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第8話

Autor: 野菜好きな木偶
ようやく銃声が止んだ。

晴菜の体は青紫の痣だらけになり、麻実の腕の中で小さくすすり泣いていた。

麻実の心臓が痛み、全身が震えた。

「ごめんね、晴菜……ママが連れてきたりしなければ……」

博之が近づいてきて、見下ろすように言った。

「ゴム弾だ。この距離なら大して痛くもない。大げさに騒ぐな」

麻実は晴菜を抱いたまま、無言で背を向けて歩き出した。

博之は眉をひそめた。

「送っていく」

麻実は無表情のまま、彼の脇を通り過ぎた。

博之が一歩踏み出し、彼女の手首を掴んだ。

「ここ、かなり不便な場所なんだ。車がないと動けない」

麻実は足を止め、彼を見据えた。

「今すぐ帰るわ」

博之は彼女の生気を失ったような目を見つめ、胸の奥の苛立ちがますます膨れ上がるのを感じた。だが、その理由は自分でも分からなかった。

彼は頷き、振り返って声をかけた。

「今から帰るぞ」

悠斗が不満げに叫んだ。

「なんでだよ!まだ遊び足りないのに!」

博之が冷ややかな一瞥を向けると、悠斗はびくりと身をすくめ、二度と声を上げなかった。

すると、綾子が笑って言った。

「まあ、ちょうど撃ち疲れたところだし、帰りましょう、博之」

まるで家族3人のように片手で博之の腕に絡みつき、もう片方の手で悠斗の手を引く。

腕を絡められた博之は、どこか居心地の悪さを感じたようだった。顔を上げ、麻実の表情を目にすると、その顔つきがさっと冷たくなる。それでも、綾子に腕を組まれるままにしていた。

帰りの車は四輪駆動車だった。

悠斗が我先にと乗り込み、いつも博之が座る助手席を占領した。

博之は気にする様子もなく、2列目の席に座り、綾子がぴったりと身を寄せるように隣に座った。

麻実は晴菜を抱いたまま、一番後ろの席に座った。

自分の隣に座らなかったことに、博之はますます表情を険しくした。

車は順調に走り続け、ある橋に差し掛かった時、助手席の悠斗が突然声を上げた。

「あれ、これ何?」

その言葉とほぼ同時に、カチカチという時限装置のカウントダウン音が響き渡った。

博之の顔色が一変した。身を乗り出して足元を確認すると、助手席の座席の下に爆弾が仕掛けられており、カウントダウンはすでに5分を切っていた。

「動くな。重量感知式の爆弾だ。少しでも荷重が軽くなれば、即座に起爆する」

綾子が悲鳴を上げた。

「じゃあ悠斗はどうなるの!?」

悠斗が慌てて立ち上がろうとする。

博之が鋭く一喝した。

「動くな!」

悠斗がパニックを起こして泣き叫んだ。

「ママ、僕、死にたくないよぉ……」

綾子も涙をこぼした。

「この子は、亡くなった夫との大切なひとり息子なの。お願い、絶対に助けて!」

博之は手の甲に青筋を立て、後ろを振り返った。その視線が、麻実の腕の中の晴菜へと落ちる。

麻実は晴菜をきつく抱きしめ、信じられないという顔をした。

「何をするつもり!?」

博之は束の間沈黙し、掠れた声で言った。

「晴菜と悠斗の体重が、一番近い……」

麻実は半狂乱になって首を横に振った。

「駄目、晴菜は悠斗よりずっと体重が軽いのに……!」

博之は後部の荷室にある重り袋を指差した。

「これを足せば、足りる」

麻実は顔面蒼白になった。

「晴菜に、他の子の身代わりで死ねって言うの?」

博之は彼女の目を見ようとせず、ただ力ずくで彼女を押さえつけた。

麻実は必死に抵抗したが、博之の力にはまるで敵わない。ただ、綾子がひったくるように晴菜を腕から奪い取っていくのを、なす術もなく見ていることしかできなかった。

博之は彼女を腕の中に閉じ込め、強く抱きすくめた。

麻実は彼の肩に力任せに噛みついた。血の味が口の中いっぱいに広がる。

博之は低く呻き、掠れた声で言った。

「これで最後にする。約束する」

彼はベルトで彼女の手足を縛り、座席に固定すると、素早く身を翻し、晴菜に重り袋を抱かせて悠斗の代わりに助手席に座らせた。

晴菜は涙を必死にこらえながら、素直に袋を抱きしめた。

「晴菜が死んだら、ママは助かるんだよね?」

博之の動きが、一瞬止まった。

「晴菜は死なない。パパが、必ず助けを呼んでくる」

晴菜は何も言わず、ただまっすぐに母を見つめた。

「ママ……来世でも、また晴菜のママになってくれる?」

麻実は息もできないほど泣きじゃくった。

綾子は早々に悠斗を連れて車を降り、一目散に遠くまで逃げていった。

博之は麻実のシートベルトを外し、彼女を抱き上げると、強引に車の外へ連れ出そうとした。

麻実はいつの間にか手を縛っていたベルトを自力で解いており、博之の腕を振りほどくと、弾かれたように車へと駆け戻った。

背後で、博之の抑えきれない叫び声が聞こえた。

「麻実、戻ってこい!」

彼女は車の中に飛び込み、晴菜を胸に抱き込むと、開け放たれた反対側のドアから、体を投げ出すようにして転がり落ちた。そのまま、暗い川面へと落下していった。

巨大な火柱が、彼女たちの背後で噴き上がった。

麻実は、自分がどれほどの時間、冷たい水の中を泳いでいたのか分からなかった。ようやく岸にたどり着き、力を振り絞って立ち上がる。誰かに助けを求めようとしたその時——

1台の車が猛スピードで走り抜け、すぐに引き返してきて、彼女の前で止まった。

端整な顔立ちをした男が車を降りてくる。その表情には、隠しきれない焦りと深い心配が滲んでいた。

麻実はもう、それ以上立っていられなかった。彼の腕の中に倒れ込みながら、掠れた声で必死に訴えかけた。

「晴菜を……晴菜を、助けて……!」

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