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6話

Author: さいだー
last update Last Updated: 2025-06-11 21:15:33

「どうだ。止まったか?」

滝沢は首をふるふると横に振る。

公園のベンチに座らせて安静にして鼻を押さえさせているが、鼻血はまだ止まっていないようだ。

スマホですぐに応急処置を調べたけれど、果たしてこれで本当にあっているのだろうか。

少し心配だ。

「ご、ごべんだざい」

止血の為に鼻を摘んでいる滝沢は、滑舌悪く謝罪をしてきたが、それは俺に向けるためのものではない。

それを被害者である矢野さんが受け入れるとも思えないが。

「とりあえず止血することに集中してくれ。話はそれからだ」

滝沢はコクリと一つ頷いた。

チラリと横顔を見やると、とても残念だった。

入学当初、美人だと思っていたその横顔は、擦りむいてあちらこちらに傷ができてしまっているし、顔についた固まりかけの血液でベタベタになってしまい、見る影もない。

流れ落ちた紅血がカーキ色のコートまでをも汚してしまっていた。

クラスメイトになった当初、サラサラでキレイだなと思っていた亜麻色の長い髪も今はボサボサで見る影もない。

見ているのもなにか悪い気がしてきて、そのまま天を仰いだ。

俺は何してんだろうな。

吉岡と陽川に付き合ってマスドに行っていなければこんな事にはきっとならなかった。

矢野さんの事を気にして、こんな遠回りしてまで矢野さんの家の近くまでやって来なかっただろうし、滝沢と遭遇する事もなかっただろう。

そうすれば今頃は、涼しいベッドの上でゴロゴロしながらアニメでも観ていたかもしれない。

そんな事を考えていたら自然と、無意識にため息が溢れていた。

「は、本当に、ごめんなひゃい」

声のした方を見ると、滝沢は鼻から手を離していた。

「手、離しても大丈夫なのか?」

「と、と止まりました」

「それは良かった。っていうかさ、謝る相手が違うだろ。聞いたぞ。お前、矢野さんのストーカーしてるんだってな」

「えっ?す、す、ストーカー!?」

ストーカーと言う言葉にかなり驚いたようで、滝沢は教室でもときおりあげる奇声を上げた。

驚く要素あるかね?現につい先ほどもストーカーをしてたわけで。

「お前、変装して矢野さんの家の前に居たろ?矢野さんは迷惑してるってナイト様が言ってたぞ。ほどほどにしとけよ」

ナイト様ってのは陽川の蔑称だ。陽川に
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