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第3話

Auteur: 椎子せつな
大輔の上手な取り入り方に、森田は嬉々として笑いが止まらない様子だった。

一見、仲の良い家族に聞こえるかもしれない。でも、この平和は私の痛みの上に築かれている。森田の笑い声が針のように耳に突き刺さり、心を締め付けた。

「お母さんのことは気にしないで」森田は聖人ぶった態度を崩さない。「若い頃から根に持つタイプで、少々器が小さいところはあるけれど、それでも大輔の母親だしね。あの子が生まれた時のことを思い出すと......」

森田は言葉を濁らせ、また涙声になった。

「良い方に変わってくれると信じていたのに。こんなに長い月日が経っても、変わるどころか、むしろ性格が悪くなるなんて」

私はスーツケースに最後の洋服を詰めながら、あの日のことを思い出していた。

私がこっそり野良犬に餌をやっていたのを森田に見つかった時のこと。彼女は激怒し、そんな不潔な生き物が大輔に害を与えると思い込んで、包丁を持って飛び出していった。かわいそうな子犬たちを殺そうとしたのだ。

私は涙ながらに後を追いかけ、必死で説得した。路頭に迷う子犬たちは既に可哀想なのだから、これ以上傷つけないでと。

でも森田は私を「偽善者」「厚かましい女」と罵り、「息子の金で野良犬なんかに餌をやって」と怒鳴り散らした。揉み合ううちに、私は車道に押し出され、向かってきた車に撞かれてしまい、それが大輔の早産を引き起こすことになった。

胸が締め付けられる。あの頃、保育器の中でか細く横たわっていた大輔が、今ではこんなにも......

スーツケースのチャックを閉めると、私はリビングまで引きずって行き、そこにいる面々を見つめ、思わず皮肉めいた言葉が漏れた。

「あの時、私を車に撞かせて、大輔が早産で生まれて、ICUで一ヶ月も過ごしたのに、森田さん、一度でも顔を見に来ましたっけ?」

あの時の早産の時。

森田は泣き叫びながら健一に入院費を払わせまいとし、病院中を大声で騒ぎ立てた。病院が金を騙し取ろうとしている、単なる出産でなぜ入院が必要なのか、どうしてそんな法外な金額がかかるのかと。

彼女は二日間も病院で泣き喚き続けた。

最終的に、私の両親が他県から急いで駆けつけ、医療費を立て替えることになったのだ。

私は森田の表情が強張るのを見て、さらに畳みかけた。「あの時、私の両親が医療費を支払った途端、どうして急に泣き止んだのかしら。

急に態度を変えて、『医者の言う通りにしないと』なんて言い出したのは、なぜなのかしら?」

森田の顔に後ろめたい色が浮かんだ。私はこれまで大輔に過去のことを話したことはなかった。大人同士の揉め事を子供に押し付けるべきじゃないと思っていたから。

でも今日の大輔を見て、もう全てを話すしかないと観念した。

「大輔が一ヶ月の入院を終えて退院した時、真冬だというのにお湯を惜しんで冷水で赤ちゃんを洗い、退院したばかりの赤ちゃんを肺炎にかからせたのは、誰だったかしら?」

あの凍えるような冬の日。

外では大雪が降りしきる中、私がデパートで赤ちゃん用のミルクや哺乳瓶を買って帰ると、暖房の効いた部屋で、森田が大輔に冷水浴をさせているところに出くわした。

私は青ざめて森田を押しのけ、冷たくなった大輔を急いで布団に包んで温めた。

あの時、森田は私が大げさだと一蹴し、「子供は苦労しないと立派な人間にならない」なんて言い放った。

冷水を使ったのは、赤ちゃんの体を丈夫にするためだと森田は言い張った。

その結果、大輔はその日のうちに高熱を出してしまった。私が病院に連れて行こうとすると、森田は強引に止めようとした。「熱が出たのは邪気が憑いただけ」と言い張り、健一と手を組んで私から赤ちゃんを奪うと、お寺で符を買って来て、それを燃やした水を三杯も大輔に無理矢理飲ませたのだ。

私が必死で追いかけた時には、大輔はもう命が危ないところまで追い込まれていた。

大輔は私の話を黙って聞いていたが、次第に表情が固くなり、森田の方を向いた。

「おばあちゃん。

お母さんの言ってること......本当なの?」

もちろん、全て事実。

私が森田の後ろめたそうな目と向き合っていると、彼女が観念しそうになった瞬間、健一が書斎から姿を現した。

「何年も前の話を、どうして今さら蒸し返すんだ」

「結局はな」健一は私を非難がましく見た。「お前と母さんのコミュニケーション不足が原因だろう。

母さんだって孫を想う気持ちからしたことじゃないか。それがお前には許せない大罪なのか?」

健一はたった数言で森田の罪を帳消しにしてしまった。

大輔の表情が、何かを悟ったかのように変わった。

「お母さん、もうおばあちゃんを責めないで」大輔はまた和解を試みた。「おばあちゃんは昔の人だから、そういうことが分からないんだよ。いつまでもそれを言っても仕方ないでしょう。それに、今は病気なんだし。

もう過去のことは水に流そうよ」

私が森田の方を向くと、彼女は先ほどの弱々しい様子を一変させ、得意げな表情を浮かべていた。「そうよ、優子さん、私たちは家族じゃないの」

森田は目を光らせ、私のスーツケースに気づくと、急に話題を変えた。

「その荷物は何のつもり?

まさか、また家出する気?」森田は意図的に過去を蒸し返した。「前にもこうやって、健一に私を追い出させようとしたわね。もしかして......」

森田はまた泣き芝居を始めた。

「やっぱり私が来るべきじゃなかったのね。私が出て行きます!」

森田は全く動く気配すらないのに、大輔が彼女の前に立ちはだかり、健一の顔には怒りが浮かんでいた。突然、全てが虚しく思えてきた。

私は人生をこの家族のために捧げてきた。

そして見返りは。

たった一言、「細かいことにこだわる女」という評価だけ。

そう来るなら。

私という「細かい女」がいなくなれば、どれだけ平和に暮らせるのか、見てみたいものね。

「あなたが出て行く必要はありませんよ」

芝居がかった森田の言葉を遮り、彼女の驚愕の表情を横目に、冷ややかに健一を見つめた。「離婚しましょう」

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