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料理は愛情、でも下手すぎる

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-11 09:21:12

日曜日の朝、総一は爆発音で目を覚ました。

「うわああああああ!!!」

リビングから聞こえるリリムの悲鳴と、何かが焦げる匂い。

慌てて飛び起き、キッチンに向かうと、そこには煙に包まれたリリムの姿があった。

「おい! 何やってんだ!」

「そ、総一! 大変なの! フライパンが燃えた!」

見ると、フライパンから黒煙が立ち昇り、中の卵らしきものは完全に炭化している。

総一は慌てて火を止め、窓を開けて煙を外に出した。

「何作ろうとしたんだよ……」

「オムライス。昨日テレビで見て、簡単そうだったから」

「どこが簡単だよ! 初心者がいきなりオムライスなんて無謀すぎる」

リビングのソファからヴェルダが顔を出す。

「あー、やっぱり失敗しましたね」

「知ってたのか?」

「五時頃から台所で格闘してましたから。止めようと思ったんですが……」

「なんで止めなかったんだよ」

「リリム様があまりにも楽しそうだったので」

確かに、煙まみれになってもリリムは諦めていない。

エプロンは汚れ、髪は乱れているが、目は輝いている。

「次は絶対成功させる!」

「おい、待て。まずは基本から教える」

総一はため息をつきながら、汚れた調理器具を片付け始めた。

「基本?」

「そう。料理の基本。火加減、調味料の分量、切り方……全部最初から」

「うう……難しそう」

「大丈夫だ。俺が教える」

なぜそんなことを言ったのか、総一自身にもよく分からなかった。

ただ、一生懸命な彼女を見ていると放っておけなかった。

「本当? ありがとう!」

リリムは嬉しそうに手を叩く。

まずは簡単な卵焼きから始めることにした。

といっても、昨日も失敗しているので、本当に基礎の基礎からだ。

「まず、卵を割る。殻が入らないよう注意して」

「はーい」

リリムが卵を手に取り、ボウルに割り入れる。

案の定、殻の破片がいくつか混入した。

「あ……」

「大丈夫、取れば問題ない」

スプーンで殻を取り除き、次は溶く作業。

「泡立て器で、こうやって円を描くように」

総一が手を添えて教える。

リリムの手は意外に小さく、柔らかかった。

「できた!」

「じゃあ次は火加減。これが一番大事だ」

フライパンに油を引き、中火にかける。

リリムは真剣な表情で見つめている。

「温まったら卵を入れて……」

ジューッという音とともに、卵がフライパンに広がる。

「わあ、いい音!」

「今度は菜
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