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第655話

Auteur: シガちゃん
リビングへ戻ろうとした浩輔は、その言葉を耳にした瞬間、足を止めた。

――生まれてくる子供?姉が妊娠したというのか?

思わず息を呑み、壁の陰に身を引いて、会話に耳を澄ませる。由奈が妊娠という事実が、頭の中でうまく整理できないまま、ただ心臓だけが速く打っていた。

一方で、由奈は何も答えず、沈黙が続く。時間だけが、ゆっくりと流れていく。窓の外の空が暗くなり始め、倫也がふっと息をついた。「……そろそろホテルに戻ります」

空気を切り替えるような声音だった。

そのタイミングで、浩輔は慌てて姿勢を整え、何事もなかったようにリビングへ出る。「え、もう帰るんですか?うち、部屋ありますけど……泊まっていきません?」

倫也は軽く首を振る。「お気遣いありがとうございます。ホテルはもう予約してありますので」

そう言って、あっさりと玄関へ向かっていった。

浩輔はその背中を見送り、ドアが閉まるのを確認してから、くるりと振り返る。そして、そのまま由奈の向かいに腰を下ろした。

少し沈黙したが、さすがに我慢できず、口を開いた。「……姉さん。もしかして、妊娠してるの?」

由奈は静かに彼を見返した。

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