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第260話
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山口社長もう勘弁して、奥様はすでに離婚届にサインしたよ 第1429話
全員の視線がエルサに集中し、その後、怒りに満ちたウィルソンへと向かった。イリヤ──ウィルソンの娘であり、ウィルソン家の令嬢が、まさかエルサに会社の機密を盗ませていたとは。これは晴人の情報漏えいと同じくらい信じがたい話だった。「イリヤ？」アメリの目には信じられないという色が浮かんだ。「つまり、イリヤがお前にこれを指示したってこと？」「そんなはずない」「勝手に人を疑うな！」「ありえない！」怒りっぽい取締役がまた机を叩きながら立ち上がって言った。「イリヤはつい最近事故に遭い、まだ病院にいる。そんな状況でどうやってエルサに指示を出せるんだ？」「そうだよ、それにイリヤに何の得があるっていうんだ？」「......」取締役たちの間でざわめきが広がった。誰も気づかぬ隅の方で、アルバートとノアがひそかに目を合わせ、成功を確信したかのような笑みを浮かべていた。「私が言ったことは全部本当です！」エルサは震えながら涙を頬伝いに流した。「彼女が......あの紙切れを渡してくれて、晴人の書斎に入り、あの書類を見つけて彼女に送るように言ったんです。協力すれば安全は保障するし、マンションも用意するって」「証拠はあるか？」ウィルソンは低い声で問いただした。「あります！あのパスワードが書かれた紙切れをまだ持っています。彼女の筆跡です」エルサはポケットから携帯を取り出し、ケースを外して中から紙切れを取り出した。最初は、イリヤがマンションをくれると言ったとき、嬉しかった。だが、その後イリヤがドーソンに近づけ、晴人の書斎に入るよう命じてきて、違和感を覚え始めた。しかし、もう関係を断つことはできなかった。イリヤの言うことを聞いて手伝い続けるしかなかった。それでも彼女は馬鹿じゃない。証拠はしっかりと残していたのだ。隣にいた警備員が紙切れを受け取り、ウィルソンに手渡した。ウィルソンは一瞥し、その顔色は一気に青ざめた。机の端をぎゅっと握りしめ、指の関節は白くなり、複雑な感情──怒り、失望、そして微かに痛みさえも混じった目をしていた。その表情を見て、周囲の者たちは紙切れが確かにイリヤの筆跡であることを理解した。会議室の空気は一層緊迫し、取締役たちはささやき合い、議論が飛び交った。「この先、どうするべきだ？」「家族は彼
山口社長もう勘弁して、奥様はすでに離婚届にサインしたよ 第1428話
ウィルソンはうなずき、執事に電話をかけ、数人の警備員を連れてエルサを捕まえて連れてくるよう指示した。電話を切ると、時計を見て言った。「そろそろ昼食の時間だが、本来なら皆を食事に行かせるところだ。しかし情報が漏れる恐れがあるので、引き続き会議室で待機し、トイレに行く以外は誰も席を立つな。アレン、昼食を手配してくれ」「かしこまりました」非常事態ゆえ、家族の利益のためにほとんどの取締役が同意した。一部の者は反対したが、他の取締役から非難を浴び、「情報を漏らすつもりか」と疑われてしまい、黙るしかなかった。十数分後、アレンと他の二人の秘書が弁当を持って戻ってきた。昼食を見て嫌悪の表情を浮かべる取締役もいたが、ウィルソンは言った。「今日はこれしかない。会社の利益のために、皆には少し我慢してもらう。問題が解決したら、改めて食事を振る舞おう」昼食が終わって間もなく、秘書が報告に来た。「会長、エルサが連れて来られました」会議室の空気が一気に張り詰め、全員の視線が入口に集中した。エルサは二人の警備員に押さえられ入ってきた。顔色は悪くて、両手は背中で縛られ、慌ていた。髪は乱れており、連行される際に抵抗した様子がうかがえた。ウィルソンは会議テーブルの主座に座り、鋭い視線でエルサを見つめ、低く威厳ある声で言った。「エルサ、お前がここに連れてこられた理由がわかっているか？」エルサは唇を噛み、すぐには答えず、会議室の中を見渡し、やがて画面に映る静止画に視線を落とした。瞳がわずかに縮まり、その場面を認識した様子だった。「わ、わかりません......」声が震えたが、気丈に振る舞おうとしていた。「わからないか？」ジョージが冷笑し、画面を指差した。「では説明してもらおう。２８日の昼１２時２７分にお前は晴人の書斎で何をしていた？」エルサの顔はさらに青ざめ、手で服の裾をぎゅっと握りしめて感情を抑えた。再び画面に目をやると、しわくちゃの小さな紙が映っており、喉がわずかに動いた。「わ、私はただ掃除をしていただけです......」声はかすかで、ほとんど聞き取れなかった。「掃除だと？」怒りっぽい取締役がまた机を叩き立ち上がり、雷鳴のような声をあげた。「ここにいる全員を馬鹿だと思っているか？こっそり書斎に忍び込み、パスワードを入力し、
山口社長もう勘弁して、奥様はすでに離婚届にサインしたよ 第1427話
取締役たちは息を潜めて画面を見つめた。時間は一分一秒と過ぎていき、８時ちょうどになっても、画面は変わらず静止したままだった。「はっ！」アルバートが短く冷笑を漏らした。「晴人、これがお前の言う証拠か？10分間の空映像だと？」声を荒げて言った。「俺たちを馬鹿にしているのか！」数名の取締役の顔にも怒りが浮かんだ。怒りっぽい取締役は机を叩いて立ち上がった。「いい加減にしろ！こんな茶番は終わりだ！」だが晴人は無視して画面を見続けた。「ちょっと待て、いったん止めろ」晴人が急に声をあげ、画面のある部分を指さした。「あの日の夕方、ここにあるスイッチを切ったのを覚えている」しかし、監視映像には、コンセントの延長タップの赤いランプが点灯していた。皆はスクリーンを見つめ、晴人の言う指摘を感じて静かになった。怒りっぽい取締役も座り直し、もう少し様子を見ることにした。「メールは予約送信されている」ジョージが言った。「お前の話通りなら、誰かが書斎に来て、時間をセットしたということだな」ウィルソンは言った。「警備部の技術者を呼んで、操作してもらおう」正確な時間がわからず、一秒一秒映像を見ているのは時間の無駄だ。警備の技術者なら映像の特定時間を簡単に調べられる。ほどなく技術責任者が会議室に現れ、晴人のパソコンを手早く操作し映像の特定を行った。スクリーンの映像は9分割され、それぞれの画面に書斎内の人影が映った。中にはパソコンの前に座る者、掃除をする者もいた。数分割の画面に映っている人物は明らかに晴人本人だったので除外された。残る数人は使用人の服装をしていた。晴人が口を開く前に、ウィルソンが指差して言った。「あれはエルサか？彼女はイリヤの使用人だ。どうしてお前の書斎にいる？」晴人は答えた。「彼女には書斎に入る権限はない」それを聞いて、技術責任者はその画面を開き、時間を１０分ほど巻き戻した。監視映像が再生された。会議室は静まり返り、全員がプロジェクター画面に釘付けになった。時間は28日の昼12時27分。映像には、エルサがこっそり書斎の扉を押し開け、素早く中に入り、辺りをきょろきょろ見回した後、すぐに扉を閉める様子が映っていた。彼女はまず壁の隅にある延長タップのスイッチを入れ、その後静かに晴人のノー
山口社長もう勘弁して、奥様はすでに離婚届にサインしたよ 第1426話
会議室の空気が突然ピンと張りつめ、まるで空気の流れまで止まったかのようだった。取締役たちはひそひそと囁き合い、晴人に向ける視線は疑念と失望に満ちていた。ウィルソンはためらいの表情を浮かべ、取締役たちの意見をじっと考えているようだった。晴人は立ち上がり言った。「私が花の国に行った件については、後ほどちゃんと説明するので、皆さんどうか落ち着いてください。今思い出したが、機密書類は俺の金庫や事務所のパソコンだけでなく、ノートパソコンにも一部保管してある。そして最近は忙しく、夜はノートパソコンを持ち帰って残業していた」「つまり、家にいる誰かが情報を漏らしたと？」取締役の一人が嘲るように笑った。「会長のところの機密書類のほうが多いはずだ。もし家族の誰かが漏らしたなら、会長の資料だって全部漏れてしまうじゃないか？」別の取締役が疑問を投げかけた。「もう早く警察に任せたほうがいい。時間の無駄だ」「......」ウィルソンは重い手を無垢の木製会議テーブルに叩きつけ、鈍い音が響いた。会議室のざわめきは一瞬静まった。「晴人、お前は怪しいと思う人はいるか？」と彼は尋ねた。「書斎に入れる使用人は皆怪しい。書斎に監視カメラを設置しているので、映像を調べればすぐに分かる」「使用人がパソコンに触れたとしても、どうしてお前のパスワードを知っているんだ？」と嘲笑が漏れた。「そんなの不思議なことか？もし晴人の言う通りなら、ブルース、お前は使用人が何の理由もなく機密書類を盗もうとすると思うのか？」ジョージが横目でにらみつけた。あの使用人の背後には必ず指示した者がいるはずだ。指示者は彼にパスワードを教えたに違いない。彼が元からスパイであれ、買収されていようと、その指示者が誰なのか、どうやってパスワードを知ったのかは別の問題だ。ジョージは自分の推測に間違いはないと確信した。この事件の背後に潜む人は誰なのか。ブルースは黙り込んだ。アルバートの目に焦りが走り、机に手をついて言った。「俺の知る限り、お前も兄さんの書斎も護衛が付いていて、使用人が勝手に出入りできる場所ではない。そんな言い訳は信じられない、晴人、もう時間を無駄にするな」晴人は落ち着いた口調で答えた。「調査で結果が出なければ、俺はすぐに全ての職務を辞任し、警察の捜査に全面的に協力
山口社長もう勘弁して、奥様はすでに離婚届にサインしたよ 第1425話
何と言っても、彼の母親はウィルソン財団の助成金で手術を受けるのを待っているのだ。ただでさえ会社を裏切る理由なんてあるはずがない。しかし、晴人の言う通り、メールが送られた時刻には彼は外で会食していた。これでは有罪とは断定できない。頭が痛くなる。いっそ警察に調べさせた方がいい。「そうだ、今は内部の漏洩者が分かったんだから、まずは会社の損失をどう取り戻すかを話し合うべきじゃないか？」ジョージは顎に手を当て、思案顔で言った。「待って、第三の可能性はないかな？」彼は周囲をぐるりと見渡しながら続けた。「誰かが晴人のパソコンを使って、彼のメールアドレスからアントンに指示を送ったとしたら？そうすれば機密を漏らす目的も果たせるし、晴人に罪をなすりつけることもできる」この仮説に、会議室は一瞬沈黙に包まれた。数人の取締役がひそひそと話し始め、その可能性を真剣に検討しているようだった。確かに、そういう可能性も否定はできない。すると、アルバートが冷笑を漏らした。「ジョージ、それに皆さん......さっき警備部門が提出した監視映像のこと、もうお忘れですか？」彼は机の上の資料を叩いた。「晴人が戻ってきてから今までの間、あのパソコンに触れたのは晴人本人だけだと、映像が証明している」晴人の表情が一変した。「そうだ......」ある取締役がはっとして額を叩き、ウィルソンと晴人の顔色をうかがいながら言った。「監視映像では、晴人しかそのパソコンを使っていなかった」「ってことは、やっぱり晴人が漏らしたのか......？」「まさか、嘘だろ......？」取締役たちはざわめき始めた。この事実が加わると、晴人の反論は説得力を失っていった。怒りっぽい取締役が立ち上がり、晴人の鼻先に指を突きつけて怒鳴った。「晴人、家族はお前にこれだけ尽くしてきたのに、なぜ会社の機密を漏らしたんだ！？」ウィルソンも厳しい顔で言った。「晴人、ちゃんと説明しなさい！」「父さん、冤罪だよ！俺だってこのメールのことは全く分からない！俺が会社を裏切るなんて、どうして......！？」晴人は困惑と怒りが入り混じった表情で訴えた。「もう言い訳はよせ」アルバートは悲しげな目で晴人を見つめ、失望の色を浮かべながら首を横に振った。「確かにお前は子どもの頃に行方不明になり、辛い
山口社長もう勘弁して、奥様はすでに離婚届にサインしたよ 第1424話
ジョージと同じく、理解できないという顔でうなずく取締役もいた。「カエサルが会社の利益を自ら損なうなんて、ありえない......」彼がこんな事をするわけがない。ウィルソンだって彼を廃そうとはしていないのに。アントンの喉仏が大きく動く。「やらせたのは君じゃないか！俺はただ本当のことを言ってるだけだ！」ウィルソンが重々しく咳払いすると、会議室はたちまち静まり返った。老人の鋭い視線が数秒アントンに注がれた。「カエサルが指示したと言うが、証拠はあるか？」「ある！」アントンは溺れる者が藁をも掴むような必死の表情で言った。「カエサルから届いたメールのバックアップが！今、アルバート取締役が持っている！」視線が一斉にアルバートへ向かった。アルバートは静かにうなずき、スーツの内ポケットからスマホを取り出して画面を開き、テーブルの端に座る取締役に向かって差し出した。「確認しました」とため息をつきながら言う。「確かにカエサルのメールアドレスから送信されています。カエサル、説明してもらえますか？」末席の取締役がメールを見て顔をしかめ、そのまま隣に回した。スマホは次々と手渡されていき、通るたびに会議室の温度が一度ずつ下がっていくようだった。メールが晴人の手に渡ると、彼は内容をざっと確認し、隣に渡しながら薄く笑った。「彼は俺の秘書で、俺のPCやメールにアクセスするのは簡単なこと。自分で自分にメールを送るぐらい、演出次第でどうとでもなるだろう？」晴人はアントンに視線を向けた。「このメール以外に、他の証拠はあるか？」空気が一瞬止まったように、会議室内の空気が凍りついた。取締役たちの視線がカエサルとアントンの間を行き来し、誰もが困惑を隠せない様子だった。晴人の反論は理路整然としていて、確かに説得力があった。財務担当のマーサは考え込むようにうなずいた。「カエサルの言うことも一理あるわ。メール一通だけじゃ罪を問うには弱い。アントン、君はカエサルの秘書でしょう？こういう重大な指示は、普通、何重にも確認を取るものよ」アントンの額にはじんわりと汗が浮かび、拳を握りしめた。「たしかに電話で確認しようとした。でも、ずっと繋がらなかった」彼は慌ててマーサが手にしているスマホの画面を指さした。「メールの送信時刻を見てください、2月28日の夜8時だ。
