悪魔ちゃんは契約違反で罰ゲーム中!

悪魔ちゃんは契約違反で罰ゲーム中!

last updateLast Updated : 2025-08-08
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悪魔との契約は、人生を狂わせる――なんて、ウソだ。 契約違反で魔力を封印された悪魔・リリムは、罰として人間界へ強制送還! だが転送先で再会したのは、かつて彼女が“裏切った”元契約者・霧島総一だった。 未練も未消化もたっぷりな二人は、なぜか再び共闘することに!? 暴走契約者、地獄の監査官、そして世界を塗り替えようとする存在。 「願い」と「契約」の先にある真実を巡り、ラブとバトルと罰ゲームが始まる――!

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Chapter 1

罰ゲーム悪魔、再会相手は元カレ未満!?

地獄には、笑い声がない。

契約を結び、魂を取り立て、秩序を守る場所――そこに感情など必要ない。

そんな場所の中心で、一人の悪魔がふてぶてしく足を組んでいた。

「……だから言ってるでしょ? ちょっと情が移っただけだって!」

悪魔・リリム=アズ=ナイトメア。地獄ランクB級、契約回収専門。

その美貌と誘惑により、数多の人間を堕とし、魂を“ご褒美”として手にしてきた実力者。

だがいま、その彼女が裁かれている。

「契約法第421条“感情移入の禁止”違反、および213条“未遂契約による魔力流出”の罪状を確認」

「いやいやいや、あれは不可抗力だってば! ちょっとだけ、ちょーっとだけ、ぐらっと来ただけで──!」

冷たい石の裁判所。傍聴席に並ぶのは、機械のように無表情な裁定官たち。

誰一人としてリリムの言い訳に耳を傾ける者はいない。

「被告リリム=アズ=ナイトメアには、罰ゲームを科す。期間は七日間。魔力封印。転送先は人間界」

「……加えて、監視対象指定。衣装は“羞恥度Sランク・黒革式”」

「は!? なにその性癖!? ちょ、待っ──!」

その叫びが届く前に、リリムの身体は宙に浮き、薄い光に包まれ、そして──

ぱしゅん、と音を立てて、空間から消えた。

そこは、寂れた温泉街の一角だった。

深夜の湯煙のなか、ぬるりと湯船から這い上がったのは──

黒革に包まれた、スタイル抜群の悪魔だった。

「……さっっっむ!! え、なに!? なんで温泉!? てかこの格好なに!?」

濡れて張りつく衣装は、黒革と金の装飾がきらめく、露出度MAXのプレイスーツ。

明らかに“人間界の夜職方面”と間違えた仕様だったが、本人は特に気にしていない。

「んん……ま、似合ってるし? ちょっと動きにくいけど、映えはするよね♡」

ため息をつきながら湯船の縁に腰かけ、リリムは指先を軽く鳴らしてみる。

──何も起きない。

「……うわ、本当に魔力封印されてる。マジか」

その瞬間、舌の裏に焼き印のような契約封印の紋章が浮かび上がり、彼女は顔をしかめた。

「くっそ……まじで罰ゲームか。これじゃちょっかいも出せないし、変身もできないし……なにが“羞恥度Sランク”よ、ふざけてんの!?」

状況を理解するほどにイラつくが、どこか楽しんでる様子もある。

「まあでも……こういうのも、悪くないかも?」

独り言を呟いたその瞬間だった。

「……なあ、お前。なにしてんだよ、そんな格好で」

背後から、聞き覚えのある声がした。

声の主は、制服姿の少年だった。

坂の上からこちらを見下ろすその目には、驚きでも怒りでもない、ただ静かな諦めが滲んでいた。

「……やっぱ、お前か。リリム」

リリムの肩がびくりと揺れる。

「ちょ、え!? なんであんたがここに!? え、偶然!? 監視!? それともストーカー!?」

「いや、たまたまだ。今夜は眠れなくて、ちょっと散歩してただけだ」

「嘘くさっ!」

少年の名前は――霧島総一。

かつてリリムが“途中で契約を打ち切った”唯一の人間だった。

二人の間に、数秒間の沈黙が流れる。

「相変わらず、口だけは元気そうだな」

「は? 褒め言葉? それとも皮肉?」

「両方。……で、地獄の罰ゲームってのは、そんな格好させられるのか?」

「そうなのよ! もうほんっと最悪!! あんたに見られるのが一番ムカつくのよね!!」

怒鳴り返すリリムに、総一は小さく息を吐いた。

「……言いたいことは山ほどある。けど、今はそれどころじゃなさそうだ」

直後、遠くで爆音が響く。

まるで火薬が爆ぜたような轟音。夜の街には不釣り合いな熱風。

「なに……?」

リリムが振り返った先――そこに、契約暴走者の姿があった。

街の片隅で、紅い炎が渦巻いている。

ビルの前に立つ青年の手から、赤黒い炎が噴き上がる。

「……うるせえんだよ。俺の気持ちも知らねぇで……全部、ぶっ壊してやる!」

灯村トオル。かつてリリムの契約を受け損ねた一人の人間。

別の悪魔との契約により、力だけを与えられ、願いを歪められた“暴走者”だった。

「契約暴走者……デザイアクラッシュ」

リリムが低く呟く。

「まだいたのね……こんな町外れにも」

その火球が、通りかかった通行人に向かって放たれる。

「ヤバッ! 避け──!」

リリムが叫びかけたその時――

「下がってろ」

総一が一歩前に出た。

「なっ、あんた普通の人間でしょ!? やめなってば、死ぬってば!」

「俺の中に……お前の“かけら”、まだ残ってたらしい」

その瞬間、総一の右手が漆黒に染まる。

空気がビリビリと震え、異形の契約紋が浮かび上がる。

「うそ……そんな、まさか」

リリムの瞳が揺れる。

「喋ってる暇ねぇだろ。あいつ、また来るぞ」

再び襲いかかってくる火球を、総一の黒い手が受け止め――そして砕いた。

街の空気が一変する。

「……総一。ほんとに、まだ……」

「後で話そう。まずは、目の前のこいつを止める」

決意と共に踏み出すその一歩は、人間のものではなかった。

リリムの目に、わずかに光が宿る。

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罰ゲーム悪魔、再会相手は元カレ未満!?
地獄には、笑い声がない。契約を結び、魂を取り立て、秩序を守る場所――そこに感情など必要ない。そんな場所の中心で、一人の悪魔がふてぶてしく足を組んでいた。「……だから言ってるでしょ? ちょっと情が移っただけだって!」悪魔・リリム=アズ=ナイトメア。地獄ランクB級、契約回収専門。その美貌と誘惑により、数多の人間を堕とし、魂を“ご褒美”として手にしてきた実力者。だがいま、その彼女が裁かれている。「契約法第421条“感情移入の禁止”違反、および213条“未遂契約による魔力流出”の罪状を確認」「いやいやいや、あれは不可抗力だってば! ちょっとだけ、ちょーっとだけ、ぐらっと来ただけで──!」冷たい石の裁判所。傍聴席に並ぶのは、機械のように無表情な裁定官たち。誰一人としてリリムの言い訳に耳を傾ける者はいない。「被告リリム=アズ=ナイトメアには、罰ゲームを科す。期間は七日間。魔力封印。転送先は人間界」「……加えて、監視対象指定。衣装は“羞恥度Sランク・黒革式”」「は!? なにその性癖!? ちょ、待っ──!」その叫びが届く前に、リリムの身体は宙に浮き、薄い光に包まれ、そして──ぱしゅん、と音を立てて、空間から消えた。そこは、寂れた温泉街の一角だった。深夜の湯煙のなか、ぬるりと湯船から這い上がったのは──黒革に包まれた、スタイル抜群の悪魔だった。「……さっっっむ!! え、なに!? なんで温泉!? てかこの格好なに!?」濡れて張りつく衣装は、黒革と金の装飾がきらめく、露出度MAXのプレイスーツ。明らかに“人間界の夜職方面”と間違えた仕様だったが、本人は特に気にしていない。「んん……ま、似合ってるし? ちょっと動きにくいけど、映えはするよね♡」ため息をつきながら湯船の縁に腰かけ、リリムは指先を軽く鳴らしてみる。──何も起きない。「……うわ、本当に魔力封印されてる。マジか」その瞬間、舌の裏に焼き印のような契約封印の紋章が浮かび上がり、彼女は顔をしかめた。「くっそ……まじで罰ゲームか。これじゃちょっかいも出せないし、変身もできないし……なにが“羞恥度Sランク”よ、ふざけてんの!?」状況を理解するほどにイラつくが、どこか楽しんでる様子もある。「まあでも……こういうのも、悪くないかも?」独り言を呟いたその瞬間だった。「……なあ、お前。
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last updateLast Updated : 2025-08-07
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