私にだけ塩対応の義兄が溺愛モンスターにジョブチェンだと?

私にだけ塩対応の義兄が溺愛モンスターにジョブチェンだと?

last updateLast Updated : 2025-08-30
By:  甘寧Completed
Language: Japanese
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「何だ?この頭が悪そうな生き物は…」 そう口にしたのは、今日から義兄となるクライヴ… ヴァレンティン伯爵家の一人娘、シャルロットは8歳の時、継母と義兄が出来た。 兄であるクライヴの第一印象は最悪。それでも兄妹になったのなら、仲良くしたいと歩み寄るシャルロットだったが、クライヴは塩対応。 もう、この人はそういう人なんだと諦めて過ごしていたある日…両親が急死した。シャルロット20歳前日のことだった。 悲しむシャルロットにクライヴは「大丈夫、貴女には私がいます。一人じゃありませんよ」と優しく抱きしめてくれた。 悔しいが、その一言に救われた気がした。 これを境に二人の関係は少しずつ変化していく…

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Chapter 1

1

自慢では無いが、私には頭脳明晰、眉目秀麗な天が味方に付いて完全に一人勝ちした様な兄がいる。父の後を継ぐように騎士になり今や副団長。

片や妹である私は、良くも悪くも人並み程度。学力も平均的で特別目立った功績もない。

最初に言った通り、自慢するつもりは毛頭ない。むしろ、そんな目立つ兄がいるってだけで、ことある事に比べられて来た。兄を慕う令嬢からは、妬みや恨み言を言われることもしばしば。正直、厄介者という認識でいる。

そもそも、兄と似るはずがない。私と兄は血の繋がりはないのだから…

***

義兄であるクライヴと出会ったのは、シャルロットが8歳の時。父の再婚で継母と5歳離れた義兄が出来ると聞かされたシャルロットは大いに喜び、屋敷にやってくるその日を心待ちにしていた。

「何だ?この頭が悪そうな生き物は…」

心待ちにしていたシャルロットが、初見で開口一番に言われた言葉。

眉間に皺を寄せ、心底面倒臭そうな表情でこちらを睨むクライヴ。シャルロットは顔を引き攣らせながらも、必死に笑顔を保たせた。

「なんて事言うの!今日から貴方の妹になるシャルロットちゃんよ!」

慌てて取り繕う継母が哀れで、湧き上がってくる怒りを何とか鎮めたのを覚えてる。傍では父がゲラゲラ笑いながら、兄になるクライヴだと紹介してくれた。

第一印象は最悪。楽しみにしていた分、この仕打ちは幼子心に堪えた。

「急に家族が増えて困惑しているんですよ」

使用人達が落ち込んでいるシャルロットを宥めるように声をかけてくれる。まあ、それもそうか…とその場は納得できた。

「仲良くしてくれるかな?」

「ええ、きっと」

その言葉を信じ、クライヴを見かけたら声をかけて仲を縮めようと努力した。……が、

「何ですか?」

「用がなければ声をかけないでください」

返される言葉はいつも冷たいもの。それでも、折角できた兄と仲良くしたい一心で、何度も折れかける心を誤魔化しながら立ち向かった。……というか、ここまで拒絶されたら逆に意地にもなる。

「用がないなら声をかけるなってことは、用を作ればいいってことでしょ!?」

半ば意地になったシャルロットは、教本を何冊も抱き抱えてクライヴの元を訪れた。

「お兄様、分からない所があるので教えていただけますか?」

これ見よがしにドンッとクライヴの目の前に積み上げた。クライヴは一瞬狼狽えるように目を見開いたが、すぐに面倒臭そうに顔を顰めた。

「頭が悪いとは思っていましたが、これほどまでとは…」

「……」

堪えろ。堪えるんだ。と心の中で呟きながら笑顔を取り繕う。

「これではお義父様の心労が測り知れないですね…仕方ありません」

そう言うと、一番上から一冊手に取った。その姿を見てシャルロットは顔を輝かせて喜んだ。

……が、これが地獄への第一歩。

「先に言っておきますが、私が教えるんですから学年トップ以外は認めませんよ」

「え?」

思わず顔が引き攣った。

普段のシャルロットの成績は平均点ギリギリ。ここから学年上位を目指すなんて、無謀にもほどがある。

「泣き言は一切受け付けません」

眼鏡をかけながら、早く座るように促してくる。

ここで座ったら終わりだ…頭では分かっているのに、眼鏡の奥で鋭く光る瞳に逆らえることが出来ず、大人しく座ってしまった。

その後は言わなくてもお分かりのように、地獄なんて生ぬるいと思えるような扱きを受けた。まあ、そのおかげで成績は格段に上がった。学年トップには届かなかったが、両親は驚きながらも喜んでくれた。問題のクライヴは…

「貴女にしては頑張ったほうでは?」

嫌味の一つでも言われると思っていたが、労うような言葉をかけられた。思いもよらない言葉に、シャルロットはボロボロ涙が零れた。ようやく認められた…そう思ったら、自然と涙が出てきた。

そんな様子にクライヴは目を見開いて狼狽えた。泣き止ますのにどうしていいのか分からなかったのだろう。溜息を吐きながらも、涙を流すシャルロットを胸に抱きしめて不器用に頭を撫でてきた。

顔を埋めながらシャルロットは不器用な優しさにクスッと微笑んだ。

これで距離が縮まったかな。と思っていたが、その考えは大間違い。次の日には相変わらずの塩対応に元通り。

この人は表情筋と感情が死んでいるんじゃないのか?と疑ったが、両親達とは普通に話すし笑顔まで見せている。

何故私だけ、こうも態度が違うのか…と悩んだ時期もあった。結局、この人は私に対してはこう言う人なんだと割り切って諦めた。

ああ…そう言えば一度だけ、心配された事があったな。

あれは、そう。兄妹になってしばらく経った頃、クライヴに好意を持った令嬢達から嫌がらせを受け、納屋に閉じ込められたことがあった。

「クライヴ様の妹だからって、良い気になってムカつくのよ!」

誤解のないように言っておくが、あの人の妹だからと威張った事も笠に着せたことも一切ない。

私のような冴えない女があの人の傍にいるってだけで、癪に障るって事だろう。そんなの…

(私にどうしろと?)

泣いて許しを乞うなんて冗談じゃない。こちらは何も悪くないのに、謝るなんて馬鹿のすることだ。そもそも、何故私がこんな仕打ちをされなきゃならんのだ。

考えれば考えるほど苛立ち、外でせせら笑う令嬢達の声で我慢の限界を迎えそうになっていた。

「シャルロット!」

突如名を呼ばれ、ハッとした。

「貴様ら…ここで何をしている」

怒気を含んだ声だが、その声に覚えがある。兄のクライヴだ。

「く、クライヴ様…な、何故こちらへ?」

令嬢達の声は震え、しどろもどろになっている様子。顔を見なくても、その顔色は酷く悪い事だろう。

「黙れ!俺のシャルロットを何処にやった!」

「ひっ!」

声を張上げて怒鳴るクライヴに、シャルロットまでも震え上がってしまう。

令嬢達の駆けていく足音が聞こえると、すぐに扉が開かれた。眩い陽の光で目が霞む中、ギュッと力強く抱きしめられた。

「ロティ…良かった」

いつもと違う弱々しく震えた声。本当に心配してくれたんだと分かったが、いざ心配されるとどう言葉を返していいのか分からない。

シャルロットが困惑していたら「行きましょう」と温かみのある笑顔を向けられた。手を差し出され、その手を取ると一緒に納屋を後にした。

いつもは関心が無い素振りを見せてるけど、いざとなったら助けに来てくれるんだ…

前を行くクライヴの背中を見ると、こそばゆい気持ちが込み上げてきて頬を緩めた。

──こんな関係も悪くない。かな

そう思っていたのに…

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2
事件は突然やって来た。「お嬢様!旦那様と奥様が!」 「え?」 シャルロットが20歳になる前日、両親は事故に遭い他界した。シャルロットの誕生日プレゼントの為に、隣町に出掛けた最中に起こった事故だった。 連日降り続いた雨で地盤が崩れ、その土砂に巻き込まれたと聞いた。即死だったらしい。 父と母は小さな箱を守るようにお互いに手を取り、包み込んでいたらしい。その箱の中には、シャルロットの20歳の記念にと選んだペンダントが入っていた。「…う…うぅ…お父様……お義母様…ッ!」 その事実を知った時、シャルロットは膝から崩れ落ち地面に突っ伏して泣いた。その傍らにはクライヴが黙って佇んでいた。 最悪の誕生日。 本来なら笑顔の両親から受けるはずだったプレゼント。嬉しいはずなのに、嬉しくない。「いつまで泣いているつもりですか?」 こんな時ぐらいは黙って感傷に浸らせろと睨みつけながら訴えるが、クライヴは止まらない。「その手に持っているのは何ですか。貴女のお父上が命を懸けて守ってくれたプレゼントですよ?どんな物より価値のある代物です。笑顔で感謝を伝えなければ報われません」 そう言うと、優しく全身を包み込むように抱きしめられた。「大丈夫、貴女には私がいます。一人じゃありませんよ」 幼い子供をあやす様にポンポンと背中を叩かれると、涙が滝のように溢れ出てきた。 悔しいけど、その一言に救われた気がした… *** 当主である父が亡くなり、兄であるクライヴが後を引き継いだ。 急な事で、クライヴ自身も決意が定まらぬまま引き継いだ形となり、その苦労は目に見えて明らかだった。 朝は誰よりも早く起き、屋敷を出る。帰宅は、みんなが寝静まった深夜遅く。一体いつ休んでいるのか疑問になるほどで、使用人達すらもクライヴとしばらく顔を合わせていないと言う者がほとんどだった。 そんな生活を二ヶ月近く送っていたある日の深夜…シャルロットは物音で目が覚めた。窓の外はまだ暗く、月が真上にある。こんな時間に起きているのは一人しかない。 シャルロットはベッドから出ると、部屋の外へ出た。「お兄様」 「ああ、貴女ですか…どうしたんです?こんな時間まで…」 久しぶりに会ったクライヴは、酷く疲れた様子で顔色も悪く、目の下には濃く色付いた隈が目立っていた。まるで別人のような変貌ぶりに、
last updateLast Updated : 2025-07-22
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翌日、目を覚ましたシャルロットは、隣で眠るクライヴを目にしてホッとした。 それと同時に、こんな状況でも眠れてしまう自分の図太い神経を嘆いた。(感心すべき所なのか…危機感を持つべきなのか…) 血の繋がりはなくとも、兄妹なのだから気にしすぎだと言われたらそれまで。それに、相手が相手なだけに悶々と考えるのも馬鹿みたいだ。(この人にとっては、抱き枕程度って事でしょ) これだけ眠れるということは、抱き枕としての役目は十分に果たせたはずだ。 うんうん。と納得すると、シャルロットはクライヴを起こさないようにそっとベッドを出た。 その日は、朝食にクライヴの姿があった。 顔色はまだ良くないものの、朝食の席にいるだけで使用人達は安堵し、忙しなく料理を運んでくる。 久しぶりに食卓が明るい雰囲気になり、シャルロットは嬉しくてニコニコと屈託のない笑みを浮かべていた。クライヴには怪訝な表情で見られたが、まあ、今日ぐらいは許してやろう。 気分良く朝食を摂り、いつものように一日が始まり、いつものように終わるはずだった…「………」 シャルロットは唖然とした表情でベッドに入って、天井の一点を見つめていた。 横には当然のようにクライヴがベッドに入り、本を読んでいる。「いや、おかしい!」 正気に戻ったシャルロットが、勢いよく体を起こした。「何で隣にいるんですか!?」 「愚問ですね」 飄々とした態度で言ってのけるクライヴに一瞬、たじろいでしまったが、多分私は間違っていない!と信じて強気に言い返す。「何が悲しくて、いい歳した兄妹が同じベッドで寝なきゃならんのです!?」 「私と寝るのは嫌だと?」 「そうじゃない!世間一般的な問題です!」 「別に気にする事ではありませんよ」 「……」 なんだ?やけに保身的な言い回しをしてくるな… 普段のクライヴなら『私の為に努力すると貴女が言い出したんです。抱き枕ぐらいしか役に立てないのですから、しっかり役立って下さい?子供じゃないんですから、自分の発言に責任を持ちなさい』 とか何とか傲慢的かつ高圧的な態度で言い負かしてくるはずなのに、今回ばかりは様子が違う。言葉一つ一つが守りの姿勢を取っている様な感じがする。「ふふっ、随分勘繰ってますね」 これが勘繰らないでどうする。「単純に、私が貴女と一緒にいたいんですよ」
last updateLast Updated : 2025-07-22
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叔母であるミランダが訪れてきたあの日から、クライヴの様子がおかしい。 少し外出しようとすれば、誰と何処に行くのか事細かに説明しなければ屋敷から出る事を許してくれなくなった。 更に、この歳でまさかの門限がついた。門限までに帰らないとペナルティを課すと言い出す始末。「門限って…子供じゃないんですよ!?」 いくらなんでもあんまりだと、机を叩きつけながら抗議した。「私からすれば、まだ子供同然です。子を守るのは親の役目しょう?」 「はぁ!?いつ貴方は私の親になったんですか!?」 「親になったつもりはありませんよ。分かりやすく言い換えただけです」 書類から一切目を逸らさずに言い切られた。目すら合わせない癖に、言う事を聞けとは随分横暴じゃないのか? …ああ、この人は最初から横暴で傲慢だった…「とにかく、私は成人を迎えた立派なレディです。門限なんて必要ありません」 ここで負けては駄目だと、腕を組みながら強気に発言した。「ロティ」 その一言にうなじがゾッと粟立った。 カチャと眼鏡を外し、真っ直ぐにこちらを見つめるクライヴ。綺麗な顔をしている人ほど、本気な威圧は萎縮してしまう。「この屋敷の当主は誰?」 「お、お兄様です」 「当主の言葉は?」 「…………絶対」 「そう言うことです」「分かったら行きなさい」と言わんばかりに眼鏡をかけ直し、書類に目を通し始めた。 シャルロットは不服そうに頬を膨らまして、苛立ちを表すように大きな足音を立てながら部屋を後にした。 扉が閉められると「クスクス」とクライヴの楽し気な声がその場に響いた。「まったく、そういう所が子供だと言うんですよ」 *** クライヴからの厳しい監視が続く中、シャルロットの親友であるドロシー・クリッチの誕生パーティーの招待状が届いた。ドロシーの事はクライヴも良く知っているので、外出の許可はすぐに下りたが、問題は門限の方。 一人娘であるドロシーの誕生日という事で、毎年盛大なパーティーを開かれる。それこそ夜通し開かれるので、シャルロットはお泊まりが決まりだった。当然、今回も泊まりで行く予定なのだが…「駄目です」 だと思った。「何故です!?毎年泊まっているんですよ?」 「毎年いけるから今年も大丈夫だと思ったら大間違いですよ」 「一日だけ!今回だけ!ドロシーの誕生日なのよ!お願
last updateLast Updated : 2025-07-23
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「それで家出したって?」 煙草を吹かしながら不貞腐れように枕を抱えるシャルロットに声をかけるのは、親友のドロシー。 漆黒の髪に切れ長の目で妖艶に微笑む姿は、同性であるシャルロットでも思わず息を飲むほど美しい。 煙草を咥え、素足を晒して脚を組む姿はとても令嬢とは思えいないが、これでも立派な侯爵令嬢。自由奔放で淑女とはほど遠いが、ありままの自分を隠そうとしない姿が格好良く、憧れている者も多い。「まあ、こちらはいつまで居てくれても構わないよ」 「本当!?」 「あの男の事だ。あんたがここに居ることは把握してるだろうしね。ゆっくりして行きな」 男前発言に目に涙を浮かべて喜んだ。 そんなシャルロットに「きっとすぐに迎えが来るんだろうがな」とは言えず、言葉を飲み込んだ。 すぐ迎えに来ると思っていたが、一日、二日と何事もなく日が過ぎ、更に三日、四日と日が経った。 「お誕生日おめでとう」 「ありがとう」 タイトで艶やかなドレスを纏ったドロシーに祝いの言葉をかけた。 今日はドロシーの誕生パーティー当日。 家出を決行してから数日、クライヴからの連絡は一切ない。あれだけ行動を制限していたんだから、すぐに怒鳴り込んでくるかと思っていたシャルロットも拍子抜け。 しかし、こうも静かだと逆に心配になってくる自分もいる。「クスクス」 眉を顰めて外を眺めていると、ドロシーの楽しげに笑う声が耳に届いた。「連絡がなければないで心配になるとは、あんたも大概だね」 「そ、そんな事ない!清々してるわよ」 「そうか?私はそうは見えないがな」 そんな揶揄う言葉をかけられながら、招待客の待つ広間へと急いだ。 広間の扉を開ければ、そこは別世界。煌びやかで賑やかな光景が目に飛び込んできた。毎年広間を覆いつくほどの人に圧巻される。 主役であるドロシーが足を踏み入れれば、すぐにワッとその場が湧き上がる。ドロシーの周りにはあっという間に人だかりが出来上がり、人柄が分かるように笑顔で一人一人に挨拶をして行く。こうなるとシャルロッテは完全に蚊帳の外。 まあ毎度の事なので慣れたもの。グラスを手にして壁際に寄り、人が掃けるのをジッと待つ。 一つ目のグラスが空になり、二つ目のグラスに手を伸ばした所で「こんばんわ」と声がかかった。チラッと見ると、色眼鏡をかけた男が同じようにグラス
last updateLast Updated : 2025-07-23
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世間から見たクライヴと言う人間は、常に冷静沈着かつ勇猛果敢。流石は騎士団長と定評がある一方で、感情が読み取れず、何を考えているのか分からないと言う声も多い。まっことその通りだなと、シャルロットも共感できる。 まあ、何が言いたいのかと言うと…笑顔を装っているが、見るからに苛立った様子のクライヴを目の当たりにして、お祝いムードが一変。一気に興味と関心に飲まれた者たちの注目を浴びている。 それでなくとも、華やかな場を嫌い、護衛以外では滅多に顔を出さない者が来れば、嫌でも目に入るだろう。「…お兄様が来るなんてどういう風の吹き回しです?」 慌てず騒がず冷静に。「貴女を迎えに来たんですよ」 「…今まで連絡の一つも寄越さなかったのに今更?別に心配もしていないんでしょ?なら放っておいて」 突き放すように言うが、聞き取り方によっては心配されたくて駄々を捏ねる子供のように聞こえる。少なくとも、クライヴにはそう聞こえたらしく、嬉しそうに顔を歪めていた。「私は貴女の意志を尊重したまで…しかしながら、貴女を不安にさせたのも事実。そこは大変申し訳なく思ってます」 汐らしい態度で頭を下げられた。「勘違いされているようですが、連絡は毎日しておりましたよ?まあ、貴女ではなく、そこで悦に入っている彼女にですが…」 「は?」 クライヴの指差す先には、ドロシーがほくそ笑みながらこちらを見つめていた。「シャルロットすまない。この男を敵に回すと面倒なのでな」 「そんな事で親友を売らないでよ!」 「売ったつもりはないぞ?親友を想っているのは同じだからな。単に利害が一致しただけの事だ」「そういう事です」と当然と言わんばかりの言葉が返された。 この二人が結託していただと…?ドロシーまで巻き込むとは想定していなかった。 この徹底したような執着ぶりに、怒りを通り越して逆に関心してしまう。「それはそうと…」 クライヴは
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いつからだろう…クライヴが『俺』から『私』と自身を呼ぶようになったのは…同じように言葉も大人びた様に丁寧な口調に変わっていった。(そんなクライヴが『俺』だと?) 一体何が…と、ふとテーブルに目をやってハッとした。そこには、封の空いたワインの瓶が一本置いてあるのが見える。「あの…もしやと思いますが、あれを飲んだのは貴方?」 顔を引き攣らせながら問いかけると「ふっ」と柔らかな笑みが返ってきた。肯定も否定もしていないのが答えだ。(やっぱり) 頭脳明晰、眉目秀麗で向かうとこ敵無しなクライヴだが、一つだけ弱点がある。それが、酒にめっぽう弱いという事。 クライヴが成人を迎えた際には、喜んだ父がアホみたいに酒を買い付けたが、グラス二杯でぶっ倒れた程の下戸。酒だけならシャルロットの方が圧倒的に強い。「ドロシーに…」と何か言い出したので、とりあえず黙って聞いてみた。「頭に血が上りすぎだと言って渡された。飲めば楽になると言われてな。確かに気持ちは楽になったが、体が熱くて仕方ない…」 おもむろにシャツのボタンに手をかけ、脱ぎ出したもんだからこちらはたまったものじゃない。「ストップ!お兄様、それは駄目です!絶対に!」 焦りながら止めるが、クライヴは不服そう。「…何故だ?やはり俺が嫌いなのか?」 捨てられた子犬のような目で訴えて来る。これは面倒な展開になってきたな…と苦い笑みを浮かべるしかない。「ロティ…俺にはお前しかいない。嫌いなんて言わないでくれ」 シャルロットの肩に埋もれるように呟いた。「誰の元にも行かないで。ずっと俺と傍にいればいい」 首筋に息が当たってくすぐったい。早く退かさないと、突き飛ばして逃げればいい…そう思うが、体が言うことを聞かない。「ロティ…愛してる」 「!!」 耳元で囁かれると、首筋にチリッとした刺激が肌に伝わり、驚いて飛び上がった。床ではクライヴ
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その日、突如嵐はやって来た…「シャルロットちゃん!」 台風の目となったのは、叔母であるミランダ。「あら?今日は小煩い男は居ないのね」 「お兄様なら遠征で二、三日留守にしてますが…お兄様に御用ですか?」 「わたくしがあの男に?冗談でしょ?何故、あの男の為にわたくしが足を運ばなければ行けないの?シャルロットちゃんに会いに来たに決まってるじゃない」 屋敷に入るなり、チラチラと辺りを気にしながら訊ねてきたので、てっきりクライヴに用があるのかと思ったが違うらしい。(まあ、そうよね) 小さく息を吐いた。 ミランダもクライヴも変にプライドが高くて意地になりやすい。(似た者同士なんだよね) 一度歩み寄ってみればいいのに…と思うが、下手に口を出して拗らせても面倒臭いという理由で、口が出せないでいる。「ねぇ、シャルロットちゃん。今からお出掛けしない?」 「え?」 「天気もいいし、小煩い男もいないんですもの。ね、行きましょう?」 突然の誘いに一瞬躊躇したが、ミランダと買い物なんて久しく行っていない。ミランダの言う通り、文句を言いそうな者は不在。それなら断る理由はないと、笑顔で頷いた。 *** ミランダに連れられてやって来たのは、格式の高いレストラン。……のプライベートルーム。 余程な事がなければ、こんな立派な個室なんて借りることはしない。例えば…そう、お見合い…とか。(完全に嵌められたな) 目の前に座っているミランダを見れば一目瞭然だった。「嬉しいわぁ。ようやくシャルロットちゃんもその気になってくれたのね」 どこで話がすり替わったのか分からないが、ミランダの中ではシャルロットがお見合いを承知した上でこの場に来たものと思い込んでいる。 こちらの言い分では、そんな話ひとっことも聞いていない
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