星のベーカリー

星のベーカリー

last updateHuling Na-update : 2025-07-27
By:  ねこやしきIn-update ngayon lang
Language: Japanese
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星のない夜にだけ開くパン屋がある。 ほしのベーカリー、そこは人生に迷った人しか辿り着くことのできないパン屋。 なんでも、店主はその人の人生にあったものを焼いてくれるのだとか。 これは、夜の星が見守る、小さな奇跡の物語。

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Kabanata 1

いつものメロンパン

夜更け、星明りに照らされたその街はみんな眠っている。

ただ一軒、甘い香りを漂わせるお店があった。

ほしのベーカリー、そこは人生に迷った人しか辿りつくことのできないパン屋。

なんでも、店主はその人の人生にあったものを焼いてくれるのだとか。

今日も夜の帳が降りた。街には、どこからか甘い香りが漂っている。

星明かりも届かないような路地裏に、小さなパン屋があった。

星のようなその灯りに、誉は吸い込まれるように扉を開いた。

小さな星がやってきたかのように、ドアベルが音を鳴らす。

年季の入った木の床とレンガの壁。

あたたかな光が、店内の隅々までじんわりと照らしている。

それがどこか懐かしくて、肩の力が抜けた。

ほんのり甘く、香ばしい香りで胸がいっぱいになる。

ふと、カウンターの中から渋い声が聞こえてきた。

「いらっしゃい」

誉は思わず足を止めた。

「すみません。もう閉店でしたか。」

「いいや。今から営業だ。」

「こんな遅い時間から?一体なんで?」

「ここに来るやつは、決まって何かを抱えてる。」

「はぁ…?」

「人生ってのは、星のない夜を歩いてるときに腹が減るもんだ。今のお前みたいにな。」

“星のない夜“ー今の誉の心の中を表現するのには、ぴったりな言葉だった。

「ほしのベーカリーへようこそ。俺は店主の譲次だ。みんな俺のことをジョージ、と呼んでいる。」

「ジョージさん。僕は誉です。」

「誉だな。さぁ、話してみろ。」

誉は、促されるようにカウンターの椅子に腰掛けた。

店内は、みんなが来る前のスタジオのように静かだ。

「…今日は最悪な日でした。」

譲次は誉の言葉に耳を傾けながら仕込みを始めた。

スタジオのドアが、音をたてて閉まる。

今日もまた、誉はバンドのメンバーと口論になっていた。

「売れなきゃ意味がない。これで飯食ってくんだろ?」

そんな言葉を、メンバーから何度も投げつけられた。

「誉がその考えを変えないなら、俺はここを抜けることも考えてるからな。」

その言葉に、誉は何も返すことができなかった。

仲間の気持ちを理解していないわけじゃない。

食べていくために音楽をやっている。それもまた真実の一つだ。

でも、誉は純粋に音を鳴らしたかった。

誰かの心に響くような音楽を、楽しみながら作りたかった。

お金や評価よりも、”心から良いと思える音楽”を届けたかった。

「……はぁぁ」

吐き出すようなため息が、口からこぼれる。

それが空に吸い込まれていくようで、誉の心をさらに虚しくさせた。

ふと、学生時代の仲間の言葉を思い出す。

「頑張れよ」

「俺たちは音楽を辞めるけど、お前ならやっていける」

その期待が、言葉が、今の誉に重くのしかかる。

心は重く沈むのに、背中には風が通るようだった。

相棒のギターがないことを、肌が覚えていた。

音楽を始めて、相棒と離れたことなど一度もなかった。

どんな時でも肌身離さず持ち歩いていたはずなのに。

忘れたわけじゃない。

今はただ、ただ離れていたかった。

誉が話している間、譲次は何も言わずに生地をこねていた。

それをぼうっと見ている誉に、譲次はそっとコーヒーを出した。

「ちょっと待ってな。」

譲次はそう言って店の奥へと消えていった。

誉はコーヒーを啜りながら、メンバーに言われたことを考えていた。

(やっぱり、みんないなくなっちゃうのかな)

そう思うと、寂しくて、悔しくて、涙が溢れそうだった。

ふと、懐かしい香りが鼻を掠めた。

「この匂い…」

誉の声が思わず漏れた。

焼きたての、甘くて香ばしい。でもそれだけじゃない。

この胸を掻き立てるような匂い。

譲次が焼きたてのパンを片手に戻ってきた。

まあるくて黄金に輝くメロンパン。

「これはあんたが今夜だけ持てる、小さな星だ。」

そう言って差し出されたパンを、誉は手に取った。

あたたかさが、手のひらから染み込んでくるみたいだ。

誉はその星を頬張った。

甘くて、懐かしくて、ひどく優しい味。

学生時代、ギターを背中に、仲間と食べたあのメロンパンの味。

練習が上手くいかなかった日も、お客さんに演奏を聞いてもらってたくさんの拍手をもらった日も、なんでもない日も。

いつもこの味があった。

「そのパンにはあんたの『音楽への想い』が詰まってる。」

譲次の言葉に、誉は言葉を詰まらせた。

「売れるとか売れないとか、正しいとか間違ってるとか、そんなもんに縛られてるうちに、本当に大事なもんが見えなくなっちまう。そういうやつが多い。」

譲次はそう言ってコーヒーを啜った。

「パンだって同じだ。売るために焼いてると、だんだん味が変わってくる。」

食べかけの小さな星を、ただ黙って見つめていた。

譲次の言葉が、誉の胸に静かに沈んでいく。

(売れるとか、どっちが正しいとか、僕も囚われてたのかもしれない。)

小さな星を握る手が、震えていることに気がついた。

「…売れなくてもいいんです。僕、そんなに器用じゃないし。」

誉は、未来を見据えるようにまっすぐ譲次を見た。

「でも、音楽の楽しさだけはみんなに伝えたい。その想いだけは曲げたくない。」

「…あんた自身の星、見つけられたみてぇだな。」

「明日、仲間に僕の気持ちをちゃんと話してみようと思います。もしそれで仲間が離れていったら寂しいけど…。」

「今の誉なら大丈夫さ。」

「ありがとう、ジョージさん。」

重たかった誉の心は、すっかり軽くなっていた。

「…星が灯ったな」

ここは“ほしのベーカリー“。そこは人生に迷った人しか辿りつくことのできないパン屋。

今日もまた、ここで星の明かりが灯った。

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いつものメロンパン
夜更け、星明りに照らされたその街はみんな眠っている。ただ一軒、甘い香りを漂わせるお店があった。ほしのベーカリー、そこは人生に迷った人しか辿りつくことのできないパン屋。なんでも、店主はその人の人生にあったものを焼いてくれるのだとか。今日も夜の帳が降りた。街には、どこからか甘い香りが漂っている。星明かりも届かないような路地裏に、小さなパン屋があった。星のようなその灯りに、誉は吸い込まれるように扉を開いた。小さな星がやってきたかのように、ドアベルが音を鳴らす。年季の入った木の床とレンガの壁。あたたかな光が、店内の隅々までじんわりと照らしている。それがどこか懐かしくて、肩の力が抜けた。ほんのり甘く、香ばしい香りで胸がいっぱいになる。ふと、カウンターの中から渋い声が聞こえてきた。「いらっしゃい」誉は思わず足を止めた。「すみません。もう閉店でしたか。」「いいや。今から営業だ。」「こんな遅い時間から?一体なんで?」「ここに来るやつは、決まって何かを抱えてる。」「はぁ…?」「人生ってのは、星のない夜を歩いてるときに腹が減るもんだ。今のお前みたいにな。」“星のない夜“ー今の誉の心の中を表現するのには、ぴったりな言葉だった。「ほしのベーカリーへようこそ。俺は店主の譲次だ。みんな俺のことをジョージ、と呼んでいる。」「ジョージさん。僕は誉です。」「誉だな。さぁ、話してみろ。」誉は、促されるようにカウンターの椅子に腰掛けた。店内は、みんなが来る前のスタジオのように静かだ。「…今日は最悪な日でした。」譲次は誉の言葉に耳を傾けながら仕込みを始めた。スタジオのドアが、音をたてて閉まる。今日もまた、誉はバンドのメンバーと口論になっていた。「売れなきゃ意味がない。これで飯食ってくんだろ?」そんな言葉を、メンバーから何度も投げつけられた。「誉がその考えを変えないなら、俺はここを抜けることも考えてるからな。」その言葉に、誉は何も返すことができなかった。仲間の気持ちを理解していないわけじゃない。食べていくために音楽をやっている。それもまた真実の一つだ。でも、誉は純粋に音を鳴らしたかった。誰かの心に響くような音楽を、楽しみながら作りたかった。お金や評価よりも、”心から良いと思える音楽”を届けたかった。「……はぁぁ」吐き出すよう
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夜更け。星明かりも届かない路地裏に、小さなパン屋があった。『ほしのベーカリー』。そこは人生に迷った者しか辿り着くことのできない、不思議な店だ。星のように光を灯すそのパン屋に、隆はどこか懐かしさを覚えていた。木枠の窓から溢れる柔らかな光。そこから漂ってくる甘い香りは、“あの人”がよく焼いていた焼き菓子の匂いに似ている。足元から冷たい夜気がやってくるのに、胸の奥だけがじんわりとあたたかかった。それはもう、戻ることのない日々の温度。隆はなんの躊躇いもなく扉を開いた。今日もまた、迷い星がやってきた。帽子を被った、少しだけ腰の曲がった老夫。「いらっしゃい」その声に、隆は帽子を取って軽く頭を下げた。「まだやっとるか」「ちょうど今から営業だったんだ。夜に焼くパンは人の心を温めるんでね」「妙なことを言うな」譲次の向かいに腰を下ろした隆は、ふと辺りを見回した。木の棚、年季の入ったカウンターには古いレジが置かれている。ここはパン屋のはずなのに、肝心のパンがどこにも見当たらない。「……パン屋という割には、パンがないじゃないか」隆がぽつりとこぼすと、譲次は笑った。「ここはほしのベーカリー。迷い星を導くパン屋さ。俺は店主の星野譲次。みんなからはジョージと呼ばれている。」「迷い星?何が言いたい」譲次はカウンターの椅子に腰掛けるよう促した。「今のあんたみたいに、自分がどこを向いてるかわからなくなったやつに“星”を渡してやるのさ。」譲次は、隆にコーヒーを差し出した。「わしはコーヒーなんぞ飲まん。紅茶はないのか。」隆の言葉に譲次は声をあげて笑った。「あんた、めんどくさい爺さんだな。ちょっと待ってな」譲次はそう言って、店の奥へと消えていった。隆は店内を見渡した。壁掛けのランプが、陽の光のように心地が良い。そのひかりが、“あの時間”“を思い出させる。隆の視界が少しだけにじむ。その時、譲次が戻ってきた。「お待ちどうさん」そう言って、隆の目の前に紅茶を置いた。立ち上る湯気に、過ぎ去った午後の景色を感じる。隆は黙って紅茶に口をつけた。ベルガモットの香りが鼻を抜ける。「……死んだ女房が、紅茶好きだったんだ。」隆の妻は、大のイギリス好きだった。毎日決まって午後3時になると、紅茶と一緒に小さな洋菓子を並べて、ティータイムを楽しんでいた
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