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婚約者は初恋のために私と子を殺した
婚約者は初恋のために私と子を殺した
Author: ちょうどよい

第1話

Author: ちょうどよい
「申し訳ありませんが、神崎お嬢様。招待状のご提示がない方は入場できません」

黒ずくめの警備員が冷たい表情で私を阻んだ。

ここは、私の両親が持てる人脈と資金を使って篠宮景悠(しのみや けいゆう)のために開いた新製品発表会なのに、主催者側の娘である私は招待すらされていなかった。

しかし、私の胸には喜びがこみ上げていた。

なぜならついさっき、私は生まれ変わったばかりだから。

ちょうどこの新製品発表会の日に戻ってきたのだ。

地位も資産も、我が神崎家は篠宮家よりはるかに上。

彼の心にあるのが、ただ一人の九条心桜(くじょう こころ)だとわかっていても、景悠をひたすら愛していた。

彼の両親もそれを望んでいた。心桜が海外に行ったとたん、景悠と結婚するように急かした。

だが、景悠は私に笑顔を見せたことがない。

その警備員もそれを承知で、むしろ嘲るような笑みを浮かべていた。

「神崎お嬢様、こんなところでご無理になさらなくても……」

招待状を持った人々が、華やかに着飾って会場へとに入っていく。

私に気づくと、うつむき、小声で囁き合った。

前世でもこのように門前払いを受けた。

オートクチュールのドレスを着て、寒風の中で震えながら、冷たい視線と嘲笑いにさらされ続けた。

やがて倒れて病院に運ばれ、そこで妊娠が発覚した。

景悠は、その場で顔を曇らせた。

だが篠宮夫人は歓喜し、直ちに一か月後に結婚式を挙げると発表した。

まさか結婚式当日、心桜が帰ってくるとは思わなかった。

私と景悠の結婚を目にした彼女は、涙を浮かべて屋上から飛び降りた。

それでも景悠は、何事もなかったかのように式を続けた。

結婚後、子供も生まれ、三人はきっと幸せに暮せていくと、そう信じていた。

だが結婚記念日当日、彼は私と子供をバンジージャンプに誘った。

私も疑いもせず、胸を躍らせた。

だが飛び降りる直前、彼は背後でロープを断ち切った。

薄れゆく意識の中で、彼の瞳には憎悪の炎が燃えていた。

「お前が子供で俺を縛りつけなければ、心桜は死ななかった!

俺の子を産むなんて、身の程わきまえろ!お前たちを見るだけで吐き気がする!

地獄で心桜に詫びろ!」

そのとき初めて知った。これまでの幸せはすべて偽りで、彼はずっと心桜の死を、私と子供のせいにしていたのだと。

私が死んだあとも、彼は私の両親を許さなかった。

利用するだけ利用し、最後には裏切り、家を破滅に追い込んだのだ。

今回の人生は、景悠から遠く離れて、自分と家族を守り抜く。それだけだ。
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