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第3話

Author: 九万歳
目が見えなかった頃から、桜の誕生日パーティーの豪華さは想像がついていた。でも、こうして実際に目の当たりにすると、それでもやはり胸が締め付けられる。

これは桜が帰国して初めての誕生日パーティーだった。そして彼女は両親と絶縁したということで、すべての費用は奏太が負担した。

贅沢の極みだった。

宴会場に入るなり、奏太はいつものように私を放り出した。

まるでコートをハンガーにかけるように、彼にとって私は、装飾品と何ら変わらない。

かつては彼に置いていかれるたびに不安と絶望に襲われていたけれど、今は慣れていた。

今、ドレスに包まれ光り輝く桜を見つめても、私の心にはもう波風ひとつ立たない。

桜が奏太を欲しいのなら、譲ればいい。

私はもういらない。この世界のすべてを、きっぱり捨てる。

もうすぐ四十八時間が経つ。

私は死ぬ。

奏太は、きっとさらに私を嫌悪するだろう。だって私の死が、桜の誕生日パーティーを台無しにしてしまうのだから。

しかしその時、私は肌を刺すような視線を感じた。

桜が私を見つめ、意味ありげに笑っている。

そしてパーティー会場に流れ始めた短編映像の音声に、全員の目が見開かれる。

再生されたのは、私の声だった。でもそれは、私が一度も発したことのない、刺々しい口調だった。

「遠藤、あんた昔、奏太に金がなかったからって捨てたくせに、今さら戻ってくる資格あるの?

十年我慢して、やっと手に入れたものなんだから、横取りしようなんて無理に決まってるでしょ!

遠藤、あんたが海外で付き合ってた男たちのこと、私が知らないとでも思ってんの?

どうせ私は目が見えないんだから、可哀想なフリでもすれば、誰だってあなたが悪いって思うわ」

会場が騒然とする中、桜が奏太の隣に立ち、彼と真っ直ぐ視線を交わしながら、ゆっくりと口を開いた。

「これは私が帰国した直後、小松からかかってきた電話の録音だった。

彼女は私の交際歴をネタに脅そうとしたの。

でも彼女は勘違いしてた。

私は愛も憎しみも、はっきりさせる女だ。

十年前に別れたのは私の選択。10年間の後悔も全部受け入れた!選ばれなくてもいい。だが脅しには屈しない!」

観客たちの視線が、私たち三人を行き来する。

録音は、厳密に言えば証拠にならない。

それでも、奏太は数秒黙った後、私の前へと歩み寄り、冷淡に言い放った。

「小松、どうせ今日も桜に謝るつもりだったんだろ」

彼は私を無理やり人混みから引きずり出し、壇上へ連れていった。

「今日は桜の28歳の誕生日だ。28回、彼女に頭を下げろ。

それでこの件は終わりだ」

桜は顎を高く上げ、誇らしげに笑った。

会場の取り巻きたちがすかさず声を上げた。

「やっぱ貧乏人って性格歪んでるのよね!心まで腐ってる!」

「金持ちの男に寄生して、家から追い出されても居座ってるって、マジで恥知らず!」

「盲目で吃音なんて天罰だわ」

「この処分、むしろ優しすぎるくらい!」

奏太は、私が頭を下げようとしないのを見て、苛立ちをあらわにした。

「パーティーの進行を邪魔するな」

その時、体内に襲いかかる激しい痛みに、私は彼の言葉に返事をする余裕さえなかった。

彼は人前で拒まれたことに苛立ち、さらに声を荒げた。

「小松、俺の言うことが聞けないのか?」

彼は勢いよく私を突き飛ばし、私はそのまま地面に倒れ込んだ。

取り巻きたちは桜の目配せを受け取り、嘲笑混じりに言い放った。

「頭を下げるだけじゃ気が済まないってことね!土下座するつもりなんだ!」

「かわいそう、盲目だもんね、代わりに私たちが手伝ってあげる!」

奏太の無言の許しを得た彼らは、私の首を掴んで無理やり頭を下げさせた。

額が床に叩きつけられ、私の絶望の声が漏れた。

「やってない!奏太、ち……ちがうの!」

でも返ってきたのは、さらに強烈な次の一撃だった。

ドン、ドン。

頭の中はもうぐちゃぐちゃで、苦しみと怒りに呑まれて、まるで重りをつけられて海に沈められたような息苦しさ。

私は胸が締めつけられ、喉元に血の味がこみ上げる。押し寄せる窒息感に、涙が滲んだ。

屈辱の28回が終わった頃、視界に映ったのは奏太の革靴だった。

彼はしゃがみこみ、私の顎を持ち上げて冷たく言った。

「これからは、やる前に結果を考えろ。

今すぐ桜の前まで行って、きちんと謝れ」

だが、桜が再び口を開いた。

「謝るべきよ。私に対しても、奏太に対しても」

「ねえ奏太、彼女が最初からあなたを狙っていたのよ」

「録音には、まだ続きがあるの」

そして、録音の最後が流れた。

「くそジジイを八年も介護してきたのよ!どれだけ我慢したと思ってんのよ!」

私は力なく頭を垂れ、身体の震えは恐怖ではなく、痛みのせいだった。

さっきまで顔をしかめていた奏太の目に、今は真っ赤な怒りが宿っていた。

「クズが!」

彼は引きつった唇をぎゅっと結び、弓を引き絞りきったような緊張感に満ちていた。

私の顔に浮かんだ死を受け入れた諦めは、彼の目には開き直りに映ったのだろう。

「小松、お前には本当に見損なったな。

お前のこと、ただのしつこい女だと思ってたけど、まさか、ここまで腐ってるとはな」

全身を襲う激痛に、私はもう息をするのさえ苦しかった。

今すぐこの場で死にたい。この苦しみから解放されたい。

そのとき、彼の言葉が遠くから響いた。

「お前、本当に、そう思ってたのか?」

死の間際の幻聴だろうか?

どうして、彼の声から「否定してほしい」という必死さが伝わってくるの?

「小松!答えろよ!」

怒り狂った奏太は私を激しく揺さぶり、ついには唇から血を溢れさせた。

10年間の苦しみが、冷たい笑みに変わった。

かつてないほど澄んだ声で、私は答えた。

「奏太、盲目だったのはあんたの方よ。私はあなたと、離婚する」

そして次の瞬間、裂けるような痛みと共に、温かい血が彼の顔に飛び散った。

会場に響く悲鳴の中、奏太は真っ赤な目で、ぐったりと力なく倒れ込んだ私を見つめていた。

「小、小松!」
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