悪魔ちゃんは契約違反で罰ゲーム中!

悪魔ちゃんは契約違反で罰ゲーム中!

last updateDernière mise à jour : 2025-10-28
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悪魔との契約は、人生を狂わせる――なんて、ウソだ。 契約違反で魔力を封印された悪魔・リリムは、罰として人間界へ強制送還! だが転送先で再会したのは、かつて彼女が“裏切った”元契約者・霧島総一だった。 未練も未消化もたっぷりな二人は、なぜか再び共闘することに!? 暴走契約者、地獄の監査官、そして世界を塗り替えようとする存在。 「願い」と「契約」の先にある真実を巡り、ラブとバトルと罰ゲームが始まる――!

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Chapitre 1

罰ゲーム悪魔、再会相手は元カレ未満!?

地獄には、笑い声がない。

契約を結び、魂を取り立て、秩序を守る場所――そこに感情など必要ない。

そんな場所の中心で、一人の悪魔がふてぶてしく足を組んでいた。

「……だから言ってるでしょ? ちょっと情が移っただけだって!」

悪魔・リリム=アズ=ナイトメア。地獄ランクB級、契約回収専門。

その美貌と誘惑により、数多の人間を堕とし、魂を“ご褒美”として手にしてきた実力者。

だがいま、その彼女が裁かれている。

「契約法第421条“感情移入の禁止”違反、および213条“未遂契約による魔力流出”の罪状を確認」

「いやいやいや、あれは不可抗力だってば! ちょっとだけ、ちょーっとだけ、ぐらっと来ただけで──!」

冷たい石の裁判所。傍聴席に並ぶのは、機械のように無表情な裁定官たち。

誰一人としてリリムの言い訳に耳を傾ける者はいない。

「被告リリム=アズ=ナイトメアには、罰ゲームを科す。期間は七日間。魔力封印。転送先は人間界」

「……加えて、監視対象指定。衣装は“羞恥度Sランク・黒革式”」

「は!? なにその性癖!? ちょ、待っ──!」

その叫びが届く前に、リリムの身体は宙に浮き、薄い光に包まれ、そして──

ぱしゅん、と音を立てて、空間から消えた。

そこは、寂れた温泉街の一角だった。

深夜の湯煙のなか、ぬるりと湯船から這い上がったのは──

黒革に包まれた、スタイル抜群の悪魔だった。

「……さっっっむ!! え、なに!? なんで温泉!? てかこの格好なに!?」

濡れて張りつく衣装は、黒革と金の装飾がきらめく、露出度MAXのプレイスーツ。

明らかに“人間界の夜職方面”と間違えた仕様だったが、本人は特に気にしていない。

「んん……ま、似合ってるし? ちょっと動きにくいけど、映えはするよね♡」

ため息をつきながら湯船の縁に腰かけ、リリムは指先を軽く鳴らしてみる。

──何も起きない。

「……うわ、本当に魔力封印されてる。マジか」

その瞬間、舌の裏に焼き印のような契約封印の紋章が浮かび上がり、彼女は顔をしかめた。

「くっそ……まじで罰ゲームか。これじゃちょっかいも出せないし、変身もできないし……なにが“羞恥度Sランク”よ、ふざけてんの!?」

状況を理解するほどにイラつくが、どこか楽しんでる様子もある。

「まあでも……こういうのも、悪くないかも?」

独り言を呟いたその瞬間だった。

「……なあ、お前。なにしてんだよ、そんな格好で」

背後から、聞き覚えのある声がした。

声の主は、制服姿の少年だった。

坂の上からこちらを見下ろすその目には、驚きでも怒りでもない、ただ静かな諦めが滲んでいた。

「……やっぱ、お前か。リリム」

リリムの肩がびくりと揺れる。

「ちょ、え!? なんであんたがここに!? え、偶然!? 監視!? それともストーカー!?」

「いや、たまたまだ。今夜は眠れなくて、ちょっと散歩してただけだ」

「嘘くさっ!」

少年の名前は――霧島総一。

かつてリリムが“途中で契約を打ち切った”唯一の人間だった。

二人の間に、数秒間の沈黙が流れる。

「相変わらず、口だけは元気そうだな」

「は? 褒め言葉? それとも皮肉?」

「両方。……で、地獄の罰ゲームってのは、そんな格好させられるのか?」

「そうなのよ! もうほんっと最悪!! あんたに見られるのが一番ムカつくのよね!!」

怒鳴り返すリリムに、総一は小さく息を吐いた。

「……言いたいことは山ほどある。けど、今はそれどころじゃなさそうだ」

直後、遠くで爆音が響く。

まるで火薬が爆ぜたような轟音。夜の街には不釣り合いな熱風。

「なに……?」

リリムが振り返った先――そこに、契約暴走者の姿があった。

街の片隅で、紅い炎が渦巻いている。

ビルの前に立つ青年の手から、赤黒い炎が噴き上がる。

「……うるせえんだよ。俺の気持ちも知らねぇで……全部、ぶっ壊してやる!」

灯村トオル。かつてリリムの契約を受け損ねた一人の人間。

別の悪魔との契約により、力だけを与えられ、願いを歪められた“暴走者”だった。

「契約暴走者……デザイアクラッシュ」

リリムが低く呟く。

「まだいたのね……こんな町外れにも」

その火球が、通りかかった通行人に向かって放たれる。

「ヤバッ! 避け──!」

リリムが叫びかけたその時――

「下がってろ」

総一が一歩前に出た。

「なっ、あんた普通の人間でしょ!? やめなってば、死ぬってば!」

「俺の中に……お前の“かけら”、まだ残ってたらしい」

その瞬間、総一の右手が漆黒に染まる。

空気がビリビリと震え、異形の契約紋が浮かび上がる。

「うそ……そんな、まさか」

リリムの瞳が揺れる。

「喋ってる暇ねぇだろ。あいつ、また来るぞ」

再び襲いかかってくる火球を、総一の黒い手が受け止め――そして砕いた。

街の空気が一変する。

「……総一。ほんとに、まだ……」

「後で話そう。まずは、目の前のこいつを止める」

決意と共に踏み出すその一歩は、人間のものではなかった。

リリムの目に、わずかに光が宿る。

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罰ゲーム悪魔、再会相手は元カレ未満!?
地獄には、笑い声がない。契約を結び、魂を取り立て、秩序を守る場所――そこに感情など必要ない。そんな場所の中心で、一人の悪魔がふてぶてしく足を組んでいた。「……だから言ってるでしょ? ちょっと情が移っただけだって!」悪魔・リリム=アズ=ナイトメア。地獄ランクB級、契約回収専門。その美貌と誘惑により、数多の人間を堕とし、魂を“ご褒美”として手にしてきた実力者。だがいま、その彼女が裁かれている。「契約法第421条“感情移入の禁止”違反、および213条“未遂契約による魔力流出”の罪状を確認」「いやいやいや、あれは不可抗力だってば! ちょっとだけ、ちょーっとだけ、ぐらっと来ただけで──!」冷たい石の裁判所。傍聴席に並ぶのは、機械のように無表情な裁定官たち。誰一人としてリリムの言い訳に耳を傾ける者はいない。「被告リリム=アズ=ナイトメアには、罰ゲームを科す。期間は七日間。魔力封印。転送先は人間界」「……加えて、監視対象指定。衣装は“羞恥度Sランク・黒革式”」「は!? なにその性癖!? ちょ、待っ──!」その叫びが届く前に、リリムの身体は宙に浮き、薄い光に包まれ、そして──ぱしゅん、と音を立てて、空間から消えた。そこは、寂れた温泉街の一角だった。深夜の湯煙のなか、ぬるりと湯船から這い上がったのは──黒革に包まれた、スタイル抜群の悪魔だった。「……さっっっむ!! え、なに!? なんで温泉!? てかこの格好なに!?」濡れて張りつく衣装は、黒革と金の装飾がきらめく、露出度MAXのプレイスーツ。明らかに“人間界の夜職方面”と間違えた仕様だったが、本人は特に気にしていない。「んん……ま、似合ってるし? ちょっと動きにくいけど、映えはするよね♡」ため息をつきながら湯船の縁に腰かけ、リリムは指先を軽く鳴らしてみる。──何も起きない。「……うわ、本当に魔力封印されてる。マジか」その瞬間、舌の裏に焼き印のような契約封印の紋章が浮かび上がり、彼女は顔をしかめた。「くっそ……まじで罰ゲームか。これじゃちょっかいも出せないし、変身もできないし……なにが“羞恥度Sランク”よ、ふざけてんの!?」状況を理解するほどにイラつくが、どこか楽しんでる様子もある。「まあでも……こういうのも、悪くないかも?」独り言を呟いたその瞬間だった。「……なあ、お前。
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朝。快晴。窓のカーテンの隙間から陽光が差し込み、部屋を温かく照らしていた。だが、その平穏をぶち壊す存在が、布団の上にいた。「おいコラあああああああああああ!!!!!」総一の怒声が、朝っぱらから部屋中に響き渡る。「ちょっと! なに大声出してんのよ、この人間は!」布団から飛び起きたのは、パジャマ代わりのシャツ一枚という破廉恥仕様の悪魔、リリムであった。しかもボタン半分外れてる。寝相が壊滅的らしく、シャツが片肩落ちており、片脚は総一の腰に絡まっている。「いや、なにしてんだよマジで!? なんで俺のベッドに入ってんだよ!? どこで寝るつもりだったか覚えてるか!?」「覚えてるわよ。人間界のベッドは最高ね♡ ふかふかであったかくて、しかも……あんたの体温が、ちょうどいいのよね」「いらんこと言うな!」総一が枕を振りかざす。リリムはそれをひらりと避け、シャツをたくし上げながらあくびをひとつ。「うーん……そろそろ起きる時間か。今日の下着、白のレースにしようかしら」「実況するな! てか着替えんな目の前で!!」ガチャ。「朝ごはん、できました――うわっ」ヴェルダがトーストを持って入ってきた瞬間、絶妙なタイミングでシャツを脱ぎかけていたリリムと目が合う。「……清楚にしろって言ったの、忘れてませんよね?」「清楚ですう♡ 私は今、人生で一番清楚なんですう♡」「はい、罰ゲームポイント加算」「おのれヴェルダ……! そんな権限いつ得た!?」総一は脱力しつつも、内心でほんの少しだけ安堵していた。昨日のような契約事件がない平穏な朝。それだけで十分だった。ただ――そんな彼の胸中に、ひとつだけ気がかりがあった。(……あのときリリムが、国枝を止めるときに見せた顔。あれは……)彼女が本当に何を思っていたのか、それを聞く勇気はまだ持てなかった。「……飯食うぞ。着替えてからな」「えー、裸エプロンでよくない?」「ダメだ!!!」食卓には、焼きたてのトースト、ベーコンエッグ、味噌汁(?)……というカオスな献立が並んでいた。洋と和のぶつかり合いだが、意外とうまい。「なあヴェルダ。毎回思うけど、これどこで覚えたんだ?」「地獄にいた頃、料理番組が好きだったんです」「地獄、わりと文化的だな……」そんな日常の空気の中で、ふと郵便受けに目をやると、封筒が一通、差し込まれていた
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存在を盗むもの
校舎裏の路地を抜けた瞬間、風がざわりと鳴った。「あっ……!」総一の視界から、中森あいの姿が消えた。いや、正確には“見えなくなった”だけだ。耳の奥に微かな衣擦れが残っている。「またやったな、存在ぼかし……!」リリムが舌打ちし、指先から紫の光を放つ。その光は周囲の空気をなぞるように走り、壁や地面に細い魔力の線を描いた。「……そこだ」落ち着いた声が響く。カイがポケットに手を突っ込んだまま、校舎の陰を顎で指した。総一が飛び込むと、空気が裂け、あいの姿が浮かび上がる。だが、その顔はもう“彼女”ではなかった。さっきまで教室にいたクラス委員の顔、廊下ですれ違った先輩の顔――数秒ごとに変化し、掴みどころがない。「……アンタら、誰?」あいの声までが、別人のものに聞こえる。高く、低く、柔らかく、鋭く――めまぐるしく変わる。「やっかいだな……これは視覚だけじゃない、聴覚も混乱させる型だ」カイの分析に、リリムが頷く。「しかも模倣対象の動きや癖までコピーしてくる。総一、正面からじゃ勝てないわよ」「じゃあどうすんだよ」「核に干渉して一時停止させる。……でも、今の私の魔力じゃ時間がかかる」リリムが素早く地面に魔法陣を描き始める。総一はその横顔を一瞥し、深く息を吐いた。「時間稼ぎは任せろ」足元の土が小さく鳴った瞬間、総一はあいへ駆けた。彼女の目が、別人の色を映す。次の瞬間、顔も声も知らない“誰か”が、総一へ拳を振り下ろしてきた。総一は咄嗟に腕で受け流す。だが、その動きに既視感があった。――これ、俺の動きじゃねえか。「おいリリム! これ、俺の癖までコピーしてるぞ!」「見てればわかる! 完全な動作模倣ね。擬態型でも厄介な部類よ!」あいの姿がふっと変わる。今度は体育教師の体格と声色になり、重い蹴りを放ってきた。総一はギリギリで身をかわすが、次には女子生徒の軽やかな動きで背後を取られる。「くそっ、切り替えが早すぎる……!」「擬態対象は同時に複数じゃなく、瞬間的に切り替えてる。だから追えない」カイが淡々と状況を解析していた。「じゃあどうすんだよ!」「簡単だ。一度に一人しか模倣できないなら、こっちから“対象”を限定させればいい。視覚と聴覚を絞り込ませるんだ」「言うのは簡単だな!」「やるのはお前だ、総一。俺は位置を教える」カイはまる
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