?」

麻実の胸が締めつけられた。彼女は身をかがめて、晴菜をきつく抱きしめ、掠れた声で、ひと言ずつ区切るように言った。

「晴菜、あなたは何も悪くない。悪いのは、パパよ。

ママが一番大切に思っているのは晴菜よ。これからはママだけについてきて、いい?」

晴菜は大きく頷いた。

「うん!晴菜、ママさえいればいいの」

それから数日間、晴菜は個室に戻ることができず、病棟内の一時待機用スペースに置かれた簡易ベッドで過ごすことになった。

通りかかる人々は、好奇心と同情の入り混じった目を晴菜に向けた。晴菜はただ、毛布にくるまりながら小さく体を丸めていた。

麻実は胸が張り裂けそうだった。

病室から漏れ聞こえる綾子と悠斗の笑い声に、とうとう我慢の限界に達し、彼女は病室に飛び込んだ。

悠斗はベッドでのんびりとポテトチップスを食べながら、備え付けのテレビを眺めていた。床には空になったお菓子の袋が散らばっていた。

麻実は怒りを堪えながら、力任せに悠斗のベッドを外へ押し出し、代わりに晴菜のベッドを中へ押し入れた。

綾子が悲鳴を上げて、止めようとする。

「何のつもり!?」

麻実は彼女を強く押しのけ、冷ややかに見据えた。

「晴菜は私の命なの。あの子にこれ以上、手を出そうものなら、絶対に許さない」

綾子は一瞬呆然としたが、すぐに顔を歪めて嘲るように笑った。

「あんた、ずいぶん強気になったじゃない……

前は尻尾を振ってすり寄ることしか知らなかったくせに、今度は牙を剥くことを覚えたわけ」

麻実はぐっと拳を握りしめた。

かつての自分は、家族の絆を渇望し、いつも笑顔で姉と母の機嫌を取ろうとしていた。

けれど今の自分には、守らなければならない存在がある。

晴菜のためなら、どんなことでもする覚悟だった。

綾子がベッドのそばに歩み寄る。

「あんたの娘がどれだけ優秀だったとしても、今じゃ一人じゃ何もできない体じゃない」

そう言うなり、彼女は突然、晴菜の傷口に強く手を押し当てた。

晴菜は身動きひとつ取れず、逃げることもできないまま唇を強く噛みしめ、痛みに顔を歪め、涙で頬を濡らした。

麻実の頭の中で何かがプツンと切れた。彼女は綾子に飛びかかり、床に押し倒し、そのまま綾子の首を力いっぱい絞め上げていった。

締めつける手に、ますます力がこもっていった。

綾子の目に、ようやく恐怖の色が浮かんだ。

「マっ、ママ……?」

晴菜の泣き声混じりの声が響いた。

麻実は一瞬、体を強張らせ、次の瞬間、力をふっと抜いた。

その刹那、彼女は強い力で突き飛ばされ、額を金属製のベッドの脚に強打した。目の前が真っ暗になるほどの痛みが走った。

博之は綾子を腕の中に抱き込みながら、麻実に氷のように冷たい眼差しを向けた。

「……お前、よくも綾子に手を上げたな!」

駆けつけた明美は、綾子の首の傷を見るなり、床に倒れる麻実を憎々しげに睨みつけた。

「悠斗が私に連絡して、私が博之を呼んだからよかったものの、あんた、本当に綾子を殺すところだったんじゃない!?」

怒りで顔を引きつらせながら、麻実の髪を掴んでベッドの角に何度も打ちつけた。

晴菜が泣き叫んだ。

「うわぁん!ママを叩かないで……」

もがくうちに、ベッドから転げ落ちてしまった。

それを見た麻実は、渾身の力で振りほどき、晴菜を抱きしめた。

明美は鼻を鳴らすと、ふたりをまとめて外へ追い出し、部屋にあった荷物も一緒に放り出した。

「もう、出てけ!疫病神がふたりも!」

麻実はドアに寄りかかりながら、腕の中の晴菜をそっと抱え、絶望のあまり目を閉じた。

彼女はスマホを取り出し、ある番号にかけた。掠れた、疲れきった声で言った。

「……お願い、助けて……

もう……他に頼れる人がいないの」

電話の向こうで、男は一瞬黙り込んだ。

「俺が助ける!何だってするぞ」

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