Masuk「…で、どうする?俺と契約する?しない?」 選ばせているようで、私に選択肢などない。 微笑む美しい男に、私はーー。 * 26歳の春。真波は結婚間近の恋人を親友に寝取られた。 彼らを見返そうとした結果、なぜか日本有数の名家であり、数多の企業を抱える西園寺一族の幸人と「偽りの婚約」を結ぶ羽目に…! 契約上の関係。2人の間に愛などない。 「君は俺の婚約者でしょ?」 「そういう契約だよ。だから、ね」 息をするように吐かれる甘い言葉に、嘘か本当かわからない嫉妬。どれも〝契約だから〟…なはずなのに。 変わっていく幸人の瞳に、真波も徐々に揺らいでいく。 嘘から始まる契約ラブコメ!開幕!
Lihat lebih banyakあれからどのくらい経ったのだろうか。私の腰に手を回し、密着したまま離れようとしない絶世の美青年をチラリと見ては、私はご機嫌にグラスを揺らした。ああ、なんて素敵な夜だろう。気分が良すぎて、何杯でも酒が飲める。「ずっと俺の顔、見てるね」愉快そうに口元を緩める彼の笑顔は、誰もを虜にしてしまいそうなほど、美しい。私はそんな彼に、イタズラっぽく瞳を細めた。「ふふ、こんな絶世の美青年見ないと損でしょう?」そう言って彼のネクタイを軽く引き、彼の耳元に唇を寄せる。「…嫌?」私から囁かれた言葉に、彼はまぶたを伏せた。長いまつ毛が落とす影は、彼をどこか妖艶に見せる。「全然」そして、楽しげな彼の甘い声が私に届いた。ーーーああ、本当、いい夜。グラスに残るシャンパンを、またクイッと飲み干す。私は最高の気分で近くにいたウェイターに空のグラスを渡すと、シャンパンの入ったグラスを再び受け取った。まだ全然飲み足りない。もっと、飲みたい。それなのに。「飲み過ぎじゃない?」気がつけば、彼が私の手からグラスを奪い取っていた。半笑いでこちらを見つめる瞳は、相変わらずどこか嘘くさく、何を考えているのかよくわからない。「飲み過ぎじゃない。このくらい普通だから」その手にあるグラスを返せ、とキツく彼を睨んでみるが、彼は全く怯まない。「でも頬が赤いよ?」「お酒を飲んでいるからね。赤くもなるわよ」こちらの主張を聞いても、一向にグラスを返そうとしない
「君より1つ年上で、有名商社勤務。君との出会いはどこだっけ?」私の横でうんと素敵な男であるレンタル彼氏が、愉快そうに私の考えた設定を口にする。それはもうここへ来る前に何度も連絡し合っていた内容だ。それを大遅刻した上に、こんなところでにこやかに再確認するとは、なんと図太いのだろうか。「…ジュエリーの展示会よ」「あー、そうだったみたいだね。で、俺の名前が…」「七瀬(ななせ)でしょ」「そうそう、それ」おかしなことばかり聞く彼に、呆れたように肩を落とす。しかし、そんな私など全く気にする様子もない彼は、何故か他人事のように瞳を細めていた。私の顔を覗く彼の目からはどうも真剣さを感じられない。どこか軽薄ささえも感じる。「それで?俺は君の恋人であり、結婚を考える仲…つまり、婚約者…なのかな?」「ええ、そうよ。何、当たり前のことを言ってるの」先ほどから彼はこうだ。誰に聞かれているかわからないというのに、これではいつかボロが出てしまいそうだ。全く…とため息を吐きながら、会場に目を向けるフリをして、改めて彼を盗み見る。私の視線の先にいる彼は、長いまつ毛を伏せ、楽しそうに口元を緩めていた。感情の読めない、胡散臭い笑顔。けれど、今まで見た誰よりも美形だ。予め見た彼の写真とは似ても似つかない。芸能人とかでも、画面越しに見るよりも実際に会った方が何十倍もいい、良さがわかると言うが、まさにこれがそうなのだろう。高い身長に、モデルのような体型。長すぎず短すぎない青みがかった黒髪は無造作にセットされており、そこから覗く綺麗な黒い瞳はまるで作り物のように隙がなく、宝石のような輝きがある。「何?俺の見た目、気に入った?」私の視線に気がついた彼は、くすりと柔らかく微笑んだ。「気に入っているから私の恋人なんでしょう?」「ああ、そうだね」彼と同じように口元を緩める私に、彼が楽しそうに笑う。穏やかな笑顔にも、冷たい笑顔にも見える。本当に、掴めない人だ。だが、ただずっとどこか余裕があり、常に半笑いな感じが鼻につくことだけは間違いなかった。今度は遠慮せずに、観察しよう。そう思った時だった。「真波…!」先ほどのウェディングドレスとは違う、ベージュのふわふわのドレスにお色直しをした杏子が愛らしい声で私を呼んだ。ついに、決戦の時である。「ああ、真波、
もうあんな2人とは関わりたくもない。ーーーそう思っていたのに。太一と別れて数週間後、あろうことか、あの2人は私に結婚式の招待状を渡してきたのだ。実際に渡してきたのは、私の元親友だったが。『…真波、ごめんね。だけど、どうしても太一くんのこと好きだったの。好きになった人が真波の彼氏だっただけなの。けど、私は真波のことも大好きだから。だって私の親友だもん』大学からの親友だった杏子は涙目で私にそう言った。気が強そうだと言われる私とは違い、何と弱々しく愛らしい涙だったことか。まるで小動物のような杏子を私は妹のように思い、大切にしていた。…が、実際はそんな可愛らしい存在など、初めからいなかったのだ。杏子から渡された招待状を私はその場でビリビリに引き裂いてやった。ついでに太一と同じようにビンタでもしてやろうかとも思ったが、そこはぐっと堪えた。そうして私は言ったのだ。『もうアンタは私の親友なんかじゃない。2度とそのツラ見せるな』、と。泣きながら私の前から消えた杏子。しかし、杏子は後日、私にわざわざ招待状を送ってきたのだ。クソ野郎…!見覚えのある紙に、私はそう吐き捨てた。一体どんな神経をしているのだ!あの女は!だが、そんな私の頭を1番埋め尽くしたのは、怒りではなく、負けたくない、逃げたくない、という感情だった。きっと、これからも杏子はこうして悪びれる素振りも見せず、私に絡んでくる。恋人を寝取られた哀れな親友がそれでも大切なのだ、と甘い顔をして言い続けるだろう。ならば、見せつけてやるしかない。私は恋人を親友に寝取られたのではない。いらない中古品をただわがままな女に差し上げてやったのだ、と。ついでにアンタのおかげで、アンタよりもうんと幸せになれたことを。「…ふぅ」ゆっくりと深呼吸をして、スマホに指を滑らせる。そして私は杏子へと電話をかけた。呼び出し音はすぐに止まり、スマホの向こうから『真波!』と嬉しそうな杏子の声が聞こえてくる。「杏子、招待状見たよ。行くから、私。アンタたちの結婚式に」『え、嘘…!本当!?本当に!?来てくれるの!嬉しい!』電話越しに聞こえる杏子の声は、ほんの少しだけ涙ぐんでおり、砂糖のように甘い。前までは可愛らしいと思えたこれも、今は不快でしかない。「うん。…で、ちょっと聞きたいんだけど、これ、1枚の招
あの浮気現場を目撃して、数日。私は今日まで、ただただぼんやりと何事もなかったかのように、職場と家を往復する日々を送っていた。そして、ふと頭をよぎる彼らの幸せそうな姿に、何度も何度も心を沈ませた。ーーーだが、それも今日で終わりだ。何故、私があんなアイツらのことで、ここまで落ち込まなければならないのだ。今の状況に嫌気が差し、限界を迎えた私はついに衝動のまま全てに決着をつけようと、太一の会社へと押し入った。急に現れた私に太一は驚いた様子を見せたが、すぐに社内の応接室へ案内すると、困ったように眉を下げた。「真波、急にどうしたんだよ?連絡もつかないし、ずっと心配してたんだぞ?」私の頬に触れる太一から、微かに知らない女性ものの香水の香りがする。気持ち悪い。他の女の…杏子の香りを漂わせて、平然と嘘を吐くとは。「真波?」いつもとは様子の違う、黙ったまま視線さえも合わせようとしない私に、太一の瞳は心配そうに揺れた。…なんて、上手な演技なのだろうか。 腹立たしくて仕方ない。こんなにも優しい顔して、私を裏切っていたのだ、太一は。「…杏子と浮気してるでしょ」やっと、私から言葉が発せられる。冷たく静かなその一言に、太一は大きく目を見開いた。「…浮気?俺が?」「そうよ」あり得ない、と言いたげな太一に、私は迷うことなく頷く。すると、そんな私に太一はおかしそうに笑った。「杏子って、真波の友達だろ?俺がその子と浮気って…。冗談にしては笑えないけど?」「冗談じゃないわ。わかっているんでしょう?」私たちの付き合いはもう5年だ。私の表情を見れば、冗談を言っていないことくらいわかるはずだ。私の様子を見て、ようやく本気だと悟った太一は、やがてこちらを安心させるように優しい表情を作った。「真波…。俺は浮気なんてしていないよ。俺には真波がいるんだから。だから不安になって、連絡できなかったんだね」柔らかくそう言い、太一が私の頭をゆっくりと撫でる。けれど、その細められた瞳には、杏子を見つめていた時と同じ熱はない。反吐が出る。「太一に電話した日、私、太一の会社の近くのデパートに行ったの」静かに紡がれ始めた私の言葉に、太一の瞳がわずかに揺らぐ。「一階の化粧品売り場で全部見たのよ。『三嶋夫人、本日は何をお探しでしょうか?』ってね」私はそんな太一に冷た