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第2話

Penulis: 匿名
電話の向こうから、低い笑い声が聞こえてきた。

「決心はついたか?」

「ええ」

若葉は覚悟を決めた声で言った。「決心した」

「じゃあ、2週間後に迎えに行く」

電話を切って、若葉は病室に戻った。すると、ちょうど愛奈が不満そうに祐介にうどんを渡しているところだった。祐介は困ったように笑いながら言った。

「いま怪我してるんだから、一人でどうやって食べろって言うんだよ」

「あなたの婚約者さんにでも食べさせてもらえばいいじゃない?なんで私がやらないといけないの?」

祐介はため息をついた。「愛奈、わかってるだろ。これは俺たちじゃどうしようもないことなんだ……」

「もういいわ。言い訳は聞きたくない」

愛奈はうどんをサイドテーブルに置くと、背を向けて出ていこうとした。「もう私たちはただの大学の先輩と後輩。それ以上の関係じゃないから」

愛奈は若葉を一瞥すると、鼻で笑って病室から出ていった。

若葉はしばらくその場に立ち尽くしていたが、やがて、どうしても聞かずにはいられなかった。

「祐介、どうしてあなたの作ったドキュメンタリーのエンドロールに、まだ私の名前がないの?

平野さんが担当したことになっているナレーション原稿、あれは本当は私が書いたのに……」

若葉は悔しさをにじませた。「あなたが作品を作ってきたこの数年間、私は一度も、名前を載せるに値しなかったってこと?」

祐介はいつものように若葉をなだめた。「わかってるよ。だから、次の作品では必ず君の名前を載せるから。

それに愛奈はまだ学生なんだ。もっと経験を積むチャンスが必要なんだよ。だから、今回は彼女に譲ってあげてくれ」

「大学院の推薦の時も、あなたはそう言ったわ」

若葉は力なく笑った。その瞳に光はない。「彼女は家庭の事情が大変だから、このチャンスが必要なんだって。だから私は譲った。

どうして私が、いつまでも譲らなきゃいけないの?」

祐介は長い間黙っていたが、やがて一言、ぽつりと呟いた。

「君が、俺のことを9年も好きだからだよ。

その理由で、十分だろ?」

若葉はぽかんとした。

まるで突然、裸で街の真ん中に放り出されたような羞恥心が、胸を締め付けた。

若葉はとっくの昔に気づいていた。でも、ずっと知らないふりをしていたのだ。

愛されている側は、いつだってこうも強気でいられるものなのだ。

若葉の顔が真っ青になっているのを見て、祐介は少し口調を和らげた。

「まあ、落ち着けよ。来月には結婚するんだ。これ以上に、何の不満があるんだ?」

「でも、もうあなたとは結婚したくない」若葉は真剣な眼差しで言った。

「あなたのこと、もう好きじゃなくなったの」

祐介は一瞬きょとんとして、それから鼻で笑った。「それで?どうしたいって言うんだ?」

「私が本当の作者だって証明する。あなたの作品は全部私が手伝ったもので、平野さんは全く関係ないってことを」

若葉は真顔になると、持っていたタブレットでデータをアップロードしようとした。その時、冷たい大きな手が、そっと彼女の指に重ねられた。

「やめておいた方がいい」

祐介はスマホの画面を見せた。そこには、かつて祐介と若葉がベッドで撮ったプライベートな動画が映っていた。

それを見た若葉は、頭から冷水を浴びせられたような衝撃を受けた。

声が震える。「何をするつもり?」

「さあ、どうだろうな。君がデータをアップするのが速いか、この動画がネットに広まるのが速いか、賭けてみるか?」

祐介はベッドに身体を預けたまま、感情の無い漆黒の瞳で若葉を見つめた。

「俺が君の立場なら、もっと賢く立ち回るけどな」

深い悲しみと、どうしようもない無力感が、若葉の心を支配した。

「わかったわ。諦める」

「それだけじゃダメだ」祐介は目を細め、脅すような口調で言った。

「すべてのデータを、跡形もなく消すんだ」

若葉は体がこわばった。祐介が愛奈のために、まさかここまで非道なことをするなんて。

抵抗できず、若葉は祐介が見ている前で、元のデータをすべて削除し、作者名を愛奈の名前に書き換えた。

それを見て、祐介はようやく満足そうに微笑んだ。

「ああ、それでいい。聞き分けのいい子は好きだぜ」

これで一件落着したと思ったのに。数日後、若葉は大学の同窓会のグループチャットで、自分のプライベートな動画が拡散されているのを見つけてしまった。

動画に添えられた、見るに堪えない下品なコメントの数々。若葉は全身の血が逆流するような感覚に襲われた。

祐介はもう退院してアトリエに戻っているはずだ。若葉は説明を求めようと、彼のアトリエのドアまで駆けつけた。しかし、ドアの隙間から中の様子を覗き見て、凍りついた。

愛奈が、祐介の胸に顔をうずめて泣いていたのだ。
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